フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
初めての方は、ぜひごあいさつをご覧ください。評価の基準については、レビューについてに記してあります。
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1時間前後

こんにちは。今回はちかげさんの「みちゃダメ! パンチラは絶対阻止せよ」のレビューです。

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ジャンル:女装BLアドベンチャー(ほんのりサスペンス)(※readmeより引用)
プレイ時間:1時間弱
分岐:ED2種+ゲームオーバーあり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2023/8



さて、本作は私がなんとなくおバカで下品なコメディをやりたい気分の時にちょうど見つけた作品です。タイトルだけ見て大体の内容が分かるこの潔さ。しかしちょっと意外な展開もあったりして予想外に面白かった作品でもあるので今回取り上げることにしました。



大まかな内容はこんな感じ。

主人公の白井ユキトはごく普通の男子高校生。ある日ひょんなことから人気若手シンガーソングライター、若王子柊(わかおうじ・しゅう)のMV撮影に雪の妖精役として出演することになります。女性の役と聞いていなかったユキトは大慌て。衣装とメイクで可愛い女の子の見た目になったユキトでしたが、恥ずかしいから他の人に自分が男であることは隠そうと誓います。ところが下着だけは自分の私物の男物を身に着けたままなことに気づいたユキト。撮影中のあらゆるパンチラの危機を乗り越えて、男であることを隠し通せ!



女の子役だと聞いて困惑しながらもセッティングしてもらったユキトの様子がこれです。
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全体的に男の子に見えない可愛らしさと背景のキラキラ演出がすごい。
肌の色もかなり白いですし雪の妖精をイメージした衣装と言われたら確かにと納得できますね。

スクリーンショットを見ていただければわかると思いますが、本作の立ち絵はすべて3Dモデルとなっています。以前レビューした「おもいをつたえるプログラム」と同じ手法ですね。本作もこの3Dモデルを活かして登場人物たちの様々なポーズを多様なアングルから見ることができるようになっています。スチル鑑賞モードもあるのでぜひプレイ後に見ていただきたいのですが、1時間に満たないプレイ時間に対して5ページにも及ぶスチルのバリエーションがあります。これは3Dモデルを使ったメリットを大いに活かしているといえるでしょう。


さて、本作のメイン攻略され対象(そんな言葉あるか?)の若王子さんはイケメン芸能人でありながらユキトの女装姿に一目ぼれの様子。こんなかわいい子が自分のMVに出てくれるなんて! となるばかりかプライベートでも近づきたいとユキトとの距離を詰めようと必死です。片やユキトは自分が男であることがばれないか常にひやひや。わかりやすいBLコメディといった感じが続きます。

風でスカートがめくれそうになったり椅子が倒れて転びそうになったりと、なぜか何度も迫るパンチラの危機。ただ笑っていればいいのかと思えば突如として意外な展開が現れました。

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全身黒塗りの謎の人物が休憩室に仕掛けをしています。そういえば本作のジャンルは「女装BLアドベンチャー(ほんのりサスペンス)」でした。ここから”ほんのりサスペンス”の部分が意味を持ってきます。

本格的なミステリーのような内容ではありませんが、ユキトを襲うハプニングには犯人の意図や動機があることがしっかり描かれるので意外に思うと同時に感心しました。よくあるラブコメネタとして流していた部分がこういう風にあとから別の意味で回収される展開、好きなんですよね。


この事件(?)の謎に迫るところでは犯人指摘パートがありますが、選択画面でよく観察すればだれが犯人なのかはすぐわかりますし、間違えてもゲームオーバーにはならないので安心です。しかし犯人の身勝手な言い分にはちょっとした怖さを感じました。ユキトたちの身に何もなくてよかったです。

これ以外にも本作では選択肢がいくつかありますが、基本的に間違えると即ゲームオーバー行きになります。コメディはこうでなくちゃ!というシステムですね。本作はさらにゲームオーバー後に直前の選択肢に戻ることができるのでセーブを分けておく必要すらありません。親切ですね。

