フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
初めての方は、ぜひごあいさつをご覧ください。評価の基準については、レビューについてに記してあります。
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10時間前後

こんにちは。今回はTwincle Dropさんの「Brass Restoration」のレビューです。


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★favo
ジャンル:古の正統派学園ギャルゲー(後述)
プレイ時間:各ルート3時間/コンプリートまでで12時間ほど
分岐:攻略対象4人、それぞれでさらに数種類に分岐、計21エンド
ツール:吉里吉里
リリース:2004/7


今回は2004年公開と、この間の「魔王物語物語」よりさらに古い作品のご紹介となります。
ジャンルに古と書きましたが、ギャルゲーの"お約束"のオンパレードかつそれぞれのお約束が大変濃いのである種時代すら感じさせるような気がします。どういうことか一つずつ説明しましょう。

まずは主人公の瀧口了です。プロの打楽器奏者の父を持ち、自身も高校生ながら将来を嘱望される実力の持ち主。しかし両親を早くに亡くし、物語の冒頭で列車の事故から自身も左腕を失い、以前のような演奏ができなくなってしまいます。ということでお約束ポイント①「高校生ながら一人暮らし」。
そして、②意味不明なギャグ(?)を大量投入。
この時点では、一人暮らしはよくあるけど設定が重いなあという程度の感想でした。

続いて幼馴染の蘭実梨(あららぎ・みのり)です。これがまた強烈でした。お約束ポイント③幼馴染が毎日起こしに来る、④極度の天然ボケ(卵焼きをエッチなものだと思っているなど)、⑤謎の口癖(にゅにゅぅ)、⑥殺人料理(BSE入りはマジでシャレにならんので止めてくれ)、とこんな感じ。
実梨と了は毎日一緒に登校する仲ですが、⑦実梨がそういうそぶりを見せるのに了は全く恋愛対象として見ない。そして扱いがひどい。バカ呼ばわりは当たり前。変なことを言ったときはビシビシ叩きまくる、ことごとく実梨の立てたフラグを折る、しまいには立ち絵がモザイクになる(!)とやりたい放題。
ギャグがほとんど意味不明なのと合わせて、正直このあたりであまりにもひどいなと感じてプレイの継続を断念しかける程度でした。ちなみに意味不明なギャグとはこんな感じ。
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と、本作の序盤の印象はいいとは言えませんでしたが、結局最後までプレイしてよかったなという感想を持つに至りました。ではどこがよかったのかという話をしていきましょう。

上記のような突飛な設定のイメージが先行すると、作品全体がギャグであって、シナリオの出来云々よりも笑いのセンスが合うかどうかが重要という直感が働きます。しかし本作の本質はギャグとは程遠いマジの恋愛ものだったのです。
ギャグの部分を除いてみると、シナリオは実に王道の仕上がり。各攻略対象と恋愛関係になるかどうかという点だけでなく、その後2人の間に問題が発生し、それを乗り越えていくというまさにシリアス系ギャルゲーという内容となっています。私はこのギャップに騙され、そして本作の評価を見直すきっかけとなりました。


まず攻略対象の説明をしておきましょう。幼馴染の実梨は同じクラスでなおかつ部活も同じ吹奏楽部に属しています。美音(よしね)先輩はプロ級の腕前を持つフルート奏者でお嬢様な吹奏楽部の先輩。小瓜(こうり)は打楽器は未経験ながら優れたリズム感をもつ吹奏楽部の後輩。そして歌唱において類まれなる才能を持つ軽音楽部所属のボーイッシュ同級生、唯の4人です。攻略対象の属性もまさにザ・ギャルゲーといった感じですが、各キャラクターごとのルートでは私が前半で受けた印象とは全く違うシリアスさを抱えた内容になっています。

私が最初に入ったのは美音先輩ルートです。このルートでは、了に音楽の道をあきらめてほしくないという思いから美音先輩が義手をプレゼントしてくれます。再び音楽への希望を取り戻す了。しかし義手では演奏に限界があることを感じ、美音先輩の期待にも応えられないという意識を持つようになります。了は音楽や義手のこととは切り離しても美音先輩が好きなのか、といった自問自答や、美音先輩に思いを寄せる人物は了だけではなかったことから生じた昼ドラも真っ青のドロドロ具合。これらは序盤2~3時間のネガティブな印象を覆すのに十分でした。

