フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
初めての方は、ぜひごあいさつをご覧ください。評価の基準については、レビューについてに記してあります。
記事一覧ページを作りました。記事探しはこちらから。Twitterはこちら。リンク等はご自由にどうぞ。
YouTube始めました。フリーゲーム攻略動画などを投稿してます。

2時間前後

こんにちは。今回は禁飼育さんの「家畜おじさん」のレビューをしていきたいと思います。

katicu1

ジャンル:道端でおじさんを拾うガールミーツボーイ系(?)ノベルゲーム
プレイ時間:2時間弱
分岐:基本一本道。ゲームオーバーあり
ツール:NScripter
リリース:2012/1
注意:暴力的な描写あり


禁飼育さんの作品と言えば、以前本ブログで「スレガル」(18禁)を扱いました。尋常でないねちっこさの偏愛とその裏返しの悪意、直接的な性暴力描写など非常に刺激的で取扱注意な作品でした。本作はその禁飼育らしさは失われることなく全年齢相当のマイルドな表現となった作品でなかなか唸らされましたのでぜひご紹介しようと思います。

ただしReadMeにも
【対象年齢】みんなプレイできるけど、不安ならプレイしない方がよいぜ
【ジャンル】まったりほのぼのはんざいぎりぎりあうつさくひん
と書かれる程度には人を選ぶと思いますので、その点承知の上プレイしてみてください。(禁飼育作品の中で随一のマイルドさであることは間違いありません)


いつも通りまずはあらすじ紹介から。
本作の主人公は(多分)小学生の晴々くもり(はればれ・くもり。この作者さんの登場人物は変わった名前が定番ですね)。2か月前に交通事故で両親を亡くしてしまったため、現在はほぼ一人暮らし。お金の管理や食べ物の用意は近所に住む伯父さん(おっちゃん)にやってもらっていますがあまり仲が良くないためほとんど必要最低限の事務的な会話しかしていません。ちょっと帰りが遅くなっただけで怒ってくるし、自分の言い分を聞いてもくれないおっちゃんにイライラする毎日。そんなくもりはある雨の日、家の前の塀に見知らぬおじさんがぐったりともたれかかっているのを目にします。帰るところもないというおじさんを放っておけないと感じたくもりはとりあえず家で雨宿りしつつ一泊してもらうことに。こっちの言う事を聞く気もないおっちゃんと違い、遠慮がちにもお礼を言ってくれたし意思疎通もできたおじさんに少しだけ心を許したくもり。おじさんの正体は何者なのか、おっちゃんとの関係は改善できるのか。くもり自身は大人と触れ合うことを通して成長していくことができるのでしょうか……

katicu2


本作の良かったところとしてまず、家族愛というテーマがしっかり描かれていて感動的なエンディングにつながっているところをあげたいと思います。あらすじのところでも書いたように、くもりは実の両親を亡くし、親権者であるおっちゃんとはうまく行っていません。だから必要な時以外は別れて暮らしているけれど、寂しさは埋まることはない。その状況でおじさんを拾って家に上げ、何気ない会話(おじさんは喋れないので筆談だけれど)や家事のやり取りをする中で、家に家族がいて誰かのためにご飯を用意したり、ちょっとした出来事を報告したりといったささやかな幸せの良さを再発見していく流れがいい。さっき知り合ったばかりのおじさんだからこそ日ごろの不満を吐き出したり、ちょっと素直にしゃべってみたりができたんですね。
それに、おっちゃんだってくもりに意地悪をしようとしているわけではありません。あんまり懐いてくれないくもりとの距離感がうまくつかめなくてすれ違いを起こしちゃってるだけなんですよね。おじさんを最初は敵視していたおっちゃんも、町内会のやり取りなどをしていく中でくもりとの関係を見つめなおす機会をおじさんにもらうことになる。この化学反応が気持ちいいんです。


