フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
初めての方は、ぜひごあいさつをご覧ください。評価の基準については、レビューについてに記してあります。
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30分以内

こんにちは。今回はサカモトトマトさんの「ぺ使いペペロ」のご紹介になります。

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ジャンル:簡単操作アクションゲーム
プレイ時間:1プレイ10分以内
ツール:WOLF RPGエディター
リリース:2022/2


サカモトトマトさんと言えば、昨年このブログで「ジュエ☆スタ!」を扱いました。ジュエ☆スタ!はパズルゲームでしたが、今回はアクションゲーム。どちらも単純なルールかつ簡単な操作ながらやり込みがいのある作品となっています。


本作の目的は簡単。聖なる「ぺ」(画像で赤いのが自機です)を操作して、邪悪な「ぺ」(青いやつ)を回収していきます。ぺが重なるようにマウスを移動させたらOK。
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邪悪なぺは左から右へと次々に流れていくので、テンポよく聖なるぺを重ねて回収していきましょう。
回収ごとにスコア倍率が上がり、倍率は一定速度で下がっていくのでなるべく素早く消すといいスコアを狙えます。

最初のうちはカーソル移動だけで回収できましたが、ゲームが進んでくると「ぺ」の向きを回転させなければいけなかったり、当たると自機が壊れてしまう敵が出現したりとギミックが増えていきます。
ゲームオーバーはなく、救済措置もあるためクリアするだけなら簡単ですが、なるべくいいタイムで、高い得点を取ろうとすると結構なやり込みが必要になってきます。
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本作のゲーム性以外のところでは、News!によるフレーバーテキストの多彩さに触れておきましょう。
上のスクリーンショットでは、ちょうど300個の「ぺ」を消したタイミングだったようで、関連したニュースが流れています。そういったタイミング以外では、ペペロンチーノが人気だとか、「スマッぺ」が解散したとか、ぺに関するニュースが流れてきます。流れてくるニュースのシュールさもあって、Cookie Clickerにある同様の機能を思い出しました。

そんなちょっとした笑いを提供してくれるNews!ですが、一つ重要な情報が出ることがあります。上級モードへの入り方です。通常モードでは物足りないと感じたあなたはぜひNews!をよく見たうえで上級モードを試してみてください。ギミック自体は変わりませんが、ぺの数や速度が上がったり、敵の数も増えたりしていてかなり難しくなっています。これでSランク取れたらすごいです。
さらに上級をクリアすると裏面への行き方も……
ちなみにsetting.txtをいじることでさらに高難易度にすることもできるようです。狂人御用達ですね。


そんな本作には一応ストーリーがあります。
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邪悪な「ぺ」は一体誰の仕業なのか、聖なる「ぺ」とは。裏面までクリアすると、そのちょっぴり意外な答えが明らかになるでしょう。
このストーリーモードですが、一度見たら再度見ることはできないっぽくてやや残念。あとはタイトル画面がないのも少し寂しいでしょうか。



さて、私は上級モードはやり込むには難しいと思ったので、通常モードでハイスコアを狙ってみることにしました。同梱の攻略書によると、なるべく素早く、取りこぼしがないように回収すればいいということなので頑張ってノーミスでの回収を目指します。
まずはぺの角度調整を素早くできるようになる必要がありました。マウス右ボタン押下で時計回り、左で反時計回りに回転するので、どちらの方向から回すのが照準合わせに最適なのかを瞬時に判断し、その通りに操作していきます。「愛と勇気とかしわもち」をやり込んだ経験がこんなところに活きるとは!
慣れると「ペクトのどうくつ」の落石がある地点より左側ですべてのぺを回収できるくらいになります。

そして敵が出てくる時間になったら画面全体を広い目で見渡します。各ステージで敵の出現位置は固定なので暗記したうえで対処。「ペテン・ぺぺ遺跡」ステージで登場する羽が厄介で、射出角度が定まっていないため出現したらすぐに角度を確認して避けるようにします。射出速度が一定でないのが嫌らしいところで、まだ大丈夫だろうと思っていたら高速で飛んできて衝突、なんてことが多発します。

あとは邪悪なぺの取り逃しがないように頑張るのですが、その際出現順(画面右から)にこだわらない方が良かったです。障害物に囲まれて取りに行けないものがあったら角度だけ確認したうえでいったんスルーして、取りやすいぺを回収後に向かうと成功率が高かったです。

あとはぺや敵の出現パターンが変わるときにBGMも切り替わるので、サウンドはしっかり聞きながらプレイするのをお勧めします。

そんな私のやり込みの成果はこんな感じ。
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Twitter検索した感じ、「ぺぢから」9800台の報告は見かけなかったのでこれはかなりいいスコアなんじゃないでしょうか。


