フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
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2時間前後

こんにちは。今回はたんしおレモンさんの冒険の時間!です。


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ジャンル:オート戦闘お手軽RPG
プレイ時間:エンディングまで1時間、図鑑コンプリートまで2時間ほど
分岐:なし
ツール:HTML5(ブラウザゲーム、スマホ可)
リリース:2020/5


本作はスマートフォンでも遊べるように作られたお手軽ブラウザRPGです。シナリオと呼べるような要素はほとんどありません。また、戦闘はフルオートなので実際に戦闘に入ったら見ているだけになります。プレイヤーが介入できる要素は戦闘の順番、仲間にする魔物、周回要素の3つです。それぞれについて見ていきましょう。

戦闘の相手と順番

ゲームはいくつかのフロアからなっています。各フロアには敵が数体。どの敵と戦闘になるかは事前に分かるため、この順番だったら勝てそう、ボスに勝つには回復ポイントの使用回数を温存した状態で経験値稼ぎする必要がありそう、属性の相性を考えるとこの敵と戦うのは得策ではない、などの要素を考えることになります。多くのフロアでは規定回数の戦闘を終えると自動的に次のフロアに進んでしまうため、より多くの経験値を稼げる相手を選んで戦うというのもアリです。

仲間にする魔物

本作では戦闘に勝利すると、敵モンスターのうち1体を必ず仲間にすることができます。したがって、なるべく役に立つ強力な魔物を早い段階で仲間にすることが重要になります。また、味方にできるのは4体までなので、それ以上になると見放す魔物の選択を迫られることになります。この先の戦闘やフロアで何が求められるかを周回プレイを含めてしっかり把握し、適切な味方を増やして育成していくことが魔王城攻略のためには必須でしょう。
また、本作には同じ種類の魔物を数体集めると合体して進化するという特徴があります。当然進化後の魔物は強力なため、なるべく味方は進化させておきたいところです。そのためには、先に述べた味方にする魔物の取捨選択と、戦闘を行う順番の選択が大切になってくるのです。

周回要素

本作の周回要素は2つです。まず一つは図鑑。これまでに仲間にしたことのある魔物が登録されます。2周目以降の開始時には、図鑑登録済みの魔物の中から1体選んで仲間にした状態でゲームに臨むことができます。レベルは1に戻ってしまいますが、早い段階で強い魔物を仲間にできるとそのメリットは絶大です。つまり、ボス攻略ができなそうでも次回のプレイに備えて、魔物を進化させられるような戦闘相手を選ぶなどの戦略もとれるようになります。魔王討伐・エンディング到達には図鑑全種登録は不要ですが、ぜひ図鑑埋めにも挑戦してみてください。まさかのアイツも進化できますよ。
もう一つはアイテムです。本作のアイテムには、店で購入できるものとボス討伐時にもらえる特殊なアイテムの2種類があります。店で購入できるものは、毎回冒険に出る前に購入することができます。各種ステータスアップのほか、属性攻撃やレア魔物を出現させるなどの特殊効果のあるものもあります。ボス討伐でもらえるものは、入手に苦労するだけあって非常に強力です。進化合成用の魔物をキープするアイテム(どう見てもモンスターボール)、全属性に対して耐性を付けられるアイテム、冒険開始時に図鑑から連れて行ける魔物を2体にできるアイテムです。説明するまでもなく強力なので、ぜひ回収してください。

