フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
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1時間前後

こんにちは。今回はtwitterでも感想を書いたbbboxxxさんの「いちごみるくとあそぼうよ」のレビューをお送りします。

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ジャンル:ふわふわ*どろどろ*白昼夢系ADV(ReadMeより引用)
プレイ時間:1周目3分、ED全回収まで1時間~1時間半程度
分岐:ED全9種、1周目ルート制限あり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2020/7
備考:15禁


いやあ、乙女ゲーってギャルゲーに比べて、心に直接刺さってくるというか、すごく切ない気持ちにさせられるような作風のものが多くないですか? 私がプレイしたのが偏ってるだけ?
というわけで本作もまた、誰も悪くないのに(まあ悪くないとまで言うといいすぎか? 同情は十分できる)読んでいて悲しくなってくるシナリオとなっております。


本作の導入はなかなか変わっています。STARTをクリックするとまずは主人公の名前入力。ここではデフォルトの新崎愛香と呼ぶことにします。
そして30秒弱のオープニングムービーが始まります。これがなかなか良かったです。ピンクの単色で描かれたファンタジーっぽいシンプルな映像。そして「目が覚めたらなんだか可愛い制服を着ていた。ああ、私 高校生だったのかな。さぁ部屋のドアを開けて、学校へレッツゴー。」というモノローグが挟み込まれています。この映像がなぜだかたまらなく好きで、多分10回以上は見てます。

しかしこのモノローグを読んで、素直な日常系ほのぼの恋愛ものだと思う方はあまりいないでしょう。ふわふわと夢の中にでもいるかのような釈然としない印象を残していきます。
ムービーが終わって次の場面では、愛香は教室で謎の兄弟イケメン2人に手を取られ、いちごミルクなんか目じゃないほどのいちゃラブ甘々展開です。彼らの名前はいちごとみるく。ところが練乳をそのままなめているかのようなこの雰囲気は、長くは続きません。


開始3分もたたない頃には、いちごとみるくの口からは不穏な会話が。愛香自身も、自らの置かれた状況がどうも普通ではなさそうなことに自覚的になっていきます。いちごから、毎日どんな夢を見るのかと問われる愛香。1周目では、どちらの選択肢を選んでもすぐにエンディングに行ってしまいます。両方のエンディングを見て3週目からが本番です。とはいえ3周目でもまだルート制限があり、たどり着けるエンディングは限られています。しかしこうして様々なエンディングをたどるうちにいちごとみるく、そして愛香自身の過去が描かれ、徐々に事件の輪郭が明らかになってくるつくりが上手いですね。この辺はある種ループものに近いものがあるかもしれません。


5週目くらいになれば、プレイヤーのあなたに関してはもう、愛香が飲まされているホットティーに"良くない"物が入っていて記憶をあいまいにさせているという事実には容易にたどり着けます。しかし愛香本人が気付けるかどうかはまた別。飲み物の影響を受けて正常な判断力もないであろう彼女が、現実の世界で幸せになることができるのか。ここが読んでいて辛く、悲しくなるポイントですね。

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このスクリーンショットが愛香の状態を物語っていますね。白昼夢系ADVの名前に偽りなしです。
愛香がこの状況から脱却できるのかは、プレイヤーの選択にかかっています。ぜひ最良の結果を目指して頑張ってください。


9つあるエンディングをすべて見れば、ようやく事件の全体像があらわになります。途中ただの悪人じゃないかとも思ったみるくも、彼がそれまでに背負ってきた苦労と理不尽を理解すれば彼もまた被害者の一人であったという感想も持てます。家庭の問題ってやっぱりずっと尾を引きますよね。どのエンディングでもすっきり解決とはならないのは仕方のないことかもしれません。


シナリオ以外の点も見てみましょう。まず音楽。ピアノ中心のゆったりとした選曲は、夢の中にいるような本作の世界とマッチしており素敵。効果音もちょうどいい感じがしますが、なぜかたまにBGMがぶつぶつ途切れる時があって気になりました。

