フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
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1時間前後

今回は見た目に分かりやすいネタゲーを持ってきました。nostalgiaさんの「クリーチャーと恋しよっ! ーここのえこころ―」「クリーチャーと恋しよっ!for乙女」の2作です。
どちらもタイトル通り、人外との恋愛ゲームとなっています。

(注:本作および本記事には、人外が全面に描かれたイラストおよびスクリーンショットがあります。苦手な方は閲覧注意。)













まずは、「ここのえこころ」から。
creature1

ジャンル:人外ヒロイン系ギャルゲー
プレイ時間:45分
分岐:実質一本道(即死バッドエンドあり)
ツール:NScripter
リリース:2013/9

上のタイトル画面に大きく映っているのが本作ヒロインの九重こころちゃん(高3)です。この段階でもうすでに、本作が真面目な恋愛ゲームではないことが明らかでしょう。セーラー服を着ており一応人の形にはなっていますが、見えるのはカマキリ(?)の頭部と前脚(?)。まさにクリーチャー。本作のタイトルにふさわしいヒロイン(?)と言えるでしょう。
ちなみにそれ以外の登場人物も例外なく人外となっています。ギャルゲーには付き物の悪友ポジション、正人。彼はこころとはまた違った謎の生物ですが、学ランの下に"にんげんだもの"と書かれたシャツを着用。ここはツッコミどころか?
その他、学校の先生や主人公の妹も人型の謎生物。このこだわり様、半端じゃない!

さて、まだ主人公の話をしていませんでした。主人公の一之瀬一太郎は無気力な高校3年生。幼馴染のこころとは毎日一緒に登校するどころか朝起こしてもらう始末。正人には「夫婦かよ」とからかわれるほどだが、成績のいいこころとは違って大学進学など考えられなかった一太郎は今後の関係について消極的なままだった……

と、ここまで書くと「先週のレビュー(Brass Restoration)と同じこと言ってる!」となります。そう、本作はまさに「外見はネタゲー、シナリオはいたって王道」を体現したかのような作品になっています。その意味ではBrass Restorationよりずっと強烈でしょう。
勉強が得意なこころに教えてもらったり、女子の水泳の授業をのぞきに行ったり、ヒロインの料理下手(今回は殺人料理ではなく、キッチン破壊系です)に驚いたり。一昔前のギャルゲー感満載です。

そして本作をプレイしていてじわじわ来るのが、どう見ても人間ではない姿をしているこころに対して"色っぽい"表現が使用され、正人も一太郎もこころをまるで人間の美少女のように扱うことです。イラストから入ってくる情報は普通の人にとってはかわいらしいとかきれいとかいう感想を持つものではないのに対し、文字ではその姿に対して恋するような描写が多く、プレイヤーの脳がバグります。
最たるものは、グッドエンドラストのあのスチルでしょう。普通の恋愛ゲームなら感動すらあるであろう構図でクリーチャーと人間を描く。シナリオがいたって普通なのとの温度差で私の理解力は完全に破壊されました……


「for乙女」の方も紹介しなくてはなりませんね。
creature2

ジャンル:人外用乙女ゲーム
プレイ時間:1時間半
分岐:2ルート+ノーマル。ルートごとに3つのエンドあり
ツール:吉里吉里
リリース:2014/8

タイトル画面を見て、「今回は人間が描かれてる!」と安心したのもつかの間、本編では(主人公以外)漏れなく人外となっています。衣服と髪の色からしか判断できませんが、左から順に本作の主人公七月奈々美の友人の深優、攻略対象①界斗、攻略対象②淳也、そして右の3人は「ここのえこころ」の登場人物ですね。

本作も「ここのえこころ」のノリをそのまま乙女ゲームに持ってきたという感じになっています。見た目が明らかな化け物であるのに対し、まるでそれが自然であるように、あるいは同じ人間を見ているように接する主人公奈々美。今回は攻略対象が2人となっていますが、毎日どちらに会いに行くのかを決めてデートを重ねる王道そのものなストーリー。このミスマッチ具合に脳がバグるのを楽しむ作品といってよいでしょう。

