フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
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1時間前後

こんにちは。今回はしゅんてさん・青木ととさんによるパズルゲーム「Squirrel Board」のレビューをします。リンク先で即プレイ可能なブラウザゲームです。音量注意。
記事後半に攻略情報あります。

squirrel1


ジャンル:ボードゲーム
プレイ時間:1プレイ3分程度
ツール:Unity(ブラウザゲーム)
リリース:2022/9


今回の作品はたまたまTwitterで流れてきて知りました。サクッとプレイできそうだったのでちょっとやってみるか~と思ってリンク先に飛んでみると、想定以上の楽しさでした。



本作のルールは難しくありません。主人公のリスは冬に備えるため、盤面上の木になっているどんぐりを回収していきます。1ターンの間に動けるマスはサイコロを振って決められます。初期状態では4が出れば4マス、6が出れば6マス進めます。どんぐりは木の生えているところに4ターンごとに再び落ちてきます。
そうして盤面を移動していくとパワーを使います。1ターンごとにげんきが1減少し、0の時に帰宅できないと今貯めていたどんぐりを全ロストしてしまいます。げんきの残りに気を配って、欲張りすぎずに家に帰りましょう。

またターンの間には今ほおぶくろにしまっているどんぐりを食べることができます。種類によって食べることで特殊効果を発揮するものがあるのと、次に述べるスピードを上げるために身軽にする効果があります。

そしてもう一つ重要な概念がスピードです。リスくんはどんぐりを回収していくたびにその重さのためにスピードが低下します。1個回収するたびにスピードは0.1低下し、これは動けるマスの範囲に影響してきます。1ターンで動けるマスは((スピードの基礎値) - (今もっているどんぐりの数) ÷ 10) × (サイコロの目)で表されます。この仕様のため、げんきが余っているからと言って1周で欲張ってたくさん回収しようとすると、スピードが低下して身動きが不自由になってしまいます。やはり定期的に家に帰って蓄えたどんぐりをしまっておき、体の方は身軽にしましょう。

スピードの基礎値は特殊効果のあるどんぐりを食べる、または一定数のどんぐりを蓄えたときのレベルアップボーナスによって上げることができます。これが大きくなると1ターンでマップの端まで移動できたりして行動範囲は広がります。

30ターン経過で冬がやってきます。それまでにできるだけたくさんのどんぐりを回収し、家に蓄えておきましょう。どんぐりのレア度に応じて点数が加算されます。文章で説明するとややこしいですが、チュートリアルが丁寧なのでルールの理解は難しくないでしょう。チュートリアルのスキップはQキーで可能です。

1つ操作性の上での要望があって、マウスのみorキーボードのみで操作が完結するようにしてほしかったです。現状でも右手でマウス、左手でwasdキーでスムーズに操作することはできますが、若干違和感が。マウス移動なども実装されたら片手でも遊べますしね。


さて、ルールを理解したところでプレイしていきましょう。
私の初回プレイは40~50点くらいでした。終了後の評価では、まあちょっと少なめだけど冬を越すのに問題はないかな~みたいな意味のコメントがあったような記憶があります。
しかしやり込んでいくうちにどんどん点数を伸ばせて達成感がありました。運要素が大きい本作、射幸性をあおるのも成功してますね。しかし運だけでは点数にも限界があります。ある程度のセオリーはしっかり押さえた状態で運のいい配置・出目を待つ必要があります。
その後数時間やり込んだところ、昨日なんと614点というハイスコアを達成しランキング1位を獲ったので、攻略情報についても記しておきたいと思います。自力で頑張るという方はここでブラウザバックでお願いします! 見る方は画面下スクロールで!

(10/3追記:現在の記録は1715点です。ついに4桁の大台を突破。9/19にゲームが更新され、リセットボタンなど再チャレンジしやすい環境が整ったためハイスコアチャレンジもより効率的にできるようになりました)
squirrel boardランキング1位


















チュートリアルで明らかにされない仕様について


どんぐりの種類と特殊効果・得点

本作では5種類のどんぐりが出現します。レア度の低いものから順に
  • 茶色…1点。食べても特殊効果なし
  • 水色…2点。食べるとげんきを1回復
  • 緑色…3点。食べるとスピード0.1上昇
  • 赤色…4点。食べるとスピード0.2上昇
  • 虹色…5点。食べると制限時間を2ターン延長
となっています。

