フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
初めての方は、ぜひごあいさつをご覧ください。評価の基準については、レビューについてに記してあります。
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1時間前後

こんにちは。今回はKITTENSさんの「マイ・スイート・トマト」をご紹介します。

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★favo
ジャンル:ファンタジーノベルゲーム
プレイ時間:オートプレイで45分ほど
分岐:なし
ツール:吉里吉里
リリース:2004/9
備考:第11回ふりーむ!ゲームコンテスト健闘賞受賞作


本作はノベルゲームという形式になっていますが、その他のノベルゲームとはもはや違うジャンルなのではないかと思わせる特徴があります。言葉で書くとそのすごさがあまり伝わらないのですが、まず第一にグラフィックはすべて一枚絵からなります。つまり背景+立ち絵という構成はありません。そして第二にフルボイス。主人公のエミやその他の人物にも声があるのはもちろんのこと、なんとセリフではない地の文にまでボイスが入っているのです。これは他に見たことのない演出で、ノベルゲームをプレイしているというよりは、紙芝居による読み聞かせを聞いているような気分になります。そうした意味でも本作をプレイするときは、オートモードにすることをお勧めします。アニメーションも豊富についており、眺めるだけで見た目にも楽しい作品となっています。



本作を起動してすぐ、かわいらしいトマトちゃんの生活ぶりが紹介されます。トマトの形をした家でトマトの栽培をしていて、さらに採れたてのトマトを生み出す超能力も使えて、でもベジタブル村にはリンゴさんとパセリくんなどの天敵がいて……。しかし突然、「そんなものはいなーい!」と普通の女子中学生エミによってトマトちゃんのファンタジー世界は崩され、日常世界に戻されます。ふむふむ。どうやらこのエミちゃんがベジタブル村の物語の生みの親であるようだ…ということが分かってきます。
しかしこのエミちゃん、なんとトマトは大の苦手で味もにおいも食感も見た目も嫌い。ケチャップすら無理というので嫌い具合は相当です。

そんなトマト嫌いのエミちゃんがなぜトマトをモチーフにしたキャラクターを作ったのか、昔は好きだったけど何かトラウマができて嫌いになったのかなとか、トマトちゃんを作ったのはエミ本人ではなかったのかなとか気になってきますよね。結論から言うと、昔は好きだったというのが正解なのですが、その事件が問題です。すごく悲しいけど、めちゃくちゃよく起こりそうな出来事なんです。小学生ってこういうこと、すごくあると思うんです。決して、ものすごい悪意があってやっていることじゃない。単なるいたずらのつもりでしょう。しかしそのいたずらは、時にいたずらされた側に対し大きなトラウマを残します。ここのところが悲しすぎて、すごく印象的でした。

トマトちゃんの場合、事件になったのは漫画でした。しかし、同様のことはフリーゲーム界隈でも、もっと言えば創作関連の趣味全般でも起こりうることです。本作の事件に似た理由で創作をやめてしまったという方もいるでしょう。私はこうしてレビューを書いている程度にはフリーゲームが好きなので、作者さんが筆を折ってしまうのは寂しいことです。

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そして創作活動を停止することに伴って悲しい思いをするのは作者や読者だけではありませんでした。ここがファンタジーである本作の見せどころです。トマトちゃんの創造主たるエミが止まってしまったことに伴い、作品は永遠に完結することがなくなりました。そうなったとき、キャラクターたちに人格があったら何を思うのか。ここもすごく良かったです。
ノベルゲームでもその他の媒体でも、心に残る作品ってすごくキャラクターが生き生きしてるんです。物語の都合で動かされているのではなく、キャラクター自身が自ら動き、感情を表現し、成長していきます。本作におけるエミとトマトちゃんはこの点で素晴らしかったです。ほのぼのとした物語を作ろうとしたが、その世界の人物は意外と大変な苦労をしていることに気付いたエミ。創作の"設定"に悩まされるトマトちゃん。物語の作者と作内の登場人物の邂逅というファンタジーの手法によって、彼女らの悩みが逆にリアルに、説得力をもって感じられ、素晴らしい作品に仕上がっていると思います。

