フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
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1時間前後

こんにちは。今回はDanQさんの「学ぼう! 精神医学 -うつ病編-」をレビューしていこうと思います。

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ジャンル:精神医学をカジュアルに学べるノベルゲーム
プレイ時間:45分
分岐:あり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2023/8



本作はフリーゲーム夢現を巡回していて見つけた作品になります。タイトルから分かる通り、精神科での診療や精神疾患についての初歩を学んでいける作品となっており、全体的に非常にまじめに作られています。それでは作品内容の紹介に移りましょう。


本作の主人公(名前変更可。デフォルトは朝宮)は総合病院に勤める2年目の研修医。今回初めて精神科に配置され、患者さんの診察や治療に携わることになります。とはいってもこれまで内科などでの勤務経験しかない主人公は精神科で必要な知識が十分ではありません。指導医の夏川先生に教えてもらいながら患者さんを診ていくことになります。



主人公が最初に見ることになった患者さんは永野さんという男性でした。
1か月ほど前から気分が落ち込み仕事にも身が入らず、家族の目から見てもずっとしんどそうにしていると言います。永野さんへの診察と治療を通して、主人公と一緒に読者も精神医学について学んでいける構成となっています。


さて、私は医学に関する知識は素人なので(過去に診断されたことのある病気について調べたりはする、という程度です)、上で永野さんの訴える症状を聞いてもうつ病くらいしか候補を考えられないのですが(本作のタイトルからのメタ読みもありますが)、本作を最後まで読めば精神科では他の様々な可能性も考慮しながら最終的な診断や治療を行っていることが分かります。


例えば、夏川先生に最初に教えてもらう講義の内容は「精神科ではなぜ病歴が大事なのか?」です。
レントゲンを撮ったら骨が折れていることが分かった、などのように検査で明確な原因が把握しづらい精神科における診断では、現在の状況だけでなく過去もさかのぼって考慮したうえで適切な判断をする必要があるというのです。これは、今までの私には全くなかった視点でした。

作内で永野さんの診察を行う際には、今の仕事や家庭での様子のみにとどまらず、子供のころからの成育歴や病歴などについてを含む細かい聞き取りが行われています。知らなければ、医師というよりはカウンセラーみたいな人の仕事なのでは? と思ってしまったりしますがこれも精神科医の大切な仕事の1つだということでした。
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もう一つ例を挙げましょう。精神科においても血液検査などの検査を行うことは多いようです。しかしそれは例えば、うつ病になると血液検査のこの項目で数値が高くなる! のような項目をチェックするためのものではなく、他の原因を除外するためであるというのです。
なるほど、確かに脳外科とか内分泌科とかの他の科にかかるべき真の原因があったのにうつ病と診断して精神科的アプローチで治療を試みても良くなるとは思えません。こうした病気以外にも、例えば薬物の影響で気分症状が現れることがあるのは私も知識としては知っていたはずですが、うつ病の診断をしようという段になって頭の中に残ってはいませんでした。

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こんな感じで全体的にまじめに作られた作品ですが、かわいらしいイラストやコミカルな音楽もついてカジュアルな雰囲気を保っています。診察に入る前のプロローグであったり、True Endで永野さんが快復したときなんかは登場人物のキャラクター性が出た会話シーンなんかもあったりして、ゲームとして気楽に楽しめるような内容になっていると言えるでしょう。
もちろん完全な娯楽作品のようにゲラゲラと笑ったり感動シーンに涙したりといった展開にはなりませんが、勉強のハードルを下げてくれているという点が大きく評価できるポイントだと思います。立ち絵がスッと入れ替わったり、講義スライドが挟まったりといった演出の仕方もささやかながら間違いなく本作の取っつきやすさに貢献しているでしょう。

