フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
初めての方は、ぜひごあいさつをご覧ください。評価の基準については、レビューについてに記してあります。
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1時間前後

こんにちは。今回は★Blue Cometさんの「クロノスの箱庭」のご紹介です。

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ジャンル:ループ系学園ものノベルゲーム
プレイ時間:1時間/すべてのルートを読むと1時間半くらい
分岐:細かな分岐は多数。エンディングは2つ
ツール:NScripter
リリース:2022/2


今回もなかなか面白い作品を見つけました。いつも通り、本作のあらすじを最初にご紹介します。

猪苗代朝日は石郷岡高校の1年生で生徒会の会計担当。友人の小暮日奈太や生徒会の先輩たちと楽しく過ごしていたが、生徒総会を間近に控えた10月18日、日奈太が校舎から転落して死んでしまう事故に遭遇する。ショックを受ける朝日だが、翌日起きたらなんと事故の日が繰り返していた! どうにかして日奈太を生き残らせようとする朝日。何か知っている風な生徒会の会長。彼らが笑って10月19日を迎えることはできるのか…

といったところでしょう。というわけで今回はループものです。かなり久々に出会った気がします。
この手の作品では、ループという通常あり得ない現象がテーマになっているので、当然ながらその理由や解決方法に焦点が当たります。詳細は後述しますが、本作はこの点でもよくできていたように感じました。

さて、朝日はある夜日奈太が死んでいるのを目撃する嫌な夢を見るシーンが冒頭にあるのですが、本作はその暗さを感じさせないような明るさやスピード感といったものにあふれています。これを可能にしているのは、日奈太のあまりにも一直線で友達想いな性格付けが第一でしょう。朝日は石郷岡には高校から入学していますが、幼稚舎から存在し多くの児童・生徒がエスカレーター式に進学する石郷岡では、先輩・後輩の垣根を感じさせないほど生徒同士の距離感が近いのです。逆に朝日にしてみれば、いつもくっついてきたり、生徒会長を"お花ちゃん"とあだ名で呼ぶ日奈太の言動を馴れ馴れしくて不遜と感じたりするわけです。このような、ちょっとクールな主人公とべったりくっついてくる頭が弱い系(?)の友人という組み合わせはよく見ますが、それに至った背景などに筋が通っていて本作はよいですね。ちなみに日奈太は一見バカっぽいですが、勉強はできるようでとくに理系科目が得意のようですね。この辺はおまけショートストーリーでも楽しめるのでぜひ読んでみてください。

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もう一つ、優れた演出という面も見逃せません。本作はNScripterを使った作品です。NScripterと言えばシンプルに必要最低限のシステムを備えたソフトという印象が大きいですが、本作はかなり演出に力が入っています。立ち絵が左右にも上下にもよく動いたり、ロード時の画面が設定されていたり、雨が降っているシーンの背景がアニメーションしていたり、人物の初登場時にカットインが入って自然に紹介していたり、といった工夫によって、とても読みやすく物語にも入り込みやすくなっているように感じます。重要なのは、この演出がやりすぎているのではなく、動作が重くならず、またしつこくならない範囲でしっかり要所で効いているというところです。日奈太が朝日を引っ張って連れていくシーンで立ち絵もビューンと引っ張られているのを見ると、文章とイラストの両面からそのシーンが頭に入ってくるのですらすらと読み進めやすいのです。


そして重要なシナリオです。本作ではループに至ってしまう条件は日奈太の死亡です。ショッキングな出来事であり、それによって普段は感情をあまり表に出さないタイプの朝日が動揺したり、様々な対策を尽くしても死んでしまうことにあきらめモードになったり、でも先輩や日奈太本人との交流から何とか解決の糸口を見つけようとするのがよくできていたように思います。ややネタバレになりますが、本作のループには、生徒会の"呪い"が関わっています。代々続いてきたこの呪いについて、先輩方が朝日たちよりも情報を持っているというのは自然ですし、過去の事例も明らかになっていくにつれ、徐々に呪いの核心に迫っていく感覚が得られました。多くの登場人物がいる本作ですが、その各人が呪い解決に向けた役割を果たし、朝日と日奈太を救おうとするのは見ていて気持ちよくさえあります。