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さて、本作のBL部分ですが、片方が常に女装姿かつ若王子さんもユキトのことを完全に女の子だと思い込んでるんですがこれはBLにカウントされるんですかね…? 普段そんなにはBLをやらないのでその辺の空気感が分かりませんでした。
また、タイトルこそ下世話な内容を想像させる本作ですが、実際にパンツが見えてしまうようなシーンはありませんし、若干の下心は見えつつも登場人物たちは基本的にみな紳士だったので下品さはほとんど感じませんでした。若王子さんがユキトの女装姿にタジタジになっている様子はなかなか笑えますが、初めての撮影に困惑するユキトをしっかりエスコートしているのでいい人なんだなあと思えて応援したくなりました。いや、ユキト側から見たらそういう目で見られるのはごめんなのかもしれませんが…


というわけで今回は「みちゃダメ! パンチラは絶対阻止せよ」でした。
意外なところで伏線が張られていたりして、ただの一発ネタBLコメディ以上の面白さを感じられた作品なので、ぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今更かよと思われるほどの有名作かもしれませんが、今回はパルソニックさんの「かわいいは壊せる」です。

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ジャンル:幼女とおじさんのKENZENアドベンチャーゲーム
プレイ時間:1プレイ5~10分、フルコンプまで1時間強
分岐:エンディング10種
ツール:RPGツクール
リリース:2021/3
備考:12歳以上推奨、ニコニコ自作ゲームフェス2021優秀賞受賞作


以前「決戦前のヒトリ」をレビューしたときに少しだけ触れました。存在は以前から知っている有名作でDL済みでもあったのですが結局プレイしていない状態でした。しかし先日本作がふりーむの累計ランキングで1段目(5位)に入ったという情報を見かけ、やってみるかぁと意を決しました。
噂に聞いていた通りの(タイトル画面を見ても分かりますが…)危ない作品でしたが、単にインパクトがあるだけでもないと感じたので今回取り上げることにしました。


最初にいつも通り簡単に本作の内容を説明しておきましょう。
舞台となるのは労働環境も教育制度も崩壊した世界。週末の休みという概念がなくなり労働者は疲弊する一方。現行で9年ある義務教育は何と1年に短縮され多数の子供がまともな教育を受けられないままです。そんな貧しくなった世界ではたった1年の義務教育を終えたばかりの幼い子供をレンタル商品として貸し出してお金を取る非道な商売が横行しています。
主人公(おじさん呼びで名前は出てきません)は隣の部屋に住む子供(でここ)を1週間レンタルすることになります。毎日でここをなでてかわいがってあげるのもおしおきするのもおじさんの自由。あなたの行動によって物語は10個に分岐します。みんなが幸せになれる未来はあるのでしょうか…?

…と、こんな感じでしょうか。

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記事冒頭でインパクトだけの作品ではないと言いましたが、やはりゲーム開始直後に何の説明もなくでここと会話することになり、さらに彼女をベッドの上に連れてきたこの絵面は強烈な破壊力があることをまず言っておきましょう。


とはいえ本作は18禁ではありません(12推です)。この状態から足を動かすというきわどい操作は可能ですが、本編に関連する操作は2つだけです。なでなで、すなわち頭をなでてやること、そしておしおき、すなわちデコピンです。それ以上のことはできません。
ただ、デコピンというと大したことないように思えますが、このおじさんのデコピンは相当痛いらしいです。クリア後のおまけにそういう記載がありましたし、なによりでここの反応が作り込まれていて見るからに痛そうなのです。

登場人物がひどい目に遭う作品は珍しくありません。このブログで扱った作品でいうと「スレガル」(18禁)は代表例でしょうし、18禁まで行かなくとも「いちごみるくとあそぼうよ」や「Strange meeting!」(いずれも15禁)も十分悲惨な展開が待ち受けています。しかし本作は全年齢であるにもかかわらず、これらの作品よりもプレイしながら罪悪感を覚えるような作りになっていました。

どういうことかというと、上記の作品たちと違って本作は主人公が加虐者なんですね。しかも行動は単なる選択肢式ではありません。毎日でここを寝かしつけるためにベッドに連れていき、カーソルを操作して額付近に持っていき目をつぶらせたうえでようやくおしおきをすることができます。しかもデコピンを構えた後マウスボタン押下または決定キー長押しでパワーを溜めてから解放しないと不発になります。要は徹底的にプレイヤーの自発的操作を要求しているのです。
仮に「おしおきする」という選択肢を1回選ぶのみであったらさほどためらわずにそのボタンを押していたかもしれません。しかしこう何回も、しかも長押しまで要求していると、「お前は今からこのいたいけな子供に強烈なデコピンをお見舞いしてやろうとしてるんだぞ!」という事実を突きつけられているようで私の良心も痛めつけられたのです。
ここが本作がほかの作品と比べて特出している点と言えると思います。