ネットを使って医学のことについて調べようとすると、怪しい情報が大量に出てきて私のような素人では信頼できる情報を見分けるのが大変ですからね。公的機関や大学などが出している情報はさすがに信じていいだろうと思いますが、そういったページって大体堅苦しくて難しいんですよね。その点本作ではうつ病や精神医学についての最低限の知識を読みやすく、そして正しく(作者さんは現役のお医者さんということですし、診断基準等の引用元も作内で示されています)伝えてくれる点が嬉しかったですね。


ところで少し上でさらっとTrue Endと書きました。本作にはいくつかの選択肢が存在しています。
全問正解しないとTrue Endには行けないのですが、いずれの選択肢も夏川先生の話をきちんと聞いていれば正しいものを選べるものですし(常識で考えても大体は正解を選べるはず)、難しくありません。
逆に1つでも間違えるとNormal Endに行くようですが、こちらでも永野さんの病状が悪くなったりはしませんでした。夏川先生のフォローがしっかりしていたということでしょう。こうした作品でわざと間違い選択肢を選ぶのは私は心理的に強い抵抗があるのですが、レビュー書くんだからちゃんと他のエンディングも見ておこうかと思ってみてみました。辛い結果にならなくて良かったです。


というわけで今回は「学ぼう! 精神医学 -うつ病編-」でした。
勉強するぞ!という気持ちにならなくてよいのでぜひ気軽に読んでみてください。

それでは。

こんにちは。今回はポロンテスタさんの「道徳ビデオ」のレビューをしていきたいと思います。

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★favo
ジャンル:いじめを描いた群像劇鬱ノベル
プレイ時間:45分
分岐:1か所
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2023/7
備考:製品版あり


ポロンテスタさんと言えば、私は「ポルノ地獄・完全版」(18禁)をプレイしたことがあり、ブラックな世界観の中にも良心をのぞかせるような独特な作風が印象に残っていました。そして最近になって本作「道徳ビデオ」が公開されました。色々な所で好意的な評価を見ますし私も気になってプレイしてみたところ、非常に印象的な作品でしたのでご紹介したいと思います。刺激的な内容を含みますが全年齢対象の作品となります。


作品ページの紹介などでも明らかにされていますが、本作は「いじめ更生委員会」が制作するいじめ防止のための教材「道徳ビデオ」に関する内容で、既にお分かりかと思いますがかなりブラックな要素を含みます。しかし単に風刺的だったり皮肉的だったりするだけでなく、読み終えてすっきりするような、いじめのはびこる社会はろくでもないけど、それでも希望だってあるんだという気持ちにさせてくれる作品ですので、ぜひ抵抗感を持たずにプレイしてみてください。


本作は主要な登場人物3人の視点が交互に入れ替わるようにして進行していきます。
まず最初に登場するのが「いじめ更生委員会」から教材用のビデオ、「道徳ビデオ」を作成するために星の砂小学校に派遣された潮見ヒヨリです。6年2組の児童に出演してもらってビデオの撮影を行います。クラスでの説明の時には表向きの理由を明るく説明し、子供たちにも受け入れられているようですが、彼女にはビデオを作る真の理由があることが序盤早々に明かされます。一体その目的とは何なのでしょうか。


続いて舞台は唐突に8年後の現在へ。ビデオにはいじめっ子役で出演した黒瀧ナギトがヒヨリに連絡してくる場面から始まります。彼が言うには、いじめられっ子役の成海ミナミを殺してしまったというのです。いったい道徳ビデオの撮影現場で何があったのか。親友であったはずの彼ら二人がその後8年間かけても修復できないほどに関係が歪んでしまったのはなぜか。ヒヨリはそれを聞いてどうするのか。
彼らに幸せな未来はあるのでしょうか……

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さて、本来は教材撮影のための演技であったはずのいじめですが、実際のところ演技の範囲を超えてエスカレートし、いじめられっ子役であったミナミに深い傷を残したということは容易に想像できると思います。ナギトがミナミに対してわざと聞こえるように悪口を言う。台本にあるものだとしても気持ちよいことではないでしょうし、次第にナギトはアドリブと称して台本にない悪口をぶつけていくようになります。

