フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
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4時間前後

こんにちは。今回はAZULDROP;さんの「TABOO.」をレビューしていきたいと思います。

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ジャンル:ホラー探索アドベンチャー
プレイ時間:エンディング回収までで4時間前後
分岐:4種。他ゲームオーバー多数
ツール:Wolf RPGエディター
リリース:2015/4
備考:12推、暴力・流血描写あり


さて、本作の作者であるAZULDROP;さんは「神無月の遣い」の作者として知っていました(最近Twitterでも呟きましたね)。しかし作風がかなり異なるように感じられ、作者以外の事前情報なしでプレイした私は驚く場面が多数ありました。

では具体的な中身の話に移りましょう。
とある私立図書館で行方不明者が立て続けに発生したといううわさ話から始まります。噂は事実であり行方不明者の数は3年間で4人。そのことを不気味に思った人たちは噂に尾ひれをつけ、彼らは図書館で死んだ、彼らの幽霊が出る、犯人は図書館の管理人だ、などいろいろな情報が飛び交っています。
主人公のヴィンスはそんな図書館の管理人。閉館時間になったので館内を見回って戸締りをします。その過程で不審なメモ書きや幽霊のような人物を見かけます。
一方この図書館に潜んで行方不明者の調査を行っているティアも怪しい書物や幽霊を目にすることになります。果たしてこの図書館で過去に何があったのか、幽霊の正体は、そして行方不明事件との関係はいかに……


と、このように探索ホラーゲームとして王道の導入と言っていいでしょう。
短編和風乙女ゲームだった「神無月の遣い」と全然雰囲気が違っていてびっくりというところです。この違和感はプレイ開始当初私に悪い方向に作用していました。
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マップはあまりきれいに見えませんし(ただし立ち絵は相変わらず綺麗)、ホラー的な初見殺しの驚かし方がワンパターンです。また探索中に手に入るメモなども意味深なものばかりで謎が解決していく様子が感じられなかったので、これは微妙かな~と思っていました。
しかし最後までプレイしてみるといい作品だったなという感想になったからこそ今こうしてレビューを書いています。どうやって最初の印象が覆されたのかについて順にお話ししていきましょう。

まず私は本作のクリアまでの時間を見誤っていました。他の作品の印象から本作も30分以内程度の短編だと思っていたのです。そのため図書館と行方不明事件の謎がエンディングまでに解決する見通しが立たずに微妙かなと感じていました。
しかし実際には本作はTrue End到達まで迷わずに進めても1時間、実際に攻略しながら他のエンディングも回収して…と進めていくと4時間くらいはかかるボリュームがあったので、終盤ではしっかりと行方不明事件の謎についてもヴィンスとティアの関係についても解決していて良かったです。


さて、本作の前半部分では、図書館の戸締りをするヴィンスのターンになります。この段階では図書館内の鍵を拾って部屋に入って暗証番号のヒントを見つけて…と謎解きとしては一直線で簡単な部類だと感じます。アイテムに触れるとたまに幽霊が追いかけてくるのですぐに違うフロアまで逃げましょう。基本的にマップが切り替わればそれ以上追ってくることはなくなります。ほとんどの場合初見殺し的に追いかけっこイベントが発生するため、セーブは頻繁にしましょう。

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戸締りを終えて管理人室に帰ったらティアのターンになります。物置に隠れていた彼女は、この図書館で行方不明になったエレナを探して図書館内を探索します。エレナの幽霊に導かれ、小部屋の奥の迷路のような部屋を探索します。ここでも初見殺しトラップは健在なのでこまめにセーブしましょう。


ティアがヴィンスと合流したら後半戦です。2人が目撃した幽霊の正体を探しに行きます。
このフェーズでは謎解きが本格化し、前半のアイテム探しに比べて脱出ゲーム感が強まります。