この演出はホラーゲームなどにおいて良く見られると思います。有名なところでいうと「Ib」でアリの絵を橋代わりにして踏みつけるシーンであったり、「魔女の家」でカエルをいけにえにしたり、といったシーンが思い浮かびます。私は単純に驚かせたり怖い絵が出てきたりといった方法で恐怖演出をするタイプの作品より、こうした地味に嫌な展開を重ねておどろおどろしい雰囲気からプレイヤーに継続ダメージを与えてくるタイプの作品の方が好きなのですが、本作はそれに近い怖さというか雰囲気を感じ取りました。

上でフルコンプまで1時間強と書きましたが、これは少し嘘なんですよね。私はこうした演出は好きなのですがMPをかなり消費するので、プレイ中にかなり中断時間をはさんでMPを回復しました(以前Twitterに投稿した通り)。それを除くと大体1時間といった分量という意味です。

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さて、他の演出面について見ていきましょう。
イラストは、綺麗ともてはやされるタイプの絵ではないと思いますが、表情の差が分かりやすく描かれていて好きです。ベッドの上でおじさんを見つめるでここの表情は、前日までにどんな行動をとったかによって大きく変わります。単純に不安そうだったり、怯えていたり、あるいは懐いている様子だったり何かを懇願している風だったりと様々です。「なでなで」をしてあげるときも表情の変化が現れます。ギャルゲーによくある好感度システムを少しだけ見えるようにしてくれたありがたみがあるのと同時に、プレイヤーの行動如何ででここのメンタルを支配できてしまうような怖さも感じられます。
ベッドの上での表情だけでなく、マップ上での移動の様子だったり日付が変わるときのカットインだったりもでここの心境が反映されていて、しっかり考えて作られているなあと感じます。



本作をプレイしていて気になった点も少しあります。
これまで書いてきたように本作はシリアスな展開の割合が多いのですが、時々ギャグ要素が放り込まれているときがあります。シンプルに笑える場合は良いのですが私は鬱陶しいと感じてしまうシーンもありました。具体的には警官の居眠りシーンですね。エンディングで何度も見ることになるのでちょっとしんどいなと。でここが勘違いするシーンなどは面白かったです。

あとはでここのママについて最後まで詳細不明なのは若干もやもやします。その状態でハッピーエンドに行ってしまって何らかの後腐れが残らないのかなという不安につながっているように思います。「レンタル家族」が横行してろくに検挙もされない世の中なのに、主人公の部屋に隣に住む少女がいた程度で任意同行を求められているのも疑問かもしれません(END 02や09ではそうなるのも納得なのですが)。


エンディングについて書きましょう。
本作のエンディングは10種類。ただしおまけ内でいわれている通りEND05~09はほぼ同じなので実質6種類ということです。END 01がハッピーエンドと言えるでしょう。本気で攻略を目指せば初見でも可能だろうという難易度だと思います。でここは親からの愛をあまり受け取れていないようでおじさんに対しても疑心暗鬼のような状態です。ここから警戒心を解きほどいてハッピーエンドに向かうことができるかはプレイヤーの選択にかかっています。単になでなでを続ければいいわけではないのもよく練られています。

エンディングに加えて条件を満たすと、おまけ部屋で七つの大罪になぞらえたクリスタルを輝かせることができます。いわゆる実績に相当する機能です。全開放するととあるモードが解放されます。スクリーンショットは貼りませんが…………こりゃ危険度が増してきたぜ!