日本語には言霊(ことだま)という言葉があります。手元で明鏡国語辞典を引くと、「古代日本で、ことばに宿ると信じられていた神秘的な霊力。」とあります。本当に魔法のような力があるわけではありませんが、本気ではないはずの言葉がいつの間にか本当にそう思うようになっていた、というような力が言葉には込められていると思うのです。おそらく無意識のうちに影響を受けているのでしょう。自分で発さなくても、繰り返し告知を見せたり聞かせたりといった宣伝に効果があるのはまさにその効果の応用でしょうし、逆にある対象に対してネガティブな発言を聞いているだけでいつの間にか自分も嫌いになっていたりします。怖いものです。

道徳ビデオの撮影においては、最初は演技であったはずの台詞が無意識下においても作用し、ミナミをいじめる方向に傾いてしまったのでしょう。台本にない悪口を、カメラが回っていないところでも、……こうしてエスカレートしていくわけです。

こうしていじめは苛烈を極めただろうことは容易に読み取れるのですが、本作の中では具体的ないじめ行為は悪口を言う以上の内容は一切描かれません。これは本作をゲームとしての娯楽作品として成立させるために計算して設定した限界だったのではないでしょうか。
ニュースで報道されるようないじめ事件で起こっていたこととか、暴力事件とか、具体的な行為を描こうとしたらもっとずっと細かく、鮮明に、ショッキングな内容を込められたはずです。しかしそうするともはや本作自体が”教材”、あるいはドキュメンタリーになってしまうんですよ。
誰もが目をそむけたくなるようないじめを描いて、いじめは良くないことであると伝える。そういう(ゲーム以外を含めた)作品は多くありますし、フリーゲームでもいくつか知っています。しかし本作がそうした作品と一線を画していると感じるのは、あえて具体的で過激な行為の描写を排したことで娯楽作品としての魅力を保ったことだと思うのです。過激な内容はあえてプレイヤーに想像させるにとどめ(本当にありありと想像されるんですよ、作内で描かれるよりもずっとひどい行為があったと)、説教臭いと感じさせることなくこの重いテーマを描き切り、幸せになれる選択肢を提示してくれたこの作品の価値は大きなものであると感じています。


さて、道徳ビデオの撮影中、ナギトが不必要に辛らつな言葉を吐くたび、最初のうちは担任のリン先生はきちんとたしなめていましたし、ヒヨリはミナミへの精神的フォローをしっかりと行っていました。良識ある大人が目を光らせ、厳格に演技の内容を監督した場合はあそこまでの事態にはならなかったでしょう。途中からミナミへのフォローがおろそかになってしまった理由は、本作の最終章で語られます。

ヒヨリが「道徳ビデオ」を作ろうとしたきっかけは、かつて自分をいじめたものに対する見せしめ・復讐のためでした。彼らに合法的にダメージを与えるために。あるいは裏でこっそりと手を回すための布石として。そんな打算的な目的で道徳ビデオ事業に乗り出したヒヨリでしたが、打算的であるがゆえに理性的でもありました。撮影の最中に出演児童へのカウンセリングを怠り、精神的ダメージを与えたりして最悪撮影が完遂できなかったら元も子もありません。
しかしヒヨリから復讐の執念を解消してくれた人物がいました。リン先生です。リン先生の行為は非難されるようなことではないし、むしろ良き先生でしょう。ところがそれゆえにヒヨリが道徳ビデオへ注力するのを妨げてしまったのです。復讐にしか生きがいを見出せなかったヒヨリに、別の生産的な生きる理由を与えてくれたリン先生。「今が幸せだから過去を許せる」という意味の台詞が出てきますが、これは本当にそうだと思います。余裕がある人なら別に復讐に執着しなくても良いはずです。いじめに限らず、例えば犯罪被害者(の遺族など)だったり、あるいは社会に対して一方的に逆恨みしている人でさえ、人並みの幸せを得られれば怒りの矛を収められるという人は多いと思います。福祉の役割とはこういうところにもあるのだなあと思わされます。