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さて、そんな本作のゲームバランスですが、適当に仲間を増やして進化できるときは進化するのようなやり方では中ボスくらいで壁に当たるけれども、対策を立てれば運に頼らずともクリアできるちょうどいいバランスだと思います。タイトル画面に戻ってくるたびに全員レベル1に戻るため、レベルを上げて物理で殴るといった単純な戦法では突破できません。それなりにしっかりと目的を定めて(進化がまだの仲間を図鑑に登録するとか、ボスに効く属性を確かめるとか、特殊アイテムを回収するとか)戦略を練りましょう。戦闘中は一切の操作ができないので、その進み具合をよく見ておき、余裕で勝ったのか、味方が倒されそうだったのか、属性の相性は良さそうなのかなどを次の戦闘に生かすのが大切になってきます。この戦略を立てる上で一つ面倒だったのが属性の相性の把握です。火・水・風・土の4属性があって、それぞれでじゃんけんのように相性の良し悪しがあるというのが一般的だと思うのですが、本作にはそれらに加え光・闇・痺の3つがあり、かなり複雑になっています。合計7つもの属性があり、各属性にある相性のいい属性と相性の悪い属性が1つというわけでもなく(2つあるものと1つのものがある)、さらに魔物自体も2つの属性を複合して持つことがある、となると相性を考えるのが相当大変でままならなくなってきます。一応ゲーム画面の下に属性相性表が用意され、ステージ開始時に関連する属性の説明が一度でるなど配慮しようという気持ちは感じられるのですが、覚えられないしいちいちこれを参照するのも面倒です。せめて作者さんの過去作の拡張にして欲しかったです(光・闇については過去作と同様なのですが、火・水・風・土については全然違っており、相当混乱しました)。
攻略に困った場合、各フロアにいる老人に話しかけるとちょっとだけヒントをもらえます。大まかな方向性とかしか教えてくれませんが、見落としていた攻略要素に気づけたりするかもしれません。


そして、本作に登場する魔物たちはどれもポリゴンで表現されたかわいらしさのあるものです。一度仲間にすると図鑑に載って名前がわかるようになりますが、ダジャレセンスのある独特のネーミングで笑わされることもあるでしょう。このあたりは作者のくろすけさんお得意のセンスですね。過去作からの登場がほとんどなので、それらをプレイしたことがある方は逆にどれが新しい魔物なのかに注目すると楽しめるでしょう。本作はシナリオのようなものはないため、くろすけさんお得意のおふざけイベントはないのが残念ですが、今まで過去作をプレイした経験がない方には逆に刺激が少なくてちょうどいいかもしれませんね。ネーミングセンスとか、老人との会話のノリとかが気に入った方はぜひ作者さんのほかの作品もプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回は、おととい公開されたばかりのベルカゲさんの最新作泡沫の花が散るをご紹介します。

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ジャンル:ミステリー&百合ノベルゲーム
プレイ時間:ノーマルモードですべて読んで1時間半くらい。フルコンプまで2時間ほど
分岐:基本一本道。ゲームオーバーあり
ツール:ティラノスクリプト、ブラウザ版あり
リリース:2021/7
備考:12推


チェス殺人事件以来のミステリーのご紹介になります。チェス殺人事件では手掛かりとなるのは人物情報とチェスのルールだけというお手軽さでしたが、本作は事件に至る状況の描写とか捜査パートもあり、力の入った作品になっています。

まずはあらすじを簡単にご説明しましょう。本作の主人公はミッション系の女子高、ロータス女学院に通う2年生の綾小路花蓮。唯一の正当な文芸部員として活動している。幼馴染で1年生の嘉手納向日葵(かでなひまわり)は写真部所属。クラスメイトの演劇部員に頼まれて、合宿中の撮影係として同行することに。3年生の不知火(しらぬい)あやめの別荘の豪華さと演技力の高さに驚いたり、彼女をめぐる人間関係のごたごたに巻き込まれたりしながらも無事に1日目を終え眠りにつく。2日目にいつまで経っても来ないあやめを探していると、なんと彼女は温室の中で無残な姿で発見された。しかし山奥のため夕方のバスの時間まで外部に連絡することもできない。花蓮は何としてもこの違和感のある事件の真相を見つけて向日葵を安心させるんだと心に決めるが……