おうちレベルアップ時のボーナス


一定のどんぐりを集めるとボーナスがもらえる。拾ったタイミングではなく、家に備蓄したタイミングでカウント。必要などんぐりの数は以下(レア度は問わない。多少のずれはあるかも)。Lv2,4になるタイミングで盤面が1段階広くなる。
  • Lv1→2…3個
  • Lv2→3…8個
  • Lv3→4…16個
  • Lv4→5…26個
  • Lv5→6(MAX)…41個

ボーナスは以下のうち3つの選択肢が出現。1つだけ選べる。ただし同じグループから複数の選択肢は同時に登場しない。
  • スピードアップ系
    • 駆け足…ベース値0.1アップ
    • 俊足…ベース値0.2アップ
    • 電光石火…ベース値0.3アップ
  • 最大げんきアップ系
    • 元気もりもり…最大げんき1アップ
    • 頑強…最大げんき2アップ
  • マップ強化系
    • 芽吹く木々…マップに木を2本追加
    • 自然豊か…マップに木を3本追加
  • 時空の超越…制限時間3ターン延長
  • 頑丈ほっぺ…1度だけげんき0になった時のアイテムロストを無効に
  • 恵みの雨…すべての木にどんぐりが即時になる

30ターン経過後の行動について

冬が到来し、それ以上木にどんぐりがならなくなる。すでになっているものを回収するのは可。
一度おうちに帰るとそこでゲーム終了になる。にじどんぐりの時間巻き戻し効果も無効。おとなしく持ち帰って5点にしよう。

なるどんぐりのレア度について

明らかに家からの距離が遠い木ほどレア度の高いどんぐりがなる確率が高い。Lv3以下の盤面だと赤・虹どんぐりはほとんど期待できない。
Lv4以降の盤面の右下・左下のマスに木が生えれば7~8割くらいの確率で虹、そうでなくても赤どんぐりがなるので非常に有利。

移動できるマス数の計算

前述のとおり
(ベース値 - ほおぶくろにあるどんぐりの数÷10) × サイコロの出目
で計算できる。小数点以下は四捨五入。サイコロの出目は4~6で均等だと思われる。

具体的な戦略について

最初の2~3ターンのうちにLv2に上げる。2ターンでできるのが理想。ボーナスはげんきアップ系を選ぶ。これ以降げんきアップ系のボーナスは必要ない(それを選ぶよりもスピードアップの方が恩恵が大きい)。
序盤のうちはスピードが低くどんぐりの重さの影響を受けやすい。目標とするどんぐりを定め、それ以外のどんぐりを避けながら進み、家に帰る途中で行きに避けてきたどんぐりを回収できると理想的。
Lv4に上がるまではレベルアップを優先したい。遠くの水どんぐりを回収するより近くの茶どんぐりをたくさん回収して備蓄しレベルアップしよう。緑は効果が大きいので回収に行って良い。レベルアップボーナスはスピードアップ系かマップ強化系。マップ強化系で新たに生えた木が家から遠いと前述の仕様によりレアなどんぐりができやすく有利。ここは完全に運。

Lv4以降はなるべく家から遠くの赤・虹どんぐりを真っ先に回収してその場で即食べることを繰り返す。4ターンごとになるのでなったターンですぐに採取するのが理想。スピードは2.5~3.0くらいまで上げたら十分なのであとは食べずに備蓄に回す。虹どんぐりはなるべく食べる。この時他の必要ないどんぐりを食べなくていいように回収順に気を付ける。どんぐりがなるまであと1ターンのマスに止まると、その瞬間にどんぐりがなって問答無用で回収してしまうので次に虹・赤を回収するつもりの場合は気を付ける。
ボーナスは時空の超越(3ターン延長)か自然豊か(木が3本生える)を選びたい。特に遠くに木が生えた状態でなるべく長くターンを回すのがハイスコアへの王道。右下、左下の両方のマスに木が生えているような状態では高確率で4ターンで2個の虹どんぐりを回収でき、実質ターン経過しないような状態を作り出すことができる。

squirrel board途中経過
↑私が600点overの記録を出したときの盤面です。虹どんぐり出現の可能性の高いところに木が3本も生えているので時間制限を延長しまくります。