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道徳ビデオ撮影時の事件をきっかけに、それまで親友であったはずのナギトとミナミの間には決定的な溝が生じ、8年後に至っても解消されない歪みが起きています。いじめっ子役であったナギトは当時の申し訳なさから、もう何年もほとんどミナミの言いなりになっています。ここで大事なことは、「事件の後罪悪感から何年も相手の要求を断れずに言いなりになる程度には良心のある人物でさえ、演技のはずのいじめがエスカレートしていった」という事実です。報道されるようないじめ事件を耳にすると、なんと酷いやつだ、あいつらには人の心ってものがないんだ、と感じます。しかしそれが事実かどうかは分からないんですよね。
撮影開始前にはナギトはいじめなんて当然いけないし自分がすることもあり得ないと思っていました。実際、ちょっと言葉遣いは悪いですがミナミとは確かな信頼関係が築かれています(あの遊びはちょっと歪んでるとは思うけど…)。しかし、平常心を持っていればいじめなど行わなかったであろう人物も、”演技”という大義名分を得てストッパーが外れた結果事件を起こします。環境さえ整えば善良な市民でも凶悪な行動に至ることがあるのだから、いじめや犯罪は潜在的な犯罪者に機会を与えないことによって未然に防ぐことが大切。この考え方は犯罪機会論と呼ばれるらしいです。

本作において、単純になにを考えているのか分からない悪人が問題を引き起こすのではなく、各人物が自分の行動原理に基づいて行動した結果、悲劇的な結果を引き起こしてしまいます。物語を進めるための壁や障害、悪人が単なる舞台装置としてでなく、生きたキャラクターであるために同情的な感情も想起させ、より物語へ引き込む力となっているのですよね。ずっと前に「まい、ルーム」のレビューでも指摘したことですが、この点は私が物語を読むにあたって重点を置くポイントのようです。


本作のエンディングは2つ。選択肢は1か所です。どちらが幸せな未来へと繋がっているかは一目瞭然でしょう。正解の選択肢を選べば、どん底であったナギトへ一筋の光が差し込みます。8年後の未来にどうなっているか。エンディングタイトルを含めて素晴らしい内容だと思います。
1つだけ気になるのは、独特な絵柄から人物の年齢が読み取りにくいことでしょうか。本作の時間軸は頻繁に8年前と現在を切り替えており、登場人物の年齢層も小学生と先生ということで離れています。しかし大きく表示される立ち絵から時間の経過や人物の世代差が読み取りにくいんですよね。”ヒヨリお姉さん”のお姉さんらしさをアピールする一つの手段になると思うのでちょっともったいない気がしました。
しかし1人のキャラクターとみれば可愛らしいですし、タイトル画面のグラフィックなどもダークな世界観を表現しているようでいいと思います。


と、このように1時間未満で様々なところまで思いをはせることのできる作品でした。
この重いテーマをしっかりと最後まで描き切り、かつ希望を感じさせるエンディングが気持ちいい類まれなる作品だと思います。この手の作品にありがちなご都合主義も私は感じませんでした。ぜひプレイしてみてください。