4つの石を配置して隠し部屋への通路を発見してからは解決編です。この図書館で起きた事件の真実について、探索中にも匂わせるようなヒントは得られますが、この隠し部屋で明らかになる惨状を見たら驚くでしょう。館内の様々な場所に散らばっていた不老不死に関するメモが、このような悲しい事件に結びついているとは思いませんでした。
行方不明4人のうち2人はまあそうなっても仕方がないというか本人たちが望んだ結果でもあるんですが、残り2人に関しては本当にかわいそうです。そんな真実を知ったティアがどう動くのか。ヴィンスはどうするのか。True Endではこれらの要素がきちんと絡み合ってエンディングに行くのが良くできた作品だと思います。

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本作の攻略についてですが、前述した通り初見殺しが多数あるのでセーブは30秒ごとにしてもやりすぎではありません。慣れていたとしてもセーブなしで本作をクリアするのは至難でしょう。ただしその初見殺しパターンはアイテムを調べる・特定の場所に近付いた瞬間に幽霊に追いかけられるという1つのみですので、怖さ的には大したことはないでしょう(だから私も1人で最後までプレイできました)。
また、特に後半の探索については図書館全体を調べる必要が出てくるので、ヒントが示す場所がどこなのかを広い目で探してみましょう。

エンディング回収も難しいです。本作のエンディングはGame Overを除いて4種。攻略情報なしでコンプリートするのは非常に難しいと思います。というのも、特定の行動をしないという進行条件がある・前半での入手アイテムが終盤で分岐に影響するなどといった要素があるからです。
というわけでエンディング回収できないなと思ったら作者さんサイトの攻略情報を見ましょう…と言いたいところなんですがすでに消滅しているんですよね…。Web Archiveを使えばまだ見られるので困ったら参照しましょう。
このヒントを見てもちょっと分岐に迷ったのでここにも少しだけヒントを書いておきます。
END 03とTRUE ENDの分岐点 公式サイトにあったヒントだけでは分かりにくいですが、どちらのエンディングに向かうとしても後半戦開始時点でヴィンスは人形を所持しています(でないとティアがヴィンスにあう前にGame Overになる)。解決編の後の最後の追いかけっこの時、管理人室の2階にある人形を回収していくことでTRUE ENDに、スルーすることでEND 03へ行きます。

というわけで今回はTABOO.でした。
当初の想像よりずっと深いシナリオと攻略要素が絡んだ作品です。TRUE END後に見られるアフターストーリーもきれいなのでぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回のレビューは川澄シンヤさんの「リバース・ゲーム」です。

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ジャンル:“死”と向き合い、乗り越えるノベルゲーム(ReadMeより引用)
プレイ時間:Normal Endまで2時間、フルコンプまで5時間程度
分岐:エンディング11種(Ver2.00以降。うちバッドエンド7)
ツール:LiveMaker
リリース:2017/8
備考:15推、暴力・流血表現あり。第13回ふりーむ!ゲームコンテストアドベンチャー部門銀賞受賞作



本作のタイトルを見た私は、はじめその意味を"Reverse game"だと捉えました。何らかのゲームで負けを目指す、あるいは時間を逆行するとかゲームの側からプレイヤーに働きかけてくるメタな内容とか、そういうものをイメージしたんです。しかし本作の”リバース”は違う意味でした。”Rebirth game”、つまり生まれ変わりをかけたゲームだったのです。


というわけで本作の概要はこんな感じです。
主人公の加藤智紀(かとう・ともき)は高校一年生。夏休みの初日に散歩していたところ、なんと車にひかれて死んでしまう。そこに現れたのは天使を名乗る不気味な仮面の男、バース。彼曰く、”リバース・ゲーム”に参加して勝利すれば生き返ることができるという。そのゲームのルールは、時間内に(1人以上の)協力者を見つけ、その人と定期的に意思疎通を続けて無事に5日間過ごすこと。簡単そうに見えるが、まずは最初の協力者探しが最初の関門。果たして智紀は無事にゲームをクリアすることができるのか、そしてバースの目的は一体何なのか。5日間のゲームが幕を開ける…