相当な幸運だったと思うので、この記録はなかなか破られないんじゃないでしょうか。
ランキング抜いたぜって方はぜひ教えてください。それでは。

こんにちは。今回はまた攻略対象の一風変わった学園恋愛もののご紹介です。冬至さんの「高対称のi」です。

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ジャンル:学園もの乙女ゲーム
プレイ時間:30分
分岐:3つ
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2021/5


少し前に、攻略対象が人外クリーチャーのノベルゲームをご紹介しました。今回取り上げる「高対称のi」も攻略対象は人ではありません。では何か。幾何学図形です。攻略対象となるのは完全無欠のまる先輩、子分に慕われ威勢のいいさんかく先輩、読書と四字熟語が好きでいつも冷静なしかくくんの3人。
数年前にかなり話題になった黒城ろこさんの「どとこい」「ドトコイ」を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、好感度が上がるにつれて解像度も上がり、しっかり人間の姿として見えるようになっていったあの作品とは異なり、本作では幾何学図形が真の姿。いつまで経っても円や正方形の姿のままです。

そんな攻略対象たち。単に図形が攻略対象ですというだけでは全く想像できないほどきちんとしたキャラ付けがされており、それにプラスして数学の豆知識が登場。詳しくは後述しますが、このあたりの設定の付け方や話の持っていき方が凄く上手いんですよね。そんな3人を軽く紹介しましょう。

まずは喜華学(きかがく)学園に入学初日、道に迷っていた主人公(名前任意)を優しく案内してくれた生徒会長のまる先輩と出会います。
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「非の打ち所無い対称性がとても眩しい。」などの言葉遣いが味わい深くて面白い。
どの方向から見ても同じ対称性を保っている円の性質を反映するように、まる会長は誰に対しても平等にとても優しい。しかし主人公の”わたし”とは何かしら深い縁を感じている様子。その秘密はまる会長ルートの最後で明らかになります。


続いて放送室へ向かう主人公はまたしても道が分からず、今度はさんかく先輩に道を教えてもらいます。
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ピシッとした角度で威勢のいいさんかく先輩ですが、多くの子分たちに慕われるリーダーシップと思いやりのある先輩です。小さい三角形(子分たち)がなついている様子がとてもかわいらしい。

最後に図書室で出会った主人公と同じく新入生のしかくくんです。
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どっしりと構えた正方形らしい性格のしかくくん。4という数字に共鳴するところがあるらしく、四字熟語や漢詩の絶句が好き。数学ネタが多いこの作品の中で文系ネタのアクセントを加えてくれます。彼も主人公と重要な共通点があるようだがそれはいったい…?


学園恋愛ものには不可欠な同性の友人もいます。それがこちらの二階微分(にかい・びぶん)ちゃん。
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xの上に2つの目玉。私にはこのネタは通じましたが、大学で物理をやったことのある人にしか分からないかも。物理量xの時間微分を数学の世界では(時間を表す変数をtとして)dx/dtで表しますが、物理では簡略化のためにxの上に点を1つ打って表現したりします。それをさらに時間微分する(つまり二階微分になる)と点を2つにして表現します。ニュートン記法と言われる書き方ですが、この点を目玉に見立てる発想が分かる人には面白いネタでした。


さて、こんな感じで数学のネタが大量にちりばめられた本作ですが、それぞれの図形の特徴を生かしてキャラクター性をつけ、さらには乙女ゲー的展開に持っていくのが上手いんですよね。あまりしゃべるとネタバレになってしまいますが、本作では主人公はとある秘密・悩みを抱えています。それゆえにみんなと仲良くしてもらっても自身を持てずにいるのですが、まる会長もさんかく先輩もしかくくんも、みんなそんなこと気にしなくて大丈夫だよとそれぞれ別のアプローチから勇気づけてくれます。その方法を数学に絡めており、テーマが一貫しているのがすごいところです。
多分ある程度数学が得意な方なら、主人公の悩みについては予想がつくし、さんかく先輩が教えてくれる事実についても知っているでしょう。しかしまる会長の持つ悩みについて主人公の秘密がリンクして逆に勇気づけたりとか、しかくくんが主人公と一体感を覚える理由については言われるまで気づきませんでした。言われてみればその通りで納得感もあるんですよね。誰のルートに入っても、主人公がしっかりと自分を受け入れて前を向いて進んでいけるのが気持ちいい。

