フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
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2時間前後

こんにちは。今回は★Blue Cometさんの「カルマの願い箱」のレビューです。

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★favo
ジャンル:現代ファンタジーノベル
プレイ時間:コンプまで1時間半~2時間程度
分岐:ED6種
ツール:NScripter
リリース:2022/12

はい、crAsM.Mビジュアルノベルオンリーの記事でちょっとだけ触れた作品です。レビューの形でちゃんと扱っておきたいと思います。
いつも通りあらすじを簡単に紹介するとこんな感じ。

主人公の如月零音(きさらぎ・れいん)は音楽一家の長男で高校2年生。ピアノの天才と言われコンクールの優勝歴もありますが、フルート奏者だった父の影響もあり高校では吹奏楽部に所属。「親友」の日向晴夫(ひゅうが・はるお)とともに楽しい学校生活を送りながら、夜にはピアノの練習に励んでいます。
ある日零音が帰宅中に迷い込んだ不思議な街で、謎の人物ミレーから”3つの願いが叶う”というアンティークな箱を受け取ります。そんな怪しい力に頼ることはないと箱をしまい込むが、目の前で晴夫が車にはねられるのを目撃した零音は箱に願いをかける。願いはどのような形で叶うのか。その代償は何だったのか。彼らがまた笑顔で音楽に取り組むことはできるのか…


まず主人公の名前が変わっていますよね。零音と書いてれいんと読む。英語で雨を意味するこのネーミングは、彼が生まれたときに雨が降っていたことも由来の1つだそうです。雨を好む零音はなぜ雨が好きになったのか。その答えは彼がピアノの才能を持ち合わせていたことにありました。

幼いころからピアニストとしての才能をあらわにしていた彼は、周囲の”普通の子供”と一緒に遊ぶことができなかったのです。万一転んで手にけがをさせたら困る、と周りの子供たちも遊びに誘うのを遠慮してしまいます。悲しいのはそれが本人の希望と一致していなかったことです。彼は自分のことをピアニストとして見られてしまうのがあまり好きではなかった。一人の人間として友達と遊んだり漫画を読んだりしたかった。しかしそれが叶わなかった彼は、周りで遊ぶ子供たちの声が聞こえない雨の日が好きなのでした。

以前紹介した「夏ゆめ彼方」も主人公朝川桂一は才能ある少年でした。彼の場合は将棋でしたが、将来を期待される天才だったという点では一緒です。しかし桂一と零音では才能に対する考え方は真逆でした。周りとは違うんだ、自分は選ばれし人間なんだという意識の強かった桂一に対し、周りと一緒に遊びたかった零音。結果的に彼らの考え方は違ってもどちらもそれに至る思考の過程が描かれるので、読んでいて物語をスッと受け入れやすいんですね。

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そんな主人公零音は高校に入って初めて自分をピアノの天才という色眼鏡を通さずに見てくれる人物、晴夫に出会います。ようやく自分という人間を見てくれる人物と出会えた彼は本当にうれしそうですし、彼らの交流は私の心も軽くしてくれました。雨と晴れのように対比が効いた性格なのも分かりやすいですね。


さて、ここまでは物語の前提であって、本作のストーリーはミレーから願い箱をもらうところからが本編です。最初ははなから信じてもいないし使うつもりもなかった零音ですが、晴夫が交通事故に遭うのを目撃しては箱を使わないわけにはいきません。ここでどんな願いをかけるかで物語は分岐していくわけです。

しかしこんな怪しい箱が簡単に思い通りに願いをかなえてくれるわけはありません。確かに願った通りではあるけれどもそういう事じゃない。零音はままならなさに悩んでいくことになります。
晴夫のために苦悩している姿がきちんと描かれるので、プレイヤーである私も頑張って良い結末を目指そう! と思えるような内容でした。