といったところでしょう。
先週レビューした「終わりの鐘が鳴る前に」も生き返りをかけたゲームでしたが、特に狙ったわけではありません。たまたまです。
そして作品のメインとなるテーマも異なります。恋愛要素の大きかった「終わりの鐘が鳴る前に」に対し、本作「リバース・ゲーム」はよりデスゲーム的要素の強い作品となります。殺し合いをしたり心理戦を仕掛けたりするわけではありませんが、自分の生死がかかっているという緊張感の漂う作品です。ゲームをクリアするためには智紀のこれまで築き上げた人間関係が重要となってくるのですが、これが意外な方向に効いていて面白かったですね。

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さて、ゲームを進めていきましょう。
智紀がリバース・ゲームへの参加を承諾すると、ゲームのサポート役を務める天使の相原はるかが現れます。智紀と同年代の普通の少女にしか見えませんが、間違いなく天使であるというはるかは実体化/霊体化を切り替えることができます。霊体化した場合、ゲームのプレイヤーや協力者以外の普通の人間には見えなくなるのです。デスゲームらしい要素が見えてきましたね。


ところが、序盤においては緊張感はあまり感じられません。ゲームの場は智紀の生活圏内と変わりませんし、はるかはどう見ても普通の少女。さらにゲームの細かいルール説明を聞くために入った喫茶店では、濃いキャラクターのマスターがお出迎えしてくれます。ラブコメかな?と思うような個所もありますが、実際に協力者を探す段になって本作はシリアスさを増していきます。


誰かを協力者とするには、まずは自分の置かれた状況を相手に信じてもらわなくてはなりません。なるほど、これは確かに難しそうです。交通事故に遭って一度死んだが、リバース・ゲームに勝てば生き返らせてくれるんだ、なんて話普通の人は信じません。また、もしこのような状況に立たされたなら、はるかが忠告する通り最も身近にいる人である家族を協力者に立ててクリアを目指すのが常識的な考え方でしょう。しかし智紀は頑なに両親を頼ろうとしません。何らかのすれ違いがあったのでしょうが、ここでその詳細が語られることはありません。この詳細は本作のクライマックスにおいて感動的な形で明らかにされることになります。ここが本作において一番の肝というか、上手い部分と言えるでしょう。

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死んだ人が全員リバース・ゲームに参加できるわけではありません。何らかの心残りがある人だけがリバース・ゲームに招待され、そして生き返るに値する人間なのかを”審査”する。バースはそう言いました。智紀にとってはそれが両親との関係をやり直すことだったわけです。だからこそ、True Endにおいて”ルール変更”が正当であったことが分かります。このあたりのロジックがしっかりと描かれていて、気持ちのいいポイントの1つとなっています。
家族と正面から向き合うこと、過去を受け入れて未来へと歩んでいくこと。そういったともすれば説教臭くなってしまうような問題を、デスゲームの形をとることで感動的な演出として組み込む手腕はなかなか大したものでしょう。



上の書き方だと、生き返りをかけたゲームであるというのは形式的なものにすぎないように感じるかもしれませんが、そんなことはありません。
ゲーム初日、智紀はなんとか幼馴染である山内慶一(やまうち・けいいち)に協力者になってもらうことに成功します。5年も会っていなかった智紀の頼みを聞いてくれるなんていい人ですね。
協力者をみつけて意思疎通も果たし、あとは10時間の間を開けないように会話なり電話なりをすればよいということになってクリアできそうという空気になりますが、そう簡単には行きません。最終日である5日目には電話がつながらないというアクシデントが発生します。

……いや、これは本当にアクシデントなのだろうか。もし慶一がリバース・ゲームのことを心から信じているわけではなかったら。あるいは実は智紀のことを恨んでいる理由があるのなら…。こういった疑心暗鬼な展開はデスゲームにおける典型的な見せ場と言えるでしょう。