というわけで今回は「かわいいは壊せる」でした。
スクリーンショットを見て物怖じしない方はぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回はcomodoさんの「お菓子の国のガトー・ソルシエ」です。

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ジャンル:ファンタジーノベルゲーム
プレイ時間:ボイスを全部聞いて1時間程度
分岐:なし
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2023/8


comodoさんと言えば、私は「コミュ障女子の告白」が好きでフリゲ2023で投票したりもしました。他には「美少年の下僕になりました(?)」や「陽だまりノクターン」など、いずれも乙女ゲームを作っているサークルさんというイメージだったのですが、本作はあまり恋愛要素にフォーカスは当たりません。やや意外に感じましたが本作もいい作品だったのでご紹介します。


まず軽く本作の内容をまとめておきましょう。

物語の舞台となるのはお菓子の王国、アマンディーヌ。美味しいお菓子産業が評判で主要な輸出品でもあり、まさにお菓子の国と言われるだけのことはあります。そんなアマンディーヌには通常の工程でなく、魔法によってお菓子を作り出すことのできる職人たちがいます。ガトー・ソルシエと呼ばれる彼らが作ったお菓子は単においしいだけでなく、食べた人の持つ前向きな感情を後押しするという素敵な効果があるそうです。主人公のマヤはそんな王国での王宮御用達ガトー・ソルシエ。弟のカノンやその他2名の職人と王宮内で洋菓子店を構えています。

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順風満帆かに見えたマヤですが、ある日突然スランプに陥ってしまいます。いつも通りシャルムと呼ばれる液体から魔法でクッキーを生成したのですが、おいしそうな見た目に反して全く味がしません。その日から売り物になるお菓子を全く作れなくなってしまったマヤとカノンはスランプの原因を探すことに。たどり着いた結論は、2人の複雑な過去にありました…

こんな感じでしょうか。
まず本作に関しては気になったところから書こうと思います。

全3章からなる本作ですが、第1章は世界観の説明や人物紹介のようなパートとなり、スランプの発生は第2章に入ってからとなります。ボイスを飛ばして読んだ場合30分程度の短いシナリオなのですが、そのうち最初の10分ほどで物語が動く感じがせず平坦な印象を受けました。美味しいお菓子を作れ、王宮での信頼も厚くお客さんも絶えない、そしてカノンとの関係も良好、といった流れが最初から続くと、理想的な世界でわいわい楽しくやっている様子をただ見ているだけ、というようなある種の疎外感のようなものを私は感じてしまいました。
よんひくいちは」の記事などでゲーム開始の直後の初速から面白かったと書きましたが、本作に関しては逆にスロースターターといった印象を受けました。



しかし第2章で物語が動き始めてからは一気に面白くなってきました。
冒頭で、マヤたちはお菓子を普通に作る職人ではなく、魔法で作る魔法使いなのだという説明がありました。魔法で作られたお菓子には前向きな気持ちになれるような効果も付随しているということも。
スランプの原因を調査する中で、次第に魔法の秘密であったりマヤとカノンの過去が現在につながっているのが分かり、そのあたりの設定が上手いなと感じました。

マヤはかなりカノンに依存しているように見えますが、第1章の段階でその理由は明らかにされません。私はその部分をつまらなく、あるいは不自然に感じてしまったわけですが、2人の過去を知るとやむを得ないというかむしろ当然のように思えます。

また、2人が試行錯誤を重ねる間に何回か回想シーンが挿入されます。この使い方が上手かったように感じます。試しにマヤ1人でクッキーを作って失敗したとき。出来上がったのは見た目もおいしそうで甘いクッキー。事情を知らない私が見るとこれがなぜ失敗なのか分かりません。しかしここでマヤの過去が明らかになることによって、ゲーム開始直後のショッキングなシーンの意味を理解することができる構成となっていたのです。もちろん、作ったクッキーが失敗である理由も一緒に。

第1章が平坦だとは先に述べましたが、冒頭にこの一見意味が分からない悲しいシーンを持ってきたのは、作品全体でメリハリをつける意味でも成功なんじゃないかなと思います。

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食べた人の前向きな気持ちを後押しするという設定も良く活きているんですよね。
こんなお菓子だったからこそ勇気を出してスランプの原因追究に臨めたというのもありますし、後押しすべき感情もない状態からは魔法でどうしようもなかったりといった説明が自然です。そしてそもそも魔法でお菓子を作ることの根幹にかかわってくるんですよね。なるほどと思いました。



問題が解決する段になって、私が第1章の頃に感じていたマヤとカノンの不自然な共依存関係にもメスが当てられます。2人で協力してお菓子を作ってきたことは事実だけれど、それゆえに一人では何もできないとか、相手にどこかに行かれてしまうんじゃないかという強迫観念みたいなものは捨てた方が良いんですよね。2人がお互いを見つめ合っているだけでなく、同じ方向を向いて進んでいけるようなエンディングに私の心も温かくなりました。