ちょっと暗い感じになってしまいましたが、エンディングついてはしっかりと希望を持てる内容となっていて本当に良かったです。エンディング到達後は、おまけも解放されるのでそちらもぜひ見てみてください。BGM・スチルの鑑賞にとどまらず、なんと没セリフ集というコーナーがあります。すべての文についてボイス付きなのは冒頭でも述べましたが、採用されたセリフ以外にもこんなにたくさん録っているんだなというのが分かり、作者さんの意気込みに感服しました。

それでは。

こんにちは。今回はばするぅむさんの「かえりみち」です。今回についてはいつものレビュー回というよりコラム回のノリに近くなると思いますがご了承ください。

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★favo
ジャンル:ノスタルジー系恋愛ノベルゲーム
プレイ時間:1時間
分岐:なし
ツール:吉里吉里
リリース:2012/4


まずはいつも通り大まかなあらすじをご紹介しましょう。
主人公の高木圭一は鹿児島県の霧島町(現・霧島市)に住む高校3年生。同学年で家の近い小湊ほのかとは小学生のころからの縁で、田舎特有の長い通学路をずっと一緒に通ってきた。しかし進路のことを考えなくてはならない年齢になり、この関係ももう長くは続かないことを寂しく感じていた……。

という感じでしょう。まさにタイトルの通り"かえりみち"にほのかと会話しながら帰ってくるというのが物語の大部分を占めるテーマでもあります。
さて本作ですが、プレイしていて大変驚いたところがあるので最初にそれについて書きましょう。

作風が完全に「むきりょくかん。」の作品のそれ!!!

はい、プレイ開始前にReadMeを読んだときに、背景画像提供としてむきりょくかん。のクレジットがあり、さらに本作のメッセージウィンドウが「ごがつのそら。」「ほしのの。」のそれと似ていたので気にはしていたんですが(ただしゲームエンジンは異なる)、そんな表面的なところにとどまらないほどにそっくりです。特定の目的なく緩やかなおしゃべりをするシーンが根底にある、文章は1人称で時折ノスタルジックな発言やその他の感想のような文が入る、ピアノ曲中心のBGM選曲、舞台となった実在の地名が明らかにされる、シーンの切り替わりで情景描写が入る、などなど何をとってもむきりょくかん。を連想する要素のオンパレード。中盤で"「ほしのの。」という映画"の感想の話が出てきたところで、本当にこれ別人だよな、むきりょくかん。の吉村さんの別名義とかじゃないよなと途中でサークルのHPを確認に行ってしまったほどです。

その結果、ばするぅむさんのサイトトップにはあの懐かしのツッコミフォーム(by むきりょくかん。)が! (注:コメント送信用CGI)
さらにハンドルネームで検索すると、作者の成井芳織さんはむきりょくかん。の日記へのコメント常連であったことが分かって、ファンが高じて自作にこんなに明確な影響を受けることもあるんだなと感じました。

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本作の話に戻ります。そんなことがあって雰囲気が似ているのもあり、私は本作の雰囲気がかなり好きなんですよ。何らの目的もなく続くような日常の描写って、往々にして飽きてしまうようなことがありますが本作はそんなこともなく、圭一とほのかの距離感だったり、受験や進路に向けて何となく考えていることだったり、そう言ったシーンを微笑ましく眺めることができました。


というようなことばっかり言っていると、他者の作品の劣化コピーなのかと思われるかもしれませんが、そのようなことはありません。本作の場合、独自の魅力としてまず幼馴染ものという要素がありますね。子供のころは帰り道でこんな寄り道をした、とか、中学校のスクールバスが懐かしいとかの表現によって、キャラクターに立体感が生まれるのです。当然ですがプレイヤーは登場人物について、作内で描写される情報しか持っていません。単純にシーンを順に脚本のように紡いでいっても、キャラクターの平面的な部分しか見ることができませんが、思い出のシーンなどが入ることによってキャラクターに過去からの流れという新たな次元が交わり、より多角的に魅力を受け取ることができるように感じます。

