フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
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2時間前後

こんにちは。今回はパルソニックさんの「決戦前のヒトリ~主人公以外全員『カップル』がいるアドベンチャー~」のレビューをお送りします。

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ジャンル:ラブコメ推理パズル?
プレイ時間:私の初見プレイでTRUE ENDまで1時間半
分岐:エンディング2種
ツール:RPGツクール
リリース:2022/9


さて、本作の作者であるパルソニックさんと言えば、有名作「かわいいは壊せる」でお馴染みです。(私もそのうちプレイしなきゃな~と思っていつつ実はまだプレイしていないのです)
ある日ふりーむをいろいろと探索しているとき、たまたま本作が目に入りました。論理パズルは割と好き(得意分野でもある)ので興味を惹かれ、作者名を見ると見覚えのある方だったのでびっくり。早速ダウンロードしてプレイしてみたところ、バカゲーに見えてかなりよく練られた作品だったので今回ご紹介しようと思います。



いつものように本作の大まかな内容を最初にお話ししましょう。

主人公であるヒトリは最強の勇者。姫であるヒロを救うための冒険を続け、ついに魔王との対決に挑みます。ところが最強であるヒトリの力もわずかに及ばず、捨て身の攻撃でも魔王をしとめるには至らずに負けてしまいます。
そんなときに突然現れたのは神を名乗る人物。”世界の真実”を解き明かせばヒトリを生き返らせてくれると言います。当然その条件をのんだヒトリでしたが、要求されていたことはなんと、この世界において誰と誰がカップルであるかを全て突き止めることだったのです。
誰と誰が付き合っているのか、怪しいところを調べて証拠をつかみ、世界の真実を見つけ出せるのか、ヒトリの第2の冒険が始まる……

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というわけで本作は推理ゲームとなっています。
魔王との決戦前夜、パーティーを組む仲間たちや村に住む人々の家を探っていく勇者のヒトリ。勇者というよりは泥棒みたいです(普通のRPGでも割とよくある光景ですが…)。そして翌朝には村人たちも起きて活気のある村を再度探索、会話などからヒントを探っていきます。一見ラブラブに見える2人が本当にカップルであるのか、あの家に住んでいるのは誰なのか、誓いのアイテムを持っているのは誰なのか……、いろいろ考えることがあってこの推理部分が良くできている作品だと思いました。

特に、本作においては魔王戦後の答え合わせで間違えると再度神に決戦前夜まで戻されるループシステムを採用しています。このシステムがなければ解けないような謎が仕掛けられているのが上手いなと思ったポイントでした。翌朝手に入るはずの情報をもって夜のうちに行動を起こすとどうなるのか、夜と朝で会話内容の整合性をとるにはどういった前提が必要なのかなど考えながら進めていきましょう。
RPGツクールのシステムもうまく生かしていて良いですね。

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という感じで、推理部分がなかなか難しめに作られています。ミスリードを誘う展開もあったりして、1度や2度では正解にたどり着けないでしょう。(私は5答目で正解しました)

しかしこのあたりの推理の苦手な方でも安心な要素として、神からのヒントがあります。2度目以降誤答するごとに1つヒントがもらえます。そのまま答えがもらえるわけではありませんが、ヒントの通りに行動してみれば決定的な場面に立ち会うことができるでしょう。



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さて、本作のゲーム部分は今まで書いてきたように結構真面目に作られており、解きごたえがあるのですが、全体的な雰囲気を見るとかなりふざけています。神様の俗っぽい言葉遣いだったり、自分一人だけ相手のいないヒトリが嫉妬に狂ったり、分かりやすすぎるすれ違いカップルだったりには苦笑させられたりも。ループものにおいて主人公が過去の周回の経験をもとに現在の状況についてツッコむというパターンは多いですが、それがこんなに笑える作品は珍しいと思います。