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全員を攻略してみて一番好きだと感じたのは実梨ノーマルエンドです。
このルート前半での了は本当にクズ丸出しの思考をしています。実梨はどうせバカだから大丈夫、顔は可愛いしクラスでも人気あるみたいだから音楽に打ち込む代わりに恋愛してみるにはちょうどいいかな、みたいな卑劣な内心は実梨に見抜かれ、距離を置かれるようになってしまいます。そんな実梨に何とか認めてもらうため、子供のころの思い出などを頼りにどんな自分なら実梨に好きでいてもらえるかについて考えていきます。それに失敗し完全に愛想をつかされたバッドエンド。先にそれを見てからの、素直な気持ちを伝えてお互いに誤解があったことに気付くノーマルエンド。この差がとてもいいなと思ったのです。お互いに相手のことを想っていながらすれ違いがあったのが分かったあたりで思わずガッツポーズが出てしまったほどです。グッドエンドのように劇的な出来事によって心を持ち直す展開よりノーマルエンドのような展開の方が私は好きのようです。グッドエンド最後で美音先輩に助言をもらうあたりとかもすごくきれいで好きなんですけどね。


小瓜、唯ルートでもそれぞれ了との間に致命的なすれ違いが発生し、それに対して適切なアプローチができたかで分岐するのですが、音楽が生きがいだった了の苦悩や左腕の喪失に関わる問題がメインで扱われ、設定を活かした物語の構成になっているなと感じさせる内容でした。


本作において気になる点はやはり最初に述べたようにギャグが荒唐無稽すぎるのとたまに女の子の扱いがひどすぎることでしょう。いやそんなにバシバシ叩かなくても、とか、そのネタは全く伝わらないよ~とかにいちいちツッコんでしまうと物語に全く入り込めなくなってしまうでしょう。適度にスルーすることをお勧めします。
また、ギャグばかりの文章と後半のシリアスな展開はやはりマッチしません。その辺のバランス感覚ってすごく難しいと思うのですが、本作はあまりにも両者の融合を無視しすぎているように思います。
もう一つ挙げるとすると、キャラクターが全員「濃すぎる」。了と実梨については書きましたが、一番普通と感じられる小瓜でさえ「ぴきゃぅ」などの奇声といったギャルゲーでしか見ない特徴づけがあり、さすがに胃もたれしてきます。しかしこれらの登場人物が全員きちんと活躍するシナリオなのは流石といったところです。吹奏楽部でない唯は他のルートではほとんど絡みがありませんが、実梨や小瓜、美音先輩については他の人物のルートでもかなり重要な役割を果たします。こうした役割がきっちりしているゆえに、奇抜な特徴によるキャラクター付けがより不要に思えたのかもしれません。

また、攻略対象外の脇役キャラクターも脇役とは言えないレベルの活躍を見せてくれます。特に実梨の妹の蕾観(初登場時にどういう関係なのか分かりませんでしたが)や友人の航太郎はどのルートにおいても良い相談相手となり、時には衝突したり、激励を入れてくれたりとなくてはならない人物です。
特定のルートで重要な役割を果たす山口さんや幸乃さんもいい人ですね。


本作は音楽がテーマになっていることもあり、BGMはピアノ曲で固められており良い感じ。愉快な雰囲気の時に流れる、裏拍のリズムが印象的なあの曲が大好きです。
細かい推しポイントをもう一つ付け加えましょう。おまけ立ち絵鑑賞モードで複数人を同時に表示できる機能があるのって珍しくないですか?!