本筋の秘密ではないのでこれは書いちゃいますが、よく「見た目がすべてじゃないよ」というような言説があります。しかしそれは外見に悩む人が多いから言われるわけですよね。本作においては、「見た目の形に注目する」のがユークリッド幾何、「中身(図形の持つ角の数だったり、他の点とのつながり方だったり)に注目する」のが非ユークリッド幾何として表現されているのが絶妙。高校までで習う普通の幾何学だけでなく、アフィン幾何やシンプレクティック幾何といった直感的ではない幾何もあるのです。この辺は私も理解しているとはいいがたい分野ですが、ここまでゲームで触れられるのか!と驚いた点でもあります。

もう一つ。自分が普通の人と違うといって悩むことも良くあります。本作においては、これは普通だと思っていたものよりも実は普通でないものの方が多い例として代数的数と超越数が出てきます。代数的数というのは代数方程式の根となる数のこと。超越数とはそうでない数のこと。
確かに、私たちが普通に数と言って思い浮かべるものは大抵代数的数です。整数や有理数はもちろん、ルート2などもすべて代数的数なので、これが普通なのかと思ったりします。しかし実は"普通"でない数、超越数の方がずっと多く存在するというのがカントールの対角線論法によって割と簡単に示せます。だから、何が普通なのかなんかで悩むのは無意味だし簡単にひっくり返っちゃうから気にしないでいいよ、ということになるのです。
私がこれまで単に数学的事実と思っていたことが、こうして乙女ゲーに活用できるんだというのが私の感動ポイントでした。


という感じで本作は、乙女ゲーとして美味しい部分に数学のスパイスが使われています。しかしそれ以外の小ネタも盛りだくさんなので、私が拾えた範囲で書いてみましょう。



  • 入学式でユークリッド校長が説明した5か条
    ユークリッド幾何学における5つの公準のことですね。最近は5条目に異議を唱える生徒もいる、というのは非ユークリッド幾何学のことを指しています。
  • 二階微分ちゃん
    物理委員になった時「ん-、私がこの見た目でいられるのも物理のおかげみたいなところあるからね。」は前述の物理で使うニュートン記法を指しています。彼女がニュートン先生を好きなのもそのためでしょう。
  • まる会長の対称性
    周りから、「SO(2)の対称性らしいぞ」と言われているシーンがあります。これは特殊直交群と呼ばれるリー群の一種ですね。中心を固定して任意の角度に回転させても同じ形になることを表現する群です。ちなみに、中心を通る直線に関する線対称であることも含めるならO(2)という群になります。
    (7/17追記)ややネタバレなのでたたみます。クリックで展開SO(2)は回転対称のみを含んでおりO(2)には含まれる反転は含まないので、裏表で区別があることを意味します。ということは、まる会長の表ではみんなの期待に応えて真円としてふるまっているけれども、裏では真円とのずれについて人知れず悩んでいるのを表現しているとも考えられるなと思いました。

  • グループ課題の時、群に分かれる
    上の項目で述べたように、図形の対称性は群で表現することができます。円ならO(2)、正三角形ならD3、正方形ならD4と書けます。(Dnは二面体群と呼ばれます)
  • フェルマー先生が、「余白がない」と言う
    フェルマーの最終定理の証明に関して、フェルマー自身が「この定理に関して、私は真に驚くべき証明を見つけたが、この余白はそれを書くには狭すぎる。」というメモ書きを残した逸話のネタです。
  • フランス語のガロア先生が「時間がない」と言う
    ガロアは今日ではガロア理論と呼ばれる理論などに大きな功績を残した数学者ですが、なんと決闘によって弱冠二十歳で亡くなっています。決闘を翌日に控えた日に書いた手紙には「僕にはもう時間がない」という走り書きがあったという逸話があります。
  • 日本史の関先生
    和算で有名な江戸時代の日本の数学者、関孝和のことですね。


というわけでゲームから外れた内容も多くなりましたが、「高対称のi」でした。
数学ネタが拾えなくても、王道の乙女ゲームとして楽しめると思いますのでぜひ。

こんにちは。今回はChloroさんの「西暦2236年の秘書」のレビューをお届けします。

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ジャンル:可愛いAIとの交流を描くややコメディ風SF
プレイ時間:45分
分岐:なし
ツール:Unity
リリース:2017/4