イラストについてもかなり綺麗で、スチルにも力が入っています。END5のいちごくんのスチルが好きです。UIやシステムも赤やピンク系で統一されていて世界観の作りこみを感じられます。右上のメニューを開くボタンがいちごなのも好きですが、ちょっと見えにくいのでもう少し目立つ色だったりサイズだったりしてもいいかもしれません。


そうそう、おまけもなかなか面白かったですね。
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プレイ前は綺麗ないちごと瓶牛乳だったこの画面がどうなるのか。そのショックを体験してほしいです。おまけミニストーリーは4パターンあるようなのでぜひコンプリートしてください。


読み終わってすっきりハッピーエンド! とはいかない作品ですが、彼らの今後の幸せを願わずにはいられない作品となっています。15禁ですが、暴力や薬物、性的描写はきつくはないので興味があればぜひトライしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回は、先月公開の静本はるさんの新作「カッテナキミヘ」をレビューします。

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★favo
ジャンル:とあるアニメに関する短編集
プレイ時間:30分前後
分岐:なし。3本読むと最後のエピソードが解禁
ツール:吉里吉里
リリース:2022/5


以前レビューで取り上げた静本はるさんの「MY HOBBY IS 短編版」も素晴らしかったですが、本作に関しても非常に心揺さぶられるところがありました。コメディだったMY HOBBY ISとは違って本作はドキュメンタリー風ですが、広いジャンルでセンスを感じさせる作者さんだなと思っています。

本作には3本(+1本)の短編が入っており、それぞれ10分以内くらいのボリュームとなっています(公式の案内で3~5分となっていますが、5分よりはかかるんじゃないかなと思います)。その短編がどれも、視点人物は変わりながらもアニロボという架空の少年向け人気長寿アニメ(原作は漫画)に関する内容となっています。

短編はどの順で読んでもいいですが、私は左側から順に読みました。
最初は佐藤まさる編です。

まさるが小学校に通っていたころにアニロボは少年誌で連載開始し、たちまち人気漫画となってアニメ放送も開始します。毎回夢中になって漫画を読み、アニメを見ては学校の友達とアニロボの感想を言い合っていたまさる。しかし時がたち中学校に入るころには、「子供っぽい」という周囲の声に影響を受けてアニロボのことは忘れていくようになります。
アニロボを忘れて数年、彼が大学2年生になったころ、たまたまアニロボのシーズン6が放送開始されるという広告を見て、かつてアニロボにハマっていたころのことを思い出します。懐かしいなと思う程度の思い入れしかなかったが、深夜にシーズン1から全話再放送をするというニュースを見て視聴しているうちにアニロボに再度ハマっていく…

もうね、この展開がすごく「あるある~」「分かる!」「まさにそれ」のオンパレードなんですよ。
子供のころに夢中になったものはいつまで経っても忘れない(私の場合はそれがフリーゲームだったわけです)、中学生くらいになると、中二病とまではいかないまでもみんな背伸びしたくなって子供向けのものをバカにする傾向がある、むしろ大学生くらいだと懐かしんだり堂々と見たりする。周囲に子供っぽいとバカにされるんじゃないかと隠していたけど実際にはみんなそんなに冷たくない。むしろ話に乗ってくる。


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↑分かるよ~私もほしのの。エピローグのBGMがごがつのそら。テーマのオルゴール編曲なのに気付いた時は半日泣いたし、緑のRPGエピローグで緑の姫君のエンディングのピアノ編曲が流れてきたときにはまさるみたいになってました。


つづいて吉田なな編です。
ななはいわゆる腐女子です。アニロボは主に二次創作の同人誌を読んでいます。推しの作家の新刊は真っ先にゲット。24ページしかない薄い本を3時間もかけて読み、感謝の長文感想をしたためます。
そんな彼女、最近たまに妙な視線のようなものを感じることがあるそうです。その正体は、自分がメインターゲットではないことが明らかな子供向けアニメでBL妄想を繰り返し、推しのカツヨシが出てこないことに文句を言っていたことへの潜在的な負い目でした。