零音の人間関係は晴夫だけではありません。吹奏楽部の仲間であったり、クラスメイトであったりも登場して零音と晴夫に影響していくことになります。交通事故についてひと段落した後は今度は人間関係に悩まされるようになるのです。うっすらBLの匂いも。
しかし常に天才という目で見られており対等なコミュニケーションの経験に乏しい零音は少し感覚がずれているんですよね。対する晴夫が良い人過ぎて一時は見てられないくらいの状態になりますが、真ルートでのこの解決の仕方がよかった。脇役のセツナちゃんもいい人過ぎて泣けます(彼女はそれ以外のルートでは別にいい人って感じでもないんですが、晴夫は常に聖人のようです)。周囲に恵まれた零音は幸せですね。
ただ恋愛がらみについては唐突な印象が拭えないですね。このままでも不自然とは言いませんが、物語前半で何か予兆みたいなものがあると嬉しいかなと思いました。

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もう一人主要人物として、雪村奏(ゆきむら・かなで)がいます。彼は零音が優勝したピアノコンクールで2位だったライバル。高校で吹奏楽部に入ってフルートを吹いたりしている零音に対して「ピアノはどうしたんだよ」というような態度をとります。この件については願い箱とあまり関わりがないというか、他の問題と断絶されている感じを受けました。とはいえ真ルートでのあのまとめ方は綺麗だったのでこれはこれでありだと感じました。ここでも晴夫の活躍ぶりがすごかった!(サブストーリー5を読んでいると奏の反省も理解できると思います)

シナリオに関してもう一つ気になったのは、結局願いを3つ叶えたときに起きる”何か”がはっきりしていないかなという点です。


さて、本作は音楽がテーマになっていることもあり、ショパンのピアノ曲がBGMとして使われています。零音のテーマともいえるのが名前ともかかわる「雨だれのプレリュード Op.28-15」で、本編開始後すぐに耳にすることでしょう。その直後には「ワルツイ短調(遺作)」。実はこの曲は私が初めて弾いたショパンの曲で個人的な思い入れもあって嬉しかったです。同じく使用されている「木枯らしのエチュード」「別れの曲」などより知名度が低い曲なので、よくこの曲の素材あったな~などと謎の感心をしていました。これらの曲を含め使用されているBGMはおまけから聞くことができます。「木枯らし」は本編内で使用されているときは冒頭がカットされていますが、おまけ内では通して聴けます。



本作のシステムはやや変わっています。通常のノベルゲームのように任意の場所でセーブ、ロードすることができません。代わりにシナリオが細かく章に分かれていて、章ごとにプレイできる形になっています。以前紹介した作品でいうと「RADIANT*SIGN」に似ています。しかし一本道だったRADIANT*SIGNと違い本作は選択肢も複数あり分岐も複雑です。正直このシステムは分岐がないか、あるにしても単純なものにしか向かないんじゃないかと疑問でした。選んだ選択肢によって2つに分岐する程度ならともかく、複数の選択肢の組み合わせで分岐したり、あるいは合流したりといった仕掛けはかなりやりにくいと思います。しかし本作は入念にデバッグされておりかつ章区切りも計算されているらしく、繋がりがおかしいと感じられるようなことはありませんでした。さらに新章解放時のエフェクトなども凝っています。なぜ開発の手間もかかるだろうにこのシステムを採用したのか考えるに、私が思ったのはサブストーリーの演出効果でした。本作は本編を読み進めるうちにサブストーリーも解放されていきます。おおよそ時系列順に解放されるため、メインストーリーを進めつつサブストーリーは解放され次第読んでいくというプレイスタイルが本作を味わうのにちょうどいいのかなと感じます。そのため区切りの多いこのシステムを採用し、メインストーリーとサブストーリーを往復させようという狙いだったのではないでしょうか。確かにサブストーリーの内容を全部本編に組み込んで自然に分岐させるのはかなり難しいように思えるので、なるほど効果的かもしれないと思いました。


もう一つ作者さんの本作にかける執念のようなものを感じた話をしましょう。
私がおまけ内の登場人物紹介を読んでいた時です。そこでちょっと私の常識にはなかった文を目にします。

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「※本編には登場していません」
だと?!