ところで、この登場人物が多いという点は同時に気になった点でもあります。物語冒頭で朝日と日奈太の2人、その後すぐに会長の緒花、副会長のはじめと計4人が登場。通常なら一度に出てくるのはこのくらいの人数までかなと思いますが、本作ではさらにその後また立て続けに生徒会メンバー5人が登場。流石にこの人数になると覚えられません。例えば、サッカー部と野球部があって…みたいに大まかに属性を分けられると覚えやすいのかなという気はしますが、本作では全員生徒会所属。生徒会の会議ということで大人数が集まるというのは分かるのですが、ここでちょっとついていけないなあと感じてしまいました。
とはいえおそらく作者さんも気にしたのか、人物初登場時には名前、立ち絵、役職や学年の記載のあるカットインが入ります。この演出も軽快で大変気持ちよく、覚えやすくするための工夫だなあとは思いましたが、それでも開始5分以内に9人も登場するのは無茶と感じました。本作のテンポの良さもこの点については災いしているでしょう。

最終的に立ち絵のあるメインの人物は12人にも及びます。これは1時間程度の短編ということをのぞいて考えてもかなり多い部類に入るでしょう。この人数それぞれに活躍の場を与えるのは相当大変だと思うのですが、本作はそれをやり遂げているのも評価したいです。エンディングは2種類ですが、途中の選択肢は多数ある本作、選択次第で同じ結果に向かってはいるが呪いへのアプローチが変わったり、話を聞いてくれる先輩が変わったりなど、周回プレイを楽しみながらキャラクターの魅力に気付いていくことができるでしょう。スキップも軽快でUIもきれいなので、ぜひ全部のルートを巡ってみてください。
学年ごとのつながり、生徒会内の役職での繋がり、石郷岡に入った時期などがだんだん把握できてくると、彼らの個性が感じられて素晴らしいなと感じてきます。エンディング到達後に見ることができるおまけシナリオでは各キャラクターにフォーカスしたコメディ調のショートストーリーが見られます。相当に作りこまれていますよ。私は由香と安純の話が好きです。
ちなみにおまけのキャラクター紹介では、立ち絵をクリックすると短い台詞が出てきます。人物ごとに3種類あるようなのでいろいろクリックしてみるといいでしょう。

細かいですがもう一つ気になったのは、いわゆる心の声が区別しづらいという点です。
本作は地の文がなく、すべてが台詞か心の声で進行します。声に出した時とそうでないときでは一応吹き出しの角が丸くなったりといった違いはあるのですが、台詞にかぎかっこがついているわけではないのでちょっとわかりにくい。このせいで、緒花に心の声を読まれた!みたいな表現が分かりにくい(というかその後で今のは声に出してなかったんだと気づくことも何度も…)という状態です。吹き出しの背景色を暗めにするとかの方が分かりやすいかな。


というわけで今回は「クロノスの箱庭」でした。1時間程度で密度の高い満足感が得られると思いますよ。

こんにちは。今回はくまのこ道さんの「いちばん星の願いごと」をご紹介します。


1star

★favo
ジャンル:アイドルが路線変更を目指して特訓する短編ノベルゲーム
プレイ時間:1周10~15分/フルコンプまで1時間半程度
分岐:エンディング12種
ツール:LiveMaker
リリース:2015/5
備考:ミニゲームあり


いい作品を見つけました。いつも通り本作のオープニングの流れをご紹介します。
主人公の綺羅星ピピカ(名前変更可)は今を時めくスーパーアイドル。子役時代から築き上げたおバカ系キャラが広く受け入れられ、ライブをやれば常に熱狂。しかしそんな路線でずっと押していくのも何か違うと思い始めたピピカ。マネージャーに相談してみるも、キャラ変更は厳しいぞと言われてしまう。
しかし翌日、子役時代からすっかり路線変更しファッションモデルとなったIORIを見て、努力して自分を変えることを誓うのだった。