昔のように純粋な気持ちでアニロボを見ることができなくなってしまったなな。友人のにしちゃんには、"そういう層"向けの作品を教えてもらうがどうもハマれない。このあたりがなるほどポイントでしたね。私はあまり作品をカップリングで見ることをしないのですが(それよりは、ある特定のキャラクターが好き! とか、このシーンが好き!とかの方が多い)、ななの独白を見るとこうした心情もすごく納得できるんですよね。

そしてにしちゃんからシーズン6放送開始の報をもらった後。これがすごい。
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もうオタクの世界の解像度が高すぎて素晴らしい。何かを猛烈に好きだとアピールする文章(別に媒体は文章に限らないけど)って魅力的じゃないですか。それが実在のものではなくても。
私がただ好きなフリーゲームについて語るだけのブログを興味を持って読みに来てくれる方なら、この描写には必ず清々しさや微笑ましさ、そして共感を抱くはずです。最後に爆発したところで私も本作への理解が高まって爆発してしまいました。そう、私だってBrass Restorationで了が実梨に素直に謝って和解したところで「よくやった!」と机を拳でたたいたどころか、有名なコロンビアのアスキーアートみたいなポーズ取ってましたもん。(通じなかったらごめんなさい)


そして木村てるひこ編です。
最初の佐藤まさるが光のオタクだとすれば、木村てるひこは闇のオタクです。かつてアニロボが始まったころ小学生だったてるひこは、友達と一緒にアニロボに夢中になった。彼にとって原作アニロボ漫画とアニメのシーズン1はかけがえのない思い出です。しかし時がたてば様々なものが変わってきます。シーズン2以降のアニロボは、彼に言わせれば未就学児しか楽しまないようなワンパターンで、原作者を侮辱するような内容です。そしてその問題点を日々SNSに綴って同志との意見交換をしています。

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もう、光のオタクのみならず闇のオタクに関しても再現度が高すぎてびっくりする限り。こういう人いるよな~というのがすごく納得できるんです。私だって、プレイしたフリーゲームが全部が全部素晴らしいものだとは思っていないし、たまに面白さが全く分からなかったと感じることもあります。でもSNSでぼろくそには書かないし、ましてやファンのことをバカ呼ばわりしたりはしません。しかしいるんですよね、こういう人。彼らは執拗なまでの文句を言いながら毎週必ず視聴します。まるでケチをつけるのが目的であるかのように。今まではその心理が良く分かりませんでしたが、本作を見て、そういう心理からアンチになるのはたしかに分かる気がするかも、となりました。

てるひこ編最後の展開も実に"ありそう"なんですよ。もう何年も前の記憶って、そんなもんですよね。それでも思い出というのは大切なものです。彼がその後光に向かって歩みだせたのか、気になります。


そしてこの3編を読み終えると、最後のシナリオが始まります。これについては細かいことを述べるのはやめておきましょう。今回の主人公はこれまでの3人と違いオタクという訳ではありません。そんな彼はアニロボとどう交わり、何を思い、そしてどんな影響を受けるのか。希望を持てる最終話であることは間違いありません。

そして最後にこれを読了してからタイトル画面に戻ってくる流れが素晴らしい。一応ネタバレにならないよう少しぼかしますが、背景画像から心象を表現したり、音楽や環境音で場の流れを表現したりといった部分にセンスの鋭さを感じます。そのうえでタイトル画面とBGMの変化。よく見るとタイトルも変わってます。なるほどそういう意味が込められていたのね。
改めて漫画・アニメをはじめとした日本のオタク文化の持つ力を感じられます。


という訳で、私の文章をここまで読むような方はプレイして絶対に損しないので早くダウンロードしましょう。BoothはDLにPixivのアカウントが必要なので、なければ準備してください。
(8/31追記:本日付でふりーむからも公開されました。ふりーむ版はアカウントの登録などが不要なのでpixivアカウントの無い方はぜひこちらからプレイを!)