そしてエンドロール後のエピローグ。上の方で恋愛要素は薄めですなんて書いちゃいましたがここにきての糖度アップ。油断してたのでびっくりしちゃいました。カノンくん意外と積極的なのね。
本作に関してはボイスも付いていますから破壊力は強いです。

ボイスと言えばcomodoさんの作品ではお馴染みですが、クリア後のおまけ画面から短い前日談・後日談のほかにキャストトークが聞けます。やっぱり声優さんってすごいなあと感じられるのでクリアした後はぜひ聞いてみてください。

それでは。

こんにちは。今回はmisosioさんの「じごくのインターネッツ」をご紹介します。

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ジャンル:インターネットオカルトノベルゲーム
プレイ時間:45分
分岐:ED3種
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2021/6


さて、misosioさんといえば2020年のティラノゲームフェスでグランプリを獲得した「お前のスパチャで世界を救え」が有名ですね。私もフェス期間中にプレイした覚えがあります。そんなmisosioさんの2作目である本作については存在は知っていながら長らくプレイしていませんでした。今週ようやくプレイしまして、前作にもまして面白い切り口から楽しませてくれる作品だなと思いましたのでレビューという形にしておこうと思います。
ところでReadMeにあった作者サイトに行ったらWordPressのサンプルページのままなのはさすがに何とかしていただきたい…リンクは貼らないでおきます



本作の主人公は、就職活動をしながらも副業としてブログを書いているフリーター。きくらげというハンドルネームでいわゆるいかがでしたか系の記事を量産しています。
ある日怪談系の記事を書き終えた後散歩に出かけると、謎の声に導かれ、「奈落ちゃんの出張占い室」にたどり着きます。奈落ちゃん曰く、明日は雨が降り槍も降り最悪の一日になるでしょうとのこと。特に信じてもいなかったきくらげですが、翌日スマホに妙な通知が。注文してもいないウーマーイーツの配達がやってきて、顔のない配達員に襲われてしまう……、自分が書いた根も葉もない記事にそっくりの状況に怖くなり、奈落ちゃんに助けを求めます。無事に配達員を追い払って平穏な日常を取り戻すことができるのでしょうか…

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タイトルを見ればわかる通り、本作はインターネットでのあるあるをオカルト風のネタにした内容となっています。フリーゲームを遊ぶ人というのは大抵ネットからゲームをダウンロード、あるいはブラウザからプレイするわけで、なかなか相性のいいテーマだなと感じます。よく見るインターネットスラングやネット上の流行が元ネタになっていると分かるシーンも多数出てきて、ほとんどのフリーゲーマーには伝わるネタになっていると思います。

本作は大きく4つの章に分かれており、第1章では上述の顔のない配達員事件が発生します。
主人公が勝手にでっち上げたオカルト記事が現実になってしまい大変なことに、という内容ですが、実際我々が見るインターネットの世界でも無責任で情報量の無い記事に戸惑うことも多々あるわけで、あるある~とうなずきながら読み進めることができます。
最近だとTwitter(X)で収益配分が始まってから、青バッジ付きアカウントがインプレッション稼ぎのために無意味なコピペツイートでリプ欄やトレンドを汚染しているのを見ると本当にどうにかしてほしいと思いますよね。見かけるたびにブロックしてるんですが全然減りません…。以前は公式の証であったマークが今やbotの目印みたいになっちゃってます。

話をゲームに戻しまして、主人公は自分が広げてしまった偽情報に対抗するために、世間が偽情報への関心を失うまで出前アプリのレビューを延々と続けて正しい情報を広めなくてはならなくなってしまいます。この展開、現実のインターネットと同じで面白いですね(現実においては対抗しなくてはならないのは偽情報を流した本人ではないことが多いのが難しいところですが…)。過去の自分が調子に乗ってやったことに苦しめられるというのは、ある意味のび太が毎回ひみつ道具でやらかしてしまうドラえもんのお約束に通じるなあと感じました。そういった古典的王道展開を現代風にアレンジしてフリーゲームの世界になじませた手腕は見事だと言えるでしょう。