さらになんとおしがまイベントあり(特にそれがメインとかじゃないです)。こんなクレジット表記初めて見ましたよ…(笑)
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ちょっと気になる点について。内容というか宣伝文句についてなんですが、「論理パズル」というのとはちょっと違うかなと思いました。私が最初に見たときはそのように紹介されていて、論理パズルだったら得意分野だなと思って手を出したのですが、本作はサスペンス・探偵もの寄りなので期待していたものとちょっと違いました。論理パズルというと、Dominion's Restさんの「魔女っこと封印の石版」ですとか、にほへさんの「ミミックロジック」などを思い浮かべます。こうしたゴリゴリのパズルとは違った作品でしたが、別の意味での面白さは十分にあったので結果オーライです。

あと、解答画面の操作方法がやや直感的じゃないかなと感じました。男性キャラの位置はデフォルトのまま変更できず、女性キャラの位置だけ変更できるようです。つまり画面上で右半分だけしか操作できないのです。慣れるまで全然思い通りに動いてくれませんでした。

そういえば、本作でいう”カップル”は男女の組み合わせのみです。同性の組み合わせがあったら難易度が爆上がりしていたと思うので助かりました。
ゲーム内でいう”カップル”の定義もしっかり提示されるのでそこに悩むことはありません。ゲームとして楽しみやすくなっていると思います。



本作のエンディングは2種類あります。
1周目はTRUE ENDは無理なので普通に頑張ってエンディングまで行きましょう。クリアデータを使えばTRUE END回収は難なくできるはずです。ある真実が明らかになるTRUE ENDでは、ヒトリの最後の行動が180度変わります。ヒトリの苦労が報われるのか、ぜひいろいろ試して頑張ってみてくださいね。
どちらのエンディングでもラブコメの王道的な展開で楽しい気分で終えられる後味の良い作品となっています。

それでは。

こんにちは。今回はんんんんほりごたつさんの「つきのさきで きみときす!」のレビューをお送りします。

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オススメ!
ジャンル:ほのぼの日常系推理ノベルゲーム
プレイ時間:1周目20分、フルコンプまで2時間程度
分岐:エンディング2種
ツール:吉里吉里
リリース:2020/3



本作の存在はしばらく前から知っていてDL済みでもあったのですが、プレイするのが遅くなってました。
実際にプレイしてみたところ、予想を大きく上回るいい作品だったので今回ご紹介しようと思います。


主人公の月下羽衣(つきした・はごろも、下の名前のみ変更可)は中学2年生。同級生で幼馴染の灯木洩日(あかし・こもれび)は何と中学生にして祖父の代から続く探偵業を継いで立派に活躍しています。羽衣はそんな木洩日のことが大好きな様子。(勝手に?)助手を名乗って事務所に入り浸っています。
そんな羽衣、どうやら木洩日が隠し事をしている気配を感じ取ったようです。調査の名目で木洩日と一緒に色々なところを探索していく羽衣。隠し事の正体を見抜いて名探偵助手としての地位を確立することはできるのか…?


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本作をプレイしてまず目についたのは素敵なイラストでした。
淡い色で描かれた2人の立ち絵はとてもかわいらしいですし、加工写真風の背景にも溶け込んでいます。メッセージウィンドウやUIなんかも統一感のある配色や雰囲気になっていてとてもいいと思います。終盤の一枚絵に入る流れもスムーズですね。


さて、本作の主人公である羽衣は頭が切れる探偵キャラというよりは、ちょっぴり天然だけれど愛想がよくて世話焼きなタイプのキャラクターです。したがって私は本作を1周プレイした辺りでは、(言い方は悪いですが)ほのぼの日常系でラブコメ要素を楽しみつつ進める、推理とは名ばかりの雰囲気ゲーだと思っていたのです。もちろんそうした作品が悪いわけではなく、何となく雰囲気が好きという作品は私もいくつかありますが、本作ではそれだけではありませんでした。推理をする部分についても、また彼らの過去や現在の状況についてもしっかりと筋の通った作品だったのです。そうした意外性という意味でも私を驚かせてくれた作品でした。



木洩日くんの"カクシゴト"を見つけ出すために捜査に乗り出す羽衣は、(なぜか)木洩日を引き連れて事務所や家、町内の様々な場所を回ります。例えば事務所の応接室を調べると、どうも写真に違和感があるということに気付きます。これらのヒントは各調査場所に1つずつあり、調査で必ず手に入れることができます。この際の2人の会話がまたほほえましい内容でいいですね。ちょっと登場するだけのサブキャラにも立ち絵が用意されていてすごいです。