さて、本作は主人公が現役アイドルです。芸能界が出てくる作品というと、「気になるあの子は声優さんを目指しています♪」(主人公は同級生)や「CHANGE!!」(主人公がマネージャー)などが思い浮かびますが、アイドル本人が主人公な作品は本作が初めてだったかもしれません。しかも売れないアイドルではなく、スターアイドルです。しかしそんな彼女にも悩みはあって、売り出しているキャラと実際の自分との乖離を感じているというのです。私は全く芸能界について知りませんが、最初のマネージャーさんとの会話とかを見る感じでも大変そうだなと感じました。

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そんなピピカは「おんがく」「ファッション」「早口言葉」の3つの修業をしていくことになります。ここがミニゲーム要素になっており、変化があって面白いところでしたね。
簡単に言うと「おんがく」は記憶ゲーム、「ファッション」はクイズ、「早口言葉」は間違い探しです。いずれも初見で全問正解は少し難しいかなくらいの難易度です。私は早口言葉が苦手でした…。
この修行を一度行ったらイベントパートがあり、再度修行、というのを3回行ってエンディングに行きます。エンディングが12個もあってめちゃくちゃ多いので、うまく何の修業を行うかを選択してエンディングを回収しましょう。私は初回プレイ時訳も分からずそれぞれ1回ずつ修行したら、何も極められなかったノーマルエンドみたいなのに行きました。

このミニゲームを含めてですが、本作はエンディング回収や周回プレイにすごく親切なつくりになっているのが好印象なポイントの一つです。何でもいいから1つエンディングを見た後は、難易度調整が解放され、制限時間をなくしたり動きをゆっくりにしたりできます。問題は毎回同じなので、最悪覚えてしまうという攻略も取れます。そうして1度でもある項目を極めると、次回以降同じ修行をしたときに"前世の感覚を利用"することができるようになり、ミニゲームをスキップしてステータスを上げることができるようになります。言葉の選び方のセンスも面白いですね。

修行が終わるとイベントパートです。その日に何の修業をしたか、その出来栄えはどうだったかで違ったシーンになるため、1周15分程度のプレイ時間に比して相当多い展開が広がっています。それを3回行った後のエンディングでは、それまでのフラグを活かすような展開が多くすごく気持ちいいですね。

エンディングでは様々な展開がありますが、私が好きなのはやっぱりEND01でしょう。このエンディングではおんがく修行の成果に加え、ほんのりと恋愛要素が絡んできます。運転手の牧野さんですね。この展開では音楽を極めているので、ライブ用の歌を書きます。そしてなんと動機ごとに作詞ができます。まあ本当に自由に作詞できるわけではなく、選択肢から選ぶだけですがこれは効果抜群でした。そうして完成した歌は、作内でボーカロイドが歌ってくれます。なるほどこうした使い方があるのかとびっくりです。私はボーカロイドはあまり好きではないのですが、本作の使い方にはうならされました。演出として有効にはたらいていると思います。

他の展開でも、なるほどと思わせる方向で特訓の成果を生かしてくれます。笑いのネタが含まれていることもしばしば。
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私が不意を突かれたのはこちら。"チョイ悪ポッチャリ系ダンスユニット『XL』"は完全に狙ってるでしょ。ファンになります。
この人物も一発ネタ用ではなく、きちんとピピカの成長に寄与してくれますし、絡ませ方が上手いんですよ。

こんな感じでいろいろな展開があるので、ぜひコンプリートまでやってみてください。私はEND02,03が見つからないな~と思って探していました。どうやら作詞の時の遊び心が足りなかったみたいです。

そしてもう一つ驚いたことに、本作の作者さんは音楽素材サイトを運営されているんですね。本作のBGMもサイト上で公開している素材を使っているようでなるほどといった感じです。素材サイトはそこそこ知っているつもりですが、音楽素材とフリーゲームを同時にたくさん公開されている方がいるのは知らなかった……。


という感じで私をいろいろな意味で驚かせてくれた作品でした。欲を言うとEND01の歌がもう少し尺が欲しい(贅沢ですみません)。現状、主題が1度だけ登場して終わりって感じでちょっと寂しいので…
しかし本作がいい作品だったという感想は変わりませんので、ぜひ皆さんもプレイしてみてください。私は本作の印象が強くて、職場で危うく≪きらんほー☆≫とかいう独り言が出そうになってしまいました(爆)
ちなみにタイトル画面右下の鍵のアイコンからおまけへ進めますのでそちらもお忘れなく!