また、最初にあれだけ古い古い言ってきた今回のレビューですが、システム面は吉里吉里で作られており最近の作品と比べても不満がありません。既読スキップも高速ですし、セーブスロット数も十分。"直前の選択肢に戻る"という機能まで実装されており、これは相当珍しいのではないでしょうか。一つ、エンディング一覧画面が見つかりにくいところにあるのは注意です。メニューバーのヘルプ→このソフトについての画面の先にあります。多分これがないと全エンディング回収したかの判断がつきづらいんじゃないでしょうか。
私はエンディング回収はこの画面を頼りにやってきましたが、結構難しく感じたので分岐に関するアドバイスを書いておきましょう。
本作はおそらく好感度が一定以上ならグッドエンドに行けるというタイプのシステムではありません。選択シーンは相当な回数ある本作ですが、それらの大部分はルートには影響しないダミーになっていると思われます。各ルートにつき3~4個くらいの必須選択肢があり、そのフラグを立てたか否かによって分岐するのでしょう。そして、どの選択シーンがダミーなのか、そうでない場合にどの選択肢が正解なのかは初見では全く判断がつかないものが多いです。かなり前半の選択肢が必須となっている場合もあるので、エンディングが見つからないと思ったら思い切って2月上旬のデータからやり直してみるのも良いでしょう。上述したように既読スキップは優秀ですので回収も苦になりません。


最後に一つ。

私に蕾観ちゃんを攻略させろ~~!
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あ、航太郎さんとイチャイチャしてるシーンでもいいです。生き生きしてる蕾観ちゃんが見たい。

こんにちは。更新が2週間空いてしまいました。
今回はカビ布団さんの「そしてパンになる」の紹介となります。

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ジャンル:パン作りに燃える部活&恋愛ノベルゲーム…と思いきや…
プレイ時間:1ルート3時間/フルコンプまで8時間程度
分岐:メインはヒロインごとに1つで3ルート+おまけ(真)ルート、実質バッドエンドあり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2021/4 (R15版ver1)、2021/12(R18版)
備考:ノベコレ版は15禁、エロゲと饗版は18禁。今回は18禁版でプレイ


さて、本作については私がプレイする前からノベコレ版の評判を耳にしておりました。ほかに例を見ないような衝撃的な内容だと。
尖ったものが出しやすいのがフリーゲームの魅力の一つだというのはブログ開設当初にも述べてきた私ですが、ここまで驚きの展開というのを売りにされてしまうと私としてはプレイしないわけにはいかないかなと思っていたところ、たまたま18禁版のリリースを知りその場でダウンロード。どんな意味で衝撃的なのか、というのを確かめるような心持ちでプレイを開始しました。


本作の舞台はパン作りが主要産業で皆パン大好きな八紘町(はっこうちょう。パン作りに欠かせない"発酵"からの命名でしょうか)。主人公の波良嶋亮は御多分に漏れず大のパン好きで、どうしたらおいしいパンが作れるか日々研究を重ねています。幼馴染の八千代心音とともに部員を集めてベーカリー研究同好会を立ち上げ、部活としてもパン作りに取り掛かっていきます。部員になってくれたのは亮と心音のほかには学友会(生徒会のようなもの)も兼任するまじめな小頭(おず)さん、メロンパンの髪留めが目を引く帆那(はんな)さん、一風変わった味のパンを作る粕田(かすた)さんの3人。ギャルゲーらしく、本作はそれぞれのヒロインごとにルート分岐があります。


作者さんがお勧めする攻略順があるようなので、私はそれに従ってプレイしました。まずは帆那さんです。本作の中では最も王道系と言えるルートでしょう。パン作りに熱心な帆那さんとどうやらそれをよく思っていないらしい帆那さんの父親。父親をどう説得して帆那さんにはどんなサポートをするのか、といったあたりが見どころで、本作の中で亮が最も強かな感じがするルートともいえるでしょう。
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問題は次の心音ルートです。ここにきて本作の"衝撃的"の部分が徐々に明らかになっていきます。帆那さんルートでもほんの少しふれられた"八紘町の都市伝説"の話や、亮や心音の両親たちがそれにかかわっていそうなことが次第に明らかになります。このあたりをプレイしているときは、正直に言うと
「フリーゲーム史上類を見ないとまで言うほどか…? 確かに規模が大きいし亮にとって驚愕の事実というのは確かだけど誇大広告では?」
といった感想でした。しかしこの感想は心音ルート終盤で改められることになります。さすがにあの展開は想像できませんでした。その結末を前に亮と同様に呆然とすること3分。ようやく私も状況を飲み込みました。そして様々なことを理解するわけです。都市伝説について誰に聞いても歯切れの悪い答えしか返ってこなかった理由。パン大好きだった兄が突然パン嫌いになってしまった理由。
そして黒幕への怒りに震えるだけの私と違い、亮はもう一つ大切なことに気付いていました。"世界一おいしいパンとは何か"。作内で散々出てくるこの言い回しですが、ここにきてただの部活の目標とかの域を超えて別の意味を帯びてきます。いや、意味というより、もはや呪いでしょうか。
真実を知ることで苦しむという展開を含む作品はたびたび目にします。しかし本作では、そうした苦悩とはまた性質を異にしています。心音ルート最後の選択肢で、片方を選ぶと亮は完全にパン作りへの情熱を失い抜け殻になってしまいます。この展開、私結構好きなんですよね。極めてしまったゆえの絶望と諦観。このあたりが逆に亮の職人魂みたいなものを感じさせてくれました。