また、リバース・ゲームの参加者は智紀1人ではありません。ゲームの途中には作業服の男性やまだ小学生に見える少女など他の参加者にも出会います。彼らとの出会いがどう智紀の心情に影響していくのかといったところも見どころの1つです。



さて、本作はいわゆる1周目ルート制限ありの作品です。
初回プレイではどんなに頑張ってもNormal End(かBad End)にしか行くことができません。その後2周目以降でその他のエンディングが解放されていきます。この方針はものによっては面倒くさいだけだったりしますが、本作においてはそうならないような工夫がしっかりと施されているように感じます。
2周目においてはゲーム進行中の天界での出来事などが語られたりしますが、これはまずはNormal Endを見るくらいはプレイしておかないと意味が分からないので、ルート制限をかける必要性もあったでしょう。後書きを読むと分かりますが、作者としての意図もしっかりしており、それゆえの成功例だと感じました。既読スキップは正確で高速ですので、エンディング回収にもそれほど手間がかかりませんしね。

そうして苦労してたどり着いたTrue Endでは悩みを断ち切りしっかりと前を向いている智紀の姿に、私も頑張って良かったなあと感じさせてくれます。バースの目的なども含めてしっかりと回収されるのが良いですね。
バースの正体が明らかになるところは、その瞬間の感動が(プレイヤーにとっては)薄いので、事前に写真を見せておくなどでプレイヤーにもそれと分かるような仕掛けがあった方が良いだろうなあと思います。智紀の感動とプレイヤーの感動のタイミングがずれてしまうのでそこだけ惜しいように感じました。(ネタバレに配慮して書くのが難しい…)


話は本作とは若干ズレますが、私が作者の川澄シンヤさんを知ったのは3年前のティラノゲームフェスで、「女のフリしてゲーム作ったら、女装することになりました」を見たのがきっかけです。タイトルから分かる通りのコメディ作品で、私の好みでもあったのでノベコレにコメントを書いたりもしました。その際過去作とは作風が全然違っているというような紹介文を読んだ記憶があったので、私は「リバース・ゲーム」はシリアスに振った作品で、間違っても女装少年なんて出てこないだろうと思っていたのです。

ところが! 2周目プレイ時はなんとゲーム序盤で智紀のワンピース姿が!!
可愛いじゃないですか! 間瀬くんに負けてませんよ
個人的には1周目で見せて欲しかったな! 特にネタバレとか関係ないシーンだし。
あとはレイナのおしおきシーンも明らかに作者さんの性癖山盛り! 大好きです、ありがとうございました。(注:これらの表現は全年齢向けです。本作が15推なのはあくまでデスゲームに関連する暴力表現のためです)
こうした下品な感じの無い可愛くてほんのちょっとえっちな展開好きなんですよね……ちょうど今開催中のDLsite公式ジャンルリクエストキャンペーンで全年齢向けジャンルをリクエストしてしまったくらいには。

というわけで私はこのスチルにハマってしまいました。ここに画像は貼らないのでぜひ皆さんご自身の目で確かめてみてください。



最後に隠しルートの話を少しだけしておきましょう。
2周目以降、特定の選択肢を選んでいくと5日目の展開に変化が現れます。その他のルートとは明らかに一線を画すこの狂気、怖いです。でも実際に自分がこんな生死をかけたゲームに参加させられたらこのような思考になるのも無理はないかもしれません。
そして(ver2.00以降)、隠しルートコンプ後にとあるエンディングが解放されます。作者の警告やエンディングの分類から察することはできますが、ここだけゲームのジャンルが変わったかのような衝撃の展開…とだけ言っておきましょう。このルートに入るのは難しいですが、同梱のヒントを参考にすれば数回の試行錯誤でたどり着くことができるでしょう。