本作はそんな心温まるシーンだけでなく、禁飼育作品らしいどす黒い感情やややこしい出来事もあったりします。その担当が学校で出会うがびょう先生と、明らかに変な宗教か怪しいオカルトチックな格好に身を包んだきもいおっさんです。がびょう先生は初登場時は爽やかな感じだけれどふたを開けてみればどうしようもないロリコン。「スレガル」のジドノ先生ほどとは言いませんが危険な男です。
きもいおっさんは(本当に作内でそうとしか呼ばれない。ちょっとかわいそう)いかにも怪しい風貌ですが、くもりに注意喚起と数珠をくれます。この辺少しごちゃごちゃしてるんですが、それぞれのキャラが立っていて読むのに退屈しません。

katicu3

そして最終的にそのごちゃごちゃした人物たちや出来事が収束してあのエンディングに向かうのはびっくりです。途中がびょう先生のあたりで不穏な雰囲気が強まったりはしたけど、万事解決のこのラストシーンは読後感もよく、心からよかったねと言えるような内容でした。
しかもそれらが、きちんと家族愛の形というテーマに結び付いているんですよね。おじさんは結局何者だったのかとか、きもいおっさんの警告は何だったのかとか、途中で出てきてただのギャグ要因だと思っていた変な猫までがごまかされずに一つの真実に収斂していく様は見ていて気持ちのいいものでした。


またタイトル画面にもちょっとした仕掛けがあります。物語の進行に応じて変化するタイトル画面でキャラクターをクリックすると、その時点でのキャラ紹介が読めるのです。どのタイミングでどう変化するのかまで私は全部追えていないので、その辺を注意しながらプレイしてみるのも楽しいと思います。

攻略について、単純にやると引っかかるかもしれないのでそこは注意です。詰まったらReadMeをちゃんと読めばヒントがあります。

不穏なシーンだけでなく、独特なギャグセンスなどももしかしたら人を選ぶかもしれませんが、エンディングの綺麗さ、家族っていいものだよなと思わせてくれる温かいテーマはきっと多くの方に刺さると思いますので、作品紹介を見て面白そうと思った方はぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回はNeutralさんの「LEVEL」のご紹介となります。

level1

オススメ!
ジャンル:謎解き脱出ゲーム
プレイ時間:私の初見ノーヒントプレイで2時間半
分岐:なし
ツール:Unity
リリース:2024/12


一昨日公開されたばかりのNeutralさんの最新作です。Neutralさんといえば寿司打をはじめとするタイピングゲームが大変有名かと思いますが、脱出ゲームも作られておりそのクオリティもまた高いのです。
Flash時代の脱出ゲームが好きでフリゲ2023で投票したりもしました。

そんなNeutralさんの新作発表と聞き早速行ってみると、難易度は★3つ(じっくり)とのこと。腰を据えて挑む必要があるなと構えていたのですが、プレイしだすと面白くて一日で一気にクリアしてしまいました。


本作は脱出ゲームのお約束通り、見覚えのない密室で目を覚ますところから始まります。
部屋には回転する動物のイラストや何かがぴったりはまりそうな穴、アルファベットの書かれた引き出しなど、いかにもな仕掛けがありそうです。こういう風に、ここに謎がありますよ~!と主張してくれると解く側としてもそこに集中できていいですね。
難しい脱出ゲームは得てして細かいクリックポイント探しになったり、背景に同化して見つけづらいアイテムを取得しなくてはならなかったりになりがちですが、本作では解くためのヒントが見つからなくてイライラするというような時間がほとんどありませんでした。限られたヒントでしっかり正解を導き出せるような上質な仕掛けになっていると思いました。
level2

とはいっても本作の難易度はNeutral作品の中でも難しめの★3。簡単だというわけではありません。
ボリュームはかなりありますし、何気なく画面に入り込んでいたあれがヒントだったのか!といった気付きも必要になってきてしっかりと手ごたえと達成感を得られる難易度です。
私は2部屋目の光るアイコンのギミックが一番好きでした。なるほどそこを見るのかといった発想と、それさえ分かってしまえば少し考えるだけで済むシンプルさが良いですね。
ちなみに本作の謎を解くにあたりメモ帳などは必須と言っていいと思います。出てきた図形や文字のヒントを紙に書き起こしてじっくり考察しましょう。計算要素もあるのでよほど記憶力と暗算力に自信のある方以外はメモなしで挑むのは無謀だと思います。