と、こんな感じです。ミステリーの王道的な展開でしょう。この説明を読んで気付いた方も多いと思いますが、本作の登場人物は皆花に関係した名前になっています。主人公の名前には花という字が入っていますし、その他にも向日葵、朝顔、夕顔、あやめ、のばら、菊華に竜胆と様々な花の名前がそろいます。人名としては見慣れないものもありますが、各登場人物の髪の色が花の色に対応している感じのキャラクターデザインなので大変覚えやすく、特にミステリーにおいては大きなメリットでしょう。
さて、ミステリーにおいて魅力となってくるのは事件のトリックの意外性やそれを解き明かす体験だけでなく、ぐちゃぐちゃした人間関係やそこから生まれる事件への動機といった面も大きいでしょう。本作はその点において評価が高いです。
みんなの尊敬の的であったあやめの過去と悩み、彼女へ恋愛感情を持つ生徒とそれを快く思わない者の存在、妙な違和感のある不知火家の別荘の間取り。これらが本作はミステリーであることをしっかりと主張してきて、期待感を高めてくれます。

今、「え、主人公たちって女子高の生徒じゃなかった?」と思った方は鋭いですね。そうです。本作では女の子同士で恋愛感情を持ったり付き合ったり、さらには依存したりといったことが普通に行われています。つまり本作はミステリーでありながら百合ゲーとしても楽しめるわけです。作者のベルカゲさんは乙女ゲー作ったりギャルゲー作ったりBL作ったりと様々な方向で作品を発表しているのが特徴的なサークル。ミステリーを作ったと聞いて今回は違う方向性なのかなと思ったりもしたのですが(事実、恋愛面を除いたら過去作とはかなり印象が違いました)、きちんとベルカゲ節は発揮されているのでした。ちなみに百合といっても、「女の子同士なんて…」みたいな葛藤や周囲からの横槍が一切なく純粋にお互いのことを好きあっているのがこの作者さんの特徴。ともすれば殺伐とした空気になってしまうミステリーにおいてほっと一息つける場を提供してくれます。

BGMはクラシックなどの落ち着いた雰囲気の曲が多めで、お屋敷の豪華さや先輩たちの演技力なんかを音から引き立てています。私は終盤で使われていたチャイコフスキーの金平糖の精の踊りの不気味な感じがするアレンジが気に入ったので、クレジットを見てこれはポケットサウンドのクラシックアレンジシリーズに違いないと思って探したのですが(クラシック名曲サウンドライブラリーはアレンジはしていない)、違いました。DOVA-SYNDROMEのHuppleさんでした。

さて、話を本筋に戻して肝心の事件とその捜査・推理パートを見てみましょう。
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捜査パートでは、マップに従って屋敷内で聞き取りや証拠集めをしていきます。選択肢を全部試せば証拠収集できるので難しくはありませんが、証拠の数が大変多い! 捜査開始前に証拠品一覧画面を見た私はその空欄の数に圧倒されました。そんな証拠品ごとにアイコン用イラストが用意されていたり、状況を記録した写真とか、現場の見取り図とかがきちんと用意されていて、大変な作りこみようだなあと感心しました。
推理パートにおいては、議論中の話題ごとに適切な証拠品や証言を選択していきます。間違った選択をするとLIFEが1減り、0になってしまうとゲームオーバーです。しかし花蓮が話題を誘導してくれるので、それに従って進めていけばそれほど難しくはないでしょう(推理パートに入る前に事件のあらましが分かったという方がいたらすごいです)。ただ、2~3個くらいの証拠のどれでもよさそうだなと感じる場面でも正解は一つだけのようで、私はそのシーンなどでLIFEをゴリゴリ削られました。
こうした要素が苦手な方のためには、イージーモードが用意されています。証拠選択シーンが全証拠からの選択ではなく3択になり、LIFE切れになっても半分の値で復活可能。また捜査パートにおいてダミー証拠をつかむことがなくなります。配慮はかなり行き届いているといっていいでしょう。推理が苦手な方向けだけではなく、例えば周回プレイ用に事件に直接関係のない部分を省けるあらすじモード搭載、証拠選択画面になる前に予告がある、証拠選択画面でもバックログなどの参照可(意外とこれができない作品は多かったりする)、右上に議題が出るのでスキップ使用時でも流れの把握が容易など、多方面でプレイしやすくなる配慮がされており、周回プレイもストレスフリーにできる工夫があらゆる場面でなされています。ぜひSSランククリアを目指して周回してください。