この後に粕田さんルートを読むと大変平和ですね。最もギャルゲーらしく、バランスも良いルートと言えるでしょう。帆那さんルートなどでもそうでしたが、パン作りのための課題は技術的な内容よりも粕田さん自身が自分の力量に自信をもつという精神的な面に帰着します。このあたりが上手かったですね。もしパン作りをする上での壁と打開策が技術的なものだったとしたら、おそらく私には専門的過ぎて理解できなかったでしょう。しかし主眼をメンタルの方に置くことによって、パン作りの経験などなくても理解できるし、そのうえでベーカリー研究同好会という設定がないがしろにされているとも感じないようになっていると思います。さらに、部活での関係を自然に恋愛につなげるのにぴったりです。
気になる点としては、食レポの方はもうちょっと具体的にしてほしいかなと感じたところでしょうか。「私の作ったパンおいしい?」「うん、おいしいよ」といったやり取りばかりになってしまうと、部活とか関係なしにただイチャイチャしてるだけじゃねーか、と思えてしまいます。まあ、ここを専門的で難しい指摘ばかりにしても先ほどと同じ問題がありますから、バランスが大事といったところでしょうか。


さて、これらのルートをすべて読むと、おまけルートに入ることができます。……という情報をもとにプレイしていたら、全然おまけなんかじゃないシナリオの量と内容でした。ここまで読み終えないと本作をプレイしたとは言えないでしょう。私は小頭さんルートと呼んでます。
このルートでは、部員で立ち絵もあるのになぜか攻略できないと思っていた小頭さんとの関係を進めることができ、事件についても心音ルート以上に真実に迫ることになります。というわけで、心音ルートを読んだ方はこのルートまですべて読むことを強く推奨します。


この作品をプレイするうえで気になる点も多かったので少し挙げます。
まずは、部活としての導入だったのにそれが物語後半で完全に忘れ去られていると感じた点です。例えば、小頭さんルートではちょっとだけ触れられますが、学園祭関連の描写が審査会以降全くないところなどは違和感がありました。普通学園祭本番がメインイベントであって、出展団体の審査を行う部分はあくまで通過点、中間目標でしかないでしょう。しかし本作では審査会終了後「目標がなくなってしまった」という空気になるのが理解できませんでした。学園祭の模擬店を成功させることを目標に設定したうえで、各人が技術向上に励む中で課題を見つける(あるいは、事件に迫る必要性を感じる)という展開で良かったのでは?
あとは、シーンごとの繋がりがわかりにくいと感じる回数も多かったです。寝たら日付が翌日に飛んだり、1週間後に飛んだりするので作内の時間がつかみにくかったり、あるいは登校したと思ったのに次のシーンではいつの間にか学園が終わっていたりといった混乱は、回数が重なると確実に読み手の没入感を阻害します。
長編ということを鑑みても誤字が非常に多いところや、バッドエンドはともかく正規のエンディングまでがあまりにも素っ気ないのも気になるところです。


といろいろ書いてきましたが、R15版公開からR18版・R15版ver2の公開までに立ち絵の追加のみならずシステム面の改善などもされているようで、今後に期待できる作者さんかなと思っています。旧verで書かれた他の方のレビューを見ると、文字表示速度の変更ができないといった記述がありましたが、私がDLしたバージョンではできるようになっていました。