というわけで今回は「ぺ使いペペロ」でした。
慣れれば1プレイ6分以内ですが、私は3時間くらいはやり込んだでしょう。そして右手人差し指が痛くなりました(「ジュエ☆スタ!」の頃から成長してない…)。私の記録を超えたらぜひ教えてくださいね。

それでは。

こんにちは。今回は鳥籠さんの「何も事件は起こらなかった」のレビューです。

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ジャンル:微ホラー探索アドベンチャー
プレイ時間:30分
分岐:エンディング3種
ツール:Wolf RPGエディター
リリース:2016/12
備考:第12回ふりーむ!ゲームコンテスト短編部門銅賞受賞作


さて、最近は新しめの作品が続いていましたが、今回はやや古め、2016年公開の短編ホラーとなります。
では簡単なあらすじ紹介からまいりましょう。

主人公のレンは小学1年生。公園で友達の志乃と遊んでいましたが、夕方になりお姉ちゃん(真弓)が迎えに来ます。家に帰ってからも一見平和そうなものの、たまに現れる幽霊のような影や不気味な現象。表に見せない苦悩を抱えていそうな真弓。
果たして幽霊の正体は何なのでしょうか。真弓とレンの間には何があったのでしょうか。幽霊のいう「ここにいてはいけない」はどういう意味だったのでしょうか…

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ゲーム開始時点では平穏そのものであり、怪しい洋館に肝試しに行ったり異世界に迷い込んだりするわけではない本作ですが、すぐにホラーの面が見えてきます。
家の中で、廊下や子供部屋、書斎など様々な場所で幽霊のような影に出会います。影たちはしきりに「お前はだれだ」「ここは悲しい家だ」「ここにいてはいけないから帰れ」などと伝えてきます。それほど怖いわけではありませんが、例えば「この家で過去に事件や事故があったんじゃないか」とか、「主人公は本当に生きた人間なのか、彼岸の使者が迎えに来ているのではないか」などの想像が膨らみます。

家の中がこのような状態であるのに対し、真弓は明らかに明るすぎるというか、空元気のような感じがします。この違和感は、真弓に対しても「この人は何かを隠しているんじゃないだろうか」という疑念を抱かせてきます。そしてその疑問はGOOD ENDによって意外な方向に解決されることとなります。


このエンディング分岐についてです。
GOOD, NORMAL, BADの3種類があることや、いずれも1周目から回収できることはゲームの開始時点で案内されています。となると多くの方は初見からGOODエンドを目指してプレイしていくのではないでしょうか。ところが本作は分岐の仕掛けが特殊であり、ほとんどの場合最初はBADにたどり着くのではないでしょうか。少なくとも初見GOODはほぼ無理だと思います。

BADエンドでは、レンも真弓もすべての疑問を忘れ去ってそのままおしまいになってしまいます。穏やかではあるけれども何も真実が明らかにならないルートです。このルートを見たうえでちょっと試してみればNORMALエンドにも簡単に行くことができるでしょう。こちらではレンは前を向いて進んでいくことができます。真弓の口からも本当のことが述べられますが前を向くことができず、なんともむずむずする結末になってしまいます。

というわけで皆さんにはぜひGOODエンドまで見て欲しいのですが、これは分かってしまえば簡単とはいえ気付くのは相当難しいと思います。人によっては永遠に気付かないかもしれません。
この分岐方法に私は非常に驚き、類を見ない仕掛けだなと大変感心しました。それは盲点だったよ…。
そしてたどり着いたGOODエンドでは2人とも現実を受け入れて前に進んでいくだけでなく、本作のタイトルであった「何も事件は起こらなかった」の意味も明らかになる大変気持ちの良いエンディングです。本編内で登場機会のなかった両親に関する気持ちなどを含めて解決されるのが素晴らしい。
このエンディングを見て初めて、幽霊の言葉だったりNORMALエンドでの会話だったりがプレイヤーに効果的にミスリードを誘っていることが分かるのです。

どうしても分からなかった場合、ヒントの見方がReadMeに書いてありますのでよく読んでみてください。それでも分からない場合、下に攻略を畳んで書いておくのでクリックして読んでください。この作品はGOODエンドまで見ないと評価できません。そしてエンディング回収後にはこの仕掛けが良くできていることに驚き、温かい結末に感動することができるでしょう。