本作の舞台となるのはタイトルから分かる通り、23世紀。つまりSFです。
この世界ではスマートツールスと呼ばれる、形を自由に変形して用途ごとにカスタマイズできる携帯情報端末が広く普及しています。そして人工知能搭載の個人向け秘書システム"PASS"も5年前に開発され、現在ではほとんどの人が持つようになっています。本作はそんな未来感のあふれる世界における主人公ヨツバとそのPASSマスコの交流を描いた作品となっています。


私がまずそんな未来感の演出について注目したのは本作のグラフィックやUI部分です。
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マスコのシンボルカラーである緑を基調として統一感のある配色。画面右端で表示/非表示を選択できるセーブ/ロード等の操作パネル。スタイリッシュでSF感にあふれてますよね。私はどちらかというと文字を排してシンプルなアイコンのみに絞ったUIよりも、比較的文字が多めで文字を読めば機能が分かるデザインの方が好みなのですが、本作に関してはシナリオのストーリーと繋がっていて良いなんじゃないかなと思いました。この辺までこだわっている作品って、やっぱり力作が多いですね。Ren'Pyの作品に似た操作感になっている気がしましたが、使用ツールはUnityのようです。


本作の物語の始まりは2236年の元日。マスコがもらってきた3000コイン分のカードを見たら、なんと実は3億コイン分だった! という衝撃のシーンです。訳が分からず、とりあえずちょっとだけ使ってみようとうまい棒(電子版)を買ってみるヨツバとマスコ。(電子版うまい棒って何?) しかしきちんと使えているようで表示だけバグっているわけではなさそう。

そこからはしばらくコメディ調で進んでいきます。夢か~と現実逃避してお正月遊びをして寝たり、マスコにバニーガールの衣装を着せて遊んだり。お着換えシーンのアレは個人的にはツボでした。SFだからこその表現ですね。


そんなこんなで楽しい正月が描かれた後、物語はヨツバとマスコが出会った頃にさかのぼります。
2人が出会ったのはおよそ5年前。PASSが開発された時期までさかのぼります。マスコは世界で最初に一般用として販売されたPASS8台のうちの1つだったのです。抽選でマスコの使用権を得たヨツバは緊張しながらデータをダウンロードし、マスコを起動させます。この起動時のデザインと音声が(笑)アレンジうまいな~。
2231年の話なら多分前世の記憶どころか前前前世くらいまで行かないと分からなそう。

マスコにはテレパシーが通じないことに気付き、見た目は人間だけど中身はプログラムに過ぎないんだなと実感するヨツバ。この辺はAIものSFでは避けて通れない話題ですね。これに関しては本作の終盤でも大きな意味を持ってくることになります。
ところでテレパシーについて説明していませんでした。23世紀では人々は音声として表現することなく、HT理論という媒体に乗せて意思疎通ができるようになっています。このあたりの説明はメッセージウィンドウとは別で補足説明が入るのが親切です。

とはいえ見た目が可愛い女の子であるマスコに対しては緊張もありなかなか打ち解けられないヨツバ。マスコを立体化させたり夢を見たりしながら次第に繋がりを感じていくさまがコメディ調で描かれ、微笑ましく感じられます。

さて、ヨツバがマスコの"秘密"を知って打ち解けてきたあたりで、人工知能にいい感情を持たない人物、ヒメ先輩が登場します。先ほど述べたAIものSFのテーマともいえる点に関わってくるので、ここはあまり深く語らない方がいいでしょう。そこで出会った彼女のPASS、ヨシナガさんも重要な役割を果たします。ぜひご自身でプレイして確かめてみてください。コメディな雰囲気を維持したままテーマに迫っていくあたりが上手いと思います。

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そして物語は2236年に帰ってきます。忘れそうでしたが本作は謎の3億コインを手に入れた(?)ところから始まったのでした。ここにきてようやくその事件の真相が明らかになるわけですが、なるほどねえ。しっかりSFの設定を活かし、ヒメ先輩とヨシナガさんも関連付けながら解決していく気持ちよさがあります。
"AIと人間の違い"についてもここにきて語られます。絶妙に気味の悪さを感じるようなBGMも非常に印象的で効果的だったと思います。ただ、似た気味の悪さを思わせる曲が全体を通して多用されていたところがちょっともったいなく感じました。あの曲はテーマのシーンに絞って聞かせた方が強く印象に残ると思うんですよね。あとは単純にプレイ中に長く聞いているには向かないので…。
創作の世界だけでなく、現実の世界においてもAIが果たす役割がどんどん大きくなってきている今、本作でヨツバが感じた問題を真剣に議論しなくてはならない時期も近づいているでしょう。あるいはすでに研究されているのかな。