登場してない人物を紹介する必要があるのか???
crAsM.Mビジュアルノベルオンリーで作者の深嶺ユミアさんと話す機会があったので直接聞いてみました。すると非常に筋の通った答えが返ってきてびっくり。

本編で零音たち吹奏楽部が練習している曲は「般若」という実在の難曲。私は吹奏楽は素人なので全く知らない曲でしたがかなり難しいらしいです。このこと自体は本編中やReadMe内で記述があるので気付いていました。
そしてこの曲を演奏するのに必要なパーカッションの人数が4人ということで、晴夫、パートリーダー(雨村理子)、後輩(安雲竜)、そして問題の人物(雪峯さくら)を割り当てていたが、結局物語の都合上さくら以外の3人しか本編での登場機会がなかったというのです!
しかしせっかく用意した設定だからおまけに入れちゃうという判断をしたということでした。
登場機会がなかったさくらちゃんが不憫なのか、作者に忘れられていなくて幸せなのかは分かりませんが、実在の曲からここまで設定を固めて作られた作品なのだなあということで感心しました。

この「般若」はYouTubeで聴けるので気になる方は聴いてみてください。ReadMe内にもURLがあります。私も聴いてみましたが、変わった曲で確かに難しそうだなと思いました。

そうそう、本作はTRUE END到達が難しめだと思うので、困ってしまったらReadMeをしっかり読んでみてくださいね。ちゃんとヒントが書かれてます。


3つの願いが叶う不思議な力というある種使い古されたネタでありながら(この辺は作内でもメタ的に言及されていますね。無人島のジョークは私も知っていましたし、猿の手は多分高校のときに課題で英語で読まされました。内容忘れたけど)、独自の調理法でおいしく出来上がった作品だと思います。ぜひプレイしてみてくださいね。

それでは。

こんにちは。今回のレビューはハルノサクラさんの「空の果てからこんにちは」となります。

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ジャンル:ファンタジー風ギャルゲー
プレイ時間:1時間半
分岐:3つ+真ルート(後述)
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2020/8


現在はティラノゲームフェス2022の真っ最中ですが、本作は2020年のフェス参加作ですね。ではいつものようにあらすじ紹介から行きましょう。

主人公のアオモリヒロサキはリンゴ農家の一人息子。特にこれといった目標もなく、将来はこのリンゴ畑をなんとなく継ぐのかな~と思っています。田舎にいるため近所で歳が近いのはキノコ採りを家業にしている家の娘リコのみ。そんな中突然この町に現れた女の子メイラはなんと重力が反対向きにはたらく逆さ人間だった!
天井に立つメイラに困惑しながらも徐々に距離を縮めていくヒロサキ。それに対してリコはちょっぴり複雑な思いを抱くのだった…。

とまあこんな感じでしょう。男主人公に対してヒロイン2人の典型的ラブコメとなっています。



本作に関しては事前情報ほぼなしでプレイしたのですが、メイラの初登場シーンはなかなか衝撃的でした。
それまでの感じから、「ああ、ヒロインが主人公にベタベタな感じで主人公は小馬鹿にしたような態度をとるよくあるラブコメかなあ」と思っていたら、突如逆さま人間が登場するわけですから驚きます。というか最初は???状態でした。なんかこの背景おかしくない?と。しかしメイラが逆向きに立っているビジュアルが明らかになって、なるほどなとなりました。しかもこのシーンの背景はセーブ画面の背景に使われてますね。最初に見たときわけが分からなかったのですが、ようやく合点しました。

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その後はしばらくほのぼの系ラブコメが続きます。「あなたのお嫁さんだよ☆」などと妄言(?)を吐くリコと冷たい系のヒロサキ、それに泣き虫天然系のメイラとラブコメのキャラクターとして王道かつバランスの良い設定でしょう。
そしてふだんあんなことを恥ずかしげもなく言っているリコが、ヒロサキがちょっと乗ってきただけで恥ずかしくて赤くなっちゃうのが良いですね。いつもみたいにかわされると思ったのにそういう雰囲気になったら途端に恥ずかしくなっちゃうんですよね。


…ところでヒロサキ君、君は登場する作品を間違えたんじゃないかい?
絶対にエロゲに出たかったのに間違えて全年齢の本作に出ちゃったでしょ!!
ヒロインの告白(?)を華麗にかわしておいてあんなセクハラ言動が許されるのはエロゲだけですよ!!
もっと健全な作品の主人公らしく過ごしなさいよ!