最後にどうでもいいことを一つ。
"学園"はエロゲのお約束なんですかね? 商業作だと18歳未満は出せないから高校という名称は使えず、代わりに学園と呼ぶのがお約束といううわさを聞いたことがあるのですが、商業作をやらない私には分かりませんでした。私がいくつかプレイしたR18フリーゲームでは普通に高校生が出てきたような記憶があります。誰か詳しい方いたら教えてください……
本作ではR15版でも学園のようです。


私は以前、衝撃的なシナリオを持つ作品として「まい、ルーム」をレビューしました。本作にはあの時の衝撃とはまた違った驚きが詰まっています。さらにはこのテーマでしか語りえないメッセージ性を含む作品となっているので、気になった方はぜひプレイしてください。
それでは。

こんにちは。
今回はフリーホラーゲーム界の古典的名作と名高い、PIA少尉さんの「1999ChristmasEve」をお送りします。ver. 1が出たのが2000年末なのでなんと20世紀の作品となりますが、今プレイしても十分楽しめました。
ちなみに、私は本作をVectorからダウンロードしておいたような記憶があるのですが、今検索したら見つかりませんでした。もうweb archiveを使うしか入手法はないかもしれません。それもいつまであるかわからないので、興味のある方はお早めにダウンロードしておくことをお勧めします。

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ジャンル:山奥の教会(?)で散々な目に遭う典型的ミステリーホラーノベルゲーム
プレイ時間:攻略情報を参考にストレートでED回収すれば4~5時間? 私の自力プレイでは10時間以上
分岐:無数に存在。大きくAlive EndingとDeath Endingに分かれる。
ツール:吉里吉里
リリース:2000/12



本作はフリーノベルゲーム界においてはかなりの有名作なので、以前から存在は知っていたのですが、「とにかく難しい」「しかも長い」という評判を聞くのでなかなか手が出せませんでした。しかし思い立ってプレイしてみると、確かに有名になるだけの面白さのある作品だなあと感じます。

まずあらすじを簡単に説明しましょう。
主人公の明(名前変更可)はイブの夜に友人の由美香(こちらも変更可)を長野のスキー場に誘う。しかし現地に向かう途中で車が突然故障。電話も通じない山奥だったため、近くにあった教会に電話を借りに行くが、そこはこの世のものと思えぬ怨霊たちの住む恐ろしい場所だった……。そんな教会から何とか生還し由美香との関係を進めることができるのか。そして教会と怨霊たちの正体・真実を見つけて鎮めてやることはできるのか。


本作をプレイして特徴的だと思うのは、無数にある分岐の作りこみです。序章から最終話(第8話)までに分かれている本作ですが、序章のうちからとんでもない量の選択肢が出てきます。突然車のエンジンがかからなくなったトラブルの対処から、ドライブ中の他愛もない会話、ラジオで聞く音楽にまで選択肢が出ます。これらのすべてが物語の進行に関係があるわけではありませんが、その分量に私は圧倒されました。

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教会にたどり着いてからが第1話。ここからが本番です。鐘が鳴っているし人はいるはずなのに姿が見えない、この不気味な教会を探索していくことになります。どんな順番で探索するか、突然現れた怨霊や謎の殺人鬼にどう対処するか、動転してしまった由美香になんと声をかけるのかなどあらゆる選択の連続で、普通のノベルゲームからは一線を画すゲーム性がある作品となっています。選択肢を選ぶだけでなく、後半には自分でテキストを入力しないと進めない部分まであります(一字一句同じでないと通過できないわけではなく、複数の単語や表記ゆれにも対応していてすごい)。理不尽な点もありますが、自分の行動を変えることでストーリーが180度変わってくることもあるので、ゲーム世界に没入して自分が主人公になったかのような緊張感と恐怖を味わうことができます。