また、本作は帰り道にだらだらと喋りながら歩いていくという、誰にでも経験のあるシーンがテーマとなっています。物語は基本的に何でも主人公の立場になって読むタイプの私にとって、これは非常に感情移入しやすい内容でした。私の場合残念ながら、毎日一緒に通った幼馴染がいたわけではないのですが、それでも部活の後で友人と歩いて帰り、受験のこととかも考えなきゃな~とか思っていたのは今となっては貴重な出来事だったと思い出させてくれました。
舞台となった地域の描写がしっかりしているのも、2人の空間を想像しやすくなってよかったと思います。本作内の時間は2005年(公開は2012年です)。調べたところこれは旧霧島町が実際に市町村合併で霧島市となった年でした。作内でその描写もあるなど、現実に忠実であることによって舞台のリアルさが増し、私をより深く圭一とほのかの世界へと連れて行ってくれたのではないでしょうか。

そして、文章力も確かですね。比喩を用いた表現などが多用され、どちらかというとゲームというか小説寄りのテキストかもしれません。私が好きなのは、受験が終わって帰るときの「色のない街の中を帰っていた。」ですね。私も大学入学を機に地元を離れた経験があるので、あの時の希望と不安と緊張が綯い交ぜになったような気持ちを思い出したりしました。

さて、本作をプレイしていて気になった点もあります。まずは、シーン同士の繋がりがあまり感じられなかったように思います。例えばお祭りの場面。圭一はほのかを怒らせてしまいますが、その前ぶれだったりフォローだったりという部分が十分でなかったのではないでしょうか。一応なぜそんなに怒っていたのかは判明しますし、翌日謝って許してもらったというような描写はありますが、その後の展開に結びついていないように感じてしまいました。ここだけ孤立していて、なかったとしても成立してしまいそうな感じです。ほかにもところどころ、話の流れから独立してしまっていると感じる場面がありました。
しかしそれらのシーンも個別の場面としてみれば、圭一とほのかの関係性が浮かんでくる良いシーンだなとも思えるので惜しいところです。

そしてエンディングも、確かにまとまってはいるんですが、そこはオーソドックスに1年後の話をして欲しかった。これは単に私の好みというレベルではありますが……。


というわけで、脱線も多くなりましたが今回は「かえりみち」でした。
田舎で幼馴染ものというワードに惹かれる方、地元にノスタルジーを覚える方、むきりょくかん。(特に「ごがつのそら。」)のファンの方は読んで損のない作品だと思います。

それでは。

こんにちは。今回は一限はやめさんの「ホラー大好きヒミカさん」をご紹介します。

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ジャンル:ホラーゲームあるあるネタ風コメディ
プレイ時間:45分
分岐:なし(後述)
ツール:RPGツクール(要RTP)
リリース:2020/4

今回ご紹介する作品は、上のタイトル画面のスクリーンショットやそこでのBGMは全力でホラーと主張していますが、中身としては日常ギャグ系となっています。

本作は、ほぼすべてが主人公の陽菜と友達のひみかが部屋でおしゃべりしている場面で構成されています。タイトルから分かる通りひみかはかなりのホラーゲームやオカルト系マニアの大学2年生。ホラーゲームにありがちな状況や台詞の引き出しが異常に多く、超ハイテンポでネタを放出します。対する陽菜は比較的普通の子でツッコミ役。あっちこっちに話が飛ぶひみかを毎回軌道修正して話を進めてくれます。しかしたまにひみかのフリにのっていくことも。そんな2人のやり取りを見ながら、あるある~~といったり、そんなのねーよとツッコんだりするのが本作の楽しみ方の一つになります。


さて、本作には地の文だったり、ナレーション役といったものは存在しませんが、ショートコントのタイトルのような感じで数分くらいの間隔で暗転とタイトルアナウンスが入ります。とはいっても登場人物も場所も変わらないのですが、この仕組みで話の切り替わりがわかりやすくなっています。ずっと同じ2人が話すだけではそのあたりがあいまいになったり、息をつく暇がなくなりますからこれはいい構成だなと感じます。ちなみに、その場面転換の間でのみセーブが可能になっています。