推理の内容やトリックはどうだったかというと、正直なところよくできているとまでは言えない感じがしました。ほとんど状況証拠しかない中であっさりと自白しちゃうし(ただしこれは動機を考えれば納得できる気もする)、ちょっとそこに発想の飛躍ない? と思ったところもありました(論理の飛躍とか破綻ってわけじゃないのでそこまで気にするほどでもないかも)。しかし私は本格推理小説を読むつもりでプレイしたわけではないですし、推理をする花蓮の堂々とした態度は大変魅力的だったように感じます。現状は一つの事実によって力ずくでゴールに向かっていった感じがあるので、何かもう一つ、まさかと思わせるトリックがあると立体感が出てきて一気にミステリーとしての魅力が上がるような気がします。
事件に関して私の評価ポイントが高いのは、主人公たちがミッション系の女子高に通っているという設定が活きていたことですね。冒頭のチャペルでのシーンが素敵だから、みたいな理由ではなくきちんと事件の一つの要因になっていたというのはうまいと思います。あとは、制服もかわいいしね!
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さて、先ほどベルカゲさんの特徴は性別なんて気にしないおおらかな恋愛描写だというようなことを描きましたが、もう一つ重大な特徴があります。ネタバレを考えて具体的には言いませんが、過去作をプレイしてきた方ならお分かりと思うあの要素です。それがまさかねえ、エピローグからおまけ小話にかけてぶつけられてくるとはねえ…油断しました。ここでもベルカゲ節は炸裂です。油断した私が悪いんですが、ここはもう少し後味よくしてくれたほうが個人的な好みには合いました。
そうそう、あとがきでも書かれている通り小話は第2の本編とも言えるようなおまけの充実ぶりもベルカゲさんの特徴でした。立ち絵ギャラリーで遊べたりもするのでぜひやってみてください。

最後に私の推しキャラの話をしましょう。Twitterにも書きましたが、エアコン騒動でパジャマ姿で震える向日葵ちゃんが可愛い!
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スクリーンショットでは分かりませんが文字通り震えてるんでぜひプレイして確かめてください。
そしておまけ座談会にパジャマパーティーあり。需要分かってるなあ。

それでは。

こんにちは。今回は伽那ノ光さんの二酸化テルルをご紹介します。

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ジャンル:現代乙女ゲーム
プレイ時間:1周20分、フルコンプまでで2時間以内
分岐:4種類
ツール:吉里吉里
リリース:2013/7
備考:第9回ふりーむ!ゲームコンテスト女性向けゲーム部門銀賞受賞作


こんにちは。今回ご紹介するのは現代舞台の乙女ゲームですがちょっと変わった雰囲気の作品です。中学校が舞台だけど普通の学園ものとは違う。そう、本作は生徒である天音セレンと理科教師仁志輝流(にし・きりゅう)の間の物語なのです。禁断の恋という感じでフォーカスされているわけではないのでそこを求める方には物足りないかもしれませんが、生徒と先生、コドモとオトナの対等でない関係の間でどう展開するのかは見どころの一つでしょう。


さて、本作が変わっているのは生徒と先生という関係性だけではありません。タイトルを見てお気付きになるかと思いますが、本作には化学物質の名前がタイトルとして与えられています。そこからもわかる通り、化学が本作のストーリーを支える大切な要素になっています。とはいっても難しい話は出てこないので大丈夫。主人公天音セレンは中学3年生なので、中学校の範囲の内容しか出てきませんし、シナリオ中では適宜出てきた用語などについての解説が入ります。ちなみにこの解説は、仁志先生がさらっと格好よくしてくれるパターンと、シナリオを中断して注釈が入るような形で解説してくれるパターンがあります。出てくる用語自体は義務教育の範囲内ですが、付随するうんちくなんかも語ってくれたりするので理系の方も退屈しないと思いますよ。作者の伽那ノ光さんは医師とのことで、専門性を生かしたシナリオになっています。
逆に、科学的な(理屈っぽい)語り口などにアレルギーがある方だと本作を楽しむのは難しいかもしれませんね。昔習ったことを忘れてしまったという程度ならセレンと一緒にプレイヤーも生徒側に回ればいいのですが、酸素を作るとか電気分解するとかいった話題自体が苦手なら本作はお勧めしません。