さて、FlashからUnityへと開発ツールが移行されたのに伴い、画面は3Dのグラフィックとなっています。部屋の中の仕掛けが移動したり回転したり、アイテムを自由な向きから観察することができます。
level3
上のスクリーンショットはアイテムの観察中です。画面をドラッグすることで自由にアイテムを回転させることができます。この機能を使用しないと解けない謎もいくつもあり、3Dのメリットをふんだんに生かしたギミックとなっているのも良いですね。逆に言うと立体図形を頭の中で組み立てたり回転させたりするのが苦手だという方にはかなり難しいギミックもあるかもしれません。パズルの力が試されるものも複数あります。

しかし謎解きが苦手な方もご安心ください。なんとYouTubeに公式のヒント&答え動画があるのです。自力で解けたときの感慨は失われてしまうと思うので、一度じっくり悩んでからにするのがおすすめではありますが、ゲームページの上部にリンクが張られているのでどうしても困った場合はそちらから動画を見てみると良いでしょう。
私は今回はやらなかったですが、謎解き系のゲームで詰まった時はセーブして一晩二晩くらい放置し、別の日にやってみると案外するっと解けたりするのでそれもおすすめです。本作にもセーブ機能はついているのでお試しあれ。


また、アイテムの金属光沢までグラフィックが作り込まれていて素晴らしいです。
今回の記事に出てきた部屋はゲーム開始直後にいる場所ですが、本作クリアまでには雰囲気の違う部屋があと3部屋も残っています。謎解きに頭をひねりながらも、ぜひグラフィックも堪能していただきたいと思います。


というわけで今回は「LEVEL」でした。脱出ゲームの定番なギミックからやや型破りな珍しい仕掛け(特に一番最後の暗証番号のところは脱出ゲームの謎として解くのは初めてでした)までボリューム満点でありながら、ありがちなストレスを排したプレイしやすい作品となっていると思いますので、ぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回はソロフィリアさんの「PaintPain ~少女はメイドの手をとって~」のレビューとなります。

paint1

ジャンル:芸術家の百合ノベルゲーム
プレイ時間:2時間
分岐:なし
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2024/8


本作は今年の夏のコミケで知った作品になります。一目で百合と分かるインパクトあるイラストを中央に持ってきたチラシ、しかもいい紙に印刷されているものを貰い、後でプレイしようと会場で名前を覚えたサークルさんです。実際にプレイするまで1か月かかってしまいましたが、単に可愛らしい女の子同士がイチャイチャしている作品ではなくしっかりとしたテーマと確かな文章力のある作品でしたのでご紹介します。


まずはいつも通りあらすじをご説明。

主人公の六華嗣治(読みは りっか・つぐはる でいいのかな?)は大金持ちの家系に生まれ、一応投資家を生業としているものの稼ぎを出さなくても問題ないため自由にやっているというなんともうらやましい人物です。祖父が芸術系の高校である六華学園に多額の出資をしており、嗣治は学園祭に招待されていました。そんな彼が学園祭で出会ったのは月崎若葉という生徒。彼女の描く絵に一目ぼれした彼は、経済的支援は惜しまないからぜひ芸大へ進んでほしいと提案。さらに大学へ進んだ彼女を住み込みの家政婦として雇い、屋敷の家事を任せる代わりにアトリエや画材を好きに使ってもらうことにします。
そして3年後、同じく若葉の絵に心を動かされて六華学園に進んだ親戚の茶山モカは嗣治へ金銭支援を依頼しに来た日、彼の屋敷で絵を描く若葉と対面。弟子にしてほしいと頼み込みます。そんなモカを追ってきた彼女の友人の黄原めるも混ざって屋敷は突然の百合入り乱れ。彼女らがこれまで積み重ねてきた経験と信念をもとに芸術論を交わし、そして開花する絵画への熱意と才能。芸術を軸に絡まりあって成長する百合物語が始まるのだった…