まず最初は「怖い話」。ストレートですが、怪談って人気ですよね。私は怪談やホラーが特別好きというわけではありませんが、ゲームをやっているとよく出会うジャンルということもあり、有名なものは結構知っているつもりです。
しかし本作では当然ながら正面から怪談について語ったりはしません。
「1日3食をすべてお菓子の「じがりこ」で過ごした話」
から始まり、
「田舎に残る怖い風習」
というまさによくある風の怪談が始まるかと思いきや
「女子間の、されるのがわかりきった「サプライズ」のし合いの方が怖い風習」
と一刀両断。この急カーブで笑えるならば本作を最初から最後まで余すところなく楽しめるでしょう。
「何でも田舎のせいにするな」との主張、心得ました。

そんな感じでホラーや怪談を題材にしつつも様々な方向に振れた話題を楽しめる本作ですが、メタな話題も結構含まれます。本作のシナリオがゲームという媒体で紡がれることからもそれは必然かもしれませんね。
先ほどの話で、「地元が田舎って、どの辺?」という振りに対し、「かなりの田舎と言ってしまった以上、傷つく人がいるかもしれないので具体的な地名は出さない」は流石です。「視聴率」発言も笑いました。確かにそうかも。

ひみかはかなりマイペースな性格で、同じお題に対して陽菜があきれるほど多くの例を挙げたり、逆にいつの間にか話題が変わっていたりします。そしてどんどんホラーとは関係ないテーマに進んで行ったりもします。”ホラー大好き"というのはひみかさんの趣味に関する話であって、本作全体のテーマというわけではないのです。軽めの下ネタもけっこうあります。かなり自由にいろいろな話題に飛ぶので、ホラーの話という導入から離れて女子会をのぞき見しているような気分すら味わえるかもしれません。

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さらには突然の水着シーンあり。その後に1度だけある選択肢によっては以後がすべて水着での会話になっており、一気にツッコミどころが倍増して楽しいですよ。立ち絵と一部の会話が変わるくらいで、シナリオに影響はありません。

また、上のような2人の駄弁りだけでなく、本作には時折前触れなしに「なりきりコーナー」が挿入されます。アルバイトの接客ごっこだったり、ゲーム内でよくあるシチュエーションごっこだったり、実在作品のオマージュだったりと様々。私は「探偵」での陽菜のスピード感あるツッコミが好きです。
なりきりコーナー中は、結構シリアスな場面もあったりします。ファンタジー系のゲームやアニメでめちゃくちゃありそうなシーンで、これも結構面白かったです。ひみかの方は相当な変わり者なのでよくわからないですが、陽菜も割とノリノリでこの遊びに付き合っているのを見ると、仲良くていいな~と思いますね。説明なしで寸劇が出来上がっていて、以心伝心している感じがすごい。
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しかし立ち絵の表情と場面の悲壮さがかみ合ってなかったりする。これは、全編を通してコメディ調である本作の味ですね。しかもその直後に(以前の選択によっては)何事もなかったかのように水着で登場するので、シュールさが加速してます。


最後に、私が好きだったネタを3つ挙げましょう。
  • 飲み会の断り方
  • そのやり方は……確かに効果的かもしれないけどいろいろ大事なものを失いそう。少なくとも私はやりたくないなあ。陽菜の感想ももっともだし。
  • テレビをつけたら…
  • 私が実際に友達の家に行ってテレビをつけてそんな感じだったらかなりビビる。しばらくは微妙な空気になりそう。
  • 名前の読みがな
  • レビュー内でルビを振らないようにしましたが、陽菜は"ハルナ"です。作内ではあだ名などから読みを判断できるとはいえ”ヒナ"も一般的な読みだなと思っていたところ、それもネタにされていたのでさすがです。
というわけで「ホラー大好きヒミカさん」のご紹介でした。脱力系とでもいうのか、洗練されたギャグとはまた違った笑いが楽しめる作品です。独特の雰囲気のある作品なので、ぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回は時雨屋さんの「1000文字勇者」のご紹介です。

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ジャンル:メタネタ多めのコメディADV
プレイ時間:クリアまで30分程度
分岐:ゲームオーバーあり
ツール:RPGツクール
リリース:2016/12


今回紹介する「1000文字勇者」は、RPGの形式をとりながらRPGのお約束を逆手に取った挑戦的なシステムで謎解きゲームのようなプレイ感を生み出した、RPGと見せかけたADVのような意欲作です。