そんなことを言っていると、本作は理屈をこねて難しい話を続けるようなゲームかと思われるかもしれませんが、それは違います。主人公セレンがとる選択肢は必ず科学的・空想的という対になっていてどちらも選ぶことができます。そしてどちらを選んだ回数が多いかによってエンディングが分岐するのです。理科の先生が攻略対象だからと言って、科学しまくれば良いエンディングにたどり着けるのかというとそうではありません。科学エンド、空想エンド、そして中間にあたる中道エンドのどれもがそれぞれ少しずつ違って優劣のない結末を見せてくれます。科学を押し付けることがないようなこの態度はなかなか好感が持てます。
そうした作品の構成だけでなく、文章表現でも詩的で素敵だなあと思える魅力もあったりします。私は「職員室にナッツのようなカラメルのような香りが広がる。たちまち、灰色だった部屋に赤みがさしこんだ。」「先生のほほえみは、準備室に広がったクリームの香りのように甘かった。わたしはその笑顔に、どきりとした。」などが気が利いていて好きだなあと思いました。


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さて、上の画像を見るとわかりますが、本作のイラストは非常にきれいです。セレンがかわいらしいのはもちろん、仁志先生もいいですね。教師という立場でクールに振る舞いますが、笑顔も見たくなる。そして3つのエンディングではそれぞれ専用スチルもあるのでぜひ集めてみましょう。ちなみに残り1つのエンディングは実質ゲームオーバーなのでスチルはありません。
もう一つ上の画像で特徴的だと思うのは、会話ウィンドウの配置です。普通のノベルゲームでは画面下部にウィンドウが1つあり、地の文も会話文もそこに表示されると思うのですが、本作では会話文は通常のテキストウィンドウとは別に立ち絵から吹き出しが出て表示されるのです。大変独特で慣れるまでは読みにくいかもしれません。しかしシステム面はしっかりと作りこまれているのでシステムに由来するプレイしにくさはかなり少ないですよ。ちなみにメニューバーの操作説明ボタンを押すと、作者さんの過去作せつなゆ魂のキャラクターが本作の操作法を解説してくれます。


本編中では仁志先生はあくまで先生であり、セレンがいくらアプローチしても大人の対応で、セレンは仁志先生のトクベツ課題を受けていることをうれしく思いながらも、いち生徒としてしか見られていないんじゃないかと寂しく感じたりします。このあたりの描写って、乙女ゲームとしてのすごくいいところだと思ってます。しかしそれだけでは物足りなく感じてしまうのも事実。結局セレンの恋は実らないのかと思うと残念だったりもしてしまいます。ですが心配は無用。2人の甘々っぷりはエンディングとエピローグでたっぷりと味わえます。特に恋する理科ノートの話では、セレンの脳みそが沸騰したところで私の脳みそも沸騰しそうでした。表情の変化も細かくていいですね。注文を付けるとしたら、エンディングでなぜ仁志先生がこれまでの態度を翻してセレンの気持ちに応えてくれたのか、の部分を読んでみたかったというところでしょう。エピローグは本編から時間が経っての話ですし、話のつながりのようなものよりは1つのシーンの魅力が大事だと思うのでセレンと仁志がラブラブになっていてもいいと思うんですが、本編エンディングではその部分が少し気になりました。

最後にどうでもいい蛇足なんですが、美術室に行ったときの回想で、セレンが課題で「わたしがいる風景」を描くために悩んでいるとき、仁志先生がキイロイトリの絵を描いたというシーンがありました。偶然だとは思うんですが、この題材が、三善晃作曲の混声合唱とギターのための組曲「クレーの絵本 第1集」の終曲「黄色い鳥のいる風景」を連想させてちょっとびっくりしました(元になった詩は谷川俊太郎のものです)。

さて、今日は少し変わった乙女ゲームのご紹介でした。大変クオリティの高い作品で、実は隠しイベントもあったりするので気になった方はぜひプレイしてみてください。隠しイベントのヒントは、周期表(タイトル画面に表示されている、元素をその性質をもとに並べた表)です。2人の名前の由来や作内に登場した科学知識の補足、セレンの過去などの話が聞けます。特にこのセリフ。