今回は見た目に分かりやすいネタゲーを持ってきました。nostalgiaさんの「クリーチャーと恋しよっ! ーここのえこころ―」「クリーチャーと恋しよっ!for乙女」の2作です。
どちらもタイトル通り、人外との恋愛ゲームとなっています。

(注:本作および本記事には、人外が全面に描かれたイラストおよびスクリーンショットがあります。苦手な方は閲覧注意。)













まずは、「ここのえこころ」から。
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ジャンル:人外ヒロイン系ギャルゲー
プレイ時間:45分
分岐:実質一本道(即死バッドエンドあり)
ツール:NScripter
リリース:2013/9

上のタイトル画面に大きく映っているのが本作ヒロインの九重こころちゃん(高3)です。この段階でもうすでに、本作が真面目な恋愛ゲームではないことが明らかでしょう。セーラー服を着ており一応人の形にはなっていますが、見えるのはカマキリ(?)の頭部と前脚(?)。まさにクリーチャー。本作のタイトルにふさわしいヒロイン(?)と言えるでしょう。
ちなみにそれ以外の登場人物も例外なく人外となっています。ギャルゲーには付き物の悪友ポジション、正人。彼はこころとはまた違った謎の生物ですが、学ランの下に"にんげんだもの"と書かれたシャツを着用。ここはツッコミどころか?
その他、学校の先生や主人公の妹も人型の謎生物。このこだわり様、半端じゃない!

さて、まだ主人公の話をしていませんでした。主人公の一之瀬一太郎は無気力な高校3年生。幼馴染のこころとは毎日一緒に登校するどころか朝起こしてもらう始末。正人には「夫婦かよ」とからかわれるほどだが、成績のいいこころとは違って大学進学など考えられなかった一太郎は今後の関係について消極的なままだった……

と、ここまで書くと「先週のレビュー(Brass Restoration)と同じこと言ってる!」となります。そう、本作はまさに「外見はネタゲー、シナリオはいたって王道」を体現したかのような作品になっています。その意味ではBrass Restorationよりずっと強烈でしょう。
勉強が得意なこころに教えてもらったり、女子の水泳の授業をのぞきに行ったり、ヒロインの料理下手(今回は殺人料理ではなく、キッチン破壊系です)に驚いたり。一昔前のギャルゲー感満載です。

そして本作をプレイしていてじわじわ来るのが、どう見ても人間ではない姿をしているこころに対して"色っぽい"表現が使用され、正人も一太郎もこころをまるで人間の美少女のように扱うことです。イラストから入ってくる情報は普通の人にとってはかわいらしいとかきれいとかいう感想を持つものではないのに対し、文字ではその姿に対して恋するような描写が多く、プレイヤーの脳がバグります。
最たるものは、グッドエンドラストのあのスチルでしょう。普通の恋愛ゲームなら感動すらあるであろう構図でクリーチャーと人間を描く。シナリオがいたって普通なのとの温度差で私の理解力は完全に破壊されました……


「for乙女」の方も紹介しなくてはなりませんね。
creature2

ジャンル:人外用乙女ゲーム
プレイ時間:1時間半
分岐:2ルート+ノーマル。ルートごとに3つのエンドあり
ツール:吉里吉里
リリース:2014/8

タイトル画面を見て、「今回は人間が描かれてる!」と安心したのもつかの間、本編では(主人公以外)漏れなく人外となっています。衣服と髪の色からしか判断できませんが、左から順に本作の主人公七月奈々美の友人の深優、攻略対象①界斗、攻略対象②淳也、そして右の3人は「ここのえこころ」の登場人物ですね。

本作も「ここのえこころ」のノリをそのまま乙女ゲームに持ってきたという感じになっています。見た目が明らかな化け物であるのに対し、まるでそれが自然であるように、あるいは同じ人間を見ているように接する主人公奈々美。今回は攻略対象が2人となっていますが、毎日どちらに会いに行くのかを決めてデートを重ねる王道そのものなストーリー。このミスマッチ具合に脳がバグるのを楽しむ作品といってよいでしょう。