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過去に調査したことがある地点は右の虫眼鏡をクリックでどんなヒントが手に入るか分かったり、現状の持ち物も確認可能、攻略のヒントだって見られるという親切設計。ヒントは3段階になっていて、最終的には完全な答えまで見ることができます。ちなみに私はヒントなしプレイで3周目におおよその仕組みに気付いて(ヒント1段階目の内容)、それ以降は多少の試行錯誤でほぼ迷わずトゥルーエンドまで行けました。

1日の終わりにはこれまでの調査で得たヒントを元にカクシゴトの正体を指摘するパートがあります。使用するヒントを選んで決定ボタンを押すのですが、外れの場合でも選んだヒントに応じた展開が用意されていて芸が細かいです。かなりたくさんあるようなので私も未回収の会話があるかもしれません。
ここで正解すると、ヒントに応じたイベントを見ることができます。私の意図(?)どおり推理してくれて嬉しいルートもあれば、それ推理関係ある?という可愛いイベントもあります。イベントごとに鍵が1つ入手でき、それらを5つ集めたとき、トゥルーエンドへの道が開けます。


このトゥルーエンドですが、木洩日くんが本当に羽衣のことを思って行動していてくれたんだなというのが分かってとても心温まる内容となっています。調査パートではちょっと羽衣のことをバカにしているようなシーンがあったりもしますが、それらが2人の間でしっかりとした信頼関係が存在していたからこそであるのが理解できます。木洩日のお父さんはなぜいなくなったのかを含め、5つの鍵を入手するまでの段階での情報もしっかり最後に生きてくる構成。そして木洩日くん自身の口から好きだよと言ってもらえるのが嬉しいですね。いや、調査パート見ていれば羽衣だけでなく木洩日も羽衣のことを大切に思っているのは分かるんですが、直接聞くのとは違いますからね。そして告白に至るまでに彼らが抱えていた背景も明らかになりますから、そのパワーは強力です。

これ以上詳しく語るのはネタバレになるのでやめておきましょう。ぜひあなたの目でこの感動を確かめてください。
そしてエンディングを迎えた後のタイトル画面への戻り方もうまい。なるほどそういう意味が込められていたんですね。


というわけで今回は「つきのさきで きみときす!」でした。
ほのぼのとした雰囲気だがそれだけじゃない、この作品の魅力をぜひ味わってみてください。プレイし終わって優しい気持ちになれる事間違いありません。BGMもまた穏やかで気持ちいい統一感があって素敵です。久しぶりにDOVA-SYNDROMEに行ってタイトル画面BGMを探す旅をやりました。

それでは。

こんにちは。今回は★Blue Cometさんの「カルマの願い箱」のレビューです。

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★favo
ジャンル:現代ファンタジーノベル
プレイ時間:コンプまで1時間半~2時間程度
分岐:ED6種
ツール:NScripter
リリース:2022/12

はい、crAsM.Mビジュアルノベルオンリーの記事でちょっとだけ触れた作品です。レビューの形でちゃんと扱っておきたいと思います。
いつも通りあらすじを簡単に紹介するとこんな感じ。

主人公の如月零音(きさらぎ・れいん)は音楽一家の長男で高校2年生。ピアノの天才と言われコンクールの優勝歴もありますが、フルート奏者だった父の影響もあり高校では吹奏楽部に所属。「親友」の日向晴夫(ひゅうが・はるお)とともに楽しい学校生活を送りながら、夜にはピアノの練習に励んでいます。
ある日零音が帰宅中に迷い込んだ不思議な街で、謎の人物ミレーから”3つの願いが叶う”というアンティークな箱を受け取ります。そんな怪しい力に頼ることはないと箱をしまい込むが、目の前で晴夫が車にはねられるのを目撃した零音は箱に願いをかける。願いはどのような形で叶うのか。その代償は何だったのか。彼らがまた笑顔で音楽に取り組むことはできるのか…