この、自分が物語の主人公として動いているという感覚、ゲームを楽しむうえで非常に大切だと思うのですが、本作はその点が非常によくできていたと思います。立ち絵や分かりやすい背景画像のない本作ですが、その分テキストで周囲の状況や自分の心理状態などもしっかり描写され、教会の内部を想像しながら読み進めることができます。
この感じ、私はとてもTRPGに似ていると感じました。TRPGをご存じない方のために一応説明しておくと、通常RPGと言えばコンピューターゲームを指すのに対し、TRPG(テーブルトークRPG)とは、シナリオとゲームマスター(GM)を用意し数人で集まって、プレイヤー自身がキャラクターの役割を演じながら進めていくゲームのことです。プレイヤーの想像力とGMの裁定次第でコンピュータRPGではできない柔軟性のあるゲームになるのが魅力なのですが、本作はこれに迫る"当事者感"といいますか、自分が探検しているんだという感覚が得られたのですね。多くのノベルゲームをプレイしてきた私ですが、これは初めての体験でした。
そう思うと、グラフィックや演出が簡素なのは、プレイヤーに想像を促すという点で非常に効果的であるように感じました。かわいらしい立ち絵がついて、さらにはボイスまでついて、といった大変に作りこまれた作品が最近は多いですが、そうするとどうしても"物語を傍観している"というような意識になってしまうんですね。ドラマとかアニメを見ている感じです。もちろんそれも素晴らしいのですが、それとは別の種類の魅力が本作には詰まっていると思いました。

簡単に分類すると本作のシナリオは第5話くらいまでで謎と情報がそろってきて、第7話以降が解決編といった形になっています(第6話は特殊)。途中までは次々に押し寄せてくる恐ろしい現象に恐怖しつつ、正直こんなに謎ばっかり提示しちゃって回収できるのかなとも思っていたのですが、7話で救われました。もうね、この展開を見ただけで、これまで頑張って攻略してきてよかったなと思ったんですよ。讃美歌の話とか、うまいですね。5話までの出来事がしっかりと解決されて大変気持ち良かったです。難易度の高い本作ですが、ぜひ謎が解決し、怨霊を鎮めるところまでプレイしてほしいと思います。


攻略についても少し述べましょう。作内でAlive Endingを迎えるたび、支配人のメッセージとして真エンディングへのヒントが少しだけ表示されます。これはこれで参考になるのですが、これだけで攻略するのは相当大変です。実際私は攻略に10時間近くかけたと思います。自力で解くことにこだわらない方は、攻略情報を探したほうがいいなと思う難易度です。公式サイトはすでに消滅しているのですが(一応web archiveを使えば見れます)、有名作なので検索すれば今でも非公式の攻略サイトが出てきます。
そこでは完全に答えが書いてあるので、私の方で自分が詰まったポイントをいくつかヒントとして書いておきます。以下、クリックで必要な部分を展開してください。

森の迷路が越えられない 迷路を抜ける方法は、大樹か教会にたどり着くしかありません。第3話に進めるのは教会の方です。作内ヒントでいわれる通り4話に進むには最短ルートでたどり着く必要がありますが、一見同じ距離に見えるルートでもかかる時間が違うことがあるので注意です。5分間に進める距離が倍になっている箇所があります。また第2話のAlive Ending回収には、大樹にたどり着く前にあるアイテムを回収しておく必要があります。

第5話に進めない 第4話序盤の選択肢で旅行者カップルを助けに行くわけですが、ここで由美香から課される6連4択が難関。作内ヒントでは、信頼が得られる選択をせよと言われますが、これは分かりやすく言えば「カッコつけるな」です。

第7話で隠し通路が見つからない 自分ばかり探索するのではなく、少し遠慮して由美香にお任せするのもありかもしれません。

こんにちは。最近コロナがちょっと収まってきて、遠出の予定ができるなどして更新がしばらく空いてしまいました。そんな感じで久々となりましたが今回のレビュー記事は4th clusterさんの「Campus Notes vol.2」です。今回の記事は長めになっています。


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ジャンル:大学生のSF青春恋愛ノベルゲーム
プレイ時間:10時間
分岐:3ルート(後述)
ツール:吉里吉里
リリース:2015/4