「for乙女」では攻略対象が増えた分、途中で選択肢を選ぶ機会も多くなりますが、攻略法は簡単です。攻略したい方を毎日選ぶだけでOK。すべて同じ人(?)を選んで事件の日に彼に会いに行くとルートに入れます。ルートに入った後は1回だけ、告白を受けるかどうかの選択肢があります。当然ここで「好き」を選べばグッドエンドに行けるわけですが、「普通」「嫌い」でしか見られないスチルもあるのが凝っているところです。
しかしこれ、「普通」はまだしも「嫌い」を選ぶための心理的ハードルがすごく高かったですね……。私はフィクションの中でもあまり悲しい思いをする人が増えてほしくないなと思っているので、この状況で「嫌い」は人間の心を持っていたら選べないだろ! と他のルートを読み終わった後も本当にこれを選んでみるのか逡巡してました。淳也「嫌い」ルートと界斗「普通」ルートは意外性というかツッコミどころがあって選んでみた甲斐があったといえばあったのですが、私にはちょっと辛すぎました。ホラーゲームとかだと非常に有効な演出だと思うんですけどね。
「ここのえこころ」でも同様の選択肢があるのですが、あれは本人を前にして言う訳ではない(少なくとも一太郎はそう思っている)上に、あの状況なら勢いで「嫌い」と言ってしまうこともありえなくはないかなと思うので心理的抵抗はさほど感じなかったのですが……
私としては、ああいう場面では素直に「好きだよ」と伝えてあげたいものです。
creature3

この後のスチルがまた想定外すぎて破壊力満点なんですがね。

ちなみに「for乙女」では不良軍団の対立という状況になっており、「ここのえこころ」で抱えていた進路に関する悩みとは別の方向で解決の難しい悩みを持つ、ややシリアスよりのストーリーになっています。昔はよかったけど今はそうも言ってられねえぜ! みたいな部分のカッコよさは私にも伝わりました。界斗が部下(?)に慕われてるの良いですね。



というわけで「クリーチャーと恋しよっ!」シリーズのご紹介でした。
ネタとしては私も楽しめましたが、これに萌えを見出すのは人類には早すぎる気がします。
新たな世界への扉を開けたい人はぜひプレイしてください。

今回はHappy Bad Endさんの「私の名前を呼びなさい!」のご紹介となります。

watanama1

★favo
ジャンル:脱出アドベンチャー
プレイ時間:1時間~1時間半程度
分岐:5つ
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2021/8
備考:15推、残虐な描写あり


さて、「そしてパンになる」(R18版)以来となる年齢制限ありの作品のご紹介です。とはいっても本作において制限がある理由はエロ方面ではないです。主人公のシエラちゃんがとにかく酷い目に遭わされる。つまり暴力や残虐描写が制限の主因です。殴打や流血なんて甘い甘い。そんな感じなので、タイトルとスクリーンショットから、「俺様系彼氏とのラブコメっぽい話かな?」みたいなテンションで話を進めると痛い目に遭います。これはガチの警告なので、プレイされる方は十分な覚悟をもってStartボタンを押していただくようお願いします。
ReadMeでは15歳以上推奨となっていますが、正直15禁の「まい、ルーム」よりもずっとキツいと感じます。プレイして最初の感想が、「ノベコレってこれ掲載できるんだ…」となる程度には人を選ぶ作品です。


と、十分警告したので作品の中身のお話に移りましょう。
本作の目的は「ヤンデレマッドサイエンティストのリエルに監禁された主人公のシエラが、何とか隙をついて脱走する」と一文で説明できます。毎日12時から17時までの間が探索可能な時間です。その間に何とか必要な情報と玄関の鍵を手に入れ、脱出しなくてはなりません。この探索の緊張感を高めているのは、(入っちゃダメと言われた場所で)リエルに見つかると"お仕置き"されることでしょう。"様子を窺う"でうまくリエルとの距離を探りながら、時にはセーブ&ロードを駆使して監視の目をかいくぐらなくてはなりません。
逆に言うと、アイテム探しや謎解き自体は難しくありません。クリックポイント探しなどはないですし、マップ移動も選択肢でできます。暗証番号入力なんかがちょっとあるくらい。その分、よりリエルとのエンカウントが怖いんです。実際に誰か知らない人に監禁されたとして、出口を見つけるよりは犯人の監視をかわす方がずっと大変でしょうからね、ホラーっぽさの感じられる部分でした。