ただ個人的には隠しルートに入る苦労と、その結果繰り広げられるあのシーンの後味の悪さが釣り合ってないんじゃないか、という気がしてしまいます。



というわけで今回は「リバース・ゲーム」でした。
一見破綻していても確かに存在する家族愛、人はどういう時に前を向いて生きていこうという希望を見出すのか、というあたりが気持ちいい作品です。ぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回はCynical Honeyさんの「終わりの鐘が鳴る前に Chapter.1」をご紹介しようと思います。

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※期間限定無料作品
ジャンル:学園ラブコメ
プレイ時間:4時間(ボイスを全て聞くともっと長いと思います)
分岐:基本1本道
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2022/2
備考:Chapter.2公開以降有料化。今年夏予定
(9/10追記:現在本作品の無料公開は終了しています。Chapter.2の販売も開始しています)


昨年の冬に私がTwitterを見ようとしたとき、本作の作者であるCynical Honeyさんのアカウントからフォローされていることに気付きました。プロフィールを確認したところ、公開中というノベルゲーム(本作)が面白そうだったのでとりあえずDLしてプレイしたところ、かなり面白い作品でした。普段だったらレビューを書くかなというところだったのですが、私がこれまで書いてこなかったのは本作が純粋なフリーゲームではないからです。
というのも本作は昨年の2月にChapter.1が公開され、その時から現在までノベコレふりーむBooth等で無料で配布されていますが、Chapter.2の公開と同時に(Chapter.1含め)有料化されることが宣言されていたからです。

一応本ブログではフリーゲームを専門に扱っているので(一部有料のものもありますが、それらもフリー版で十分完結まで楽しめるもののみです)、本作を取り上げることにややためらいがありました。しかし先日Twitterのフォロワーに需要がありそうなことが分かったので、今回こうしてレビューを書くことにしました。普段のフリーゲームに比べるとやや厳しめの評価になっているかとは思いますが、大変いい作品ですのでぜひプレイしてみてください。



さて、本作のあらすじを説明しましょう。
主人公の長谷部涼平は高校2年生。友人の日高進や戸松香澄らと楽しい高校生活を送っています。
しかしある日、涼平の前に死神を自称する少女モトが現れ、同級生の菅野雪乃に年内に心から幸せを感じさせなければ涼平は死ぬと無理難題を押し付けられます。
途方に暮れる涼平は偶然にも雪乃が日高に恋心を抱いているのを知り、条件達成のチャンスと見て雪乃の恋愛をサポートすることを思いつきます。しかし校内で男勝りでワイルドと評判の彼女は恋愛に疎いようでその道は苦難の連続です。さらには何と肝心の日高が実は香澄のことが好きであることも発覚し、涼平は2人の板挟みになりながらもなんとか雪乃が幸せになれるようサポートします。
果たして雪乃の恋は実るのか、幸せにすることはできるのか。そして幸せとは何なのか。文字通り涼平の生死をかけた4か月間が始まる…


とまあこんな感じでしょう。
つまるところ本作は、「雪乃の恋路を応援する」というお話になります。ラブコメによくある展開で、他人の恋愛を応援するというと最近完結したことで話題の「その恋、保留シリーズ」が思い浮かびますね。あの作品では恋愛を応援する理由はお節介によるものが大きかったですが、本作においては恋愛の成否が文字通り生死に関わるという明確な理由があり、物語をよりシリアスな方向にしていると言えるでしょう。

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この無理難題を仕掛けてくるモトはかなり変わった人物(人ですらない?)です。常時涼平の行動を監視しているようで、たまに姿を現しては涼平に話しかけてきます。淡々とした口調でありながら条件達成について厳しく問い詰めてきます。幸せを感じさせるのは一時的でもいいのだから、自分の生死がかかっているのに常に誠実であろうとするのは非効率ではないか。そんな風にささやき涼平をいらだたせる様は死神というより悪魔のようです。

しかしやはりモトがいるからこそ本作の物語は成立しているんですよね。涼平の行動の理由はモトの存在があってこそですし、2人の対話から誠実であろうとする涼平の人柄も見えてきます。
こうしたシリアスめな青春物語というものは、登場人物の関係性であるとか性格であるとか、行動原理などが描けたうえで魅力的になるものだと思うのですが、本作はそのあたりの描写がしっかりしていて面白く感じられるのです。