本ブログでこれまで取り上げた中では最長のプレイ時間となる長編ノベルゲームですね。あらすじを簡単に紹介しましょう。

主人公桐葉悠太は高専を卒業し筑波大に3年次編入した新入生。入学式で同じ経歴の風馬と友人になり、何かしらの打ち込めるサークルに入ろうとポスターを見ていると、成り行きで個性的な軽音サークルに入ることに。そこで出会った3人の女の子と次第に仲を深めていく悠太。しかし彼女らはそれぞれなかなかの秘密を抱えているようだった……。


プレイする前から分かる本作の特徴として、具体的な舞台が明言されているというのがあります。ズバリ茨城県の筑波大学です。モデルになった学校などがあるんだろうなと感じられる作品は他にもありますが、本作ではがっつり大学の名前が出るし、周辺の地名などもいろいろ出てきます。そして本作を作った4th clusterさんは筑波大の卒業生によって構成されたサークルのようです。背景写真などもおそらく作者さん自身で撮影したキャンパスの写真なのでしょう。その分登場人物たちにもリアルさを感じさせる生き生きとした描写が多く、いい青春だなあと感じさせてくれます。

そして実際にプレイしようとexeファイルを起動すると、いきなり豪華なPVが始まって驚かされます。もうこの時点で本作のクオリティーがとても高いことを感じられました。音楽も自身で作成しているようですし、UIの作りこみもあって大変プレイしやすくなっており、かなり長いシナリオなのですがその長さを感じさせないような気持ちよさがあります。


話の中身に移りましょう。悠太たちが入ることになった軽音サークルでは5人のメンバーでバンドを組むことになりました。ギターのうまい先輩のアイカさんが中心となりますが、他のメンバーは悠太含め楽器経験すらなかったりなんとカラオケで歌ったこともなかったりとそう簡単にはいきません。読み始めた序盤のうちは、どうやってここから音楽を作り上げていくのかなあと思っていましたが、本作の中心はバンド活動ではありませんでした。

上の書き方ではなんかネガティブに感じるかもしれませんが、バンド活動は本作の幹の部分という感じがしたんです。しっかりとそこに話の軸や土台があって、そこから各攻略対象の3人のルートにあたる枝が元気に伸びて葉を茂らせているイメージです。スタート地点はバンド活動であっても、ルートに入ると悠太と女の子の問題とか秘密みたいなところに焦点が行くんですね。なのでプレイ前に思っていたよりは本作はギャルゲー要素が濃いなあと感じました。もちろん話が進んでもバンド活動は続けていますし、そこから繋がっている秘密だったりするので、軸が忘れ去られてしまうわけではありません。しっかり幹からの流れを汲んだ枝が伸びています。この辺のバランスがうまいなと思うところです。


個別ルートのことをちょっと書きましょう。選択肢はそこそこありますが、本作の分岐は簡単です。まず四駆の告白を断るか否か。断ったら、誰が好きと告げるか。初見でも簡単に狙ったルートに入れるでしょう(ちなみにルートに入った後は選択によりゲームオーバーもあります)。それぞれのルートはこんな感じ。

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まずはポスターを見ていたらいきなり悠太に抱き着いてきた不思議ちゃんの雪丸四駆(ゆきまるよんく。すごい名前ですね)。彼女には重大な秘密があることが、序盤のうちから明らかになります。彼女はなんと筑波大の研究のために作られたロボットだったのです。記事冒頭のジャンルのところにSFと加えておいたのはそういうことです。ロボットである彼女は知能は十分ですが、まだまだ人間社会の常識とか感情が十分に備わっているとは言えません。そんな彼女が悠太と恋仲になって人間として成長し、音楽表現の幅を広げるというのはなるほどです。おそらく本作のメインルートでしょう。クライマックスのアクションシーンも見どころです。

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次に、悪に憧れタバコの代わりにココアシガレットをいつもくわえてるギターのアイカさん。そう、悪に憧れているけど悪になり切れないんです。だってタバコは体に悪いし……。そんな感じなので、最年長なのに周りにいじられたりしているキャラですが、私は結構好きでした。「いい人ですね」と言われるのを嫌う彼女がなんでそうなったのか。正義より悪を目指すのが単に、カッコいいから、ではなくきちんとした理由があったのがよかった。そんな一筋縄ではいかない先輩の心を悠太がどのようにつかむのか、見届けてください。