こんな感じでしょうか。


本作の序盤はコメディ的雰囲気多めで進行していきます。ヒロイン若葉は機械が苦手でコーヒーメーカーから白湯を出したりしてますし、なぜか趣味でメイド服を着ています。嗣治は悪い人ではないですが何かとからかわれがちなキャラ。お金持ちなのに家電選びが異様に優柔不断ですし、学園祭で初めて若葉にあった時には変態扱いされて(実際かなり奇特な行動でしょう)、モカちゃんには引きこもりとか暇人とか言われたい放題。特にこのモカちゃんはかなり気の強い毒舌キャラなため、彼女との絡みは特に笑えます。まあ、それは言いすぎじゃない?っていうのもありますが…
そんなモカが若葉と出会うシーン。ここから物語が大きく動き始めます。

自身に進路を決意させた若葉を前にして心酔した様子のモカ。対する若葉の方も、強い決意や行動力を秘めたモカの姿に胸を高鳴らせます。出会って早々に百合カップルの誕生か…? と思いきやそう簡単に事は運びません。今度はとにかくモカのことが大好きな少女黄原めるが乱入しまさかの百合三角関係が発生するのでした。
しかも翌朝には、若葉の趣味で女の子は全員メイド服姿に。めるはいいとして若干不満そうな表情ながらもきっちりメイド服を着こなしたモカを見てなんか笑っちゃいました。

これ、その時の立ち絵自体がふざけていて面白いのかというとそうではなくて、モカのキャラクター性と衣装の不一致(あと表情と台詞)が面白いんです。つまり、これは本作において各キャラクターが活き活きと描かれていることの証左だと思うのです。そして、それぞれの人物がどのような背景と考え方を持っているのかという描写は、後半の展開へとつながるカギとなります。


とはいえここまで読んだ私の感想としては、これは可愛い女の子たちがイチャイチャしてるのを眺める萌え系コメディだろうと思っていたのです。実際この後もしばらくは甘々ラブコメが続いていきます。
paint2

作品ページのサムネイルにも使われているこのキスシーン。なんという甘さでしょうか。
モカちゃんの方から勢い余ってしてしまったという、いかにもラブコメでありそうな展開なのですが、このあたりから本作の別の顔が見えてくるのです。


翌日、画材を買いに行く道中で若葉がモカの過去を聞いたり、モカに若葉の新しい絵のモデルになってもらったりといった過程で次第に明らかになってくる皆の絵画への思いと人生観。若葉がなぜメイドにこだわるのか、モカの強気な性格の源泉は何なのか、絵画の作風と表現対象への思い入れ。そういった要素が物語としての展開や人間関係につながってくるところが非常にうまいと感じました。


これについてはあまり書きすぎるとネタバレになるので1つだけ挙げておきましょう。
若葉が幼いころに聞いたおとぎ話には決まってお嬢様とそのお世話をするメイドが登場しました。しかしどんなお話もお嬢様は王子様に見初められ、最後には結婚して幸せに暮らすのです。そこに彼女を支えてきたメイドの姿はありません。そんなお決まりの運命に逆らうために、若葉はメイドとお嬢様だけの物語を紡ぐことを決めたのでした。
なるほどここまで聞くと、彼女がメイドの姿で美少女の絵を描き、嗣治に対してもメイドを演じる理由が分かります。しかしこの設定はそれだけではないのです。

おとぎ話の世界から綺麗なお嬢様を絵画という形で顕現させるのが自分の使命だと思っていた若葉。ファンタジーの世界から形ある絵としてこの世に生み出すという方法でこれまで制作を行っていたため、彼女の絵にもともとモデルは不要だったのです。しかしそこに突然現れたモカはあまりに彼女の理想とするお嬢様に近すぎました。”可憐でありながら、湧き出るマグマのように力強い瞳を持った少女”であるモカに自身の理想を重ねて同一視するようになります。これはモカにとっては残念なことでありました。

初登場時に出てきたように、モカは若葉の描く絵に惚れたのです。そんな彼女が絵を描くことへの興味を失い、モカの存在を見るだけになってしまった。しかも彼女が見ているのはそれまでの人生と人脈と芸術観を持った個性ある人間としてのモカではなく、若葉の脳内に存在する理想のお嬢様の残像でしかないのです。このすれ違いが明らかになりモカはショックを受けて一人自宅へと帰ってしまうのです。