ちなみに本作はシリアス一辺倒ではなく、時々漫画やアニメのネタが出てきたりといったギャグポイントもあります。
プロローグの時点でもすでにデスノートや北斗の拳と分かる台詞があったりして、相当な密度で組み込まれています。あまり詳しくない私でもたびたび出てくるなと感じたくらいなので、知っている方が見たら本当に多くのネタを拾えるんじゃないでしょうか。

あとは同級生の平野亜希による涼平の毒舌いじりなんかもギャグに分類されるでしょうか。ただあれは私にはちょっとやりすぎに感じました。流石にあそこまでの性格ならば何らかの理由付けとか説明が必要なんじゃないでしょうか。小学生の妹にもひどいことを言わせてますし…。

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さて、いったん本作のシナリオから離れてみます。
するとやはり目に付くのは、タイトル画面などからも分かるイラストの綺麗さです。ここに描かれたキャラクター以外にも多数の人物が登場する本作ですが、みな可愛らしくきれいに描かれていて製作者の気合を感じます。
イラスト面において私が特に良いなと感じたのは背景です。学校、自宅、喫茶店に遊園地といくつもの場所が登場しますが、それぞれ本作の立ち絵に合ったテイストで描かれていてとても綺麗。教室の画像なんかはモブの人物まで書き込まれていたりします。これは私が今までプレイしてきた作品の中でも珍しいんじゃないかと感じました。

また、本作では主人公以外の台詞にはすべて声が付いています。みなさん演技もうまいですし、普通のフリーの作品の範囲を超えているなあと思わされます。
そのキャラクターごとのボイス音量調整などシステム面においても機能は整っています。ただしメニュー画面の呼び出しが遅いのはストレスを感じるポイントでした。私の環境(OS: Win10Home 22H2, CPU: AMD Ryzen 7 4700U, メモリ: 16GB)ではメニュー呼び出しに平均6秒以上かかっています。特にクイックセーブ以外の通常セーブはメニューを経由しなければならないのでさすがにしんどかったです。メニュー呼び出しに時間がかかるなら、通常のメッセージウィンドウから直接セーブ/ロードできるだけでかなり違ったでしょう。欲を言えばセーブスロットも現状の6よりは多い方が良いかなと思います。
このあたりはChapter.2以降でUIの刷新も計画されているようですし今後に期待といったところでしょう。


さて、話は本作のシナリオに戻ります。
私が本作を気持ちよくプレイできた理由の一つとして、1つ1つのシーンが全体のストーリーに活きていて、キャラクターの心情や関係性を掴みやすかったというのがあるでしょう。
例えば本作の中盤くらいで涼平が雪乃を傷つけてしまうシーンがあります。事情を知っている私(プレイヤー)の目から見ればある程度仕方のないことでしたが、雪乃から見たらショックでしょう。涼平としては当然雪乃との関係を修復していかなくてはならないのですが、その時にきちんと過去の出来事などが前提としてあって、だからこそ雪乃と仲直りできたんだなと感じられる展開になっています。詳細は述べませんが、お悩みボックスに関する話とか、(雪乃の友人である)悠木さんとの信頼とか。そのあたりのことが意味を持ってくる分読んでいて気持ちがいいし、話にご都合主義というか作為的なものを感じないのです。
このように物語が1つの線につながり、因果もはっきりすることで人物の心の揺れ動きがより鮮明に見えてくるのでしょう。

これは物語冒頭のモノローグの部分もそうです。意味深な語り出しから始まる物語は多いですが、本作では冒頭で語られた「人は大切なものを失うことに怯える」というような内容の言葉の意味するところを涼平はしっかりと痛感させられます。やはり丁寧に作られた作品だなと思いました。
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ストーリー自体の話とはちょっと違いますが、本作の文章表現もなかなか面白いでしょう。ちょっとした比喩表現などが多用され、情景を思い描きやすくなっています。私が好きなのは、「バイブ機能が付いた携帯電話みたいに、菅野は小刻みに震えだした。」などでしょうか。