本作のシナリオというかコンセプトは単純明快。ふりーむに載っている3行の説明で十分です。

この勇者は千文字読むと爆発します。
がんばって魔王を倒しましょう。
千文字喫茶参加中。


通常私たちがRPGをプレイするとき、町で出会った人にはとりあえず話しかけることが多いはずですし、それがセオリーでもあります。ただの村人からでも、戦闘のアドバイスとか、隠しアイテムのありかのヒントとか、イベント進行フラグとかの情報が得られたりしますよね。「装備品はメニューから装備しないと効果を発揮しないよ」と教えてくれる人とかはどのゲームを見ても最初のほうの町に住んでいる気がします。
ところが本作はなんと主人公が1000文字読む(メッセージウィンドウに表示される)と爆発する呪いがかかっていて、強制的にゲームオーバーになってしまいます。当然、全部の村人に話しかけている余裕なんてありません。とりあえず初回プレイでは手当たり次第に話しかけていくしかありませんが、これではクリアできるわけはありません。話しかけて得られた反応からイベント進行に必須な人を判別し、極力無駄を排して話を進める必要がある、まるで謎解きゲームのような内容になっています。


本作はRPGでもあるので、戦闘シーンもあります。しかしまともに戦っては容易に文字数制限をオーバーしてしまうので、なんと勇者はどんな敵でもワンパンで倒せる能力を持っているのです! その代償の呪いは大変きついものですが…
戦闘において厳しいのは、戦闘前に無駄なことばっかり喋ってくるいやがらせのような敵。何とか回避する方法を見出さなくてはいけません。こうした敵に笑わされたり、無駄な文字にイライラしたり、なんとか回避して進めないか探索してみたりと、試行錯誤できるのが面白いですね。
ちなみに厄介なのは敵だけではありません。
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こういった面倒くさい奴をどう処理するか、必須なイベントやフラグをしっかりと見定める必要があります。1000文字という制限には多少の余裕はあるものの、100文字を超えるような長話はしっかりとスキップしていかないとクリアできないバランスです。フラグが立つ箇所を見つけてはセーブ時点に戻りストレートにフラグへ向かう、そんなプレイングが求められるでしょう。必須イベントだけを起こして進んでいけばクリアまで5分程度というシナリオですが、その正解ルートを見つけるために村人に聞き込みをする、怪しい場所を調べる、そうした作業を楽しめる方にはぴったりです。シナリオ進行にかかわる情報は、台詞内で目立つようにオレンジ色に着色されているので、ゲームの難易度としては高くありません。

ちなみに私が考えたところでは、魔王討伐後に姫に会う場面で216文字残しが最高値かなと思うのですがどうでしょうか。まだ削れる文字数があるよっていう方は教えてください。


さて、本作では呪いを解いて文字数制限を撤廃したモードで思う存分人に話しかけることもできます。このモードへの入り方は、一回通常モードでクリアするとわかるので頑張ってクリア目指してください。2回話しかけると台詞が変わっている人も結構います。彼らが何をしゃべるかは、クリア後のお楽しみですね。
また、最後のシーンがちょっと変わる程度ではありますが、本作は一応マルチエンディングになっています。どこで分岐するのかは比較的わかりやすいと思うので、ぜひ全パターン試してみてください。


今回は「1000文字勇者」のご紹介でした。お約束を逆手に取ったメタな話に笑える方、RPGのフラグ管理がいつも気になってしまう方、ダンジョンでは外れの方の分かれ道まで全て探索してしまう方にお勧めです。最後にこのゲームの本質を伝えるスクリーンショットをお見せしますね。
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…ということです。それでは。

こんにちは。今回は、午後のお部屋さんの「お兄ちゃんの世話を焼くのは妹の特権です」のご紹介です。

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ジャンル:感動系ヤンデレノベル
プレイ時間:40分
分岐:なし
ツール:吉里吉里
リリース:2013/4


本作はたまたまフリーゲーム夢現を見ていた時に目についてダウンロードしたのですが、期待以上のわくわく感が詰まった作品だったので、ぜひ皆さんにプレイしてほしいなと思い取り上げることにしました。