本編をすべて読み終えると、エクストラが解放されます。本作は「西暦2236年」から派生して作られた作品のようで、こちらの作品のPVと体験版のような内容になっています。
本作を作ったChloroさんと言えば、私は「私は女優になりたいの」をプレイしたことがある程度なのですが、あちらが実写ムービーを多用した非常に個性的な雰囲気の作品だったのを思い出しました。本作でも登場した"テレパシー"に関する興味を引く導入と、あの非常に独特なムービーのセンスを見て非常にプレイ欲が掻き立てられる内容でした。こちらは有料の作品となっていますが、時間を見つけてプレイしたいなと思っています。

それでは。

こんにちは。今回はtwitterでも感想を書いたbbboxxxさんの「いちごみるくとあそぼうよ」のレビューをお送りします。

icmk1

ジャンル:ふわふわ*どろどろ*白昼夢系ADV(ReadMeより引用)
プレイ時間:1周目3分、ED全回収まで1時間~1時間半程度
分岐:ED全9種、1周目ルート制限あり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2020/7
備考:15禁


いやあ、乙女ゲーってギャルゲーに比べて、心に直接刺さってくるというか、すごく切ない気持ちにさせられるような作風のものが多くないですか? 私がプレイしたのが偏ってるだけ?
というわけで本作もまた、誰も悪くないのに(まあ悪くないとまで言うといいすぎか? 同情は十分できる)読んでいて悲しくなってくるシナリオとなっております。


本作の導入はなかなか変わっています。STARTをクリックするとまずは主人公の名前入力。ここではデフォルトの新崎愛香と呼ぶことにします。
そして30秒弱のオープニングムービーが始まります。これがなかなか良かったです。ピンクの単色で描かれたファンタジーっぽいシンプルな映像。そして「目が覚めたらなんだか可愛い制服を着ていた。ああ、私 高校生だったのかな。さぁ部屋のドアを開けて、学校へレッツゴー。」というモノローグが挟み込まれています。この映像がなぜだかたまらなく好きで、多分10回以上は見てます。

しかしこのモノローグを読んで、素直な日常系ほのぼの恋愛ものだと思う方はあまりいないでしょう。ふわふわと夢の中にでもいるかのような釈然としない印象を残していきます。
ムービーが終わって次の場面では、愛香は教室で謎の兄弟イケメン2人に手を取られ、いちごミルクなんか目じゃないほどのいちゃラブ甘々展開です。彼らの名前はいちごとみるく。ところが練乳をそのままなめているかのようなこの雰囲気は、長くは続きません。


開始3分もたたない頃には、いちごとみるくの口からは不穏な会話が。愛香自身も、自らの置かれた状況がどうも普通ではなさそうなことに自覚的になっていきます。いちごから、毎日どんな夢を見るのかと問われる愛香。1周目では、どちらの選択肢を選んでもすぐにエンディングに行ってしまいます。両方のエンディングを見て3週目からが本番です。とはいえ3周目でもまだルート制限があり、たどり着けるエンディングは限られています。しかしこうして様々なエンディングをたどるうちにいちごとみるく、そして愛香自身の過去が描かれ、徐々に事件の輪郭が明らかになってくるつくりが上手いですね。この辺はある種ループものに近いものがあるかもしれません。


5週目くらいになれば、プレイヤーのあなたに関してはもう、愛香が飲まされているホットティーに"良くない"物が入っていて記憶をあいまいにさせているという事実には容易にたどり着けます。しかし愛香本人が気付けるかどうかはまた別。飲み物の影響を受けて正常な判断力もないであろう彼女が、現実の世界で幸せになることができるのか。ここが読んでいて辛く、悲しくなるポイントですね。

icmk2

このスクリーンショットが愛香の状態を物語っていますね。白昼夢系ADVの名前に偽りなしです。
愛香がこの状況から脱却できるのかは、プレイヤーの選択にかかっています。ぜひ最良の結果を目指して頑張ってください。