「for乙女」では攻略対象が増えた分、途中で選択肢を選ぶ機会も多くなりますが、攻略法は簡単です。攻略したい方を毎日選ぶだけでOK。すべて同じ人(?)を選んで事件の日に彼に会いに行くとルートに入れます。ルートに入った後は1回だけ、告白を受けるかどうかの選択肢があります。当然ここで「好き」を選べばグッドエンドに行けるわけですが、「普通」「嫌い」でしか見られないスチルもあるのが凝っているところです。
しかしこれ、「普通」はまだしも「嫌い」を選ぶための心理的ハードルがすごく高かったですね……。私はフィクションの中でもあまり悲しい思いをする人が増えてほしくないなと思っているので、この状況で「嫌い」は人間の心を持っていたら選べないだろ! と他のルートを読み終わった後も本当にこれを選んでみるのか逡巡してました。淳也「嫌い」ルートと界斗「普通」ルートは意外性というかツッコミどころがあって選んでみた甲斐があったといえばあったのですが、私にはちょっと辛すぎました。ホラーゲームとかだと非常に有効な演出だと思うんですけどね。
「ここのえこころ」でも同様の選択肢があるのですが、あれは本人を前にして言う訳ではない(少なくとも一太郎はそう思っている)上に、あの状況なら勢いで「嫌い」と言ってしまうこともありえなくはないかなと思うので心理的抵抗はさほど感じなかったのですが……
私としては、ああいう場面では素直に「好きだよ」と伝えてあげたいものです。
creature3

この後のスチルがまた想定外すぎて破壊力満点なんですがね。

ちなみに「for乙女」では不良軍団の対立という状況になっており、「ここのえこころ」で抱えていた進路に関する悩みとは別の方向で解決の難しい悩みを持つ、ややシリアスよりのストーリーになっています。昔はよかったけど今はそうも言ってられねえぜ! みたいな部分のカッコよさは私にも伝わりました。界斗が部下(?)に慕われてるの良いですね。



というわけで「クリーチャーと恋しよっ!」シリーズのご紹介でした。
ネタとしては私も楽しめましたが、これに萌えを見出すのは人類には早すぎる気がします。
新たな世界への扉を開けたい人はぜひプレイしてください。

今回はHappy Bad Endさんの「私の名前を呼びなさい!」のご紹介となります。

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★favo
ジャンル:脱出アドベンチャー
プレイ時間:1時間~1時間半程度
分岐:5つ
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2021/8
備考:15推、残虐な描写あり


さて、「そしてパンになる」(R18版)以来となる年齢制限ありの作品のご紹介です。とはいっても本作において制限がある理由はエロ方面ではないです。主人公のシエラちゃんがとにかく酷い目に遭わされる。つまり暴力や残虐描写が制限の主因です。殴打や流血なんて甘い甘い。そんな感じなので、タイトルとスクリーンショットから、「俺様系彼氏とのラブコメっぽい話かな?」みたいなテンションで話を進めると痛い目に遭います。これはガチの警告なので、プレイされる方は十分な覚悟をもってStartボタンを押していただくようお願いします。
ReadMeでは15歳以上推奨となっていますが、正直15禁の「まい、ルーム」よりもずっとキツいと感じます。プレイして最初の感想が、「ノベコレってこれ掲載できるんだ…」となる程度には人を選ぶ作品です。


と、十分警告したので作品の中身のお話に移りましょう。
本作の目的は「ヤンデレマッドサイエンティストのリエルに監禁された主人公のシエラが、何とか隙をついて脱走する」と一文で説明できます。毎日12時から17時までの間が探索可能な時間です。その間に何とか必要な情報と玄関の鍵を手に入れ、脱出しなくてはなりません。この探索の緊張感を高めているのは、(入っちゃダメと言われた場所で)リエルに見つかると"お仕置き"されることでしょう。"様子を窺う"でうまくリエルとの距離を探りながら、時にはセーブ&ロードを駆使して監視の目をかいくぐらなくてはなりません。
逆に言うと、アイテム探しや謎解き自体は難しくありません。クリックポイント探しなどはないですし、マップ移動も選択肢でできます。暗証番号入力なんかがちょっとあるくらい。その分、よりリエルとのエンカウントが怖いんです。実際に誰か知らない人に監禁されたとして、出口を見つけるよりは犯人の監視をかわす方がずっと大変でしょうからね、ホラーっぽさの感じられる部分でした。