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作内の登場人物がしっかり背景を伴って生き生きと描かれているのって大事な要素ですよね。
本イベントへの入り方の答えはここには書きませんので、頑張って探してみてください。

それでは。

こんにちは。今回は再びねこのさんの作品、ありすえすけーぷをご紹介します。前々回のレビューでは最新作、前回は16年前の作品を取り上げましたが、今回はまた最新作。時代の幅を飛び越えてます。

(12/5追記:アツマール版公開・ランキングボード実装を受け、本作RTAの記事を書きました。通常の攻略は終わってタイムアタックを目指しているという方はこちらへどうぞ)

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ジャンル:ちょっとキワドイ脱出アドベンチャー
プレイ時間:初回15分。フルコンプまで1~2時間
分岐:4つ
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2021/4
備考:12推

本作は、以前紹介したありすすいーぱーのシリーズで、主人公が共通しています。しかしゲームジャンルは結構違っていて、ごりごりのパズルだった前作に対し本作は謎解き脱出ゲームとなっています。
脱出の舞台はなぜか夜の学校。目が覚めたらなぜか出口のなくなった学校にいたありす。5枚のカードを集めて脱出を目指します。夜の学校から脱出といえば、さくらぷりんさんの深夜12時学校でが思い浮かびますが、本作はホラーではありません。この雰囲気はどちらかといえばほりんさんのSheSeeCrisis!が近いでしょう。そう、つまり本作はおしっこ我慢ゲーなのです。


前作の可愛らしさは健在です。またもや相当量のボイスがついて、突飛なシナリオ・可愛らしいイラストと共にその魅力はばっちり。そんなありすがトイレを求め学校内を探索し、謎解きに頭を抱えるシナリオです。フェチがハマる人にとっては神ゲーになること間違いなしです。
露骨に我慢しているイラストはありませんが、謎解き失敗時にはまたしても"聖地"が拝めるスチルが慌てたボイスと共に登場。その他にも探索中のイベントなどでも結構な頻度で下ネタがあり、そうした方面での楽しみ方がメインとなる作品といえるでしょう。前作の時は、タイトルやゲーム説明からそうしたネタが含まれることを想定していなかったので、どちらかというといかがわしいと感じてしまいましたが、本作ではゲーム説明の段階でフェチが詰まった作品だということが明らかですからね。意外とおしっこ我慢に関する性癖は多いのか、なんて思いながら楽しめました。

逆に言うと、本作にはストーリーのようなものは全くありません。校内を探索したりミニゲームをしたり、ちょっぴりアレなイベントを見たりするだけなので、キャラクターの性格とか背景のあたりで物足りなさを感じたのは事実です。特に、主人公のありすが自身を"コミュ障"とか、"陽キャが怖い"みたいに評価していますが、この辺が突飛な設定に映りました。ありすが最初に登場した「ありすとーく」のやり取りを見るとそんなタイプにも見えないんですけどね…

ちなみにエロ系以外にも、ちょっぴり笑えるネタがいろいろ仕込まれています。私が特に好きなのはこちら。
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あ~、はい、そうですね(棒読)
前作でも本作でも見せまくってるけどな!

エンドロールの"親の声よりも聴いた"もなかなかですね。確かにタイトル画面の時点でちょっと思いましたが、まさか作内でそんな言葉が出てくるとは。メタなネタが多めだなとは思っていましたが、さすがに不意を突かれました。


ゲームの部分についても触れないわけにはいきません。本作はティラノスクリプトで作られた謎解きゲームですが、この謎の部分が思っていたよりよく考えられていて、解けた時はすっきりした気分になりました。結構難しいですが、作内でもよく探索すればヒントをもらえるし、どうしても解けなければ作者さんサイトによりあからさまなヒントも用意されています。解けなくてつまらない、もやもやするといったことにならないようしっかり準備されていて好印象です。
ちなみに私は2つほど作内ヒントを見ました。美術室だけはノーヒントで解けたのですが、その他が見当もつかず理科室のヒントを見たところ、なるほどそういう事かと驚き、その他の部屋の謎を解く方向性にも気が付きました。あとは最後の昇降口もヒントを見てしまいましたが、こうしたお助け機能を使った上でも謎解きの快感が得られるような絶妙なヒントにしてあるあたりも上手いですね。

