フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
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2時間前後

こんにちは。今回は皐月の夢さんの新作「ミライカガミ」をご紹介します。

(2023/6/20追記:現在、本作品のフリー版は公開を終了しています。追加シナリオ、スチルの入った製品版が公開中です)


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ジャンル:サスペンスアドベンチャーゲーム(ちょっぴり陰鬱)
プレイ時間:1時間半、フルコンプで2時間強
分岐:Bad3、Happy1
ツール:WOLF RPGエディター
リリース:2022/1


まずは本作のあらすじを軽くまとめておきましょう。
柊イツキと有明アカネは高校2年生。ともに吹奏楽部へ入っており親友でもある彼女らは、進路に関する雑談をしたりする中で、10年後の夢を見られるというおまじないを試すという話になる。信じてはいなかったイツキだが、夢の中で本当に自分が10年後の自分になっていることに気付く。しかしなぜか見知らぬ男と手錠につながれ、燃え盛る倉庫の中に倒れているという恐ろしい状況。もう2度とおまじないを試すことはないと思うイツキであったが、なんとアカネの見た10年後は棺桶の中だったという。アカネの死を阻止するべく、イツキは再び10年後の世界へ行って事件の真相を突き止めることを誓うのだった…。

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ちょっと長くなりましたがこんなところでしょう。本作のタイトルとなっている「ミライカガミ」は、この10年後の夢を見られるというおまじないのことです。手鏡に口紅で名前を書いて枕の下に入れておくと、自分の10年後の夢が見られるという都市伝説風のおまじないです。ホラーの導入としてもすごくよくありそうな内容ですが、本作はホラー要素はほとんどありません。しかし、"ホラー風"の演出は所々に仕掛けられており、本作の面白いところの1つでしょう。タクシーの運転手の話とか、めちゃくちゃホラーっぽいのに直後に脱力系のオチがあってめちゃくちゃ意外でした。
また、調査の最終局面では暗い室内を探索する場面があります。ここではホラー的ギミックもありますが、これも苦手な人にも問題なくプレイできる範囲でしょう。しかもこのギミックが物語の進行にかかわっており良いですね。

また、本作では登場人物のキャラクター性や背景などがきちんと描かれているのも良いですね。最初の夢の時点ではさっぱり正体の分からない謎の人物であった灰谷ムツミ。イツキのことを知っている風だけれども別に未来の友人とは思えない態度には、最初のうちはコイツ誰だよと感じますが、居酒屋調査でのいたずらだったり、メロンパンのエピソードだったりといったものが挟まっていくうちに親近感の持てるキャラクターになっていきます。イツキの依頼を受けて調査に付き合ってくれる理由が語られるシーンなどはおおっと思いました。
その他にも、被害者であるアカネ、吹奏楽部の先輩でアカネと付き合っているイオリ先輩、先輩と以前に付き合っていたらしいミナコ先輩なども魅力的に描けており、イツキが現在時間での彼らとの交流から10年後の世界で調査を頑張るエネルギーをもらう様子も納得感のあるものでした。

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さて、無視するわけにはいかない事件の捜査パートのお話です。
現在と10年後を行き来しながら情報を仕入れ、真相解明に向かうというのは先に述べたとおりです。この捜査パート、難易度という面では高くありません。特定の場所を調べたり、簡単な暗号を解いて鍵を開けたりすることでフラグが進行します。Bad End1、Bad End2の分岐に関しても、かなりわかりやすいと思います。詰まった場合でもreadmeに攻略ページへのリンクがあるので安心です。
また、夢(10年後)の世界と現在の世界の2つを交互に探索し調査するという仕組みのため、情報が次第に手に入ってきて真相に次第に近づいていくという演出に関して、とてもよくできていると感じました。
そしてBad End3とHappy Endの分岐ですが、ここはきちんと探索をしておかなくてはなりません(とはいっても難しくはありませんが)。主にムツミさんに指示を受けて調査する夢の世界ではなく、イツキ自身が動いて立てるフラグがHappy Endへのカギを握っているため、自らの手で未来を切り開いたという達成感を得ることができるでしょう。ちなみにその反面、3つのBad Endはどれも救いのない内容です。特にBad End3は落差があるのでわりとショックでした。