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こんな感じで2章、3章と物語は進んでいきます。それぞれ宇宙猫とちいかわが元ネタと思われます。毎日インターネットに触れている方ならまず見たことがあるでしょう。それにしてもどちらも長いこと人気を集め続けてますよね。本作に関係ないですが宇宙猫にWikipedia記事があってびっくりしました。

この章でも主人公の過去のやらかしなどに奈落ちゃんと一緒に対処していくのですが、ブログでいい加減なことを書きなぐっていたことは反省したようで、一件一件地道に処理していきます。こうした対応を見ていくと、インターネットの世界って本当に大変だよなあと思えます。一回広まったものは完全に消し去るのはほぼ不可能ですし、どんないい加減な事でも言ったもの勝ちみたいな側面だってあります。この辺までくると主人公のことはのび太とバカにできないし、いつ自分が当事者になってもおかしくないよなあという気分で読み進めることができます。


4章で最終章に入る本作。そこで主人公はある選択を迫られることになります。
願いが叶う力があると言われるトンネルに取材に行くことにした主人公。奈落ちゃんと話しながらこれまでのやらかしを振り返り、インターネットなんて最悪だよと悪態をついてしまいます。もっとましな世界はないのかなと思いながらトンネルを抜けた先にあったのは、美しいインターネットの世界でした。
悪意のあるコメントはなく、アフィリエイト狙いの量産型記事に悩まされることもない。コツコツとブログ投稿を続けた甲斐があってメディアから寄稿の依頼や面接の誘いまで。理想的な世界に見えますがどこか違和感があります。このままこの美しい世界に住むことにするのか、それとも奈落ちゃんと事件を解決したあの世界に戻るのか。
ここでの選択によってエンディングが分岐しますが、どれを選んでもBAD ENDということはなく、それなりに幸せな結末が待っています。くだらないことばっかりで嘘だってたくさんあるし問題も多いインターネットの世界だけれど、だからこそ面白いものに出会える。笑顔でそう言える奈落ちゃんが素敵です。私もインターネットの中に面白いものがあると思っているからこそ、フリーゲームを探してプレイしたり、こうしてレビューを書いたりしているわけですからね。この記事が作内でいわれているようなスカスカのクソ記事でないことを祈ります。

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というわけで、今回は「じごくのインターネッツ」でした。
わざわざフリーゲームに関するブログを読んでくれる方にはうなずいてもらえる内容が多数あると思います。インターネットの面倒くさいところ、楽しいところを含めて受け止められる方、プレイして損はないですよ。

では。

こんにちは。今回は水温25℃さんの「月明かりと夜風のワルツ」のレビューとなります。

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ジャンル:魔術師ファンタジー乙女ゲーム
プレイ時間:1時間弱
分岐:なし
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2023/8


本作についてはTwitter上などで制作過程を拝見していました。絵が割と私の好みのタイプであり、作者さんの過去作「はこにわのみこ」が良かったので公開を楽しみにしていました。結局プレイするまでに公開からしばらく時間がかかってしまいましたが先日読了したのでレビューという形にしておきたいと思います。


本作の舞台となるのは街のあらゆる場面で魔術の飛び交うルーナ王国です。空気中に漂う魔素を魔力に変換してエネルギー源として使用することで動く工業製品も身近な存在で、魔術を職業にすることのない一般人でも日常で魔術を使っています。
主人公のリシュア(ver1.02以降名前変更可能)は魔術学校に通う3年生。卒業研究に励みながらも、間近に迫った学校の創立記念ダンスパーティーに誰を誘うか迷っています。住み込みのお手伝いさんであるレナートのことが気になりますが、去年のパーティーへ誘ったところ断られてしまったため、声をかける勇気が出ないようです。二人の間を隔てる線とは何なのでしょうか。魔術学校を卒業するまでにその関係性に変化は訪れるのでしょうか…


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さて、本作の良かったところを簡単に説明していきますが、まず絵が可愛らしいですよね。最初にも書きましたがかなり私の好きな絵柄です。短編で登場人物の数も少なめですがみないい子たちで、登場機会の少ないサブキャラまで表情豊かに描かれています。私は何かしらの失敗をして涙目になったレナートが好きです(笑)
メインの画面に表示される立ち絵だけでなく、左下にいる主人公もまばたきしていて良く作りこまれてます。この主人公の顔グラですがかなりアップで表示されていますね。これまでプレイしてきた作品の中でも一番かも。それくらい存在感があります。