GOOD ENDを見る方法(クリックで展開) トイレに起きた後おまじないをせずにそのまま眠り、翌朝真弓と話している最中に登場する幽霊に従って、話し続ける真弓を無視してリビングを出てください。→キー長押ししながらzもしくはEnterキーを押してメッセージを送っていけばよいです。
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さて、本作をホラーゲームとして見た場合、やや物足りなく感じるかもしれません。プレイ時間は短いですし、幽霊に話しかけられること以外に怖いことは起こりません(一か所だけ視覚的に怖いシーンがありますが、よほどホラーが苦手な方でなければ大丈夫でしょう)。
ゲームの進行も、家の中をノーヒントで探索して特定のものを調べる必要があったりと、すこし不親切というかお遣い感のある探索だなあと正直なところ感じました。
しかしそれでもエンディングのきれいさがそれらをすべてカバーできるすごい作品だなと感じました。

ややマニアックだけれども良かった点として、バックログが可能な点を挙げておきましょう。
ウディタ製のADVゲームにおいてバックログが使える作品は私はほとんど知らないのですが、本作にはばっちり実装されています。
イベント中に参照できないのは不便ですが、探索中はxキーで表示できるメニューからいつでも会話履歴をさかのぼって確認することが可能です。大変珍しい機能で私的には高ポイントです。


というわけで今回は「何も事件は起こらなかった」でした。
ぜひGOODエンドまで見てください。そうでないとこの作品を楽しんだことにならないのではないか、そのくらいのパワーがありますので頑張って攻略してみてください。

それでは。

こんにちは。今回はTwitterでもツイートしました(と書いているうちにXとかいう識別性の低すぎる名前になってしまった)、「未来エイゴウ昔のことは」とその元となった「七月革命」をまとめてご紹介しようと思います。

どちらもこのブログでは最多タイの3度目の登場となる晴好雨奇一丁目(静本はる)さんの作品で、「七月革命」は2014年公開です。その後2016年に前日談として「未来エイゴウ昔のことは」が公開されたということですが、当時私はそれを知らず、私が晴好雨奇一丁目さんを知った時にはすでに非公開となっていました。今回それが再公開となったのでプレイしてみたところ、とても良かったのでレビューを書いていこうと思います。


まずは「七月革命」です。
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ジャンル:掌編学園コメディ
プレイ時間:5分
分岐:なし
ツール:吉里吉里
リリース:2014/7

こちらは夏らしく爽やかな短編コメディです。同じ作者さんの「MY HOBBY IS 短編版」も以前レビューした作品で短編のコメディでしたが、本作はあれほどぶっ飛んだギャグなどは出てきません。

教室にエアコンが付いていないことに業を煮やしたミライ川(すごい名前)は、ムカシ田に向かって革命を起こすと宣言。いつの間にか大量の同志を引き連れて職員室へと直訴に向かいます。
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こうやって書いてしまうと話の筋は本当にシンプルなんですが、この作者さんのすごいところは演出法ですね。その他の作品でもそうだったのですが、とにかく軽快に見せる手腕に優れていて、革命を起こそうと燃えるミライ川のエネルギーやそれと対比して冷静なムカシ田の様子が非常に際立っています。
大勢の生徒を引き連れたカットインなどもミライ川の動きとともに右へ左へ動き回ります。こうした見た目の楽しさとお約束のようなギャグがぴったりとかみ合って、笑える作品となっています。
タイトル画面やメッセージウィンドウ右下で回転する扇風機の羽も涼しげでいい感じ。
冷めた目で見ているようなムカシ田も、完全に見捨てているわけじゃなくて最後にちゃんとフォローしてあげる関係性なのも爽やか。



続いて「未来エイゴウ昔のことは」です。
(9/10追記:現在本作品は再度非公開となっています)

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ジャンル:ノスタルジック短編青春物語
プレイ時間:20分
分岐:なし
ツール:吉里吉里
リリース:初公開2016/8、一時非公開後2023/7に再公開


こちらが今週再公開された作品で、私が今回の記事を書くきっかけにもなりました。
主な登場人物は七月革命で出てきたミライ川とムカシ田。それにミライ川のおばあちゃんです。

ミライ川の快活なキャラクターは変わらないのでこちらもコメディなのかと思いきや、本作はノスタルジックでしんみりとした展開が多く含まれています。舞台は2年さかのぼって2人が高校1年の夏休み。