というわけで今回は「ミライカガミ」でした。最後のシーンのムツミさんがかっこいいのとアカネの貢献が素晴らしかった(時差をうまく活用してますね)のでぜひHappy End回収までプレイしてみてください。ちなみに、作者さんの前作「親愛なる○○へ」がプレイ済みだとにやりとできる場面多数です。陸と陽介が仲良さそうなのを見ると、良かったな~という気持ちになります。また、現在と10年後と言いながら、生年月日の設定を見る限り2022年なのは10年後の世界のようです。でないと"事故物件"も時効ですね。

それでは。

今回は、ペットボトルココアさんの夏ゆめ彼方をご紹介します。
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オススメ!
ジャンル:夢を追い求める熱い青春ノベルゲーム
プレイ時間:2時間半
分岐:1か所あり。メインルートとサブルートに分岐
ツール:吉里吉里
リリース:2017/9


いやあ、本作は凄いです。ノベルゲームとの出会いという思い出補正の強いむきりょくかん。さんの作品を除くと多分本作が一番強く印象に残っています。というわけで、今回は長くなります。

本作のあらすじを簡単にまとめると、こんな感じです。

主人公の桂一は天才将棋棋士の父を持つ小学生で、自身も小学生名人戦優勝などの実績があり、神童と呼ばれ将来を期待されていた。しかし憧れの父は病に侵され、ついには名人を獲るという夢を果たせぬまま亡くなってしまい、桂一自身もそれを機に将棋とは疎遠になってしまう。毎日を無為に過ごしていたある日神社の裏山で出会った自称神様の少女"杏"との出会いをきっかけに、プロになり、そして名人になるという忘れていた夢を取り戻していく……

本作がすごいのは、この夢への想いの描き方が半端ではないことです。これほどまでに天才の努力や葛藤をまっすぐに表現した作品は初めてみました。桂一は天才とはいえ、当然ながらすべてが順調に進むわけではない。理想と現実の間で思い悩むリアルな描写の説得力が、私をこの物語に引き込んで放しませんでした。
天才が主人公の作品って、往々にしてやたらと冷静だったり超合理主義だったりして人間味が無いように感じられることも多いのですが、本作の桂一はいい意味で人間味にあふれ、泥臭い努力を重ねていきます。そんな熱心さが、読者を感情移入させるにあたっての強力な武器となっているように感じます。
私は、ゲームには感情移入しやすいというメリットがあると考えています。物語を紡ぐにはべつにノベルゲームという媒体にこだわる必要はなく、小説やアニメ、ドラマといった手法もあります。それらに比べてゲームでは必ずプレイヤー(読者)の操作が必要となり、その分主人公の行動や考えを自分に重ね合わせてストーリーを楽しむことができます。本作ではそうしたゲームの強みをさらに生かしているのではないでしょうか。

そんな本作ですが、前半部分ではそれほど夢に関して踏み込んだ描写はありません。何しろ桂一は完全に将棋をやめてしまっている状態からのスタートですからね。特に何をする気のないまま妹の晴香に振り回されてやってきた神社の裏山で杏と出会う。この杏がねえ、魅力的なんですよ。少女のような見た目をしていながら将棋がめちゃくちゃ強い。桂一を将棋でいじめたり、毒舌で唸らせたりしますが、将棋に関してきちんと助言をくれますし、それどころか学校になじめない桂一をクラスメートの大悟と友達になれるよう気遣ってくれたりします。立ち絵も可愛らしいしね。欲を言うともうすこしスチルが欲しかったでしょうか。

物語前半の描写は、コメディチックな部分も多いです。大悟たちはしっかり小学生らしくて微笑ましいですし、杏の毒舌にやり込められる桂一の様子とかも良い。私が好きなのは、「友達をなくす将棋」のところです。(注:形勢が相当に傾いた局面で、普通に相手の王様を攻めても勝てるのに、杏のように守り重視の手を指して相手に一切の逆転の望みを持たせないような棋風を俗にそう呼びます)

「『友達をなくす将棋』と思うたか?」
「でも、友達がいないのは桂一のほうでした。めでたしめでたし」
(舌鋒は攻めの棋風である。)