立ち絵やスチルのみならず、背景やUIなんかもきれいに統一された雰囲気をまとっていて素敵ですね。メニューや文字色などが主人公のテーマカラーと一緒になっていて気持ちいいですし、メニューアイコンも大きくて一見して意味が分かります。ゲーム内からヘルプや2次利用ガイドラインなどが読める仕組みまで整っています。これは過去作でもそうだったかな?
URLをクリックしても直接サイトへ飛ばない(クリップボードにコピーされた状態になる)のは掲載サイトの規約対策でしょうか。確かふりーむが最近その辺非常に厳しかったはずです。ちなみに私がこの記事を書く際に公式サイトにリンクを張るときにURLのコピーが一瞬でできて便利だったなんていうちょっとどうでもいい話もあります。



さて、シナリオの方に話を移しましょう。
本作の特徴として、物語開始時点からすでに主人公リシュアがレナートへ(恋愛的な意味で)好意を抱いているのが明らかというところが挙げられるでしょう。しかしそれに対して、レナートはそもそもリシュアのことは恋愛対象ではないといった様子。お手伝いさんと雇い主の娘という関係としては良好なので微笑ましいシーンがほとんどを占めるのですが、それ以外の個人的な関係についてはレナートが遠慮しているというか拒否しているように見えます。したがってリシュアの片思い的な面が強く、乙女ゲームとしての糖度は控えめな感じです。


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そんな本作のシナリオにおいて優れた点は、はっきりとした世界観の説明や設定が存在していること、それに基づいて登場人物の思いや行動が描写されていることでしょう。
舞台となっているルーナ王国では魔術が広く普及していることは最初に述べましたが、それはいわゆる魔法のように何でも好きなことができる、科学を無視したような特異な能力が使えるといったものではありません。大気中に存在している魔素を吸収して魔力に変換する、魔力を動力源として仕掛けを動かし、加熱器具にしたり玩具にしたりといった理屈が存在しているのです。

魔素の吸収効率に個人差がある、国家として定められた資格としての魔術師や魔導士などの肩書がある、といった設定が丁寧に説明されるからこそ、レナートが主人公の誘いに首を縦に振らない理由や主人公の父親トヴァルの矜持・信念といったものが理解できるのです。
科学との比較がされるシーンもあり、SFというにはファンタジー感が強いですがそれくらい設定がしっかりしており、だからこそ登場人物の心情が読者に伝わってくる構造になっていて、良く作られているなあと感じます。リシュアが卒業研究に力を入れている理由も分かりますし、授業のシーンはないですが魔術学校(高校卒業後に入学するということなので大学相当でしょう)に通っている必然性があるんですよね。学校が都合のいい行事が存在するだけの空想上の存在になっておらず、理由のある設定としてスムーズに受け入れられるようになっています。

先ほどシステムが整っていると言いましたが、その中の用語説明機能はこの点の理解にも寄与しているでしょう。右上のメニューボタンの下にある本のアイコンをクリックすると、作中に出てきた用語の解説を読むことができます。必要な部分だけをまとめて見られますし、UIもかわいくていい感じ。


物語終盤ではちょっとした事件が起こります。心を痛め、最善の選択ができなかったと悩むリシュア。そんな中でのレナートとの会話が、2人の信条を活かした内容になっていて上手いよなあと感じます。
事件をきっかけに決意をしてくれたレナート。優しいけれどもちょっぴりドジで、よくリシュアに慰められていた彼が初めてたくましく、かっこよく見えた瞬間でした。

そんなエンドロール後のエピローグ。あの台詞にはシリアスな雰囲気が吹き飛んで文字通り吹き出してしまいました。そして突然の糖度UP。これまでが爽やかなレモネードだとしたらガムシロップくらい甘いです(私は何を言ってるんだ?)。切実にスチル閲覧モードの実装を希望します!
(同日追記:スチル閲覧モードはチャプター選択画面の左上アイコンから行けるようです! 作者のななづこさんに直々に教えていただきました。ありがとうございます。)


というわけで今回は「月明かりと夜風のワルツ」でした。
エピローグまでちゃんと見て幸せな気分になってくださいね!

それでは。

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