と、ヒロサキへのお説教が済んだところで物語を読み進めていきましょう。中盤くらいまで読んだところで、ラブコメなのはいいとして私の頭にはこの作品の世界観について疑問がわいてきました。
主人公の名前(漢字で書けば、青森・弘前ですよね)からすると物語の舞台は現代日本だろうな~と思っていました。しかしそれにしては背景画像が微妙だし、会話や町の様子も現代っぽさがないなあという違和感を抱えていたところ、メイラを連れて外出したシーンで事件が起こります。なるほど本作はファンタジーだったんですね。

このあたりの、作品の舞台になっている世界の説明はもう少し早い段階でしてくれた方が良いんじゃないかと思いました。人さらいの登場とか、端岬とかのあたりはどうも唐突すぎる印象を受けました。


さて、本作はプレイヤーの選択によりリコルートとメイラルートに分岐します。分岐の仕方は分かりやすいので初見で狙った方に行けるでしょう。私はリコルートから読みました(というかあのシーンでメイラ選択したらヒロサキに人間の心なくない?)。
こちらはサブルートであることがリコ本人の口から語られていますので(!)さらっと読み進めましょう。先ほどの事件はリコルートでのものですが、それが解決した後は物語は何事もなく平和なまま終わりを迎えてしまいます…と思いきや最後に衝撃の事実が。え??? これはメイラルートも読めば意味が分かるやつですか? というわけで張り切ってメイラルートに向かいましょう。

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こちらのルートにはさらに2つの分岐があります。片方は平和なまま、もう片方は別れを伴う形でこれも終了。え? どういうこと、ヒロサキの選択の理由も説得力あるわけじゃないし終わり方も中途半端だし良く分からんな~
実際、本作がこれで終わりだったら私はレビューで取り上げなかったでしょう。
これらのルートをすべて読み終えると、タイトル画面に変化が現れます。この世界をメイラの目から見たように逆さま。これはコンプリート後の演出なのか? としばし迷いましたが、いやこのままだと微妙すぎる、新しい分岐が出現してたりするかも、という期待の元再度STARTボタンをクリックする私。
あれ、冒頭部分こんな感じだったっけ? と思いながら読み進めると、期待通りこれまでと違うルートに入ったようでした。


この真ルートについては詳細は述べませんが、メイラ視点の話が読めて面白かったです。やっぱりヒロイン視点って見たいじゃないですか。本編であんな別れ方をしちゃったメイラがどう思っているのか。逆さまの世界では何が起こっているのかについてもちょっと理屈っぽいですが解説してくれます。ファンタジーというかSFでした。
そしてそれを受けてのラストシーンの収まりがよい。まあ教師の”仮説”については若干力業というか、アナロジー成立してないのではと思わないこともないですが、基本ラブコメ寄りの本作では気にせず流してしまえる範囲でしょう。


その他気になった点としては、投げっぱなしな伏線が目立つことが挙げられます。この世界の秘密について父がヒロサキに隠していた理由、リコルートで明らかになる彼女の秘密(特にこのままではメイラ登場シーンの反応も不自然では?)などが結局解決していないように見えます。2時間以内の尺としてはちょっと設定を盛りすぎかなという印象はぬぐえません。

あとは、無音の時間が長めでやや寂しかったかなという気はします。演出としての無音と理解できる部分以外でしばらく待ってもBGMもないと、なんかバグったかなと不安になってしまいました。映像面(ビジュアル面)についてはよく考えられているなと感じたのでやや惜しい。


ちなみに割とどうでもいいことですが、本作はreadme.txtでだいぶふざけていて面白かったです。
こんな自由な感じのreadme読んだのはいつ以来だったかな~
プレイしたけど見てないって方はぜひ見てください。


今回のレビューはここまでとなります。若干難点の指摘が長くなりましたが、ラストシーンの気持ちよさが魅力的ですのでぜひメイラちゃんを迎えに行ってあげてください。

それでは。

こんにちは。今回は窓際ななみさんの「絶望の螺旋」のご紹介です。

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ジャンル:オカルトサスペンス
プレイ時間:2時間
分岐:基本1本道
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2021/5
備考:15推