という軽快なやり取りについ笑ってしまいます。
ところで、舌鋒とか普通の小学生が使う語彙じゃないですよね。桂一は頭がいいという設定なのでまあわからんでもないですが、「全身が瘧のように震える」とかはさすがに…と感じました。読めなかったので調べましたし。

そんな笑いのあるシナリオですが、将棋を指すシーンの面白さもまた特筆に値するでしょう。私がこの作品を最初に読んだときは、将棋についてはほとんど知識がありませんでした。駒の動かし方とルールくらいは知っているけど戦略は何も知らない、藤井聡太さんが連勝記録を打ち立てて話題になったのは知っているけどその他の将棋棋士は羽生さんくらいしか知らないというレベルです。そんな状態でもしっかり戦況が分かるような解説が入ります。将棋を知らなくても決して暇にならないのです。父の棋風を受け継いで攻めっ気たっぷりな桂一と、受け潰しの棋風で決して勝ちを焦らない杏の対比も効いて、分からないなりにも盤上で熱烈なドラマが繰り広げられていることを理解できます。すると、自宅で棋譜を振り返って研究する桂一の気持ちもなんとなくわかってきます。そして翌日研究内容を頭に入れて再度杏に挑む。その繰り返しだけで本当に面白いんです。四間飛車とか早石田とか、急戦矢倉とかの具体的な戦型が出てきますが、様々な作戦がありそれぞれに特徴があるという事がしっかり分かるように語られるので、普通に読む分ではこれだけで十分です(赤野流っていうのは横歩取り青野流のことですよね?なんでこれだけ実在の名前と変えたんだろう)

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上の画像くらい専門的なやり取りもありますが、様々な定跡が研究され続け、多様な駆け引きが行われているということが分かれば物語は十分に楽しめます。むしろ、本作において将棋が単なる味付けではなくがっつりと描写されることによって、より桂一の挑戦の真剣さが前面に押し出され、私はそれに夢中になりました。

私は趣味で囲碁をやっているのですが(アマ三~四段くらいです)、将棋には触れたことのなかったので、本作に出会ったことを1つのきっかけにして昨年将棋を始めました。現在初段あるかないかといったレベルですが、ある程度将棋が分かるようになってから本作を再読すると、前は分からなかった箇所が分かるようになっており、感動の幅が広がりました。特に第1部最後の対局ですね。
「詰めろ」を掛けられた状態でどう指し手が制限されるか、「1手を争う終盤戦」とはどういうことかを自分が将棋を指すうえで実感していると、同じテキストから得られる情報量が桁違いになります。
ちなみに、この対局にはモデルとなった実際の対局があるようです。
ややネタバレ、特に将棋に詳しい方は注意。クリックで展開それは、第60期王座戦5番勝負の第4局です。こちらから棋譜が読めるので将棋が分かる方はぜひ参照しながら該当シーンを読んでみてください。桂一が度肝を抜かれ、人間業でないと評した奇手から終局までの流れ。これが実際のタイトル戦で現れた羽生二冠(当時)の伝説の妙手だったと知ると、また新たな感動があります。作内での戦況や着手の解説も、ここのことを言っていたのかと納得できるでしょう。
将棋の内容以外の面でも、「この興奮。この充実感。これを味わうために……僕は将棋を指しているんだ。」というような一言が胸に突き刺さるようになりました。

また、本作には1か所選択肢があり、それによって杏ルートと歌音ルートに分岐します。メインの杏ルートでは桂一は将棋一直線。叶えたい夢が大きい分、リスクも大きくなります。こちらのルートでは「将棋なんてやらなきゃ良かった!」と後悔するシーンがあります。歌音ルートはまさにこの将棋の名人を目指さなかった場合のIFルートと思うことができるでしょう。誰もが桂一のように大きな夢に向かって進んでいけるわけではありません。もっと身近な幸せを目指す歌音ルートが用意されていることで、ホッとすることができました。

総じて非常に面白い作品だと思うので、未読の方はぜひプレイしてみてください。
桂一と一緒に将棋に夢中になり、挫折し、それでも非情な現実に立ち向かわなければならない、そんな激動の人生を追体験して最後には温かい気持ちになれること間違いなしです。

ちなみに全然本質的ではないですが、本作に関して一つだけ物申したい点があります。
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ふりーむさん!! いくらテーマが将棋だとしても、「囲碁・将棋ゲーム」のジャンルに本作が含まれるのはおかしくないですか!!! 明らかに浮いてますよ!
(ふりーむのジャンル分けは作者による分類ではなくふりーむ運営による分類だったはず)