七月革命では全く出てきませんでしたが、ムカシ田は実は野鳥の観察が趣味。オミルリという珍しい青い鳥がミライ川のおばあちゃんの家の近くにいるということで、ミライ川に半ば無理やりおばあちゃんの家に連れてこられます。
北の山にきれいなオミルリがたくさんいると聞いて必死に探すムカシ田。案内をしつつ自分の興味の赴くままに山で遊ぶミライ川。当時はほぼ交友の無かったはずの2人がどのようにしてお互いを理解し、七月革命の時のような確かな信頼を得ていったのかが分かるような描写がうまい。
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そして本作においてもう一人登場する重要な人物がミライ川のおばあちゃんです。
両親不在のミライ川にとっておばあちゃんは唯一の心許せる肉親。しかし村でのおばあちゃんの立場はそんなに良くありません。このあたりは田舎独特の風習がそれっぽく描かれ、単に元気なだけじゃない別の雰囲気を本作に与えてくれます。

このおばあちゃんとのやり取りや関係性を通してミライ川の行動原理や主義が見えてくるのがまた気持ちいい。作中で起こる出来事は決してほほえましいだけではありませんが、後味良好なのはミライ川の明るい性格を行動原理まできっちりと書ききっているからでしょう。

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また、本作は背景が加工なしの写真になっています。「ほしのの。」「かえりみち」や、晴好雨奇一丁目さんの最新作である「永遠と長閑」(現在は体験版のみ)などでも写真背景を使用していますし、田舎である設定を活かした作品って写真が多い気がします。
それでいて本作では晴好雨奇一丁目さんらしい演出も生きています。背景の動かし方や音楽の切り替えなど、すごくノスタルジックな感情を刺激してくるんですよね。短編における演出手法について、この人の右に出る者はいないと感じています。



最後にオチがあって締めくくられる本作ですが、そのオチもまた使い方が上手いです。今度は釣りに興味を持ったムカシ田。そこでタイトル画面に戻ってきて、とても綺麗なまとめ方です。
エンドロールがないのがちょっとだけ寂しいかな。

テキストファイルで後書きも同梱されているのでプレイ後にはぜひ読んでみてくださいね。


というわけで今回は「七月革命」「未来エイゴウ昔のことは」でした。
合計しても30分で読み終わり、すっきりと爽やかな気分になれますよ。この時期にぴったり。

それでは。

こんにちは。今回はくろいのうとさんの「Sample087」のご紹介をしようと思います。

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ジャンル:短編脱出ホラー
プレイ時間:30分以内
分岐:なし(ゲームオーバーあり)
ツール:Wolf RPGエディター
リリース:2015/8


今回の作品は王道な脱出ホラーものとなります。
主人公の黄瀬花香は怪しげな実験施設のような場所で目を覚まします。ベッドと机と小さな箱が1つしかない殺風景な部屋に閉じ込められている花香は、机の上にあった不穏な置き書きのようなものを発見します。そんな置き書きから目を離してみると、部屋の隅から謎のスライムが侵入してくるではありませんか。
命の危険を察知した花香はこの施設からの脱出を試みます。果たして無事に帰ることはできるのでしょうか…


このように本作の筋はいたってシンプルです。
敵キャラ(?)であるスライムは一瞬触れただけで即ゲームオーバーなので、操作を誤らないよう慎重に進みましょう。初見殺しの箇所もいくつかあるのでセーブは細かく分けておきましょう。

脱出のヒントとなる謎解き部分もオーソドックスなもので、この手のゲームに慣れた方なら迷わずに解くことができるでしょう。難しいわけでもないので不慣れな方でも安心です。

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こんな感じで、本作はいたって普通な脱出ホラーといった作品なのですが、それだけだったらレビューを書こうとは思わなかったと思います。プレイ時間にして20~30分の中で、いいなと感じた点が2つありました。順に説明していきましょう。


まず1つ目。本作には体力・思考力というパラメーターが存在しています。初期状態では両方とも40です。そして探索中に水やカンパンなどの食料を発見することがあります。それらをアイテム一覧から使用することによって、体力・思考力を回復することができるのです。

本作には戦闘要素は一切ありません。敵に何らかの攻撃をして退治する場面などはありませんし、敵に一瞬でも接触されたら即ゲームオーバーです。ではこのパラメーターは何に使われるのかというと、探索なのです。
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脱出のためにはいくつかの謎を解いていかなくてはなりません。置き書きを読んだり、謎のポスターを観察したり、室内のアイテムを見つけていったりするわけですが、その際に得られる情報量が思考力の影響を受けるのです。思考力40の初期状態では見たままの情報しか得られなかったのが、カンパンを使ってすこし思考力が増した状態だと、隅に書かれた小さい文字まで読めたりといった細かい設定がされているのです。これは非常に珍しい仕掛けだなと思いました。
基本的にパラメーターが高くて損をすることはないので、見つけた食料は有効活用していきましょう。