このシーン、私はすごく唸らされたんです。ついさっきまで仲良し百合を見せられていたのに、しかも2人とも美術という同じ業界にいることに意気投合していたのに。こんなことになるとは想像できなかった。しかし同時に納得感のある展開でもあるんです。それぞれの人物の考え方がしっかり伝わるシナリオとなっている故でしょう。このように、人物にまつわる設定が発展してほかの人物と絡まりあって物語を前進させていく、そうしたところに本作の良さが詰まっているように感じるのです。

演出手法についてもよく考えられていて、前半におとぎ話とか映画に関連するエピソードが出てきたのを受けて、終盤でレトロ映画風のシーンが挟まったりといった気持ちよさが随所に感じられます。

paint3

ここまでレビューであまり触れてこなかっためるについても同様です。むしろ終盤は彼女の見せ場。感情が高ぶれば校舎や校門にまで絵を描いて歯止めが利かない問題児のめるでしたが、その独特な芸術観と感情の機微を見逃さない観察眼はすれ違いを起こした若葉とモカを救ってくれました。猪突猛進で多少言葉が悪かったりもしますが、彼女の熱意がなければ若葉とモカはあそこから前に進むことはできなかったでしょう。本当にいいキャラしてるなと思います。

そんな3人がこの件をどのように消化して芸術への糧にするのか、それはぜひ皆さんの手で見届けてあげてください。


話は変わりまして本作のイラストなどシナリオ以外の部分について。
絵を描く少女たちの話なだけあって大変可愛らしい立ち絵がそろっています。メイド服も細かいところまで書き込まれていて凄い。制服立ち絵だけ左右反転時に胸ポケットの位置が矛盾するのが気になる、といったところでしょうか。
背景は写真素材です。お屋敷や美術館の品のある感じが演出されていてピッタリなんじゃないでしょうか。BGMに関してはピアノ曲中心でやや渋めの選曲。これも芸術というテーマにマッチしているように感じます。
システムに関してはもう少し頑張ってほしかったというところでしょうか。レビュー執筆のために特定のシーンを読み返そうと文章スキップしたらフリーズしたとか、背景が真っ黒で動かないとかの状況が多発してしまいました。


というわけで今回は「PaintPain ~少女はメイドの手をとって~」でした。
以前ちらっと言った、ノベルゲームの総合芸術的な面が生きた作品となっていますので、ぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回はりっとさんの「スノードームは夢を見るか?」のレビューです。

snow1

ジャンル:ファンタジーノベルゲーム
プレイ時間:2時間
分岐:なし
ツール:Live Maker
リリース:2015/3


本作は実は同作者の前作「snow date」の続編となっているので、前作を先にプレイするのが推奨されています。「snow date」は10分から15分程度の短い作品なので手軽に読めるでしょう。

「snow date」では、「この世界はスノードームの中なのよ」という印象的だけれども単体で意味の分からない台詞が出てきます。本作は同じ世界観の中で、この台詞がどういう意味だったのかが次第に明らかとなっていくお話と言えるでしょう。


さて、本作の主人公の少女は非常に癖の強い人物です。ある雪の日、町でこれまた素直じゃなくてややこしい男の子とぶつかり転んでしまいます。お互いに罵り合ってその日は別れた2人でしたが、翌日同じところでまた顔を合わせることに。気まずい沈黙かと思いきやまたも口げんかが始まるのでした。
お互いにうっとおしいと思いながらも先に立ち去るのはなんか負けた気がして意地でもどかない2人。何時間経っても雪が降り積もっても寒さに耐えながら絶対に動かない2人、もはやツンデレとかいう域を超えてバカというか仲良しというかなんというか…

物語の序盤はこんな感じで素直とは正反対の2人がお互いをバカにしたりいたずらしたりしながらも、次第になくてはならない存在へと変化していく様子がじっくりと描かれます。不本意そうにしながらもお礼を言うことを覚えたシーンなんかは偉いね~とほめてあげたくなります。ラブコメのような状態で見ていて楽しいのですが、これは本作の導入部分にすぎません。

snow2

クリスマスの前の日、どうせ一人ぼっちで寂しいんだろなどといつものように突っかかっていく二人。話し相手くらいにならなってやらないこともない、と何とも遠回しに明日も会う約束をします。
そんな翌日、女の子はいつものようにベンチで待っているのですが、男の子はいつになっても現れません。その日は妙な胸騒ぎがするまま帰宅することにしますがやはり不安。翌日、森の方で見たという目撃証言をもとに探しに行くことにします。しかし結局見つけることは叶わず、彼の家に帰った痕跡もなく、完全に行方不明となってしまうのです。