以上です。それでは。

こんにちは。今回は、コトリノスさんのMimicをご紹介します。

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ジャンル:可愛い系脱出ゲーム
プレイ時間:私の初見ノーヒントプレイで脱出まで1時間半ほど
分岐:なし
ツール:Unity(ブラウザ・iPhone・Android版あり)
リリース:2021/3


今回ご紹介する「Mimic」は本格脱出ゲームです。操作はいたってシンプル。マウスクリックのみです。ドラッグやキーボード操作不要・PCでもスマホでもプレイ可とお手軽ながら、中身はしっかりとボリュームとクオリティを両立させた作品となっています。

脱出ゲームで何より大事なのは、部屋に仕込まれた謎を解いたときの快感ですよね。分からないなあと悩むのも楽しいですが、ずっと分からないままでは次第にイライラしてきて、最後には投げてしまいます。私自身、脱出系の謎解きはそれほど得意ではないので、これまでプレイした数多くの脱出ゲームの中には、途中でにっちもさっちもいかなくなり諦めたり、攻略サイトに手を出したりしたものもいくつもあります。
しかし本作を作られたコトリノスの作品群は、ちょうどよい難易度に収まっていて解けた時の快感を味わいやすいです。「そんなの分かるか!」と言いたくなるような理不尽・意地悪な展開は滅多にないし、やけにクリックポイントが小さいアイテム探しや、画面の見にくさで難易度をあげるような部分も一切なく、プレイしていてほとんどストレスがありません。一度済んだ謎解きが再度要求されるようなこともなく、いろいろな面で直感に沿った構成になっているのです。もちろん簡単すぎるわけではなく、与えられたヒントを十分に観察し、関連しそうなアイテムが無いか部屋中を探索していく必要があります。
本作でうまいなと感じたのは、脱出間際の最後の謎です。実はプレイ中盤くらいでその形に気付いたとき、「こういうデザインなのか~おしゃれだな」などと思っていたのですが、進行上意味のあるデザインだったことに気付かされ感嘆しました。あとは魚の絵ですね。それを見た時、当然ながら似た形や配置のものを探したわけですが全然見つからず、絵とにらめっこしていたらふとひらめいたときの驚きと、検証してその通りだった時のしてやったりという気持ちは脱出ゲームの醍醐味でしょう。


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そして本作の特徴といえば、グラフィックが可愛らしいところでしょう。作者さんの他の作品はどちらかというとスタイリッシュなデザインだったりシンプルな内装だったりというイメージがあるのですが、本作では色鉛筆画のような優しい絵柄がまず目を引きます。そして画面下にいつもいる謎の小動物。今回は彼が脱出の主人公なのです。彼が閉じ込められるとはどういう状況だったのか、またタイトルの意味なんかも脱出すると分かります。
ちなみに脱出に使うアイテムの中にも、ぬいぐるみ(?)があってなかなか癒しを与えてくれます。この猫のぬいぐるみにもまさかの機能があるので、拾ったアイテムはしっかり詳細画面で調べましょう。本作は所持しているアイテムが自動で使用されるシステムではないので、ここに使えそうかなと思ったらどんどん試していくという姿勢も大事です。
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ちなみに私はブラウザでプレイしましたが、スマホアプリ版では高画質な上ヒント機能も使用可能なようです。ノーヒントでは行き詰まりそうという方はスマホで試すといいかもしれません。

というわけで今回はMimicをご紹介しました。しっかりと骨がありながらも気持ちよく解ける脱出ゲーム、ぜひプレイしてみてください。

こんにちは。今回は、HACKMOCKさんの「ロイヤルベルを鳴らして」のご紹介です。

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★favo
ジャンル:洋風ファンタジー乙女ゲーム
プレイ時間:1ルート30分程度。フルコンプまで1時間半
分岐:3人の攻略対象ごとに複数+ノーマルエンド
ツール:吉里吉里
リリース:2012/2