まず主人公の名前が変わっていますよね。零音と書いてれいんと読む。英語で雨を意味するこのネーミングは、彼が生まれたときに雨が降っていたことも由来の1つだそうです。雨を好む零音はなぜ雨が好きになったのか。その答えは彼がピアノの才能を持ち合わせていたことにありました。

幼いころからピアニストとしての才能をあらわにしていた彼は、周囲の”普通の子供”と一緒に遊ぶことができなかったのです。万一転んで手にけがをさせたら困る、と周りの子供たちも遊びに誘うのを遠慮してしまいます。悲しいのはそれが本人の希望と一致していなかったことです。彼は自分のことをピアニストとして見られてしまうのがあまり好きではなかった。一人の人間として友達と遊んだり漫画を読んだりしたかった。しかしそれが叶わなかった彼は、周りで遊ぶ子供たちの声が聞こえない雨の日が好きなのでした。

以前紹介した「夏ゆめ彼方」も主人公朝川桂一は才能ある少年でした。彼の場合は将棋でしたが、将来を期待される天才だったという点では一緒です。しかし桂一と零音では才能に対する考え方は真逆でした。周りとは違うんだ、自分は選ばれし人間なんだという意識の強かった桂一に対し、周りと一緒に遊びたかった零音。結果的に彼らの考え方は違ってもどちらもそれに至る思考の過程が描かれるので、読んでいて物語をスッと受け入れやすいんですね。

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そんな主人公零音は高校に入って初めて自分をピアノの天才という色眼鏡を通さずに見てくれる人物、晴夫に出会います。ようやく自分という人間を見てくれる人物と出会えた彼は本当にうれしそうですし、彼らの交流は私の心も軽くしてくれました。雨と晴れのように対比が効いた性格なのも分かりやすいですね。


さて、ここまでは物語の前提であって、本作のストーリーはミレーから願い箱をもらうところからが本編です。最初ははなから信じてもいないし使うつもりもなかった零音ですが、晴夫が交通事故に遭うのを目撃しては箱を使わないわけにはいきません。ここでどんな願いをかけるかで物語は分岐していくわけです。

しかしこんな怪しい箱が簡単に思い通りに願いをかなえてくれるわけはありません。確かに願った通りではあるけれどもそういう事じゃない。零音はままならなさに悩んでいくことになります。
晴夫のために苦悩している姿がきちんと描かれるので、プレイヤーである私も頑張って良い結末を目指そう! と思えるような内容でした。


零音の人間関係は晴夫だけではありません。吹奏楽部の仲間であったり、クラスメイトであったりも登場して零音と晴夫に影響していくことになります。交通事故についてひと段落した後は今度は人間関係に悩まされるようになるのです。うっすらBLの匂いも。
しかし常に天才という目で見られており対等なコミュニケーションの経験に乏しい零音は少し感覚がずれているんですよね。対する晴夫が良い人過ぎて一時は見てられないくらいの状態になりますが、真ルートでのこの解決の仕方がよかった。脇役のセツナちゃんもいい人過ぎて泣けます(彼女はそれ以外のルートでは別にいい人って感じでもないんですが、晴夫は常に聖人のようです)。周囲に恵まれた零音は幸せですね。
ただ恋愛がらみについては唐突な印象が拭えないですね。このままでも不自然とは言いませんが、物語前半で何か予兆みたいなものがあると嬉しいかなと思いました。

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もう一人主要人物として、雪村奏(ゆきむら・かなで)がいます。彼は零音が優勝したピアノコンクールで2位だったライバル。高校で吹奏楽部に入ってフルートを吹いたりしている零音に対して「ピアノはどうしたんだよ」というような態度をとります。この件については願い箱とあまり関わりがないというか、他の問題と断絶されている感じを受けました。とはいえ真ルートでのあのまとめ方は綺麗だったのでこれはこれでありだと感じました。ここでも晴夫の活躍ぶりがすごかった!(サブストーリー5を読んでいると奏の反省も理解できると思います)