しかし文章表現は本作において気になった点の1つでもありました。やたらと複雑だったり、一文が非常に長かったり、前提が省略されていたりといった場面がしばしばみられます。
例えば、雪乃が涼平に対して何らかの手助けを申し出た場面の「彼女自身からしてみればフェアではないが、どちらかというと俺からしてみれば利用している形になっているので、後ろめたさもあった。」は「(涼平が見返りなしで雪乃の手助けをするという状況は)彼女自身からしてみればフェアではないが、(実は死神の条件達成のためにむしろ涼平が雪乃を)利用している形になっているので、(涼平は)後ろめたさもあった。」などと主語を補完しないといけない箇所が大分多いように感じます。おそらく読点の前後で主語が変わっているのに両方とも省略されているからややこしく感じるのでしょう。

また、誤字・誤変換・助詞の間違いなどが非常に多いです。文章が複雑な件と合わさり、意味の理解に時間がかかる文がたびたび出てきてゲーム体験を阻害していると言えるでしょう。


ちょっと厳しめの意見が続きましたが、印象的なセリフなどもあって文章も全体的には上手いのも確かです。「私の友達のためにあんなに怒ってくれてありがとう」とか、意外なところでスッといい台詞が出てくる印象があるんですよね。



そんな本作は雪乃が遊園地で日高に告白してクライマックスを迎えます。涼平は当事者ではないのでまさにそのシーンが描かれることはないのですが、私までドキドキしてしまうような描写にびっくりです。周囲の人の状況や台詞の描写だけであれだけ印象的なシーンになるんだなというのが驚きでした。

そしてその後、雪乃はどうするのか。Chapter.2に期待といった展開になっています。
雪乃の件だけでなく、涼平の過去についてなども意図的に隠された情報があるのでそれも合わせて楽しみにしておきましょう。沢城先生がなぜ涼平の進路にうるさいのか。涼平自身が恋愛をする気にならないというのはどういうことか。今後明らかになっていくのでしょう。



繰り返しますが本作の無償提供は期間限定なので興味のある方はお早目のプレイをお勧めします。
にぎやかだけどどこか切ない青春物語を楽しみたい方に。これが無料でプレイできるのか、と驚くこと間違いなしです。そしてChapter.2の公開を楽しみにしましょう。

それでは。

こんにちは。今回はまんまるくまさんの「PROTOCOL」をご紹介します。

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オススメ!
ジャンル:長編本格SF脱出アドベンチャー
プレイ時間:6時間
分岐:なし
ツール:Flash
リリース:2017/5



今回ご紹介する作品は、個人製作とは思えないほど作りこまれた大作で、その良さをどこから語っていったらいいか迷ってしまうほどです。
まずはあらすじの説明をしましょう。主人公はある宇宙船の中で目を覚まします。周囲に人の気配はなく、何らかの事故に遭ったと思しき状況ですが、記憶を失っている主人公には避難方法が分かりません。なんとか小型のポッドを調べて人工知能チップを見つけた主人公は、AI"レア"と協力して生還への道を求めて探索を続けていきます。次第に明らかになっていく船内の状況と過去の事故。果たして生還は叶うのか……



上のスクリーンショットを見てもらっても分かると思いますが、本作のグラフィックはかなりハイレベルです。宇宙空間を漂う宇宙船だったり、目の前に浮かび上がるスクリーンだったり、episode 2の終わりで登場するアンドロイドだったりとあらゆる面でその技術が発揮され、作品世界に入り込みやすいのです。
他にもいくつかゲーム画面を見ていただきましょう。
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さらにはスクリーンショットでは伝わらないようなアニメーションも凝っており、登場する人工知能であるレアなどにはボイスまでついています。プロモーションムービーも魅力的なので貼り付けておきましょう。