さて、まずは本作のあらすじを簡単にご紹介しましょう。主人公のユーリ(名前変更可)はヴィンボーナ王国の王女。しかし国が貧しいため贅沢はできず、庶民的な暮らしをしている。緊張すると頭の中が真っ白になってとんでもないことを口走ってしまうというおっちょこちょいな面があり、国民からも親しまれている。父親のヴィンボーナ王は何とか国を豊かにするために、隣国のカネモティアの2人の王子のどちらかと政略結婚させたいと思案し、王子の別荘に忍び込んでアプローチをかけるよう指示するのだが……

いきなりですが本作の魅力は一つ。ユーリが可愛い! そして面白い! これに尽きます。本当にかわいいんですよ。やってみてください。

…これではレビューにならないんでもう少し真面目に話しますね。
本作の冒頭は、ぎっくり腰になった父の代わりにユーリがカネモティア王子の誕生パーティーに出席している場面から始まります。公務の場に慣れていないユーリは緊張しまくり。カネモティア第一王子のアルト様がかっこいいな~と思っていたが、実際に話しかけられるとまともなことは何一つしゃべれず、「ミドリムシの生まれ変わりなので光合成しなきゃいけない」などと意味不明な言い訳を残しその場から逃げてしまいます。この時のユーリの表情がすごい。酔っぱらってもこうはならんだろというくらい真っ赤で可愛いんですよ。そしてころころと表情を変えるので見た目にも楽しい。この表情差分の数も魅力ですね。
創作の世界でよく"アホの子"というのがありますが、ユーリの場合はそれとはちょっと違って、自分のしでかした言動が常識に照らして突拍子もなさすぎるということには気づいているので、そのことについて恥じているシーンが多いんです。だからこそ笑えるだけの作品ではなく、思わずユーリを応援したくなるような、そんな物語に引き込まれる作品に仕上がっているように感じます。

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さて、本作には3人の攻略対象がいます。冒頭のシーンでも登場するカネモティア王子のアルト様、その弟のアキバル様、そして自国の大臣のセナです。それぞれ分類するなら、アルトは乙女ゲームの王道的ルート、アキバルは変わり者・癖のあるルート、セナは幼馴染ルートといえるでしょう。ちなみに個別ルートに入れなかったノーマルエンドもあります。これらのルートがそろって乙女ゲームとしてのバランスという意味でもよくできているでしょう。

これらのルートの中で私が好きなものを挙げるとしたら、なんといってもアルト様ルートでしょう。この王道な感じがたまらない。
アルト様は公の場では品行方正で美しい立ち居振る舞いで多くの女性から大人気なわけですが、会話を重ねるにつれ素の彼は俺様タイプだったことがわかります。そんな彼がどうしてユーリに気を許すのか、そのあたりもきちんと描かれているんですよね。恋愛ゲームに関してこの"なぜお互いが惹かれ合うのか"ってめちゃくちゃ大事な要素ですよね。そこのツボをしっかり押さえています。そしてユーリの行動は相変わらず。恋愛もコメディーもどちらもたっぷり味わえます。ぐいぐいくるアルト様に、ユーリだけでなく私まで心ときめかせてしまいました。そしてEND2のエンディングタイトル。ここまでの流れが本当にうまい。ユーリの「貧乏神」発言を生かしたこの展開にはうならされました。

ちなみにアルト様ルートはもう一つ、END1もあります。END2とはかなり温度差があるのですが、アルトもユーリも先ほどのエンディングと別人な感じはしないんですよね。たまにエンディングによって同一人物なのにキャラ違うだろ! と言いたくなるような作品もあったりするのですが、本作ではアルトとユーリの気持ちの動きがしっかりと表現されているので、どんな結末にも納得感があります。甘さたっぷりで乙女ゲームとしての魅力満点なのはやはりEND2かと思いますが、こちらの分岐も存在することで成就したときの幸せをよりかみしめられるような気がします。
もちろん、アキバルやセナのルートも乙女ゲームとしての魅力、コメディとしての魅力が詰まってます。

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本編をすべて読み終わったら、ぜひEXTRAからおまけを読んでみてください。後日談や人物設定などのおまけがたっぷりあるのもプレイしていて満足感がありますね。ちなみにこの後日談ではセナルートが好きです。おとなしい感じだったセナがあんなに堂々としているのを見ればかっこいいという感想を抱かずにはいられません。また、2人の王子とは違ってセナにはユーリとのこれまでの積み重ねがありますからね。その部分がしっかり感じられてよかったです。