シナリオに関してもう一つ気になったのは、結局願いを3つ叶えたときに起きる”何か”がはっきりしていないかなという点です。


さて、本作は音楽がテーマになっていることもあり、ショパンのピアノ曲がBGMとして使われています。零音のテーマともいえるのが名前ともかかわる「雨だれのプレリュード Op.28-15」で、本編開始後すぐに耳にすることでしょう。その直後には「ワルツイ短調(遺作)」。実はこの曲は私が初めて弾いたショパンの曲で個人的な思い入れもあって嬉しかったです。同じく使用されている「木枯らしのエチュード」「別れの曲」などより知名度が低い曲なので、よくこの曲の素材あったな~などと謎の感心をしていました。これらの曲を含め使用されているBGMはおまけから聞くことができます。「木枯らし」は本編内で使用されているときは冒頭がカットされていますが、おまけ内では通して聴けます。



本作のシステムはやや変わっています。通常のノベルゲームのように任意の場所でセーブ、ロードすることができません。代わりにシナリオが細かく章に分かれていて、章ごとにプレイできる形になっています。以前紹介した作品でいうと「RADIANT*SIGN」に似ています。しかし一本道だったRADIANT*SIGNと違い本作は選択肢も複数あり分岐も複雑です。正直このシステムは分岐がないか、あるにしても単純なものにしか向かないんじゃないかと疑問でした。選んだ選択肢によって2つに分岐する程度ならともかく、複数の選択肢の組み合わせで分岐したり、あるいは合流したりといった仕掛けはかなりやりにくいと思います。しかし本作は入念にデバッグされておりかつ章区切りも計算されているらしく、繋がりがおかしいと感じられるようなことはありませんでした。さらに新章解放時のエフェクトなども凝っています。なぜ開発の手間もかかるだろうにこのシステムを採用したのか考えるに、私が思ったのはサブストーリーの演出効果でした。本作は本編を読み進めるうちにサブストーリーも解放されていきます。おおよそ時系列順に解放されるため、メインストーリーを進めつつサブストーリーは解放され次第読んでいくというプレイスタイルが本作を味わうのにちょうどいいのかなと感じます。そのため区切りの多いこのシステムを採用し、メインストーリーとサブストーリーを往復させようという狙いだったのではないでしょうか。確かにサブストーリーの内容を全部本編に組み込んで自然に分岐させるのはかなり難しいように思えるので、なるほど効果的かもしれないと思いました。


もう一つ作者さんの本作にかける執念のようなものを感じた話をしましょう。
私がおまけ内の登場人物紹介を読んでいた時です。そこでちょっと私の常識にはなかった文を目にします。

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「※本編には登場していません」
だと?!


登場してない人物を紹介する必要があるのか???
crAsM.Mビジュアルノベルオンリーで作者の深嶺ユミアさんと話す機会があったので直接聞いてみました。すると非常に筋の通った答えが返ってきてびっくり。

本編で零音たち吹奏楽部が練習している曲は「般若」という実在の難曲。私は吹奏楽は素人なので全く知らない曲でしたがかなり難しいらしいです。このこと自体は本編中やReadMe内で記述があるので気付いていました。
そしてこの曲を演奏するのに必要なパーカッションの人数が4人ということで、晴夫、パートリーダー(雨村理子)、後輩(安雲竜)、そして問題の人物(雪峯さくら)を割り当てていたが、結局物語の都合上さくら以外の3人しか本編での登場機会がなかったというのです!
しかしせっかく用意した設定だからおまけに入れちゃうという判断をしたということでした。
登場機会がなかったさくらちゃんが不憫なのか、作者に忘れられていなくて幸せなのかは分かりませんが、実在の曲からここまで設定を固めて作られた作品なのだなあということで感心しました。

この「般若」はYouTubeで聴けるので気になる方は聴いてみてください。ReadMe内にもURLがあります。私も聴いてみましたが、変わった曲で確かに難しそうだなと思いました。