失意の中帰宅した女の子のもとへ、突然「願いを叶えてやってもいいんだぜ」などと言う怪しい男が現れます。怪しいとは思いつつも藁にも縋る思いで彼を返して欲しいと望んだ少女は、クリスマスの2日前、彼と喋っているところに戻ってきます。そう、本作はループものであったことがここで明らかになるのです。



ループものに慣れた皆さんなら大体予想がつくでしょう。何度ループを繰り返そうと、簡単に彼を救うことはできません。森へ行かないよう忠告したり、見張ったりもしますがことごとく失敗してしまいます。そんな彼女がたどり着く真相とは一体どんなものなのでしょうか。


ループという形式をとる作品は他にも多くあります。当然ながら同じ時間を何度も繰り返すことになるため、中にはその繰り返しの描写が単調でダレてきてしまう作品もあるのですが、本作は本筋に必須な描写だけに絞ってテンポよく進んでいくのが長所の1つかなと感じました。

2周目の段階では森へ行くなと忠告し、それ以外はいつものように彼とじゃれ合っていたところまで書かれていますが、再度救出に失敗して以降はもう各周回ごとの様子が細かく出てくることはありません。その分女の子の頭の中には彼を救出することだけしかない様子がプレイヤーにも伝わってくるのです。

その後もメインのストーリーに絡んでくるシーンだけが細かく描写されるので本筋が掴みやすく、また途中で飽きたりすることなく読み進められるのです。
本質でない部分が省かれている分密度が高く、プレイ時間のわりに大作をプレイした気分にもなれます。


そんな感じで結構な分量のある作品なのですが、この間ずっと登場人物に名前がないのはさすがに寂しいなと感じました。レビューでも男の子とか女の子としか書けませんし、作内でも常にお互いのことを「あいつ」「おまえ」のように呼んでいます。15分の短編とかならそれでも十分かもしれませんが、2時間ほどそのままだと名前がないのがかわいそうな気もします。あとはたまにどっちのセリフか分かりにくくて一瞬考えないといけなかったりといった場面も出てきます。

snow3


さて、本作をプレイしていいと感じたところの1つとして、優しい雰囲気を挙げておきましょう。
先述したようにこの物語に出てくる人物はきつい性格をしているわけですが、そんな2人の交流からこんなに優しいというか微笑ましい空気感になるとは驚きでした。表面上の冷たい態度だけでなく、内心の友情や良心みたいなところがしっかりと描写されているおかげだと思います。子供って変なところで意地を張ることがあるよね~、と温かく見守りながらプレイしていくことができます。ツンデレ系の恋愛ものなどとはここが決定的に読み心地が異なるかなと感じました。

また、世界観もそれに合わせて優しく、程よくファンタジックに作られています。私は以前、同じ作者さんの作品で「わたしの愛する、壊れたせかい」や「空っぽたまごは泥を見る」などをプレイしているのですが、本作もこれらに近い雰囲気で進行します。本作には悪役っぽい人物(?)も登場するわけですが、それ以外の町の人なんかは皆優しく良識のある大人たちといった感じで安心して読み進められますね。童話風の世界観とスノードームというアイテムの相性もばっちりだと思います。


逆に少し気になる点は、結局この世界で2人がどうなるのか、謎の男の正体は何なのか、といったところにはっきりした答えが与えられないまま終わってしまうところでしょうか。意味深なセリフによってプレイヤーの興味を引いたり、「男の言う対価とは何だろう」みたいな疑問を引っ張って物語の推進力にしたりといったあたりは上手いなあと感じるのですが、最終的に疑問の解消に向かわない印象を受けました。
私はどちらかというと「プレイヤーの想像にお任せします」タイプの作品よりははっきりした結論が提示されるものの方が好きなんですよね。