というわけで今回は「ロイヤルベルを鳴らして」のご紹介でした。ユーリの突飛な行動に笑いながらも乙女ゲームならではの甘いどきどきを味わえる作品で、普段乙女ゲームをプレイしない方にもお勧めできると思います。ぜひプレイしてください。

それでは。

こんにちは。今回は、「ほしのの。」のご紹介です。

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オススメ!
ジャンル:田舎でお姉ちゃんと仲良くなる恋愛ゲーム
プレイ時間:2時間
分岐:なし
ツール:Flash/スマホアプリ
リリース:2007/7(原作Flash版)


今回はついに、私にとって思い出の作品「ほしのの。」を取り上げます。それまでRPGなどを中心にプレイしていてノベルゲームは存在すら知らなかった私は、前回の記事で紹介したたんしおレモンのゲーム紹介掲示板のようなコーナーから本作を知りました。そして見事にはまってしまったわけです。
本作は最初にむきりょくかん。さんによる原作のFlash版が公開され、その後株式会社テンクロスによるスマホアプリ版が公開されています。Flashのサポートは終わってしまいましたが、現在でもスマホアプリ版はダウンロードすることができます。スマホアプリにしては珍しい完全無料&広告なしなので、フリーゲームの枠内に十分入っているなと判断してのご紹介です。また、原作も一応まだプレイ可能です(詳細は後述します)。


本作のストーリーを単純化すると、両親のが亡くなってしまったため田舎の親戚に預けられることになった主人公の川島結城が、最初は鬱陶しく感じていた従姉の榛奈との距離を次第に縮めていくという内容です。よくあるギャルゲーのパターンとして、主人公がひょんなことから女の子を自身の家に住まわせることになる、いわゆるボーイミーツガール系がありますが、それとは関係が逆なわけです。しかしそれ以外の点においては典型的なギャルゲーと変わらず、上のあらすじを読んだだけでは何がそんなに良い作品なのかというのがあまり伝わらないと思います。そこで、私がよいと感じた点をいくつか順に紹介していきます。


まずは何といっても、シナリオの丁寧な作りです。物語開始時点の結城は、和泉家での田舎暮らしに強い抵抗感を抱いています。中学生で反抗期の最中ということもあり、1つ年上で世話焼きな従姉の榛奈に対しても邪険にするシーンが多く登場します。両親との死別という導入がこれらの"受け入れられなさ"と結びついて描かれ、ただの同居のきっかけ以上にシナリオの方向性を示しています。
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最初はこんな感じだった結城も、当然話が進むごとに和泉家になじんでいくわけですが、その過程にしっかりとした説得力があるんですよ。都会では触れることのなかったことを"ダサい"ではなく"新鮮"と捉える描写だったり、榛奈との"雨降って地固まる"的な出来事だったり。こうした一つ一つのエピソードが点ではなく線でつながり、榛奈と距離を縮めていくというまとまった物語の流れとして感じられるのです。
そうそう、田舎の描写や農作業に関する記述なんかも嘘っぽくなくていいですね。作者さんの実体験に基づいているようで、このシナリオの質にもうなずけます。


そして登場人物が魅力的です。ヒロインの榛奈はもちろん大変にかわいいです。私は4話での浴衣を着た榛奈の笑顔に心奪われました。
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また、立秋さんや委員長といったサブのキャラクターも単に登場しましたというだけの人物ではなく、しっかりと結城の思いに影響を与えています。委員長に関してはその個性的なキャラクター性から、気持ちの良いコメディー展開ももたらしてくれます。
あと忘れられないのは「ごがつのそら。」にも登場した神明みのり。1話と2話の間に引っ越してしまう彼女ですが、その後にも榛奈からの話題に出てきたり、結城と榛奈の間を仲介する役割を持ったりする重要人物になっています。