そうそう、本作はTRUE END到達が難しめだと思うので、困ってしまったらReadMeをしっかり読んでみてくださいね。ちゃんとヒントが書かれてます。


3つの願いが叶う不思議な力というある種使い古されたネタでありながら(この辺は作内でもメタ的に言及されていますね。無人島のジョークは私も知っていましたし、猿の手は多分高校のときに課題で英語で読まされました。内容忘れたけど)、独自の調理法でおいしく出来上がった作品だと思います。ぜひプレイしてみてくださいね。

それでは。

こんにちは。今回のレビューはハルノサクラさんの「空の果てからこんにちは」となります。

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ジャンル:ファンタジー風ギャルゲー
プレイ時間:1時間半
分岐:3つ+真ルート(後述)
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2020/8


現在はティラノゲームフェス2022の真っ最中ですが、本作は2020年のフェス参加作ですね。ではいつものようにあらすじ紹介から行きましょう。

主人公のアオモリヒロサキはリンゴ農家の一人息子。特にこれといった目標もなく、将来はこのリンゴ畑をなんとなく継ぐのかな~と思っています。田舎にいるため近所で歳が近いのはキノコ採りを家業にしている家の娘リコのみ。そんな中突然この町に現れた女の子メイラはなんと重力が反対向きにはたらく逆さ人間だった!
天井に立つメイラに困惑しながらも徐々に距離を縮めていくヒロサキ。それに対してリコはちょっぴり複雑な思いを抱くのだった…。

とまあこんな感じでしょう。男主人公に対してヒロイン2人の典型的ラブコメとなっています。



本作に関しては事前情報ほぼなしでプレイしたのですが、メイラの初登場シーンはなかなか衝撃的でした。
それまでの感じから、「ああ、ヒロインが主人公にベタベタな感じで主人公は小馬鹿にしたような態度をとるよくあるラブコメかなあ」と思っていたら、突如逆さま人間が登場するわけですから驚きます。というか最初は???状態でした。なんかこの背景おかしくない?と。しかしメイラが逆向きに立っているビジュアルが明らかになって、なるほどなとなりました。しかもこのシーンの背景はセーブ画面の背景に使われてますね。最初に見たときわけが分からなかったのですが、ようやく合点しました。

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その後はしばらくほのぼの系ラブコメが続きます。「あなたのお嫁さんだよ☆」などと妄言(?)を吐くリコと冷たい系のヒロサキ、それに泣き虫天然系のメイラとラブコメのキャラクターとして王道かつバランスの良い設定でしょう。
そしてふだんあんなことを恥ずかしげもなく言っているリコが、ヒロサキがちょっと乗ってきただけで恥ずかしくて赤くなっちゃうのが良いですね。いつもみたいにかわされると思ったのにそういう雰囲気になったら途端に恥ずかしくなっちゃうんですよね。


…ところでヒロサキ君、君は登場する作品を間違えたんじゃないかい?
絶対にエロゲに出たかったのに間違えて全年齢の本作に出ちゃったでしょ!!
ヒロインの告白(?)を華麗にかわしておいてあんなセクハラ言動が許されるのはエロゲだけですよ!!
もっと健全な作品の主人公らしく過ごしなさいよ!


と、ヒロサキへのお説教が済んだところで物語を読み進めていきましょう。中盤くらいまで読んだところで、ラブコメなのはいいとして私の頭にはこの作品の世界観について疑問がわいてきました。
主人公の名前(漢字で書けば、青森・弘前ですよね)からすると物語の舞台は現代日本だろうな~と思っていました。しかしそれにしては背景画像が微妙だし、会話や町の様子も現代っぽさがないなあという違和感を抱えていたところ、メイラを連れて外出したシーンで事件が起こります。なるほど本作はファンタジーだったんですね。

このあたりの、作品の舞台になっている世界の説明はもう少し早い段階でしてくれた方が良いんじゃないかと思いました。人さらいの登場とか、端岬とかのあたりはどうも唐突すぎる印象を受けました。