watanama2

このシステムの面を見ても、よく作りこまれているなと感じました。作者さんの公開作を見るとふりーむにもノベコレにも本作を含めて2作だけ。2作目にしてこの快適なユーザビリティーを実現したのなら、ゲーム制作においてセンスのある作者さんなのでしょう。
探索時、常時現在地が表示され、"見つかってはいけない"エリアなのかがすぐにわかるよう色分けされている、"状態"をクリックすることで現在のシエラの状態と特殊効果を確かめることができる、"考える"機能(実質ヒント機能)が利用可能で分かりやすい位置にあるなど、相当親切なつくりになっています。要望があるとしたら、マップ上ですでに入ったことのある部屋には名前がついてほしい、ということくらいでしょうか。


さて、システムを説明したところでシナリオの話に移ろうと思うのですが、今回は私の初見プレイ時に脱出成功するまでの心境を中継する形式で書きますね。重要なネタバレがある部分は文字色を透明にしていますので、読むときは反転してください。

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チュートリアル完了

(なるほど、相手はヤンデレストーカーが悪化して似た他人を誘拐監禁するに至ったのか。何としても脱出させてあげなくては)

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1日目探索中

(これやたら緊張感あるな…入っちゃいけない部屋で鉢合わせするのがすごく怖い。"周囲を窺う"で時間経過しないのありがたいな)

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2日目探索中

(よし、棚のねじ外しに成功。次は暗証番号か…まだ東の方に入ってない部屋あるし明日はそこ探索かな)

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3日目資料室探索中

(あ、この感じ、多分調査強行したらなんか物音立てちゃってバレるやつだ! どうしよう。まあでも説明見る感じやらかしても1発アウトにはならなそうだしセーブ分けたしやっちゃうか!)

バレる。お仕置き部屋へ連れていかれる

(えっっボイスあるの? パートボイスってやつかあ。 お仕置きはう~ん、首輪はめられた…。まあでもこれくらいなら耐えてくれシエラちゃん! 気丈な感じの声だし頑張れ。探索が強制的に終了になっちゃうの痛いな)

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4日目資料室探索中

(昨日ノートは手に入れといたから今日は音を出さずに調べられるな…なるほどもう少し資料が必要なのね)

物置探索中

(あ、2日目くらいに調べようとしたら後回しにしよって言われたのお仕置き部屋の入口だったのね…それはそれとしてこれで暗証番号分かったぞ!)

鍵を手に入れ玄関へ…リエルに捕まる。お仕置き2回目
watanama3
(割と早めに脱出の方法が分かった気がするが、隠れながら玄関に行くの難しいな…もしかしたら鍵入手後にまた何らかのイベントを起こさない限り玄関で鉢合わせしちゃうようになってるのか?)
(ああ、お仕置き2回目痛そう…これは…)

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5日目再度鍵を手に入れ玄関へ…捕まる

(あ、これやっぱり鍵をとって玄関直行しちゃいけないパターンかな?)
(今回のお仕置きは…跡は残らなそうだし前回よりマシ、なのか? もうここまで来たらいっそ先にバッドエンド回収しようか。お仕置きは何回目まであるんだろう)

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6日目、先にバッドエンドを見ることに。お仕置き4回目。
シエラの左腕を切断する旨を伝えられる

(ええええっ!!! 酷い!! なんで! シエラちゃん謝って!
そう、気弱になるのは分かる。もう変なことしないってア"ア"ア"ア"
まじかまじかえ~!! ちょっと待ってまじかこれ辛い うっわ
うそでしょこの展開はR18でしか見たことない…
声優さんの演技凄すぎる。なんでこんなシーンの台詞がこんなにも真に迫ってるんだ!)