今回の作品はまた特殊で記事のジャンル分類にも悩みました。基本的にはノベルゲームかなと思いますが、通常のノベルゲームでは絶対に必要のない攻略要素があるため今回はアドベンチャーゲーム扱いとしています。
その特殊な要素ですが……まずはこちらのゲーム画面を見ていただければわかると思います。

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なんとゲーム画面が常に4分割されています。それぞれの画面は普通のノベルゲーム的に動かすことができます。上の状況では、今は右上のターンです。ある程度話が進むとまた全体から話を進める人物を選択しシナリオが進行していくことになります。
4分割されたこの画面構成を見て、私はEYEZMAZEさんのMEET INを思い出しました。
MEET INでは4人家族で協力して謎解きをして集合することを目指すミニゲームでしたが、本作ではある学園で起こった呪いを解消するために試行錯誤して調査するという内容であり、MEET INと比較するとボリュームもかなりあります。

さて、この4つの画面で見られる話は、1つの物語をそれぞれ別の人物の視点で見たものになります。つまりは群像劇の同時進行的なものと思ってもらえるとよいです。
さらに、これらの4つの画面はお互いの進行に影響しています。ある一つの画面の話だけを進めようと思っても、「まだ時間になっていない」というような感じで止まってしまいます。ほかの画面のイベントを見て話が同期していくと再度進行できるようになっていくのです。
それだけでなく、特定の視点でタイミングがそろうとその2人(以上)の話が合流し、5つ目の画面イベントが起こることもあります。これこそが複数画面で物語を同時進行する本作の真骨頂と言えるでしょう。
終盤における呪いの根本原因対処のためには、操作可能なすべての画面で特定のシーンに持ってきたうえで行動を起こす必要があります。割と条件が厳しめなので、最初の数回は見逃してループになる方も多いでしょう。この仕組み、川崎部さんのSCE2のエンディングを思い起こします。
ゲームの作りが特殊なためか若干動作が重いように感じられますが、それに見合うだけの演出効果のある仕掛けとなっているでしょう。

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↑画面連動イベント中


話の内容にも触れましょう。
舞台となっているのは琴羽(ことはね)学園。2年生の樫山勇治(かしやま・ゆうじ)と若咲千草(わかさき・ちぐさ)は幼馴染。最初のうちはすれ違い系ラブコメか?というような感じで進めていたのですが、なんとゲーム内初日にして超絶修羅場に遭遇してしまいます。……え?これってそういう話だったの?
この事件で大きなショックを受けた千草に、謎の少女が誘惑をかけます。「彼を奪われたくはないだろう…?」と。その誘惑にあらがえなかった千草は”絶望の螺旋”へと引きずり込まれることになります。

それと時を同じくして、学園長から”学校のトキコさん”が出るといううわさの調査を依頼された睦月十歌(むつき・とおか)と天乃川夕美(あまのがわ・ゆみ)。霊能力という力の存在が認められるようになったこの世界で霊能力関係の事件を引き受ける探偵である彼女らは、学園へ調査に乗り込みます。
順調に視察を進める中、一人になった隙を突かれて誘拐されてしまった夕美は、霊能力について熟知している彼女にすら信じがたい話を聞かされるのだった。

ここから先は、先述したように各画面を同期させて攻略しなければ同じ内容をループしてしまいます。ぜひあなたの目で確かめてください。何もかもすっきり解決してハッピーエンドとはいきませんが、勇治と夕美がお互いに干渉できた理由などが夕美の聞かされた謎の話と一緒に説明されたりするのでそのあたりが気持ちいいポイントですね。
この謎をどれだけ早い段階で解けたかで本作のプレイ時間は大きく左右されるでしょう。