エンディングは、我慢の限界に達してしまうものを含めて4種類。分岐条件は直感的にも分かりやすいので、謎解きさえできればエンディング回収はたやすいでしょう。また、普通の作品なら、エンディングをすべて回収したところで満足するところでしょうが、本作にはアドベンチャーゲームにしてはかなり珍しいやり込み要素が存在しています。なんと、ボイスの回収率や最速脱出記録、ミニゲームのハイスコアなどが記録されるのです。これはすごくいい仕掛けだと思います。目標や成果が目に見えるだけでこんなにやる気になるんですね。シナリオの長さに比して相当量のボイスが収録されている本作ですが、この機能が無ければ全ボイス回収をするモチベーションはなかなかわかなかったでしょう(そもそも未回収ボイスがあることに気付かない可能性が高い)。私が最後まで回収に苦労したボイスは、通常のプレイではまず起きないだろう状況下の教室で聞ける台詞だったのですが、このような状況まで考えてボイスを用意したりデバッグされたりしていることも凄いなと感じました。

ちなみに私のやり込み実績はこんな感じです。
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SSSランクが存在するのか気になって、相当な回数試行錯誤しました(ミスったらリセットしてやり直したりしたので、記録に残っている回数の倍くらいはプレイしているはずです)。しかし結局バスケットボール1万点×3、アイテム8回収、脱出タイム2分台を同時に達成してもSSランクだったので、これが最高なんじゃないかという結論に至りました。


というわけで「ありすえすけーぷ」のご紹介でした。とってもかわいらしい脱出ゲーム、一度やったら全ボイス回収までやり込みたくなるはず。ぜひプレイしてみてください。
それでは。

今回は、むきりょくかん。さんのごがつのそら。です。

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オススメ!
ジャンル:のんびり日常ちょっぴり恋愛ノベルゲーム
プレイ時間:2時間
分岐:基本一本道
ツール:NScripter
リリース:2005/8(NScripter版)


今回は、5月になったら扱おうと温めていた作品です。むきりょくかん。さんは私がノベルゲームに出会うきっかけとなったサイトで、強い思い出補正のある好きなサイトの1つです。本作も大好きで、もう10回以上は読んでいます。というわけで、レビューというよりは好きなものについて語るだけになってしまった感じがありますが、ご容赦ください。



本作はあまりはっきりしたあらすじはなく、登場人物ののんびりとした会話をずっと眺めているような展開が続きます。主人公の溝口春樹は大学を出たての新社会人。5月病でやる気が出ずにふらふら歩いていると、神社でピアノを弾いていた巫女バイトの高校生神明みのりに出会い、そこから2人の交流が始まります。この出会いの場面では当然ですがみのりはよそよそしく、溝口さんとは距離を感じます。しかし、溝口さんが暇つぶしにみのりのピアノを聞きに来るたびに、次第に距離を縮めていきます。このあたりの描写がとても丁寧なんですよね。いわゆるギャルゲーでは、ヒロインは出会った当初から主人公に好感度MAX、みたいな作品も多いですが(もちろんそういう作品も楽しいです)、本作では主人公もヒロインも割と普通で(みのりはちょっと暴力的な気がしないでもないですが)、心を通わせていく様子がしっかり示されることで感情移入しやすい作品になっていると思います。何か派手な出来事が起きるわけではないけど、日常シーンを通して交流を深めていく、この雰囲気・空気感の演出が抜群なんです。

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この2人が徐々に近づいていく様子が、ビジュアルの面でも同時に表現されているのは素晴らしい仕掛けですね。本作はかなりの部分が、溝口さんとみのりが神社の石段に腰かけてだべるシーンで構成されますが、2人の心理的距離感がそのまま物理的距離に比例して描かれているのです。これはほかの作品ではあまり見ることのない演出ではないでしょうか。本編読了後にはスチル閲覧モードが解放されるので、ぜひみのりの位置が次第に溝口さんに寄っているのを確認してみてください。