いつも以上にとっちらかった内容な気がしますが、今回はここまでです。それでは。

こんにちは。今回はKITTENSさんの「マイ・スイート・トマト」をご紹介します。

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★favo
ジャンル:ファンタジーノベルゲーム
プレイ時間:オートプレイで45分ほど
分岐:なし
ツール:吉里吉里
リリース:2004/9
備考:第11回ふりーむ!ゲームコンテスト健闘賞受賞作


本作はノベルゲームという形式になっていますが、その他のノベルゲームとはもはや違うジャンルなのではないかと思わせる特徴があります。言葉で書くとそのすごさがあまり伝わらないのですが、まず第一にグラフィックはすべて一枚絵からなります。つまり背景+立ち絵という構成はありません。そして第二にフルボイス。主人公のエミやその他の人物にも声があるのはもちろんのこと、なんとセリフではない地の文にまでボイスが入っているのです。これは他に見たことのない演出で、ノベルゲームをプレイしているというよりは、紙芝居による読み聞かせを聞いているような気分になります。そうした意味でも本作をプレイするときは、オートモードにすることをお勧めします。アニメーションも豊富についており、眺めるだけで見た目にも楽しい作品となっています。



本作を起動してすぐ、かわいらしいトマトちゃんの生活ぶりが紹介されます。トマトの形をした家でトマトの栽培をしていて、さらに採れたてのトマトを生み出す超能力も使えて、でもベジタブル村にはリンゴさんとパセリくんなどの天敵がいて……。しかし突然、「そんなものはいなーい!」と普通の女子中学生エミによってトマトちゃんのファンタジー世界は崩され、日常世界に戻されます。ふむふむ。どうやらこのエミちゃんがベジタブル村の物語の生みの親であるようだ…ということが分かってきます。
しかしこのエミちゃん、なんとトマトは大の苦手で味もにおいも食感も見た目も嫌い。ケチャップすら無理というので嫌い具合は相当です。

そんなトマト嫌いのエミちゃんがなぜトマトをモチーフにしたキャラクターを作ったのか、昔は好きだったけど何かトラウマができて嫌いになったのかなとか、トマトちゃんを作ったのはエミ本人ではなかったのかなとか気になってきますよね。結論から言うと、昔は好きだったというのが正解なのですが、その事件が問題です。すごく悲しいけど、めちゃくちゃよく起こりそうな出来事なんです。小学生ってこういうこと、すごくあると思うんです。決して、ものすごい悪意があってやっていることじゃない。単なるいたずらのつもりでしょう。しかしそのいたずらは、時にいたずらされた側に対し大きなトラウマを残します。ここのところが悲しすぎて、すごく印象的でした。

トマトちゃんの場合、事件になったのは漫画でした。しかし、同様のことはフリーゲーム界隈でも、もっと言えば創作関連の趣味全般でも起こりうることです。本作の事件に似た理由で創作をやめてしまったという方もいるでしょう。私はこうしてレビューを書いている程度にはフリーゲームが好きなので、作者さんが筆を折ってしまうのは寂しいことです。

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そして創作活動を停止することに伴って悲しい思いをするのは作者や読者だけではありませんでした。ここがファンタジーである本作の見せどころです。トマトちゃんの創造主たるエミが止まってしまったことに伴い、作品は永遠に完結することがなくなりました。そうなったとき、キャラクターたちに人格があったら何を思うのか。ここもすごく良かったです。
ノベルゲームでもその他の媒体でも、心に残る作品ってすごくキャラクターが生き生きしてるんです。物語の都合で動かされているのではなく、キャラクター自身が自ら動き、感情を表現し、成長していきます。本作におけるエミとトマトちゃんはこの点で素晴らしかったです。ほのぼのとした物語を作ろうとしたが、その世界の人物は意外と大変な苦労をしていることに気付いたエミ。創作の"設定"に悩まされるトマトちゃん。物語の作者と作内の登場人物の邂逅というファンタジーの手法によって、彼女らの悩みが逆にリアルに、説得力をもって感じられ、素晴らしい作品に仕上がっていると思います。