さて、本作をプレイして気になった点ですが、まずはこの特殊なシステムのために通常のノベルゲームでは使用可能なシステムが使えない点はやはり痛いです。具体的には、文章のスキップができません。また、セーブは一応できるもののかなり不自由。またバックログも全画面分まとめて少し表示されるだけなので、プレイしにくいと感じたことは否定できません。
もう一つは、やや世界観の説明不足を感じたという点です。冒頭で霊能力の存在が明かされますが、ほとんどの人には使えないし役にも立たない、ごくわずかの人には凄いことができる、という程度の説明で、では一体何ができるのか、都市伝説との関係は?といったあたりが不十分だったのではないでしょうか。なので最後の解決法が若干力業のように感じます。これは本作内における設定がかなりスケールが大きいものを含んでいて回収しきれていないのも関係ありそうです。黒い霧や謎の計画について解決していないので、これは続編で解決とかのパターンかな?という読後感です。


とはいえこれらの点は、4画面を同時進行して話を進め、しかも単に並列で進むのではなく相互に影響して謎解きをするという本作の本質的魅力には関わらない部分ですので、気になった方はぜひプレイしてみることをお勧めします。15推ということで、ゲーム起動時に警告文章があったりしますが、直接的なグラフィックなどはなくそこまでショッキングなシーンもないためプレイしやすいと思います。
また、画面が常に分割されて表示される仕様のため、画面サイズは大きめにしてプレイすることを推奨します。

それでは。

こんにちは。今回はa.r.b. Gamesさん制作の「RADIANT*SIGN」をご紹介します。

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ジャンル:ドラマチックアイドル活動ADV(公式より引用)
プレイ時間:すべて読むのに1時間半程度
分岐:なし
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2019/8


本作は、新人アイドルの一之瀬夏姫がアイドル活動を通じて成長し、同じユニットのメンバーとともにFiveStarCupというイベントでの上位入賞を目指す物語となっています。最近レビューした「いちばん星の願いごと」もアイドルが主人公でしたが、あちらはスターアイドルが路線変更を目指して修行をするという内容であり、新人の活動の軌跡を描いた本作はまた違った魅力を感じさせるものになっています。

スクリーンショットを見るとまず気付くと思いますが、本作は縦長の画面となっています。おそらくスマートフォンでのプレイを念頭に置いているのでしょう。マルチプラットフォームで動作するというのはティラノスクリプトの強みの一つですね。UIもスマートフォンアプリを意識したつくりとなっており、一般的なPC向けノベルゲームとは違った形ですが、十分作りこまれており特に不満に感じる点はありませんでした。ひとつだけ、SKIPは早送りではなくそのシーンを丸ごと飛ばしてシナリオ選択画面に戻る機能なことは注意です。各シーンは短いので操作を間違えなければ特に支障はないでしょう。


最初に述べたように、オーディションを受けまくって落ちまくって、ようやく合格を掴んだ一之瀬夏姫が先輩や仲間と出会って視野を広げていき、パフォーマンスを広げていくというのが本作のメインの見どころです。一般的なノベルゲームでは主人公に感情移入して読むタイプの私ですが、本作に関してはちょっと違う視点がメインとなった気がします。それは、夏姫や彼女の所属するユニットSeventh Heavenのファンとしてのような視点です。そこの世界観づくりがこれまでになくすぐれた作品であると感じました。

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というのも、本作のメイン画面は上のスクリーンショットの画面です。普通のノベルゲームだと、はじめから、つづきから、といったボタンがあってそこから読み始めるものでしょう。しかし本作のメインストーリーは「活動記録」から読むことができます。もうこの時点で、すでに活躍しているアイドルグループの成長記録を追う、という意識に誘い込まれるんです。さらにうまいのが、「幕間」「iPedia」です。本編の舞台裏を別人物の視点で見ることができる「幕間」で本編の内容を補完できます。「iPedia」はウィキペディアのような感じですね。本作に登場する人物やグループに関する情報がシナリオ進行とともに追加されていきます。出典の脚注などもあって結構手が込んでますよ。本編内で逆にアイペディアに関する反応などもあるので(緊張してミスったところを記事に書かれて恥ずかしい~など)、読了後にまとめて読むよりは1話読むごとに追記された部分を探す感じで読むのをお勧めしたいです。