これらの人物の立ち絵については、原作版とアプリ版で全く違うので、両方で味わってみるのもいいでしょう。アプリ版には、原作ではなかった立秋さんと委員長の立ち絵もついています。あれだけふざけた発言をしていた委員長がまさかのイケメン(笑)
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作品を通して雰囲気だったり季節感といったものがはっきりと感じられるのも本作の良いところでしょう。例えば、夏の暑さにうんざりするシーンでは、文章で描写するだけでなく、セミが鳴く環境音が入ってくる。青い空と白い雲のコントラストのきいた背景写真が使われている、など作品全体から夏を感じられるんです。また、半年経ったことを表現するのに単にそう書くのではなく、「年が明け、桜の花が咲き、散り、紫陽花の季節になった。」とすることでよりイメージしやすく物語に入り込みやすかったり、何が起きたかだけを伝える脚本のような文章ではなく、味わいのある小説としての魅力を帯びてきているように感じます。ちなみに好きな文というと、1話終わりの「返って来た「おかえり」の声を聞いて初めて、僕は"家"に帰ったのだと。そう思った。」がかなり好きです。これから和泉家になじんでいくきっかけというか、予感みたいなものを感じさせられますよね。
また、効果音について少しだけ触れましたが、BGMについても大変雰囲気に合った選曲で、曲まで好きになってしまいます。原作版の話になりますが、エンディングテーマの「あたりまえ かわりばえ」が作品世界にぴったりマッチしているということに関しては、音楽素材について書いたこちらの記事でも触れています。この記事に書かなかった曲で好きなものというと、1話プロローグ直後のシーンのBGMでしょうか。両親を失ったという大きな喪失感を抱えた状態で榛奈と寝る前の会話をするシーンですが、ここで使われているこの物悲しいピアノ曲がすごく好きです。しかも曲名が"good night"だと知った時には、うますぎるだろ…と思いました。サウンド全体に関しての評価がすごく高いです。

このサウンドだったり背景だったりといった部分については、アプリ版では全く違うので原作ファンの私としてはやや残念なところではあります。
ちなみに以前はスマホアプリ版でなくガラケーアプリ版も存在していました。数年ぶりに起動してみたところ、タイトル画面のBGMがTAM Music Factoryの「秋の野」であることに気付き、ゲームのタイトルに合わせてきたとすると面白いなと思いました。


本作の好きなところについていろいろと語ってみました。原作のプレイはやや厳しいですが、興味を持った方はぜひアプリ版からプレイしてみてください。繰り返しますが、スマホアプリも広告なし完全無料ですのでぜひ。
ちなみにFlashのサポート終了に伴い現在ではそのままでは原作をプレイすることはできない状態ですが、一応プレイ可能な方法が2通りあります。1つはブラウザにRuffleを導入すること。私が普段使っているブラウザはGoogle Chromeですが、拡張機能としてRuffleを入れることで問題なくプレイ可能であることは確認しました。(確認した環境:Windows 10 Home 20H2, Chrome 92.0.4515.159, Ruffle nightly 2021-07-03)
もう一つは、原作ページで用意されているDL版のswfファイルをDLしてきてローカルで再生する方法です。flash playerのexeファイルが必要ですが、このサイトなどから持ってくることができます。DL版のほうが画質が良いようなので、こちらをお勧めします。
同じFlash版でも、ブラウザ版とDL版ではエンドロールでの手紙の内容にほんの少しだけ違いがあります。気になった方は注目してみるといいでしょう。このエンドロールの演出もすごく好きですね。エンディングテーマのリズムに合わせて文面が表示されるのも気持ちがよいところでしょう。ただし、DL版の"看護士"は"看護師"が正しいでしょう。同じ手紙内で"看護婦"という表現も残っていて統一されていなかったのもあり、少し気になりました。ちなみに一応調べたのですが、法改正により看護婦という呼称を使用しなくなったのは2002年のようですね。2021年現在の感覚では看護師という呼び方はかなり定着しているように思いますが、作品公開時点(2007年)でどうだったかは覚えていないのでそんなに厳しく突っ込むところではないでしょうか。


長くなってきたので、今回はここまでにします。私はこの作品をプレイするまで、本格的なノベルゲームをやったことがなく、1話プレイ開始時点では適当な選択肢を選ぶミニゲーム的なものだと思っていました。それが1話を読み終えるころには純粋に物語に夢中になっていました。物語が終盤に近付くにつれ、まだ終わってほしくない、もっと読んでいたい、と強く思ったのを昨日のことのように思い出すことができます。ぜひ皆さんにもこの気持ちを味わっていただきたいと思っているところです。

それでは。

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