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このシステムの面を見ても、よく作りこまれているなと感じました。作者さんの公開作を見るとふりーむにもノベコレにも本作を含めて2作だけ。2作目にしてこの快適なユーザビリティーを実現したのなら、ゲーム制作においてセンスのある作者さんなのでしょう。
探索時、常時現在地が表示され、"見つかってはいけない"エリアなのかがすぐにわかるよう色分けされている、"状態"をクリックすることで現在のシエラの状態と特殊効果を確かめることができる、"考える"機能(実質ヒント機能)が利用可能で分かりやすい位置にあるなど、相当親切なつくりになっています。要望があるとしたら、マップ上ですでに入ったことのある部屋には名前がついてほしい、ということくらいでしょうか。


さて、システムを説明したところでシナリオの話に移ろうと思うのですが、今回は私の初見プレイ時に脱出成功するまでの心境を中継する形式で書きますね。重要なネタバレがある部分は文字色を透明にしていますので、読むときは反転してください。

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チュートリアル完了

(なるほど、相手はヤンデレストーカーが悪化して似た他人を誘拐監禁するに至ったのか。何としても脱出させてあげなくては)

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1日目探索中

(これやたら緊張感あるな…入っちゃいけない部屋で鉢合わせするのがすごく怖い。"周囲を窺う"で時間経過しないのありがたいな)

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2日目探索中

(よし、棚のねじ外しに成功。次は暗証番号か…まだ東の方に入ってない部屋あるし明日はそこ探索かな)

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3日目資料室探索中

(あ、この感じ、多分調査強行したらなんか物音立てちゃってバレるやつだ! どうしよう。まあでも説明見る感じやらかしても1発アウトにはならなそうだしセーブ分けたしやっちゃうか!)

バレる。お仕置き部屋へ連れていかれる

(えっっボイスあるの? パートボイスってやつかあ。 お仕置きはう~ん、首輪はめられた…。まあでもこれくらいなら耐えてくれシエラちゃん! 気丈な感じの声だし頑張れ。探索が強制的に終了になっちゃうの痛いな)

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4日目資料室探索中

(昨日ノートは手に入れといたから今日は音を出さずに調べられるな…なるほどもう少し資料が必要なのね)

物置探索中

(あ、2日目くらいに調べようとしたら後回しにしよって言われたのお仕置き部屋の入口だったのね…それはそれとしてこれで暗証番号分かったぞ!)

鍵を手に入れ玄関へ…リエルに捕まる。お仕置き2回目
watanama3
(割と早めに脱出の方法が分かった気がするが、隠れながら玄関に行くの難しいな…もしかしたら鍵入手後にまた何らかのイベントを起こさない限り玄関で鉢合わせしちゃうようになってるのか?)
(ああ、お仕置き2回目痛そう…これは…)

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5日目再度鍵を手に入れ玄関へ…捕まる

(あ、これやっぱり鍵をとって玄関直行しちゃいけないパターンかな?)
(今回のお仕置きは…跡は残らなそうだし前回よりマシ、なのか? もうここまで来たらいっそ先にバッドエンド回収しようか。お仕置きは何回目まであるんだろう)

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6日目、先にバッドエンドを見ることに。お仕置き4回目。
シエラの左腕を切断する旨を伝えられる

(ええええっ!!! 酷い!! なんで! シエラちゃん謝って!
そう、気弱になるのは分かる。もう変なことしないってア"ア"ア"ア"
まじかまじかえ~!! ちょっと待ってまじかこれ辛い うっわ
うそでしょこの展開はR18でしか見たことない…
声優さんの演技凄すぎる。なんでこんなシーンの台詞がこんなにも真に迫ってるんだ!)