さて、ストーリーについての話をしていませんでした。メインのストーリーは、「活動記録」から全9話に分けて読むことができます。各話はさらに短く4分割されているのでサクッと読み進めることができます。これもソーシャルゲームのシナリオを意識されたのでしょうか。
1話開始の時点では、主人公夏姫はアイドルになってすらいません。オーディションの合格発表に緊張して自分で封筒を開封できず、友人のほとりに開封を依頼してしまうほどです。そこで合格であることが分かり、アイドルとして活躍するという目標に向かって歩みだします。

ところでこの友人のほとりがいい子ですね。ほめてくれるし最初のファンになるといってくれるし、実際に夏姫がステージに立つ際はいつも駆けつけてくれます。このほとりと絡んで、夏姫がアイドルを目指すことになった理由がしっかり語られたおかげで、より夏姫を応援したい気持ちになりました。

そんな夏姫ですが、とにかくアイドルの小此木陽菜に憧れているばかりで、業界についての知識が全然ありませんでした。そこから先輩だったり仲間だったり、事務所の社長だったりに影響を受け、自分なりのキャラクターやパフォーマンスを身に着けていくのですが、その過程がすごくコンパクトに凝縮されていて分かりやすかったです。それぞれの章が短めで、テーマも分かりやすい(例えば、夏姫がアイドルになるとか、グループのメンバーが増えるとか)ので、アイドルとしての成長物語のいいところをつまみ食い、という印象があります。
逆に、これだけコンパクトにまとまっているとなると、他のメンバーの葛藤だったり成長だったりを盛り込むには少々尺が足りなかった感じがします。特に晶のエピソードなどは、唐突すぎるしそんなに簡単にスカウトしてよいのかという点は気になります。晶の話にとどまらず、何か問題が発生したとしてもとんとん拍子に解決してしまう感が否めません(だからこそ、いい意味でも悪い意味でもつまみ食いと感じたのです)。癒月のエピソードについては、幕間での補足も効いていて彼女の決断に厚みを加えてくれたと感じました。


というわけで、今回は「RADIANT*SIGN」でした。芸能に詳しい方だと、この名前は実在の人物のもじりだな~などといったことも楽しめるのではないでしょうか(私は芸能はからきしなので、いくつか気付いたくらいですが)。また、アイドルがテーマなだけあって立ち絵やその他のイラストもとてもかわいらしいですよ。
ここ1か月ほどで紹介した作品はどれも演出面に優れたものばかりですね。ゲームという媒体だからこそできる、物語を楽しみやすくする工夫や世界観の創出にも注目して読んでみてくださいね。

こんにちは。今回は月の側面さんの「夕暮れ叙事詩」のご紹介です。


ジャンル:現代探索ホラーアドベンチャー
プレイ時間:1時間半
分岐:なし(ゲームオーバーあり)
ツール:RPGツクール
リリース:2017/8

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本作は、一人の小説家にかかわる物語を追うアドベンチャーゲームとなっています。最近はホラー系の作品の記事が続いています。本作はその中でも割としっかりホラー要素がありますが、そんなに得意でもない私でも十分クリアできたので、苦手な方でも物語を楽しめる範囲でしょう。


本作の物語は、主人公の高月秋乃が謎の少女から「近くの石碑に来て」という電話を受けるところから始まります。不審に思ったもののその声にどこか聞き覚えがあるようにも感じた秋乃は、指示通り石碑に向かいます。そこで何かを埋めた跡を発見した秋乃は掘り返してみると、なんと先ほど電話をかけてきたと思しい少女の遺体が埋まっているのだった…。
さらに電話で謎の男から、少女の名前は帷(とばり)ということを聞き、また帷の遺体を持って家に来いと要求される秋乃。困惑しながらも指示に従って男の家に行くと、なんと目を離した隙に帷が動き出した。さらには家の中に散在していた帷の日記らしきメモ。男に監禁されていたと読めるそのメモの内容に、秋乃は帷を救うことを決意する。

このあたりまでが本作の導入部分と言えるでしょう。帷はなぜ男の家にいたのか、そもそも何者なのかといったあたりは物語の大切なテーマとなります。
本作ではそれ以外に、"戸隠桂馬"という作家の人物像や、その作品たちも非常に大きな役割を果たします。彼はどうやって作品を書いていたのか、帷とはどういう関係なのかというあたりが物語中盤以降の肝となってくるでしょう。