さて、本作はプレイヤーの選択によりリコルートとメイラルートに分岐します。分岐の仕方は分かりやすいので初見で狙った方に行けるでしょう。私はリコルートから読みました(というかあのシーンでメイラ選択したらヒロサキに人間の心なくない?)。
こちらはサブルートであることがリコ本人の口から語られていますので(!)さらっと読み進めましょう。先ほどの事件はリコルートでのものですが、それが解決した後は物語は何事もなく平和なまま終わりを迎えてしまいます…と思いきや最後に衝撃の事実が。え??? これはメイラルートも読めば意味が分かるやつですか? というわけで張り切ってメイラルートに向かいましょう。

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こちらのルートにはさらに2つの分岐があります。片方は平和なまま、もう片方は別れを伴う形でこれも終了。え? どういうこと、ヒロサキの選択の理由も説得力あるわけじゃないし終わり方も中途半端だし良く分からんな~
実際、本作がこれで終わりだったら私はレビューで取り上げなかったでしょう。
これらのルートをすべて読み終えると、タイトル画面に変化が現れます。この世界をメイラの目から見たように逆さま。これはコンプリート後の演出なのか? としばし迷いましたが、いやこのままだと微妙すぎる、新しい分岐が出現してたりするかも、という期待の元再度STARTボタンをクリックする私。
あれ、冒頭部分こんな感じだったっけ? と思いながら読み進めると、期待通りこれまでと違うルートに入ったようでした。


この真ルートについては詳細は述べませんが、メイラ視点の話が読めて面白かったです。やっぱりヒロイン視点って見たいじゃないですか。本編であんな別れ方をしちゃったメイラがどう思っているのか。逆さまの世界では何が起こっているのかについてもちょっと理屈っぽいですが解説してくれます。ファンタジーというかSFでした。
そしてそれを受けてのラストシーンの収まりがよい。まあ教師の”仮説”については若干力業というか、アナロジー成立してないのではと思わないこともないですが、基本ラブコメ寄りの本作では気にせず流してしまえる範囲でしょう。


その他気になった点としては、投げっぱなしな伏線が目立つことが挙げられます。この世界の秘密について父がヒロサキに隠していた理由、リコルートで明らかになる彼女の秘密(特にこのままではメイラ登場シーンの反応も不自然では?)などが結局解決していないように見えます。2時間以内の尺としてはちょっと設定を盛りすぎかなという印象はぬぐえません。

あとは、無音の時間が長めでやや寂しかったかなという気はします。演出としての無音と理解できる部分以外でしばらく待ってもBGMもないと、なんかバグったかなと不安になってしまいました。映像面(ビジュアル面)についてはよく考えられているなと感じたのでやや惜しい。


ちなみに割とどうでもいいことですが、本作はreadme.txtでだいぶふざけていて面白かったです。
こんな自由な感じのreadme読んだのはいつ以来だったかな~
プレイしたけど見てないって方はぜひ見てください。


今回のレビューはここまでとなります。若干難点の指摘が長くなりましたが、ラストシーンの気持ちよさが魅力的ですのでぜひメイラちゃんを迎えに行ってあげてください。

それでは。

こんにちは。今回は窓際ななみさんの「絶望の螺旋」のご紹介です。

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ジャンル:オカルトサスペンス
プレイ時間:2時間
分岐:基本1本道
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2021/5
備考:15推


今回の作品はまた特殊で記事のジャンル分類にも悩みました。基本的にはノベルゲームかなと思いますが、通常のノベルゲームでは絶対に必要のない攻略要素があるため今回はアドベンチャーゲーム扱いとしています。
その特殊な要素ですが……まずはこちらのゲーム画面を見ていただければわかると思います。

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なんとゲーム画面が常に4分割されています。それぞれの画面は普通のノベルゲーム的に動かすことができます。上の状況では、今は右上のターンです。ある程度話が進むとまた全体から話を進める人物を選択しシナリオが進行していくことになります。
4分割されたこの画面構成を見て、私はEYEZMAZEさんのMEET INを思い出しました。
MEET INでは4人家族で協力して謎解きをして集合することを目指すミニゲームでしたが、本作ではある学園で起こった呪いを解消するために試行錯誤して調査するという内容であり、MEET INと比較するとボリュームもかなりあります。