それでは。

(2024/8/25追記:コミックマーケット103にて本作の製品版(15禁)が発表されました。パッケージ版はBOOTH、ダウンロード版はDLsiteなどで購入可能になっています(私はコミックマーケット104で購入しました)。本編はフリー版と同じですが各登場人物の掘り下げエピソードが計5話収録されておりそれだけで本編に近いボリュームがあります。
追加エピソードの内容ですが……かなりエグいです。私の印象に残っているのはナナミ編。いじめる側って本当に軽く考えているし自分の行いもすぐ忘れる、それに対してやられた側の負う傷は深く恨みは長い、この非対称性を感じさせる胸糞エピソードですね。他のエピソードも本編よりさらに人の醜い側面を強調した性格となっており、本編の雰囲気を気に入った人向けの内容と言えるでしょう。
追加エピソードの中で最後のミナミ編は唯一本編のTRUE ENDへつながるお話です。あんなにねちっこく復讐して口も悪かったミナミが、ナギトと距離を置いて生活をするようになってどう変化していったのかが如実に表れています。本編で最後に名前だけ登場した女の子のチカちゃんが及ぼした影響も大きかったようです。本編と同じくとんでもなく陰湿だった物語をこう希望の光に包んでエンディングへ向かうのか、と感じさせられるエピソードでした。……と思っていたら最後の最後!!なんとも油断ならない作者さんです。より濃さを求める方はぜひ購入を検討してみてください)

こんにちは。今回はまなとマナさんの「死してなお僕は」をご紹介します。

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ジャンル:ファンタジー探索アドベンチャー
プレイ時間:エンディング回収までで1時間以内
分岐:True,Normal,Bad3
ツール:RPGツクール
リリース:2020/8
備考:12推、要RPGツクールVX Ace RTP


今回ご紹介する作品は、主人公のジェンスが”死の世界”から無事に帰還するために探索して進めていくアドベンチャーゲームとなっています。と言ってもグロテスクな絵が出てきたりといったホラー要素はほとんどなく全年齢対象であり、ホラーの苦手な方でも十分楽しめると思います。
一応暴力的なシーンはあるので12歳以上推奨にはなっています。

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こちらがその主人公のジェンス。頭に包帯を巻いて皮膚はつぎはぎ、心臓が飛び出ていていかにもゾンビっぽい造形ですが、絵柄が可愛らしいので怖さはあまり感じませんね。
そんなジェンスが目を覚ますと、案内役をしてくれるクローバーが、ここは”死の世界”であり、長くいすぎてはいけないから隙を見て脱出するといいと教えてくれます。”死の世界”の住人である”魔ビト”たちは攻撃的な態度をとってきたりはしませんが、脱出を企てていることがバレると全力で牙を向けてくるため、何の気なしの散歩を装いながら情報収集し、脱出を目指していくことになります。



…と書いてきましたが、本作は”魔ビト”に脱出を悟られないように真相を探るサスペンス的要素は薄めです。ジェンスがあからさまな発言をしたりしなければ脱出の企てが露見することはありませんし、推理要素などもなくストーリーが進行していくので気軽にプレイしていくことができます。

代わりに、というわけではありませんが、探索を進めていくと次第に本作の世界観や生前のジェンスのことが明らかになっていきます。ジェンスが目覚めた建物はどうやら病院のようです。”死の世界”に来る前は医者であったらしいジェンスですが、どうも今の彼はその過去を忘れている、あるいは思い出すのを拒否しているように思えます。
さらには病院内の所々から見つかる不穏な文書やメモ書き、ジェンスの断片的な記憶。そしてなぜかジェンスのことを”天使”と呼ぶ魔ビトたち。これらの謎を解明するための手がかりとモチベーションをくれるのがジェンスの元患者・アンジェです。

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アンジェはジェンスに信頼を寄せているようですが、生前の彼らの関係はどのようなものだったのでしょうか。彼女は脱出のためのヒントをくれつつ、ジェンスを見守っていてくれます。

玄関のカギを入手したらここが分岐点。すぐに脱出するか、見かけた怪しい人影を追うかです。ゲームに慣れた方なら大方想像がつくでしょう。即脱出すればノーマルエンド、人影を追って地下に行くとトゥルーエンドへ向かいます。