ついでにもう一つ、序盤の特定のBGMがひどい音割れを起こしているのはさすがに気になりました。テストプレイしたら気付かないはずはないだろうというレベルだったのでもしかしたら私の環境の問題なんでしょうか?
選曲などの意味では雰囲気に合っているなと思ったので少しもったいなく感じました。

ちなみに本作には立ち絵はありません。しかし大変想像力をかき立ててくれる文章ですので寂しさを感じたりすることもなく、物語に合っているように思います。


こんなところでしょうか。強情ツンデレ少年少女が心を開いていくさまを見たければ本作以上の適任はいないと思います。おまけで男の子視点の方も読める仕掛けも良いですよ! ぜひプレイしてください。

それでは。

こんにちは。今回は現屋さんの「よんひくいちは」のレビューとなります。

4-1-1

ジャンル:不思議な友情ものノベルゲーム
プレイ時間:2時間
分岐:なし
ツール:吉里吉里
リリース:2014/3


フリゲ2023の審査進行表を見ていて本作の名前を見つけました。プレイしたことはないけれどなんか聞いたことのあるタイトルだなと思ってググってみると、道玄斎さんのレビュー記事がヒットして、ああここで見たことがあったのかと納得(ついでにシートにDL先URLをコメント追加)。せっかくなのでプレイしてみることにしました。すると思いのほか良い作品だったのでここでご紹介しようと思います。


主人公の伊勢部宥太(いせべ・ゆうた)は高校2年生。中学時代に突然「未来予知ができる」という不思議な力を得た彼は、表面的な友人付き合いに意味を見出せなくなっていつも一人で過ごしていました。そんな彼はある日クラスメイトの後先凌太(あとさき・りょうた)が1か月以内に主人公になる、という突拍子もない予言を得て彼に興味を持ち、久しぶりの友人関係が始まります。さらには「伊勢部宥太は世界を救う」というとんでもない未来予知まで登場。愛敬寛(あいきょう・さとる)、門馬黒助(とば・くろすけ)という仲間も加わり、通常の意味での友人もできていく中、突然始まった自分だけの非日常をどのように生き抜いていくのでしょうか…



さて、本作を読了した私は先述の道玄斎さんのレビューを読んでみました。すると私が感じたこととかなり近い感想が書かれておりびっくり。

まず、本作は出だしから物語に引き込む力が強いんです。冒頭に意味深な回想シーンが少しだけあり、その後はすぐに登校シーンとなるのですが、この日常的なシーンだけでプレイヤーに強く興味を引かせる内容になっています。「しばらくは自転車を使わないこと」などの不自然な指示だったりまるで後ろから親戚のおじさんが来るのが分かっていたかのような書きぶりだったり。明言しなくてもこれだけで、「あ、これは何らかの能力があるパターンかな」というように理解できます。
その後もちろん未来予知ができることは明らかにされるのですが、それまでの段階で既に(この物語は面白いぞ)という予感(これは予知ではないでしょう)を強く感じさせてくれるんです。

4-1-2

そしてこの未来予知という力も万能ではありません。誰が何をするか、というのははっきりと分かるものの、場所や時期は不明な場合もあります。そして冒頭で書いたように「主人公になる」「世界を救う」といった曖昧なものまで。こうした設定によって、予知された未来が回避できるかどうか不明といったドキドキする展開につながっていくのです。

さらには文章力も確かで、予知という能力の開花によってやたら冷めた人物となってしまった宥太にぴったりの、堅めで時には皮肉的な文章にうならされます。メッセージウィンドウではなく全面に文章を表示するシステムを取っているのも文体にマッチしているでしょう。文章がやや難しいなと感じる作品ではありますが、これもゲームというより小説的だと思うと合点がいきます。

こうした要素が重なり合って、もう私は開始5分とか10分とかの段階で「これはすごいからレビューを書こう」という気持ちになっていたんです。このくらい”面白さの初速”が速い作品ってなかなか珍しいと思うんですよね。私が最近読んだ作品でいうと「インビジブル」とか「道徳ビデオ」とかがこのタイプなんですが、本作は開始5分でこれらに負けないようなワクワク感を見せてくれました。