さて、この4つの画面で見られる話は、1つの物語をそれぞれ別の人物の視点で見たものになります。つまりは群像劇の同時進行的なものと思ってもらえるとよいです。
さらに、これらの4つの画面はお互いの進行に影響しています。ある一つの画面の話だけを進めようと思っても、「まだ時間になっていない」というような感じで止まってしまいます。ほかの画面のイベントを見て話が同期していくと再度進行できるようになっていくのです。
それだけでなく、特定の視点でタイミングがそろうとその2人(以上)の話が合流し、5つ目の画面イベントが起こることもあります。これこそが複数画面で物語を同時進行する本作の真骨頂と言えるでしょう。
終盤における呪いの根本原因対処のためには、操作可能なすべての画面で特定のシーンに持ってきたうえで行動を起こす必要があります。割と条件が厳しめなので、最初の数回は見逃してループになる方も多いでしょう。この仕組み、川崎部さんのSCE2のエンディングを思い起こします。
ゲームの作りが特殊なためか若干動作が重いように感じられますが、それに見合うだけの演出効果のある仕掛けとなっているでしょう。

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↑画面連動イベント中


話の内容にも触れましょう。
舞台となっているのは琴羽(ことはね)学園。2年生の樫山勇治(かしやま・ゆうじ)と若咲千草(わかさき・ちぐさ)は幼馴染。最初のうちはすれ違い系ラブコメか?というような感じで進めていたのですが、なんとゲーム内初日にして超絶修羅場に遭遇してしまいます。……え?これってそういう話だったの?
この事件で大きなショックを受けた千草に、謎の少女が誘惑をかけます。「彼を奪われたくはないだろう…?」と。その誘惑にあらがえなかった千草は”絶望の螺旋”へと引きずり込まれることになります。

それと時を同じくして、学園長から”学校のトキコさん”が出るといううわさの調査を依頼された睦月十歌(むつき・とおか)と天乃川夕美(あまのがわ・ゆみ)。霊能力という力の存在が認められるようになったこの世界で霊能力関係の事件を引き受ける探偵である彼女らは、学園へ調査に乗り込みます。
順調に視察を進める中、一人になった隙を突かれて誘拐されてしまった夕美は、霊能力について熟知している彼女にすら信じがたい話を聞かされるのだった。

ここから先は、先述したように各画面を同期させて攻略しなければ同じ内容をループしてしまいます。ぜひあなたの目で確かめてください。何もかもすっきり解決してハッピーエンドとはいきませんが、勇治と夕美がお互いに干渉できた理由などが夕美の聞かされた謎の話と一緒に説明されたりするのでそのあたりが気持ちいいポイントですね。
この謎をどれだけ早い段階で解けたかで本作のプレイ時間は大きく左右されるでしょう。


さて、本作をプレイして気になった点ですが、まずはこの特殊なシステムのために通常のノベルゲームでは使用可能なシステムが使えない点はやはり痛いです。具体的には、文章のスキップができません。また、セーブは一応できるもののかなり不自由。またバックログも全画面分まとめて少し表示されるだけなので、プレイしにくいと感じたことは否定できません。
もう一つは、やや世界観の説明不足を感じたという点です。冒頭で霊能力の存在が明かされますが、ほとんどの人には使えないし役にも立たない、ごくわずかの人には凄いことができる、という程度の説明で、では一体何ができるのか、都市伝説との関係は?といったあたりが不十分だったのではないでしょうか。なので最後の解決法が若干力業のように感じます。これは本作内における設定がかなりスケールが大きいものを含んでいて回収しきれていないのも関係ありそうです。黒い霧や謎の計画について解決していないので、これは続編で解決とかのパターンかな?という読後感です。


とはいえこれらの点は、4画面を同時進行して話を進め、しかも単に並列で進むのではなく相互に影響して謎解きをするという本作の本質的魅力には関わらない部分ですので、気になった方はぜひプレイしてみることをお勧めします。15推ということで、ゲーム起動時に警告文章があったりしますが、直接的なグラフィックなどはなくそこまでショッキングなシーンもないためプレイしやすいと思います。
また、画面が常に分割されて表示される仕様のため、画面サイズは大きめにしてプレイすることを推奨します。

それでは。

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