(このシチュエーションは、フェチとしては私にはあまりにレベルが高すぎる…)

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7日目、【左腕の無い】立ち絵を見る

(つらい…しかも探索めちゃくちゃ不利な条件になってるし…。でもここまで来たらバッドエンドを避けるわけにはいかない。ごめんねシエラちゃん…許せ…)

お仕置き5回目

(やっぱりそうなるか……。私だったら発狂間違いなしだな…。)

ここで選択肢

(ここで分岐するのは明らかだなあ。まずはとことんバッドエンドな方を見てみるか。…………
時間を巻き戻して脱出させてあげるぜ。絶対に。)

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4日目のデータをロード。再度脱出を試みる

(よし、鍵の回収に成功。あとは廊下を通って玄関に向かうだけ)

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玄関前で待ち伏せされる。再度お仕置き2回目

(何回かタイミング測ったけど捕まるなあ。今回はまだ日数に余裕があるけどどうすれば逃げられるんだろう。あ、北側の部屋に鍵かかってて入れなかったところあったなあ。今鍵束持ってるわけだしそこで何かしらのイベントを起こせば脱出できるのかな)

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5日目、リエルの日記を読む。脱出成功

(ようやく脱出できた! 素敵な笑顔ありがとうシエラちゃん! しかし鍵を持って移動するとき見つからないか緊張したなあ。さて、エンディング回収しますか)

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はい、というわけで探索中にはホラーゲーム並みの緊張感、お仕置き中にはグロ展開への恐怖感とシエラへの憐憫を味わうことができる内容になっております。

しかしここまでの内容のみでは終わらないのが本作。エンディングのコンプリートを目指します。
上のプレイ内容で回収できたエンドは1と5の2つ。お仕置き5回目の時の選択肢でもう一つ、時間切れでもう一つ見られるだろうことは容易に推測できたのでエンド2,4に関しても難なく回収できました。

さて問題はエンド3です。いろいろ思いつくことを試してみてもなかなかたどり着けません。その過程でエンド1や2のスチルにはお仕置きの回数による差分が存在していることに気付くなど、細かい部分の整合性まで感じ取ることができました。

30分くらいは試行錯誤してもダメだったので、同梱の攻略情報を見ることに。
ああ~なるほど。その発想は一応あったけど、先に自分の部屋で調べてないとダメなのね! では回収に行きますか!

そしてエンド3を見た私はこの作品の魔力に取り付かれてしまいました。
ダントツでこのエンディングが好きですね。あの強気で希望を持っていたシエラの姿は遠い過去のものに。このダークさが私のツボにはまったようです。物理的には可哀そうなことになってないしね!

それにしても本作の声優さんがすごすぎてびっくりしました。特にエンド3とお仕置き4の演技が本当に迫力と説得力を持って本作の物語の悲惨さを伝えてきます。冒頭では気丈な態度を見せていたシエラが見る影もなくなるくらいのボイス、それと対照的に作中通してずっと気だるそうな喋りを続けるリエル。気になったのでクレジットにある声優さんの名前を検索してみると、シエラのCV担当の方は完全にエロ方面で活躍している方のようで、なんだか納得。リエル担当の方もフリーのナレーター業の方ということで、上手いのも頷けます。
(念のため繰り返しますが、本作には性交シーンなどはありませんし、それを連想させる要素もありません)

ちなみに同梱の攻略情報はめちゃくちゃ親切、逆に言えば完全に答えが載っているので、自力で頑張りたいという方は見ない方がいいかもしれません。
これによると私が1周目に脱出できなかったのは単に運が悪かっただけで、日記を読むのは脱出に無関係だった模様


とても万人に薦めるわけにはいかない本作ですが、可哀そうな目に遭う女の子にグッとくるという方にとってはドはまりするでしょう。逆にそういう状況は悲しくなっちゃうという方は大やけどする前に退散してください。


それでは。

こんにちは。今回はP.o.l.c.さんの「SAKANA」をご紹介します。

SAKANA1


ジャンル:日常の大切さに気付くノベルゲーム
プレイ時間:45分
分岐:なし
ツール:NScripter
リリース:2006/5


P.o.l.c.さんは以前から知っていて、「手紙」(NScripter版)と「星の王子さま」は読んだことがあるのですが、その他の作品は読んだことがありませんでした。最近「透明な優しさ」を読んで結構いいなと思ったので、今回の「SAKANA」もレビューで取り上げてみることにしました。