体力も同様で、体力が低い状態では解決に手間がかかった仕掛けをパワーで解決するといったことが可能な場面があります。なかなか面白いですね。



そしてもう1点。これは本作の最後の最後で明らかになります。

突然このような危険な施設に監禁され、この世界の理不尽を呪っていた花香ですが、最後の部屋で脱出へのかすかな希望でさえ打ち砕かれて絶望に染まってしまいます。結局どんなに手を尽くしても脱出は叶わないのか。そんな悲しいエンディングを迎える本作……しかし、本作には実は脱出エンドが存在しています。この際花香が希望を取り戻す演出がとても気持ち良かったです。BGMも切り替わり、花香の生きのびるという決意が感じられます。その場面でふつう選ばないだろうという選択肢を試したりもしたのですが、そういう時のメッセージもしっかり設定されていて良かったです。

おそらく初見で脱出成功させるのは難しいと思います。最後の部屋にたどり着いた段階で戻ることはできなくなってしまうので、詰んだと思ったら少し前のセーブデータからやり直してみましょう。

脱出成功後にTo be continued...の表示が出るのに(しかも続編で意味を持ってくると思われるロッカーのパスワードまで入手できるのに)結局続編にあたる作品が出てなさそうなのだけ残念です。



今回は短めですがここまでです。
短い中に面白いギミックを仕込んだ作品だと思うので、ぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。もうハロウィンは1か月前に終わってしまったので若干時期遅れな気もしますが、今回は灰色さんの「10月32日のハロウィン」のご紹介となります。ちなみにタイトルのわりにハロウィン要素は薄めとなっています。

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ジャンル:シリアス系ファンタジーノベルゲーム
プレイ時間:20分程度
分岐:なし
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2019/2



まずは本作のあらすじを軽くご紹介しましょう。
主人公は独特な喋り方をするキュルビスという子供。記憶を失い迷い込んだ”タマシイ”に過去の行いを思い出させ、”テンゴク”か”ジゴク”に送り届けるのが仕事です。いつも通り魂の記憶に触れると、なぜかこれまでに感じたことのないほど自分の感情に動きが現れたのです。魂の正体とは、キュルビスの行う仕事の意味とは…?


本作の文章は3人称視点で紡がれ、キュルビスだったり魂たちだったりの心情が本人から直接描写されることがありません。ノベルゲームではやや珍しいかなと思いますが、本作のシナリオに施された仕掛けにピッタリの表現方法になっていると思います。キュルビスはどうも感情が自由そうな感じがしません。果たしてそれはどういった由来があるのか、人間らしい感情はあるのか。こういった謎が不自然に感じない範囲で主張してきます。


さて、話を読み進めていきましょう。
少し進めば、魂の持つ記憶が悲しいものであることが分かってきます。最初は微笑ましく見えたやり取りも、ここまでくると害悪としか言いようがありません。生前の彼女は弱すぎました。そして相手は傲慢でした。

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キュルビスが魂の記憶を開放していくお話のため、シナリオのメインは魂だけとなった彼女がどんな過去を過ごしたかという内容なのかと思っていました。しかし話が進むにつれ、この物語は自然にキュルビスと魂のお話になっていきます。ここが面白かったですね。


しかしだからと言って幸せな方向に進むわけではありません。この物語に救いのある結末は結局最後まで提示されずに終わってしまいます。それでも私は美しいなと感じました。こんな悲しい家族愛があるかと。キュルビスが、あるいは魂が、もう少し強かったら、もう少し知恵を持っていたら、と思わずにはいられません。


本編を読み終わると、男の視点からの話を読むことができます。これはかなりひどい内容ですのでそれなりの覚悟を持って読んだ方が良いかもしれません。


さて、本作の雰囲気を演出するうえで、ビジュアル面での出来も良かったなと感じました。
ファンタジックな街並みやキュルビスの様子は明るく。回想シーンにおける線画では悲しい感情が自然に湧き出る書き方。あるいは背景にうっすらと描かれた植物もいい雰囲気を出しています。

逆に少し気になったのが動作の安定性です。BGMがループ時にぶちっと切れたり、クリア後のタイトル画面の挙動(数秒後に画面が変わる)などはあまりプレイヤーに優しくないように感じます。しかし本作は短編ですから、プレイに支障があるという感じでもないでしょう。


今回は短めですがここまでとなります。
劇的な展開の話ばかりだと疲れますし、”いい話”なタイプを続けて読んでいても飽きるので、本作のようなほんのりとダークなお話を楽しんでみてはいかがでしょう。

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