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最後に運動神経抜群で熱血キャラの天辻陽。大変な負けず嫌いで、悠太のことは出会った当初ライバル視どころか「嫌いです」と宣言するくらい。剣道部にも所属し、高校時代に相当な成績を残したという話ですが、どうやら最近はうまくいっていない様子。体力では全く及ばない悠太ですが、陽のメンタル的な部分でサポートしていきます。また、陽は風馬とは幼馴染で兄妹のような関係。いつも彼女欲しいぜ~みたいなことばかり言ってる風馬が、兄としてかっこよいところを見せるのもこのルートなので、期待してください。


攻略対象3人を紹介しましたが、本作にはほかに脇役が2人います。悠太の姉で完璧超人の理奈と、とにかく主人公らに敵意むき出しの謎の人物、三全音三弦(さんぜのんみつる。これは読めない)。この脇役たちも結構魅力的なんです。特に三弦の方は話の根幹にかかわってきます。なぜそこまでの悪意を秘めているのか。その理由は四駆ルートで明らかになるので、これを最後に読むのが読了後のおさまりがよいのではないでしょうか。最初のシーンが帰ってくる物語の構成となっており、私がこれを大好きなのもあります。
(私は事前情報なしプレイだったので四駆ルートは最初に読みました。だってあんな目で見られたら断れないじゃんっ)



さて、本作全体の特徴として、コメディシーンの中であっても結構インテリというかうんちくが挟まれることが多いのも挙げられると思います。アイカさんの正義の話であったり、ロボットと人間の区別であったり。言い回しもややインテリぶったところがあると感じられるかもしれません。レビュー執筆のために冒頭を読み返して気付いたのですが、アイカさんの四駆への「お前第一条はどこへやった!」は、ロボット三原則のことですね(第二条の方が場面に合っている気もしますが)。こうした話を楽しめる読者なら、本作はさらに面白いものになると思います。
それとは別にことわざをもじったネタも多かったりします。たまに風馬の軽い下ネタも。世間知らずの四駆が、ピロートークは修学旅行でするものと勘違いするあたりとか結構笑いました。


全体的に非常にクオリティーの高い作品だと思うのですが(オススメにしようか迷いました)、気になることも少しだけ。まずは誤字の類がだいぶ多いことです。間隔→感覚や接地→設置などの単純な変換ミスは分かるのですが、「奥面もなく」などは自然に誤変換しないと思いますしどうなっているんでしょう。うんちく系のネタも多い本作ではかなり気になった点です。英語の絡むネタでteachの過去形がtoughtになっていたのも目についてしまいます(正しくはtaught)。
もう一つは投げっぱなしの謎が多かったところです。陽のルートでの三弦の行動の動機とかはフォローしてほしかった感じがします。エンディングのまとまりが微妙なんですよね。私が四駆ルートを最初に読んじゃったせいでしょうか。


最後に、本作の最初の選択肢についての話をしましょう。入学式後に風馬とどうしようかという話になったところで、サークル選びの3択選択肢が出ます。しかし本作では2番目の軽音サークルしか選べないのです。最初にプレイしたときは、これはエンディングを見るごとに選択肢が解放されていくタイプかなと思ったんですがそうではなく、どうあがいても軽音しか選べません。後から調べて知ったのですが、本作は3部作の2作目だったんですね(タイトルにvol.2とあるのも納得)。1作目と3作目がそれぞれ残りの選択肢に対応するようです。3作目についてはSteamで1222円で販売中です。本作に体験版が同梱されているので気になる方はそれを読んでからでもいいでしょう。ちなみに11/2までハロウィンセール中で733円で買えます。私もそれで買いました。無料でサウンドトラックがついてくるのもうれしい。
作者さんがすでに解散しているため、1作目についてはおそらくもう入手手段がないようです。残念。3作は独立したつくりになっているため単独で楽しめ、本作や3作目プレイの妨げにはなりません。


というわけで、今回はCampus Notes vol.2のご紹介でした。生き生きとした大学生の青春を感じられる良作です。ぜひプレイしてください。シリーズの3作目、Campus Notes : forget me not.の購入を検討される方は割引期間がもう少しで終わるのでお急ぎください。

それでは。

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