9つあるエンディングをすべて見れば、ようやく事件の全体像があらわになります。途中ただの悪人じゃないかとも思ったみるくも、彼がそれまでに背負ってきた苦労と理不尽を理解すれば彼もまた被害者の一人であったという感想も持てます。家庭の問題ってやっぱりずっと尾を引きますよね。どのエンディングでもすっきり解決とはならないのは仕方のないことかもしれません。


シナリオ以外の点も見てみましょう。まず音楽。ピアノ中心のゆったりとした選曲は、夢の中にいるような本作の世界とマッチしており素敵。効果音もちょうどいい感じがしますが、なぜかたまにBGMがぶつぶつ途切れる時があって気になりました。

イラストについてもかなり綺麗で、スチルにも力が入っています。END5のいちごくんのスチルが好きです。UIやシステムも赤やピンク系で統一されていて世界観の作りこみを感じられます。右上のメニューを開くボタンがいちごなのも好きですが、ちょっと見えにくいのでもう少し目立つ色だったりサイズだったりしてもいいかもしれません。


そうそう、おまけもなかなか面白かったですね。
icmk3
プレイ前は綺麗ないちごと瓶牛乳だったこの画面がどうなるのか。そのショックを体験してほしいです。おまけミニストーリーは4パターンあるようなのでぜひコンプリートしてください。


読み終わってすっきりハッピーエンド! とはいかない作品ですが、彼らの今後の幸せを願わずにはいられない作品となっています。15禁ですが、暴力や薬物、性的描写はきつくはないので興味があればぜひトライしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回は、先月公開の静本はるさんの新作「カッテナキミヘ」をレビューします。

katte1

★favo
ジャンル:とあるアニメに関する短編集
プレイ時間:30分前後
分岐:なし。3本読むと最後のエピソードが解禁
ツール:吉里吉里
リリース:2022/5


以前レビューで取り上げた静本はるさんの「MY HOBBY IS 短編版」も素晴らしかったですが、本作に関しても非常に心揺さぶられるところがありました。コメディだったMY HOBBY ISとは違って本作はドキュメンタリー風ですが、広いジャンルでセンスを感じさせる作者さんだなと思っています。

本作には3本(+1本)の短編が入っており、それぞれ10分以内くらいのボリュームとなっています(公式の案内で3~5分となっていますが、5分よりはかかるんじゃないかなと思います)。その短編がどれも、視点人物は変わりながらもアニロボという架空の少年向け人気長寿アニメ(原作は漫画)に関する内容となっています。

短編はどの順で読んでもいいですが、私は左側から順に読みました。
最初は佐藤まさる編です。

まさるが小学校に通っていたころにアニロボは少年誌で連載開始し、たちまち人気漫画となってアニメ放送も開始します。毎回夢中になって漫画を読み、アニメを見ては学校の友達とアニロボの感想を言い合っていたまさる。しかし時がたち中学校に入るころには、「子供っぽい」という周囲の声に影響を受けてアニロボのことは忘れていくようになります。
アニロボを忘れて数年、彼が大学2年生になったころ、たまたまアニロボのシーズン6が放送開始されるという広告を見て、かつてアニロボにハマっていたころのことを思い出します。懐かしいなと思う程度の思い入れしかなかったが、深夜にシーズン1から全話再放送をするというニュースを見て視聴しているうちにアニロボに再度ハマっていく…

もうね、この展開がすごく「あるある~」「分かる!」「まさにそれ」のオンパレードなんですよ。
子供のころに夢中になったものはいつまで経っても忘れない(私の場合はそれがフリーゲームだったわけです)、中学生くらいになると、中二病とまではいかないまでもみんな背伸びしたくなって子供向けのものをバカにする傾向がある、むしろ大学生くらいだと懐かしんだり堂々と見たりする。周囲に子供っぽいとバカにされるんじゃないかと隠していたけど実際にはみんなそんなに冷たくない。むしろ話に乗ってくる。


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↑分かるよ~私もほしのの。エピローグのBGMがごがつのそら。テーマのオルゴール編曲なのに気付いた時は半日泣いたし、緑のRPGエピローグで緑の姫君のエンディングのピアノ編曲が流れてきたときにはまさるみたいになってました。