ちょっと暗い感じになってしまいましたが、エンディングついてはしっかりと希望を持てる内容となっていて本当に良かったです。エンディング到達後は、おまけも解放されるのでそちらもぜひ見てみてください。BGM・スチルの鑑賞にとどまらず、なんと没セリフ集というコーナーがあります。すべての文についてボイス付きなのは冒頭でも述べましたが、採用されたセリフ以外にもこんなにたくさん録っているんだなというのが分かり、作者さんの意気込みに感服しました。

それでは。

こんにちは。今回はばするぅむさんの「かえりみち」です。今回についてはいつものレビュー回というよりコラム回のノリに近くなると思いますがご了承ください。

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★favo
ジャンル:ノスタルジー系恋愛ノベルゲーム
プレイ時間:1時間
分岐:なし
ツール:吉里吉里
リリース:2012/4


まずはいつも通り大まかなあらすじをご紹介しましょう。
主人公の高木圭一は鹿児島県の霧島町(現・霧島市)に住む高校3年生。同学年で家の近い小湊ほのかとは小学生のころからの縁で、田舎特有の長い通学路をずっと一緒に通ってきた。しかし進路のことを考えなくてはならない年齢になり、この関係ももう長くは続かないことを寂しく感じていた……。

という感じでしょう。まさにタイトルの通り"かえりみち"にほのかと会話しながら帰ってくるというのが物語の大部分を占めるテーマでもあります。
さて本作ですが、プレイしていて大変驚いたところがあるので最初にそれについて書きましょう。

作風が完全に「むきりょくかん。」の作品のそれ!!!

はい、プレイ開始前にReadMeを読んだときに、背景画像提供としてむきりょくかん。のクレジットがあり、さらに本作のメッセージウィンドウが「ごがつのそら。」「ほしのの。」のそれと似ていたので気にはしていたんですが(ただしゲームエンジンは異なる)、そんな表面的なところにとどまらないほどにそっくりです。特定の目的なく緩やかなおしゃべりをするシーンが根底にある、文章は1人称で時折ノスタルジックな発言やその他の感想のような文が入る、ピアノ曲中心のBGM選曲、舞台となった実在の地名が明らかにされる、シーンの切り替わりで情景描写が入る、などなど何をとってもむきりょくかん。を連想する要素のオンパレード。中盤で"「ほしのの。」という映画"の感想の話が出てきたところで、本当にこれ別人だよな、むきりょくかん。の吉村さんの別名義とかじゃないよなと途中でサークルのHPを確認に行ってしまったほどです。

その結果、ばするぅむさんのサイトトップにはあの懐かしのツッコミフォーム(by むきりょくかん。)が! (注:コメント送信用CGI)
さらにハンドルネームで検索すると、作者の成井芳織さんはむきりょくかん。の日記へのコメント常連であったことが分かって、ファンが高じて自作にこんなに明確な影響を受けることもあるんだなと感じました。

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本作の話に戻ります。そんなことがあって雰囲気が似ているのもあり、私は本作の雰囲気がかなり好きなんですよ。何らの目的もなく続くような日常の描写って、往々にして飽きてしまうようなことがありますが本作はそんなこともなく、圭一とほのかの距離感だったり、受験や進路に向けて何となく考えていることだったり、そう言ったシーンを微笑ましく眺めることができました。


というようなことばっかり言っていると、他者の作品の劣化コピーなのかと思われるかもしれませんが、そのようなことはありません。本作の場合、独自の魅力としてまず幼馴染ものという要素がありますね。子供のころは帰り道でこんな寄り道をした、とか、中学校のスクールバスが懐かしいとかの表現によって、キャラクターに立体感が生まれるのです。当然ですがプレイヤーは登場人物について、作内で描写される情報しか持っていません。単純にシーンを順に脚本のように紡いでいっても、キャラクターの平面的な部分しか見ることができませんが、思い出のシーンなどが入ることによってキャラクターに過去からの流れという新たな次元が交わり、より多角的に魅力を受け取ることができるように感じます。