概要の説明はこのあたりにしておいて、本作をプレイした感想としてまず思うのは、雰囲気などの演出が優れているなというところです。冒頭の、秋乃が石碑のところに向かう場面。山道を歩いていくのがオープニングムービーを兼ねるような演出となっており、単純ながら面白い手法だなと感じました。イラストもすごくかわいらしいですね。土の中に埋まっていたはずの帷ですが、どこか美しいと感じられるスチル。動き出してからの寡黙なキャラクター性も謎に包まれた感じを出していてストーリーに合っていたと思います。
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その他でいうと、メモの中で足音が迫ってくる場面。帷のメモがそのまま秋乃たちの世界に影響してコツ、コツと得体の知れない足音が迫ってくるのが上手かったと思います。その後はそのまま探索ホラー定番の追いかけっことなるのですが、狭い場所で切り返して脱出する必要があり結構難しいです。その他にも何度か追いかけっこのシーンがありますが、当然どれも一発ミスれば死亡の上追手の速度も速いので、そこに来るまでの探索中にしっかりとマップの通路を把握しておかないと逃げきれないでしょう。頻繁なセーブで自衛しましょう。
また、終盤の病院で患者たちを避けるところもかなり難しかったです。ちょっと観察すれば、簡単な行動パターンをしていることがわかるので、落ち着いて安全なルートを考察し出口に向かいましょう。


さて、本作の特徴的な要素として、ストーリー中の多くの場面で見ることのできる"フェイスチャット"があります。進行フラグを進めるとよく左下に、その場面のタイトルっぽかったり、人物の感想っぽかったりするテキストが表示されます。私は初回プレイでは、フラグが進行したことを示したり、行動指針のための親切な設計なのかなと思っていたのですが、後からそこをクリックできることに気付きました。吹き出しアイコンをクリック、あるいはキーボードのC押下でちょっとした会話を見ることができます。なかなか面白い仕掛けですが、いかんせん気付きにくい。readmeにもこの機能の紹介は一応あるのですが、イベントの発生のさせ方が書いていなかったのでスルーしちゃってました。というわけで皆さんは見逃さないようにしてくださいね。


本作において様々な怪奇現象やホラー的要素が現れる原因としては、"小説を書く者の恨み"のような部分があります。ファンレターはたくさん来るが、その中にはどれ一つとっても作家である自分を理解してくれる内容はない。こうした状況がまた孤独感を強めたとも読めます。なるほどと思いますし、本作における帷の悲劇性をよく表しているなとも感じるのですが、同時にゲームの作者もこうした感情を持つことがあるのだろうかと少しだけ気になりました。私は小説ではありませんが、ゲームについてこうして感想やレビューを書いているのであまり他人事ともいえないですね。もし私が書いた内容が作者の意図からして的外れだったとしても、そう感じる人もいるんだなあくらいに思ってもらえたらうれしいです。


脱線はこのくらいにしておいて、本作の重要な登場人物は他にも、秋乃の親戚(はとこ)の朱莉と、その友人の千歳がいます。彼女らもキャラクターが立っていて、フェイスチャットの会話の幅が広がり良いですね。さらに終盤では彼女らの友情、過去といったところに帷が干渉していきます。この展開については、なぜ帷は朱莉にも手を加えるのだろうという疑問が先立ってしまいます。帷が秋乃にこだわる理由については納得感もあったし、良い話だなと思えたのですが朱莉と千歳の過去も知っているとなるとこれは単なる超能力ではないかと感じてしまいます。秋乃については(中盤くらいで見当がつくと思いますが)プレイヤーにしっかりと因果関係が見えて気持ち良いです。私はやっぱり、ゲームの中といえどなんでそうなるか全くわからない理不尽な部分はあまり好きになれないみたいです(そのシュールさが逆に笑えるコメディなら別なのですが)。


といろいろ書きましたが、エンディングがとても綺麗で、冒頭部分の秋乃の行動が回収されていたので(私はそれまですっかり忘れていました)、読後感もすっきり良好な作品です。きちんと理解者に出会えてよかったですね。

それでは。

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