(このシチュエーションは、フェチとしては私にはあまりにレベルが高すぎる…)

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7日目、【左腕の無い】立ち絵を見る

(つらい…しかも探索めちゃくちゃ不利な条件になってるし…。でもここまで来たらバッドエンドを避けるわけにはいかない。ごめんねシエラちゃん…許せ…)

お仕置き5回目

(やっぱりそうなるか……。私だったら発狂間違いなしだな…。)

ここで選択肢

(ここで分岐するのは明らかだなあ。まずはとことんバッドエンドな方を見てみるか。…………
時間を巻き戻して脱出させてあげるぜ。絶対に。)

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4日目のデータをロード。再度脱出を試みる

(よし、鍵の回収に成功。あとは廊下を通って玄関に向かうだけ)

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玄関前で待ち伏せされる。再度お仕置き2回目

(何回かタイミング測ったけど捕まるなあ。今回はまだ日数に余裕があるけどどうすれば逃げられるんだろう。あ、北側の部屋に鍵かかってて入れなかったところあったなあ。今鍵束持ってるわけだしそこで何かしらのイベントを起こせば脱出できるのかな)

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5日目、リエルの日記を読む。脱出成功

(ようやく脱出できた! 素敵な笑顔ありがとうシエラちゃん! しかし鍵を持って移動するとき見つからないか緊張したなあ。さて、エンディング回収しますか)

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はい、というわけで探索中にはホラーゲーム並みの緊張感、お仕置き中にはグロ展開への恐怖感とシエラへの憐憫を味わうことができる内容になっております。

しかしここまでの内容のみでは終わらないのが本作。エンディングのコンプリートを目指します。
上のプレイ内容で回収できたエンドは1と5の2つ。お仕置き5回目の時の選択肢でもう一つ、時間切れでもう一つ見られるだろうことは容易に推測できたのでエンド2,4に関しても難なく回収できました。

さて問題はエンド3です。いろいろ思いつくことを試してみてもなかなかたどり着けません。その過程でエンド1や2のスチルにはお仕置きの回数による差分が存在していることに気付くなど、細かい部分の整合性まで感じ取ることができました。

30分くらいは試行錯誤してもダメだったので、同梱の攻略情報を見ることに。
ああ~なるほど。その発想は一応あったけど、先に自分の部屋で調べてないとダメなのね! では回収に行きますか!

そしてエンド3を見た私はこの作品の魔力に取り付かれてしまいました。
ダントツでこのエンディングが好きですね。あの強気で希望を持っていたシエラの姿は遠い過去のものに。このダークさが私のツボにはまったようです。物理的には可哀そうなことになってないしね!

それにしても本作の声優さんがすごすぎてびっくりしました。特にエンド3とお仕置き4の演技が本当に迫力と説得力を持って本作の物語の悲惨さを伝えてきます。冒頭では気丈な態度を見せていたシエラが見る影もなくなるくらいのボイス、それと対照的に作中通してずっと気だるそうな喋りを続けるリエル。気になったのでクレジットにある声優さんの名前を検索してみると、シエラのCV担当の方は完全にエロ方面で活躍している方のようで、なんだか納得。リエル担当の方もフリーのナレーター業の方ということで、上手いのも頷けます。
(念のため繰り返しますが、本作には性交シーンなどはありませんし、それを連想させる要素もありません)

ちなみに同梱の攻略情報はめちゃくちゃ親切、逆に言えば完全に答えが載っているので、自力で頑張りたいという方は見ない方がいいかもしれません。
これによると私が1周目に脱出できなかったのは単に運が悪かっただけで、日記を読むのは脱出に無関係だった模様


とても万人に薦めるわけにはいかない本作ですが、可哀そうな目に遭う女の子にグッとくるという方にとってはドはまりするでしょう。逆にそういう状況は悲しくなっちゃうという方は大やけどする前に退散してください。


それでは。

こんにちは。今回はP.o.l.c.さんの「SAKANA」をご紹介します。

SAKANA1


ジャンル:日常の大切さに気付くノベルゲーム
プレイ時間:45分
分岐:なし
ツール:NScripter
リリース:2006/5


P.o.l.c.さんは以前から知っていて、「手紙」(NScripter版)と「星の王子さま」は読んだことがあるのですが、その他の作品は読んだことがありませんでした。最近「透明な優しさ」を読んで結構いいなと思ったので、今回の「SAKANA」もレビューで取り上げてみることにしました。