また、本作は帰り道にだらだらと喋りながら歩いていくという、誰にでも経験のあるシーンがテーマとなっています。物語は基本的に何でも主人公の立場になって読むタイプの私にとって、これは非常に感情移入しやすい内容でした。私の場合残念ながら、毎日一緒に通った幼馴染がいたわけではないのですが、それでも部活の後で友人と歩いて帰り、受験のこととかも考えなきゃな~とか思っていたのは今となっては貴重な出来事だったと思い出させてくれました。
舞台となった地域の描写がしっかりしているのも、2人の空間を想像しやすくなってよかったと思います。本作内の時間は2005年(公開は2012年です)。調べたところこれは旧霧島町が実際に市町村合併で霧島市となった年でした。作内でその描写もあるなど、現実に忠実であることによって舞台のリアルさが増し、私をより深く圭一とほのかの世界へと連れて行ってくれたのではないでしょうか。

そして、文章力も確かですね。比喩を用いた表現などが多用され、どちらかというとゲームというか小説寄りのテキストかもしれません。私が好きなのは、受験が終わって帰るときの「色のない街の中を帰っていた。」ですね。私も大学入学を機に地元を離れた経験があるので、あの時の希望と不安と緊張が綯い交ぜになったような気持ちを思い出したりしました。

さて、本作をプレイしていて気になった点もあります。まずは、シーン同士の繋がりがあまり感じられなかったように思います。例えばお祭りの場面。圭一はほのかを怒らせてしまいますが、その前ぶれだったりフォローだったりという部分が十分でなかったのではないでしょうか。一応なぜそんなに怒っていたのかは判明しますし、翌日謝って許してもらったというような描写はありますが、その後の展開に結びついていないように感じてしまいました。ここだけ孤立していて、なかったとしても成立してしまいそうな感じです。ほかにもところどころ、話の流れから独立してしまっていると感じる場面がありました。
しかしそれらのシーンも個別の場面としてみれば、圭一とほのかの関係性が浮かんでくる良いシーンだなとも思えるので惜しいところです。

そしてエンディングも、確かにまとまってはいるんですが、そこはオーソドックスに1年後の話をして欲しかった。これは単に私の好みというレベルではありますが……。


というわけで、脱線も多くなりましたが今回は「かえりみち」でした。
田舎で幼馴染ものというワードに惹かれる方、地元にノスタルジーを覚える方、むきりょくかん。(特に「ごがつのそら。」)のファンの方は読んで損のない作品だと思います。

それでは。

こんにちは。今回は一限はやめさんの「ホラー大好きヒミカさん」をご紹介します。

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ジャンル:ホラーゲームあるあるネタ風コメディ
プレイ時間:45分
分岐:なし(後述)
ツール:RPGツクール(要RTP)
リリース:2020/4

今回ご紹介する作品は、上のタイトル画面のスクリーンショットやそこでのBGMは全力でホラーと主張していますが、中身としては日常ギャグ系となっています。

本作は、ほぼすべてが主人公の陽菜と友達のひみかが部屋でおしゃべりしている場面で構成されています。タイトルから分かる通りひみかはかなりのホラーゲームやオカルト系マニアの大学2年生。ホラーゲームにありがちな状況や台詞の引き出しが異常に多く、超ハイテンポでネタを放出します。対する陽菜は比較的普通の子でツッコミ役。あっちこっちに話が飛ぶひみかを毎回軌道修正して話を進めてくれます。しかしたまにひみかのフリにのっていくことも。そんな2人のやり取りを見ながら、あるある~~といったり、そんなのねーよとツッコんだりするのが本作の楽しみ方の一つになります。


さて、本作には地の文だったり、ナレーション役といったものは存在しませんが、ショートコントのタイトルのような感じで数分くらいの間隔で暗転とタイトルアナウンスが入ります。とはいっても登場人物も場所も変わらないのですが、この仕組みで話の切り替わりがわかりやすくなっています。ずっと同じ2人が話すだけではそのあたりがあいまいになったり、息をつく暇がなくなりますからこれはいい構成だなと感じます。ちなみに、その場面転換の間でのみセーブが可能になっています。