地下に入るとそれまでの普通の病院の待合室のような雰囲気とは打って変わり、暗い部屋と廊下に粗暴な魔ビト、怪しい薬品類など一気に不穏さを増しホラー味を帯びてきます。とはいっても冒頭で述べた通り怖い絵もプレイヤーを驚かしてくるような演出もないためホラー苦手な方でも安心。
”魔ビト”が言っていた”天使”とはいったい何のことを指すのか、この病院で行われていた怪しい出来事は何だったのか、そしてそれとジェンスやアンジェの関係はあったのか、といった物語の核心に迫っていきます。


ここで明らかになる真実はやはりショッキングなものですが、地上を含めたこれまでの探索時にうすうす察することができる内容なので、私自身あまり辛い気持ちにならずに済みました。むしろジェンスとアンジェが短い時間で築き上げた確かな信頼関係を感じ取ることができ、感動的なエンディングに仕上がっていると思います。今度の”約束”は守れるといいですね。


難易度について。本作の攻略は易しい部類に入るでしょう。探索時にヒントが得られる地点にはほとんど光るマークがついていますし、アクション要素が求められるシーンもありません。謎解きも同じフロア内で完結するように作られているため、さほど迷わずに進められるでしょう。
前半(2階)のイベントは本筋にあまり絡んでこない(アンジェの登場は重要だが)のでややお遣い感があると言えるでしょうか。


というわけで今回は「死してなお僕は」でした。
死んでもまだ叶えたい願いとは何だったのか。なぜそのような願いを持つに至ったのか。あなたの目で確かめてください。

それでは。

こんにちは。今回は、九州壇氏さんの眠れない夜にをご紹介します。


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ジャンル:ちょっと大人向けな幼馴染み系ノベルゲーム
プレイ時間:1時間15分
分岐:なし
ツール:NScripter
リリース:2016/12
備考:第12回ふりーむ!ゲームコンテスト健闘賞受賞作


私は以前、【検証】ギャルゲー主人公の両親、海外出張しがち説という記事で(現代日本が舞台の)恋愛系ノベルゲームでは主人公の年齢設定は高校生が最も多いと書きました。特別な設定なしでも毎日学校でヒロインと顔を合わせるし、体育祭や文化祭といったイベントで話を盛り上げることも、定期テストや受験といった分かりやすい壁を提示することもできる。私がプレイした範囲では、過半数が高校生が主人公のものでした。しかし大学生やそれ以上の年齢帯になっている作品も面白いものは数多くあります。本作はそれらのちょうど中間にある特殊な作品といえるのではないでしょうか。高校はすでに卒業しているけれども高校時代の思い出が大きな比重を占めるようなシナリオで、現在の状態は過去の出来事が連なった結果なんだなあという物語の説得力のようなものがしっかりしている作品です。

本作の主人公は木野下淳。およそ半年前に高校を卒業して大学生になったばかり。ヒロインの木野田茜も同学年です。彼らは小学校に上がる前からの幼馴染で、高校時代から付き合うことになります。しかし本作のメインの時間軸は、大学生になった淳と茜が何気ない夜のドライブをしているところから始まります。物語開始時点で二人はすでに恋人の距離なわけですが、ここに至る過程もしっかり描写されています。そう、本作は回想シーンを多用しているのです。これがなかなかうまいですね。回想では背景がセピア調になるのでいつの話をしているか混乱することはないですし、現在と過去のシーンの間にぶつ切り感がありません。子供時代のこんな経験や、中学生の時のあの出来事が現在の淳の感情をこんな風に動かしている、というところが丁寧に描き出されるので、これが上述の説得力につながっているのではないでしょうか。この丁寧かつ素朴な描写が作者さんの持ち味ですね。最小限の演出と写真背景はその素朴さを邪魔しません。見た目の華やかさがないという言い方もできるかもしれませんが、私はとてもフリーゲームらしくて魅力的なんじゃないかなと思っています。