本作のストーリーを簡単にまとめましょう。
主人公の小早川誠は無気力な大学生。講義中の居眠りは当たり前。何かのサークルや部活動に所属するでもなく毎日を過ごしている。友人の愛美とザキ(岬祐一)らとくだらない話をしたりしながら代り映えのしない日々を送っていたが、ある日誠は帰宅すると不思議な喋る魚に出会う。誠にとっては面白みのない日常でも、魚にとっては人間の世界は新たな発見にあふれていることに気付いていく…
といった感じです。一つのファンタジーな出会いによって、日常のありがたみなどを自覚していくというのは「手紙」にも共通するテーマという感じがします。


さて、「最初から始める」で読み始めると、まず冒頭に意味深なプロローグがあります。真っ暗な中で道を探している…といった感じです。昔の作品だとこのように謎めいた導入がある作品って多いですよね(本作は2006年公開なので16年前です)。そうした作品の中には最後まで読んでも、結局何を表現しているのか分からなかった、というものも多いでしょう。
本作に関してはその意味が読んでいる途中で分かるのが良かったですね。そしてこの場面のBGMがめちゃくちゃ聞き覚えのある「southern cross」で個人的に好きでした。


そんなプロローグが終わると、誠、愛美、ザキの日常の大学生活が始まります。講義中はいつも寝ている誠。ザキとくだらない下ネタを言ったりもしています。このような描写だけだとかったるいなと感じそうな展開ですが(本作に関してはギャグセンスは私には合わなかった。あと、時事ネタがだいぶ時代を感じさせる)、愛美の存在がまた物語に一つコントラストを与える役割を果たしてくれた気がします。別に恋人関係だとか、告白されるみたいな劇的なイベントがあるわけではありません。くだらないことを言い合っている日常の中で、ちょっとだけ真面目な会話があると際立ちますね。冒頭の意味深なシーンと合わせて、これから何か不思議なことが起こるんだろうなと予感させてくれます。

SAKANA2

この"予感"みたいなものって物語を楽しむうえで大切な要素の一つであるように思います。以前Twitterで、「最後のどんでん返しでプレイヤーを驚かせることはできるがそれは一瞬だ。どんでん返しが起こるであろうという期待と予感を長い間抱かせると物語全体の楽しさが上がる」といった趣旨のツイートを見たことがあります。私もこれには同感で、さらに衝撃的な展開にも限らない話でないかと感じるのです。主人公の苦悩も、その先に救われる展開があることを期待できるから読者を引っ張る力になる。不可思議なシーンも、先を読み進めていくことですっきり解決されることを望むから物語にのめりこむ。不思議なシーンがあるだけでは、意味わかんねーよ、と次第に心が離れていってしまうことがあると思いますが本作においては、その期待にしっかり応えてくれた感じがして良かったです。短編であるのに比して余韻が長く続いたのは、この点が大きいかもしれません。


そんな予感を経て誠は魚に出会います。真っ暗な世界で喋る魚と二人だけになった誠。彼を"さかな"と名付け交流し、そして現実に戻ってきた誠。帰ってくると、なんと誠の体はさかなの意識によって動くようになっていました。
さかなのたっての希望で翌日そのまま大学に行くことにした誠。とうぜんさかなにとっては知らないことばかり。愛美やザキとの会話も、中身が別人(別魚?)なことがバレないかどうかひやひや。そんな中で受けた大学の講義で、さかなは"歴史を作ること"について学びを得ます。休み時間に誠と話すさかな。今まで講義をぼんやり受けていた誠も、大学に入った当初の志を思い起こすわけです。
2限目の講義には愛美もいます。真面目に講義を受けている誠(さかな)を見て、愛美もなんだか違うなと気付きます。講義の内容も受けてのその後の誠、愛美、ザキの会話などは、現実世界を生きるプレイヤーにも気づきを与えてくれるでしょう。

最後のまとめ方も期待通りの綺麗さで満足でした。こういう作品に奇抜さとかびっくりとかはいらないですね。若干説教臭く感じて苦手な人はいるでしょうが、私はこの愛美との関係性なども交えた結論は好きだなと感じました。読んだ人それぞれで違うメッセージを受け取ることができるような内容ではないでしょうか。立ち絵などもなくエンターテインメント性は低めの本作ですが、読み終わって明日を生きていくための活力をくれるような、そんな作品だと思います。