私が本作を最初に見た感じでは、ラノベ風長文タイトルなのとヤンデレ系という公式情報から、ヤンデレな妹とのラブコメみたいな話なのかな、という印象でした。しかしその想像はいい意味で裏切られました。まず本作はコメディではなかったんですね。こんな悲しげなBGMから冒頭のシーンに入るとは思っていませんでした。ここですでに、この作品はどんな物語なんだろう、ということに強く興味を引き付けられました。

さて、その物語の導入では、主人公の恭一は母親が仕事で忙しく、家では実質妹との2人暮らしで家事はほとんど妹にまかせっきりだったことが妹である美樹の視点で語られます。なるほど単に妹が世話焼きな性格だったというだけでなく、そうせざるを得なかった事情やそれに喜びを感じる理由なんかが最初に提示されるのです。ヤンデレものというと、とにかく異常なまでの愛が表現され、理由なんか問う間もないものがほとんど、というイメージがあったので、本作は序盤からそのイメージを覆し私の興味を引き付けるのに成功していたと思います。

さて、タイトルからして重要な役割であることが明白な妹の美樹ですが、ヤンデレってほどでもなくない? という感じのキャラ付けです。ちょっと世話好きな可愛い妹といった感じ。この美樹と恭一のやり取りってとても微笑ましいんですよ。やっぱりこうした微笑ましいシーンには、極端ではなく実際に想像しやすいような人物像が似合いますね。強烈なキャラクターも面白いですが、こうした普通の人に分かりやすく世話好きという属性を追加したようなキャラもなんだか応援したくなるようで良いものです。

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さて、物語の序盤のうちから、恭一はここのところ足を負傷する悪夢を立て続けに見て精神的に参ってきているということがわかります。この原因は何なのかというサスペンス的要素も追加されてくるわけです。美樹との他愛のない会話やほのぼのとしたシーンにも、この足に関する夢の謎を解くという一つの方向性みたいなものが見え、まとまりがよくなっているように感じます。この方向性が、記事の最初に述べたような物語の先の展開へのわくわく感につながっているのでしょう。

今、サスペンス的要素があると書きましたが、悪夢の原因は実は物語序盤のうちから明かされています。だから、読者は元凶や対処法について分かっている。しかし恭一は当然そんなことには気づきません。悪夢に悩まされるうちに身体的症状も出始めてしまった今、余裕はありません。友人に相談してみると、オカルト研究会の百合先輩に聞いてみることを勧められます。そこでなんだかいろいろなことを知っている風な百合先輩から、夢の中で使えるコンパスのようなものを受け取ります。このあたりの展開、よく言えばテンポよく進んで話がダレない感じですが、ちょっとあっさりしすぎな感もあります。もうちょっと原因追究の必死さみたいな点が描かれたら、私が感じたわくわくに加えてどきどきも加わった物語になっていたのではないでしょうか。


さらっと登場した新キャラの百合先輩ですが、彼女もまた魅力的なんですよね。立ち絵はないですが、ゆったりした言葉遣いや相談を親身になって聞いてくれるやさしさ、しかし必要な時には実力行使も厭わない。アドバイスも具体的。私もなんか人生相談したいくらいです(笑)
かなり謎の多い人物なので、その素性がめちゃくちゃ気になります。

物語が中盤から終盤へと差し掛かると、ついに原因との直接対峙に移ります。そこで説得に移るのですが、その内容が序盤の他愛もない会話を活かしたもので良かったですね。そういえばそんなこと言ってたなあと思うと同時に、いいお兄ちゃんだなあと思えるんですね。ここでも、ただのヤンデレものではないキャラクターの魅力が感じられました。そう、本作の登場人物ってみんな"いい人"なんですよね。なんというか、安心できるお話なんです。あとは恭一がどれだけ家事を頑張るかってところですかね。もう美樹ちゃんに任せっきりにするんじゃないぞ!


本編読了後にはちょっとしたおまけが読めます。このおまけで、美樹のヤンデレ具合が思った以上に進んでいたことがわかってちょっと笑ってしまいました。しかし結局は幸せそうなのでOKです。
というわけで今回はヤンデレものの紹介となりましたが、心温まるタイプの物語なので多くの方にお勧めしやすいかなと思います。特に妹キャラが好きな方はプレイして損はないでしょう。

それでは。

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