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そんな穏やかな雰囲気のドライブから始まるストーリーですが、物語前半の割と早い時間帯で茜を襲った悲劇が明らかになります。突然病気で倒れ、運よく一命をとりとめたはいいものの記憶の一部が失われてしまったのです。普通ならこんなシーンは鬱々とした空気が流れ、読者に負担を感じさせることもあるでしょう。しかし本作ではこれは1か月前の出来事として淳も茜もすでに受け入れているので、その暗い雰囲気をかなり軽減しているのです。

そんな悲しみを抱えながらも、ゲームセンターで遊んだり、思い出の場所で語り合ったりしてほのぼのとした展開が続くのかな……と思っていると物語は急展開を迎えます。トイレに行くと言って席を外した茜が戻ってこないのです。必死に茜を探す淳。そんな中、茜の妹の香澄から電話がかかってきます。そこからの展開はなかなか衝撃的でした。このほのぼの系幼馴染ものに計算された伏線が張られているとは思っていなかったのです。うまいですね。淳が受けた衝撃と悲しみをプレイヤーにも直接的に与えてくる感じがしました。
しかしこの伏線、間違った解釈から急展開後の正しい解釈まですべて主人公がモノローグで語ってしまうんですね。ここは、「そうだったのか!」と読者に一回思わせた後は細かい解説はせず(するとしても会話文の中で自然に行う程度で)、プレイヤー自身に該当箇所を探してもらう、2周目をプレイしてもらうよう仕向けたほうがより印象に残った気がします。なんというか、余韻みたいなものが失われてしまう感じがしました。「君と再会した日」の時も似たことを書いた気がしますので、これは作者さんの特徴かもしれませんね。逆に、その後淳が正気を失っているシーンなどは、より分量を割いて描写しても良かったんじゃないでしょうか。明らかになった事実に驚きはしたものの、プレイヤーにとっては淳も茜も物語の登場人物に過ぎないので、淳の混乱の程度までは(少なくとも私は)感じ取れなかったのです。ここで、茜が病気で倒れてから浜辺で再会するまでの1か月弱を回想する描写があった方が、淳がいろいろと思い詰めてしまったことに対してぐっと説得力が増すと思うのです。茜と約束するシーンが淳の決心とラストシーンにうまくつながっていて綺麗な展開だったと感じるので、尚更納得感が欲しいところではありました。


いろいろと書きましたが、子供時代のなれそめや甘酸っぱい思い出を楽しみつつ、よくある恋愛ものよりちょっとだけ落ち着いた雰囲気と同時に驚きの展開を味わえる素敵な作品です。夜明けを迎えてエンドロールに入るのがとても気持ちいいのでぜひ読んでみてください。

それでは。

こんにちは。
今回はPetitさんの「怒ると死にます。」のレビューをお送りします。

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ジャンル:幼馴染系ラブコメ
プレイ時間:30分
分岐:基本一本道。ゲームオーバーあり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2020/5
備考:ティラノゲームフェス2020コメディ部門優秀賞受賞作


本作はタイトル通り、怒ると死んでしまう奇病に侵されたヒロインを救うため、主人公が奮闘する分かりやすいラブコメとなっています。

冒頭のシーンでいきなりそんなぶっ飛んだ設定を説明されて困惑する主人公の七見直(ななみ・なお)はちょっとひねくれた性格の持ち主です。人は結局一人で生き、一人で死ぬのだから人類皆孤独。友情とか、恋愛とかそんなものはまやかしだ。うざったい。
そんなことばかり言っているので幼馴染でヒロインの葵美喜(あおい・みき)の最初の台詞も「ナオは相変わらず酷い人」と散々です。


そんな直に対して美喜は序盤から好意丸出しで非常に分かりやすい。「怒ると死ぬ」という設定が強烈ですから、その他は王道というのがちょうどいいですね。
「愛」を得ることによって怒りゲージ(?!)の許容量を増やして死の危機から救われると聞いた彼女はもう直への愛を隠すことをしません(若干ツンデレ風味の台詞はありますが…)。
病院から帰ったその日の夜、美喜は直の部屋にやってきて、「明日デートしよう」と提案。対する直は、「あいつとデデ、デートだと!?」とひどい動揺ぶり。いやもうこれどう見ても両想いじゃん!
むしろ直の方がツンデレでは?