こんにちは。今回は★Blue Cometさんの「クロノスの箱庭」のご紹介です。

chronus1

ジャンル:ループ系学園ものノベルゲーム
プレイ時間:1時間/すべてのルートを読むと1時間半くらい
分岐:細かな分岐は多数。エンディングは2つ
ツール:NScripter
リリース:2022/2


今回もなかなか面白い作品を見つけました。いつも通り、本作のあらすじを最初にご紹介します。

猪苗代朝日は石郷岡高校の1年生で生徒会の会計担当。友人の小暮日奈太や生徒会の先輩たちと楽しく過ごしていたが、生徒総会を間近に控えた10月18日、日奈太が校舎から転落して死んでしまう事故に遭遇する。ショックを受ける朝日だが、翌日起きたらなんと事故の日が繰り返していた! どうにかして日奈太を生き残らせようとする朝日。何か知っている風な生徒会の会長。彼らが笑って10月19日を迎えることはできるのか…

といったところでしょう。というわけで今回はループものです。かなり久々に出会った気がします。
この手の作品では、ループという通常あり得ない現象がテーマになっているので、当然ながらその理由や解決方法に焦点が当たります。詳細は後述しますが、本作はこの点でもよくできていたように感じました。

さて、朝日はある夜日奈太が死んでいるのを目撃する嫌な夢を見るシーンが冒頭にあるのですが、本作はその暗さを感じさせないような明るさやスピード感といったものにあふれています。これを可能にしているのは、日奈太のあまりにも一直線で友達想いな性格付けが第一でしょう。朝日は石郷岡には高校から入学していますが、幼稚舎から存在し多くの児童・生徒がエスカレーター式に進学する石郷岡では、先輩・後輩の垣根を感じさせないほど生徒同士の距離感が近いのです。逆に朝日にしてみれば、いつもくっついてきたり、生徒会長を"お花ちゃん"とあだ名で呼ぶ日奈太の言動を馴れ馴れしくて不遜と感じたりするわけです。このような、ちょっとクールな主人公とべったりくっついてくる頭が弱い系(?)の友人という組み合わせはよく見ますが、それに至った背景などに筋が通っていて本作はよいですね。ちなみに日奈太は一見バカっぽいですが、勉強はできるようでとくに理系科目が得意のようですね。この辺はおまけショートストーリーでも楽しめるのでぜひ読んでみてください。

chronus2

もう一つ、優れた演出という面も見逃せません。本作はNScripterを使った作品です。NScripterと言えばシンプルに必要最低限のシステムを備えたソフトという印象が大きいですが、本作はかなり演出に力が入っています。立ち絵が左右にも上下にもよく動いたり、ロード時の画面が設定されていたり、雨が降っているシーンの背景がアニメーションしていたり、人物の初登場時にカットインが入って自然に紹介していたり、といった工夫によって、とても読みやすく物語にも入り込みやすくなっているように感じます。重要なのは、この演出がやりすぎているのではなく、動作が重くならず、またしつこくならない範囲でしっかり要所で効いているというところです。日奈太が朝日を引っ張って連れていくシーンで立ち絵もビューンと引っ張られているのを見ると、文章とイラストの両面からそのシーンが頭に入ってくるのですらすらと読み進めやすいのです。


そして重要なシナリオです。本作ではループに至ってしまう条件は日奈太の死亡です。ショッキングな出来事であり、それによって普段は感情をあまり表に出さないタイプの朝日が動揺したり、様々な対策を尽くしても死んでしまうことにあきらめモードになったり、でも先輩や日奈太本人との交流から何とか解決の糸口を見つけようとするのがよくできていたように思います。ややネタバレになりますが、本作のループには、生徒会の"呪い"が関わっています。代々続いてきたこの呪いについて、先輩方が朝日たちよりも情報を持っているというのは自然ですし、過去の事例も明らかになっていくにつれ、徐々に呪いの核心に迫っていく感覚が得られました。多くの登場人物がいる本作ですが、その各人が呪い解決に向けた役割を果たし、朝日と日奈太を救おうとするのは見ていて気持ちよくさえあります。