つづいて吉田なな編です。
ななはいわゆる腐女子です。アニロボは主に二次創作の同人誌を読んでいます。推しの作家の新刊は真っ先にゲット。24ページしかない薄い本を3時間もかけて読み、感謝の長文感想をしたためます。
そんな彼女、最近たまに妙な視線のようなものを感じることがあるそうです。その正体は、自分がメインターゲットではないことが明らかな子供向けアニメでBL妄想を繰り返し、推しのカツヨシが出てこないことに文句を言っていたことへの潜在的な負い目でした。

昔のように純粋な気持ちでアニロボを見ることができなくなってしまったなな。友人のにしちゃんには、"そういう層"向けの作品を教えてもらうがどうもハマれない。このあたりがなるほどポイントでしたね。私はあまり作品をカップリングで見ることをしないのですが(それよりは、ある特定のキャラクターが好き! とか、このシーンが好き!とかの方が多い)、ななの独白を見るとこうした心情もすごく納得できるんですよね。

そしてにしちゃんからシーズン6放送開始の報をもらった後。これがすごい。
katte4
もうオタクの世界の解像度が高すぎて素晴らしい。何かを猛烈に好きだとアピールする文章(別に媒体は文章に限らないけど)って魅力的じゃないですか。それが実在のものではなくても。
私がただ好きなフリーゲームについて語るだけのブログを興味を持って読みに来てくれる方なら、この描写には必ず清々しさや微笑ましさ、そして共感を抱くはずです。最後に爆発したところで私も本作への理解が高まって爆発してしまいました。そう、私だってBrass Restorationで了が実梨に素直に謝って和解したところで「よくやった!」と机を拳でたたいたどころか、有名なコロンビアのアスキーアートみたいなポーズ取ってましたもん。(通じなかったらごめんなさい)


そして木村てるひこ編です。
最初の佐藤まさるが光のオタクだとすれば、木村てるひこは闇のオタクです。かつてアニロボが始まったころ小学生だったてるひこは、友達と一緒にアニロボに夢中になった。彼にとって原作アニロボ漫画とアニメのシーズン1はかけがえのない思い出です。しかし時がたてば様々なものが変わってきます。シーズン2以降のアニロボは、彼に言わせれば未就学児しか楽しまないようなワンパターンで、原作者を侮辱するような内容です。そしてその問題点を日々SNSに綴って同志との意見交換をしています。

katte5

もう、光のオタクのみならず闇のオタクに関しても再現度が高すぎてびっくりする限り。こういう人いるよな~というのがすごく納得できるんです。私だって、プレイしたフリーゲームが全部が全部素晴らしいものだとは思っていないし、たまに面白さが全く分からなかったと感じることもあります。でもSNSでぼろくそには書かないし、ましてやファンのことをバカ呼ばわりしたりはしません。しかしいるんですよね、こういう人。彼らは執拗なまでの文句を言いながら毎週必ず視聴します。まるでケチをつけるのが目的であるかのように。今まではその心理が良く分かりませんでしたが、本作を見て、そういう心理からアンチになるのはたしかに分かる気がするかも、となりました。

てるひこ編最後の展開も実に"ありそう"なんですよ。もう何年も前の記憶って、そんなもんですよね。それでも思い出というのは大切なものです。彼がその後光に向かって歩みだせたのか、気になります。


そしてこの3編を読み終えると、最後のシナリオが始まります。これについては細かいことを述べるのはやめておきましょう。今回の主人公はこれまでの3人と違いオタクという訳ではありません。そんな彼はアニロボとどう交わり、何を思い、そしてどんな影響を受けるのか。希望を持てる最終話であることは間違いありません。

そして最後にこれを読了してからタイトル画面に戻ってくる流れが素晴らしい。一応ネタバレにならないよう少しぼかしますが、背景画像から心象を表現したり、音楽や環境音で場の流れを表現したりといった部分にセンスの鋭さを感じます。そのうえでタイトル画面とBGMの変化。よく見るとタイトルも変わってます。なるほどそういう意味が込められていたのね。
改めて漫画・アニメをはじめとした日本のオタク文化の持つ力を感じられます。


という訳で、私の文章をここまで読むような方はプレイして絶対に損しないので早くダウンロードしましょう。BoothはDLにPixivのアカウントが必要なので、なければ準備してください。
(8/31追記:本日付でふりーむからも公開されました。ふりーむ版はアカウントの登録などが不要なのでpixivアカウントの無い方はぜひこちらからプレイを!)

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