というツッコミは置いといてデート当日に進みましょう。
待ち合わせ場所で早々にナンパ男に絡まれている美喜。直はさらりと美喜を連れ出すことには成功するが、ナンパ男たちとけんかになり、またすぐに病院に逆戻りです。こんなデートは散々だー、と一度は思ったものの、美喜ちゃんに看病してもらってこんな表情まで見られるならこんなデートイベントもアリなのかな~と思ってしまいます。

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上のスクリーンショットをみて分かる方もいるかもしれませんが、本作のヒロイン美喜の立ち絵はLive2Dなので大きくアニメーションします。口パクだけでなく頭も揺らすし髪もなびく。ちょっと恥ずかしがるときに両手を口に当てるしぐさなんかも可愛くて良いですね。やっぱりアニメーションってコメディには特に威力を発揮するよなあと思います。



本作の笑えるポイントとして特徴的なのは、上のようなヒロインの可愛らしいシーンやちょっと恋人らしいシーンと、それを吹っ飛ばすようなギャグシーンの切り替えがスピーディーなところでしょうか。
特にドイツ帰りの医者が強烈でした。直と美喜が良い感じになりそうなところで何度雰囲気ぶち壊しの台詞を投げつけてきたことか! この急ハンドルを楽しめる方には特におすすめですね。ボイスの破壊力も満点です。
しかし医療器具を鼻に突っ込むのは医者としてどうなんだ! とだけ言いたい。



そんなこんなで色々ありつつ物語はエンディングへ向かうのですが、ここできちんと直が美喜を怒らせ続けてきたきっかけも明らかになって、そのうえで2人が前に進んでいけるのが気持ちいい内容です。直の言動は本当に酷かったですからね。あれは誰でも怒ります。外れ選択肢の台詞なんか口にした日にはラブコメ主人公でも彼女との関係が終わりかねないです…
そんな直がきちんと美喜に向き合っていくきっかけとなる出来事があるのですが、ゲームらしく非常に分かりやすい展開となっているのが良いですね。まああの人は現実では絶対にお近づきになりたくないタイプの人物ですが。


そう、本作の選択肢は落ち着いて読めばどっちが正解かは明らかです。普通の常識がある人なら心配ありません。しかしタイトル画面から難易度を上げて挑むと、制限時間が短くなったり選択肢が移動していたりして物理的に難しくなります。難易度によってシナリオの変化はありませんが、高難易度をクリアするとおまけのイラストが多く解放されるのでぜひ高難易度も攻略してみてください。




ちなみに、本作のBGMには誰でも1度は聴いたことがあるような超有名クラシック曲が使われています。
タイトル画面はチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番。本編が始まってからもショパンの子犬のワルツやモーツァルトのトルコ行進曲といった有名曲がいっぱい。それらの中でたまに曲名が分かると面白いネタが仕込まれていてそこも楽しいポイントでした。
病気を治すのに愛が必要だと言われたシーンではエルガーの「愛の挨拶」、時間切れで死んでしまった(ゲームオーバー)時はショパンの「葬送行進曲」、怒らせないように選択するところではヴェルディのレクイエムより「Dies Irae」(日本語で"怒りの日")など。選択肢を間違えたときにはモーツァルトのDies Iraeも使われていましたね。知っていればにやりとできるポイントでしょう。



というわけで今回は王道展開が楽しめるラブコメ、「怒ると死にます。」でした。
ぜひ美喜の機嫌を取りながらエンディングを迎え、幸せ全開のタイトル画面を眺めてください。

それでは。

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