ところで、この登場人物が多いという点は同時に気になった点でもあります。物語冒頭で朝日と日奈太の2人、その後すぐに会長の緒花、副会長のはじめと計4人が登場。通常なら一度に出てくるのはこのくらいの人数までかなと思いますが、本作ではさらにその後また立て続けに生徒会メンバー5人が登場。流石にこの人数になると覚えられません。例えば、サッカー部と野球部があって…みたいに大まかに属性を分けられると覚えやすいのかなという気はしますが、本作では全員生徒会所属。生徒会の会議ということで大人数が集まるというのは分かるのですが、ここでちょっとついていけないなあと感じてしまいました。
とはいえおそらく作者さんも気にしたのか、人物初登場時には名前、立ち絵、役職や学年の記載のあるカットインが入ります。この演出も軽快で大変気持ちよく、覚えやすくするための工夫だなあとは思いましたが、それでも開始5分以内に9人も登場するのは無茶と感じました。本作のテンポの良さもこの点については災いしているでしょう。

最終的に立ち絵のあるメインの人物は12人にも及びます。これは1時間程度の短編ということをのぞいて考えてもかなり多い部類に入るでしょう。この人数それぞれに活躍の場を与えるのは相当大変だと思うのですが、本作はそれをやり遂げているのも評価したいです。エンディングは2種類ですが、途中の選択肢は多数ある本作、選択次第で同じ結果に向かってはいるが呪いへのアプローチが変わったり、話を聞いてくれる先輩が変わったりなど、周回プレイを楽しみながらキャラクターの魅力に気付いていくことができるでしょう。スキップも軽快でUIもきれいなので、ぜひ全部のルートを巡ってみてください。
学年ごとのつながり、生徒会内の役職での繋がり、石郷岡に入った時期などがだんだん把握できてくると、彼らの個性が感じられて素晴らしいなと感じてきます。エンディング到達後に見ることができるおまけシナリオでは各キャラクターにフォーカスしたコメディ調のショートストーリーが見られます。相当に作りこまれていますよ。私は由香と安純の話が好きです。
ちなみにおまけのキャラクター紹介では、立ち絵をクリックすると短い台詞が出てきます。人物ごとに3種類あるようなのでいろいろクリックしてみるといいでしょう。

細かいですがもう一つ気になったのは、いわゆる心の声が区別しづらいという点です。
本作は地の文がなく、すべてが台詞か心の声で進行します。声に出した時とそうでないときでは一応吹き出しの角が丸くなったりといった違いはあるのですが、台詞にかぎかっこがついているわけではないのでちょっとわかりにくい。このせいで、緒花に心の声を読まれた!みたいな表現が分かりにくい(というかその後で今のは声に出してなかったんだと気づくことも何度も…)という状態です。吹き出しの背景色を暗めにするとかの方が分かりやすいかな。


というわけで今回は「クロノスの箱庭」でした。1時間程度で密度の高い満足感が得られると思いますよ。

こんにちは。今回はくまのこ道さんの「いちばん星の願いごと」をご紹介します。


1star

★favo
ジャンル:アイドルが路線変更を目指して特訓する短編ノベルゲーム
プレイ時間:1周10~15分/フルコンプまで1時間半程度
分岐:エンディング12種
ツール:LiveMaker
リリース:2015/5
備考:ミニゲームあり


いい作品を見つけました。いつも通り本作のオープニングの流れをご紹介します。
主人公の綺羅星ピピカ(名前変更可)は今を時めくスーパーアイドル。子役時代から築き上げたおバカ系キャラが広く受け入れられ、ライブをやれば常に熱狂。しかしそんな路線でずっと押していくのも何か違うと思い始めたピピカ。マネージャーに相談してみるも、キャラ変更は厳しいぞと言われてしまう。
しかし翌日、子役時代からすっかり路線変更しファッションモデルとなったIORIを見て、努力して自分を変えることを誓うのだった。


さて、本作は主人公が現役アイドルです。芸能界が出てくる作品というと、「気になるあの子は声優さんを目指しています♪」(主人公は同級生)や「CHANGE!!」(主人公がマネージャー)などが思い浮かびますが、アイドル本人が主人公な作品は本作が初めてだったかもしれません。しかも売れないアイドルではなく、スターアイドルです。しかしそんな彼女にも悩みはあって、売り出しているキャラと実際の自分との乖離を感じているというのです。私は全く芸能界について知りませんが、最初のマネージャーさんとの会話とかを見る感じでも大変そうだなと感じました。