まず最初は「怖い話」。ストレートですが、怪談って人気ですよね。私は怪談やホラーが特別好きというわけではありませんが、ゲームをやっているとよく出会うジャンルということもあり、有名なものは結構知っているつもりです。
しかし本作では当然ながら正面から怪談について語ったりはしません。
「1日3食をすべてお菓子の「じがりこ」で過ごした話」
から始まり、
「田舎に残る怖い風習」
というまさによくある風の怪談が始まるかと思いきや
「女子間の、されるのがわかりきった「サプライズ」のし合いの方が怖い風習」
と一刀両断。この急カーブで笑えるならば本作を最初から最後まで余すところなく楽しめるでしょう。
「何でも田舎のせいにするな」との主張、心得ました。

そんな感じでホラーや怪談を題材にしつつも様々な方向に振れた話題を楽しめる本作ですが、メタな話題も結構含まれます。本作のシナリオがゲームという媒体で紡がれることからもそれは必然かもしれませんね。
先ほどの話で、「地元が田舎って、どの辺?」という振りに対し、「かなりの田舎と言ってしまった以上、傷つく人がいるかもしれないので具体的な地名は出さない」は流石です。「視聴率」発言も笑いました。確かにそうかも。

ひみかはかなりマイペースな性格で、同じお題に対して陽菜があきれるほど多くの例を挙げたり、逆にいつの間にか話題が変わっていたりします。そしてどんどんホラーとは関係ないテーマに進んで行ったりもします。”ホラー大好き"というのはひみかさんの趣味に関する話であって、本作全体のテーマというわけではないのです。軽めの下ネタもけっこうあります。かなり自由にいろいろな話題に飛ぶので、ホラーの話という導入から離れて女子会をのぞき見しているような気分すら味わえるかもしれません。

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さらには突然の水着シーンあり。その後に1度だけある選択肢によっては以後がすべて水着での会話になっており、一気にツッコミどころが倍増して楽しいですよ。立ち絵と一部の会話が変わるくらいで、シナリオに影響はありません。

また、上のような2人の駄弁りだけでなく、本作には時折前触れなしに「なりきりコーナー」が挿入されます。アルバイトの接客ごっこだったり、ゲーム内でよくあるシチュエーションごっこだったり、実在作品のオマージュだったりと様々。私は「探偵」での陽菜のスピード感あるツッコミが好きです。
なりきりコーナー中は、結構シリアスな場面もあったりします。ファンタジー系のゲームやアニメでめちゃくちゃありそうなシーンで、これも結構面白かったです。ひみかの方は相当な変わり者なのでよくわからないですが、陽菜も割とノリノリでこの遊びに付き合っているのを見ると、仲良くていいな~と思いますね。説明なしで寸劇が出来上がっていて、以心伝心している感じがすごい。
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しかし立ち絵の表情と場面の悲壮さがかみ合ってなかったりする。これは、全編を通してコメディ調である本作の味ですね。しかもその直後に(以前の選択によっては)何事もなかったかのように水着で登場するので、シュールさが加速してます。


最後に、私が好きだったネタを3つ挙げましょう。
  • 飲み会の断り方
  • そのやり方は……確かに効果的かもしれないけどいろいろ大事なものを失いそう。少なくとも私はやりたくないなあ。陽菜の感想ももっともだし。
  • テレビをつけたら…
  • 私が実際に友達の家に行ってテレビをつけてそんな感じだったらかなりビビる。しばらくは微妙な空気になりそう。
  • 名前の読みがな
  • レビュー内でルビを振らないようにしましたが、陽菜は"ハルナ"です。作内ではあだ名などから読みを判断できるとはいえ”ヒナ"も一般的な読みだなと思っていたところ、それもネタにされていたのでさすがです。
というわけで「ホラー大好きヒミカさん」のご紹介でした。脱力系とでもいうのか、洗練されたギャグとはまた違った笑いが楽しめる作品です。独特の雰囲気のある作品なので、ぜひプレイしてみてください。

それでは。

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