本作のストーリーを簡単にまとめましょう。
主人公の小早川誠は無気力な大学生。講義中の居眠りは当たり前。何かのサークルや部活動に所属するでもなく毎日を過ごしている。友人の愛美とザキ(岬祐一)らとくだらない話をしたりしながら代り映えのしない日々を送っていたが、ある日誠は帰宅すると不思議な喋る魚に出会う。誠にとっては面白みのない日常でも、魚にとっては人間の世界は新たな発見にあふれていることに気付いていく…
といった感じです。一つのファンタジーな出会いによって、日常のありがたみなどを自覚していくというのは「手紙」にも共通するテーマという感じがします。


さて、「最初から始める」で読み始めると、まず冒頭に意味深なプロローグがあります。真っ暗な中で道を探している…といった感じです。昔の作品だとこのように謎めいた導入がある作品って多いですよね(本作は2006年公開なので16年前です)。そうした作品の中には最後まで読んでも、結局何を表現しているのか分からなかった、というものも多いでしょう。
本作に関してはその意味が読んでいる途中で分かるのが良かったですね。そしてこの場面のBGMがめちゃくちゃ聞き覚えのある「southern cross」で個人的に好きでした。


そんなプロローグが終わると、誠、愛美、ザキの日常の大学生活が始まります。講義中はいつも寝ている誠。ザキとくだらない下ネタを言ったりもしています。このような描写だけだとかったるいなと感じそうな展開ですが(本作に関してはギャグセンスは私には合わなかった。あと、時事ネタがだいぶ時代を感じさせる)、愛美の存在がまた物語に一つコントラストを与える役割を果たしてくれた気がします。別に恋人関係だとか、告白されるみたいな劇的なイベントがあるわけではありません。くだらないことを言い合っている日常の中で、ちょっとだけ真面目な会話があると際立ちますね。冒頭の意味深なシーンと合わせて、これから何か不思議なことが起こるんだろうなと予感させてくれます。

SAKANA2

この"予感"みたいなものって物語を楽しむうえで大切な要素の一つであるように思います。以前Twitterで、「最後のどんでん返しでプレイヤーを驚かせることはできるがそれは一瞬だ。どんでん返しが起こるであろうという期待と予感を長い間抱かせると物語全体の楽しさが上がる」といった趣旨のツイートを見たことがあります。私もこれには同感で、さらに衝撃的な展開にも限らない話でないかと感じるのです。主人公の苦悩も、その先に救われる展開があることを期待できるから読者を引っ張る力になる。不可思議なシーンも、先を読み進めていくことですっきり解決されることを望むから物語にのめりこむ。不思議なシーンがあるだけでは、意味わかんねーよ、と次第に心が離れていってしまうことがあると思いますが本作においては、その期待にしっかり応えてくれた感じがして良かったです。短編であるのに比して余韻が長く続いたのは、この点が大きいかもしれません。


そんな予感を経て誠は魚に出会います。真っ暗な世界で喋る魚と二人だけになった誠。彼を"さかな"と名付け交流し、そして現実に戻ってきた誠。帰ってくると、なんと誠の体はさかなの意識によって動くようになっていました。
さかなのたっての希望で翌日そのまま大学に行くことにした誠。とうぜんさかなにとっては知らないことばかり。愛美やザキとの会話も、中身が別人(別魚?)なことがバレないかどうかひやひや。そんな中で受けた大学の講義で、さかなは"歴史を作ること"について学びを得ます。休み時間に誠と話すさかな。今まで講義をぼんやり受けていた誠も、大学に入った当初の志を思い起こすわけです。
2限目の講義には愛美もいます。真面目に講義を受けている誠(さかな)を見て、愛美もなんだか違うなと気付きます。講義の内容も受けてのその後の誠、愛美、ザキの会話などは、現実世界を生きるプレイヤーにも気づきを与えてくれるでしょう。

最後のまとめ方も期待通りの綺麗さで満足でした。こういう作品に奇抜さとかびっくりとかはいらないですね。若干説教臭く感じて苦手な人はいるでしょうが、私はこの愛美との関係性なども交えた結論は好きだなと感じました。読んだ人それぞれで違うメッセージを受け取ることができるような内容ではないでしょうか。立ち絵などもなくエンターテインメント性は低めの本作ですが、読み終わって明日を生きていくための活力をくれるような、そんな作品だと思います。

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