1star2

そんなピピカは「おんがく」「ファッション」「早口言葉」の3つの修業をしていくことになります。ここがミニゲーム要素になっており、変化があって面白いところでしたね。
簡単に言うと「おんがく」は記憶ゲーム、「ファッション」はクイズ、「早口言葉」は間違い探しです。いずれも初見で全問正解は少し難しいかなくらいの難易度です。私は早口言葉が苦手でした…。
この修行を一度行ったらイベントパートがあり、再度修行、というのを3回行ってエンディングに行きます。エンディングが12個もあってめちゃくちゃ多いので、うまく何の修業を行うかを選択してエンディングを回収しましょう。私は初回プレイ時訳も分からずそれぞれ1回ずつ修行したら、何も極められなかったノーマルエンドみたいなのに行きました。

このミニゲームを含めてですが、本作はエンディング回収や周回プレイにすごく親切なつくりになっているのが好印象なポイントの一つです。何でもいいから1つエンディングを見た後は、難易度調整が解放され、制限時間をなくしたり動きをゆっくりにしたりできます。問題は毎回同じなので、最悪覚えてしまうという攻略も取れます。そうして1度でもある項目を極めると、次回以降同じ修行をしたときに"前世の感覚を利用"することができるようになり、ミニゲームをスキップしてステータスを上げることができるようになります。言葉の選び方のセンスも面白いですね。

修行が終わるとイベントパートです。その日に何の修業をしたか、その出来栄えはどうだったかで違ったシーンになるため、1周15分程度のプレイ時間に比して相当多い展開が広がっています。それを3回行った後のエンディングでは、それまでのフラグを活かすような展開が多くすごく気持ちいいですね。

エンディングでは様々な展開がありますが、私が好きなのはやっぱりEND01でしょう。このエンディングではおんがく修行の成果に加え、ほんのりと恋愛要素が絡んできます。運転手の牧野さんですね。この展開では音楽を極めているので、ライブ用の歌を書きます。そしてなんと動機ごとに作詞ができます。まあ本当に自由に作詞できるわけではなく、選択肢から選ぶだけですがこれは効果抜群でした。そうして完成した歌は、作内でボーカロイドが歌ってくれます。なるほどこうした使い方があるのかとびっくりです。私はボーカロイドはあまり好きではないのですが、本作の使い方にはうならされました。演出として有効にはたらいていると思います。

他の展開でも、なるほどと思わせる方向で特訓の成果を生かしてくれます。笑いのネタが含まれていることもしばしば。
1star3
私が不意を突かれたのはこちら。"チョイ悪ポッチャリ系ダンスユニット『XL』"は完全に狙ってるでしょ。ファンになります。
この人物も一発ネタ用ではなく、きちんとピピカの成長に寄与してくれますし、絡ませ方が上手いんですよ。

こんな感じでいろいろな展開があるので、ぜひコンプリートまでやってみてください。私はEND02,03が見つからないな~と思って探していました。どうやら作詞の時の遊び心が足りなかったみたいです。

そしてもう一つ驚いたことに、本作の作者さんは音楽素材サイトを運営されているんですね。本作のBGMもサイト上で公開している素材を使っているようでなるほどといった感じです。素材サイトはそこそこ知っているつもりですが、音楽素材とフリーゲームを同時にたくさん公開されている方がいるのは知らなかった……。


という感じで私をいろいろな意味で驚かせてくれた作品でした。欲を言うとEND01の歌がもう少し尺が欲しい(贅沢ですみません)。現状、主題が1度だけ登場して終わりって感じでちょっと寂しいので…
しかし本作がいい作品だったという感想は変わりませんので、ぜひ皆さんもプレイしてみてください。私は本作の印象が強くて、職場で危うく≪きらんほー☆≫とかいう独り言が出そうになってしまいました(爆)
ちなみにタイトル画面右下の鍵のアイコンからおまけへ進めますのでそちらもお忘れなく!

いつも以上にとっちらかった内容な気がしますが、今回はここまでです。それでは。

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