さて、こうした丁寧な文章描写とビジュアルの演出に加え、音楽もかなりいい仕事をしています。みのりがピアノを弾くという設定もあってか、本作のBGMはほぼすべてピアノ曲で構成されています。特に、2人が出会った時にみのりが弾いていた「世界が色づき始めるとき」は本作のテーマでもあり、なかなか印象的です。私は趣味でピアノを弾くので、作曲者のfokaさんのサイトに楽譜が公開されているのを見つけると、自分でも練習して弾けるようになりました。同じく本作のBGMに使われている「緑の小道」と、「これまでも これからも」(こちらは本作には使われていませんが)もあわせて、今でも時々弾いています。

こうしたテキスト・ビジュアル・音楽の合わせ技が最も有効に働いたのは、なんといっても4話ラストのシーンでしょう。作者さん自身が"とどめの一枚"と呼んだスチルと、ずいぶん柔らかくなったみのりの態度、そして幻想的で暖かな音楽。これらの織り成す雰囲気に呑まれ、"他人以上、友達未満で……恋人"な2人の関係で交わされる言葉を大変切なく感じました。

本編読了後には、おまけシナリオである「はちがつのゆき」がプレイ可能になります。こちらは本編よりずっと甘々な恋愛ものとなっているので、本編じゃあちょっと淡泊だと感じた方も、晴れて恋人同士となった溝口さんとみのりのやり取りににやにやできるでしょう。神社の外の話なので当然みのりの服装が普段と違ったり、背景写真が加工なしになっているなどといった意味でも本編と違いがあります。

さて、本作をプレイして唯一気になった点は、雲の話です。2人が空を見上げて、あれは巻層雲っていうんだよ、というようなシーンがあるのですが、巻層雲は別名をうす雲とも言うように薄く層状に広がる雲で、あまりきれいな雲というイメージが無かったので、物語中のイメージとあまり合わなかったかな、という。一般的にイメージされる雲といえばだいたい積雲(わた雲)ですし、巻層雲と同じく高い位置にできるという意味なら巻雲(すじ雲)の方がきれいかな、と思っています。該当シーンの背景写真もどちらかというと巻雲っぽいですし。まあ、非常にマニアックな話ですが、ちょうど私が高校で地学を習って出てきた範囲だったりしたので、そこは印象に残っています。


また、本作は株式会社テンクロスによってスマートフォンアプリ版が開発されました(かつてはガラケーアプリ版もありました)。こちらは前編無料、後編有料という形なのでフリーゲームとは言えませんが、"スタンプ集め"をすることで後編も無料でプレイ可能なので、気になった方はぜひプレイしてみてください(要は広告に出てくるアプリをいくつかインストールすればよい)。プレイ中にバナー広告や動画広告を見せられることが無いので、結構快適にプレイできますよ。
シナリオはほとんど原作と変更がありませんが、ビジュアルと音楽は一新されています。また、おまけシナリオにはほしのの。の2人がゲスト出演しているので、ほしのの。好きの方はプレイして損はないと思います。

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スマートフォンアプリ版のお話をしましたが、本作には実はinsaniさんによる英語版もあります。この英語版は完全無料です。高校時代にダウンロードして日本語版と同時に起動し、英語の勉強を兼ねて読んだのは良い思い出です。教科書で見るような正確な英語ばかりでなく、砕けた表現なども多く結構大変でした。
ちなみに、日本語版で終盤に「この格子戸を開けると、私の恋は終了する」というみのりの台詞があります。この台詞自体も綺麗だなと思ったのですが、その英訳が”When I rise and open that door, I ... close the door on my love.”でなかなか美しいなと感動した覚えがあります。


というわけで、蛇足も多かったですが今回はごがつのそら。のご紹介でした。私がこの作品に出合った時にはみのりより年下だったのに、いつの間にか溝口さんよりも年上になってしまいました。それだけ時間が経っても、最初に読んだ時の感動はよく覚えています。皆さんもぜひその感動を味わってください。

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