さて、本作にはこの未来予知という大きな設定があるわけなんですが、軸となっているのは予知に関するミステリーだったりサスペンスではなく、宥太の友情なんです。物語開始時点の宥太は私から見ると”嫌なヤツ”です。冷淡だし、予知を元に危機回避をしてくれる時も単に指示を出すだけ。(本人も自覚してますが)あの言い方だと「コイツ、すげ~」ではなく「なんかヤベー奴がいるから逆らわないでおこう」と私だったら感じるでしょう。しかしそれは宥太がもともとそういう性格だったわけではなく、予知能力に目覚めてしまってから身に着けた処世術みたいなものだったのです。

そんな宥太が”主人公の予知”をきっかけとして、最初は打算的なところがありつつも普通の友情を築いていくさまは見ていて気持ちが良いです。普通の人に自分の能力について話したところで気持ち悪がられるだけです。そんな能力について追及するでもなく、また否定するでもなく。そんな適度な距離間で接してくれる凌太たちは本当に良い友達ですね。

4-1-3

こうした男の子たちの友情を描いた作品って意外と思い当たりません。女の子が出てきて恋愛がらみの描写が含まれていたり、あるいはBL的な展開になったりといった作品が多い中でなかなか新鮮に感じられました。
さらに本作で珍しいと思うのは、主人公の母親がそれに積極的に影響してくることでしょう。
以前、主人公の親ってあんまり出てこないよね~っていう記事を書いたりもしました。ちょっと不自然でも海外出張に行っていることにされちゃったりして物語中に一切登場しないことも多い両親ですが、それだけ思春期真っただ中の中高生からしてみればうっとおしくて、いない方が物語上都合がいいということでしょう。

しかし本作においては母親は結構重要な役割を果たします。宥太は予知能力に関する折り合いの付け方を母親を介して身に着けていったんだろうなと感じられますし、その母親が息子である宥太をなぜ信じているのか、といったところが宥太が友人との間に不要な猜疑心を持たなくてよい、といった学びにつながっていくのです。このように本質的な意味で主人公の成長に影響する作品は貴重だなと思います。これも私がプレイした作品でいうと「あなたの命の価値」以来でしょうか(あの作品においては負の影響でしたが)。


本作は基本的に写真背景と全面に表示されるテキストで画面が構成されていますが、時折重要なシーンで登場する一枚絵がまた印象的です。立ち絵もあるんですが使用回数が控えめなので、大きな動きのあるシーンでいきなり絵が出てくるとなかなかインパクトがあるんですよね。最後の黒助とのシーンなんかは表情もいいなあと思います。

そんな本作ですが、途中で発生した謎がすっきり解決しておしまい、といったタイプの物語ではないです。もちろんふんわりとした答えみたいなものは与えられていて、またこの不思議なタイトル(ググると計算結果を教えてくれます)の意味するところも分かってくるのですが、答えを求めるタイプの人はちょっともやもやの残るエンディングと感じるでしょう(私もどっちかというとこのタイプ)。
”世界を救う”についても、謎が明らかにされるというよりは空から答えが降ってきたという感じの回収方法になっているのでSFみたいにかっちりした設定みたいなものを期待していると肩透かしを食らうかもしれません。
しかし宥太たちの友情関係であったりタイトルの意味からすると一つの物語としてまとまっており、このエンディングも不思議な世界観の演出に一役買っているともいえるでしょう。


気になるのはそのエンディングにてムービーが再生されないことです。ReadMe内では、Windows8ではクリックしないと進まないかも、みたいな表記があったのでいろいろクリックしたり互換モードで起動したりしてみたのですが、私の環境(Windows 10 Home 22H2)では真っ白な状態のまま動かなくなってしまいました。その後ゲーム再起動したらタイトル画面が変わっていたので、エンディングに到達したことは正しく判定されていそうなのですが…。


というわけで今回は「よんひくいちは」でした。
とりあえずDLして読み始めてみれば、きっと5分で本作のすごさに気付くでしょう。ぜひプレイしてみてください。

それでは。

↑このページのトップヘ