このような美しいグラフィックで全編描かれたフリーゲームというだけで驚異的ですが、脱出のためのギミックやストーリーといった面でも高水準な作品です。
脱出ゲームの定番のギミックと言えば、なぜか散らばったキーアイテムを収集したり、暗号として残されたヒントを解読したりといった内容になると思いますが、本作では事故のあった宇宙船から避難するというストーリーになっているため状況に不自然さが感じられません。プレイヤーが主人公になり切って脱出を目指すための強いモチベーションになります。やや発想が難しいギミックもありますが、人工知能と協力するということができるので、ヒントをもらいつつ世界観に浸りやすくなっています。


ストーリーの面においても良くできていて、人間である主人公と人工知能であるレアが協力して脱出・生還を目指す展開は気持ちが良いです。人工知能であることを活かしてデバイスを移行したり、かなり人間に近いアンドロイドであることを活かして主人公との信頼関係などといった内容を描いたりもできるのが素晴らしいところで、ゲーム的なギミックとの組み合わせも生かされていて大変に魅力的な内容になっていると思います。


本作の脱出ゲームとしての難易度ですが、総合的に見るとかなり高く、ボリュームもあるのでやりごたえ満点といったところでしょう。episode 1から5までの5章構成となっていて、1では宇宙船への入船、2では食糧確保のための居住区への移動など各章で目的が決まっています。そしてそれぞれの章で難易度が結構異なります。episode 4がおそらく最難関で、事故のあった宇宙船の細くて入り組んだ通路の中をマッピングしながら探索し、適切な場所でアイテムを使ったり謎解きをしたり、SF要素を活かして時間を飛び越えたりしなくてはなりません。
しかしマップ上で意味のある地点は色付きになるなど、難しいだけでなくプレイヤーに親切であるのも確かです。


難易度を高くしているのは、本作の独特のシステムであるコマンド選択方式もあると思います。
通常の脱出ゲームの場合、対象のアイテムを観察したり文字を読んだり、持ち上げてみたりアイテムを取得してみたり使用してみたりといった行動は全てクリックで行うと思います(稀にドラッグというパターンもありますね)。しかし本作の場合は対象をクリックする前に使用するコマンドを選択しておかなくてはなりません。調べる、動かす、開ける、取るなど、事前に適切なアクションを選択しておく必要があるため、とにかく画面をクリックしてみるといった方法での進行が難しいのです。
さらにクリックポイントもややシビアなので、あきらめずにいろいろ試行錯誤してみる必要があります。

とこのように高難度である本作ですが、攻略中に詰まった場合ゲーム内の"システム"にある"思考モード"を使うとヒントがもらえます。調べればよい箇所などを教えてもらえるので詰まったらどんどん使っていきましょう。
それでも分からなければ、フリーゲーム夢現の公開サイト内で攻略関連のコメント一覧を見るといろいろな情報が見られます。どうしてもわからないところを質問してみるのもアリでしょう。



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逆にepisode 3は探索要素が少なくて一番簡単な章です。小さなチップだったAIのレアがアンドロイドの体を得て、突然ラブコメが始まったのかというくらいほのぼのとした雰囲気になります。
しかし単なる息抜きだけでなく、ストーリー上重要なポイントが詰め込まれています。前述したコマンド選択制であることを活かしたギミックもあって、感動ポイントの1つとなっています。



本作で唯一欠点に感じられるのは動作の重さでしょうか。これだけ独自のシステムや綺麗なアニメーションなどが搭載されていたら仕方ないかもしれませんが、スペックが低いPCだと辛いかもしれません。
あとは一部のギミックに前提知識が必要であるように感じましたが、作内のヒントを使えば乗り越えられるでしょう。


エンディングを迎えた後で作内の世界観などの解説が聞けるモードがあるなど、SFの世界観を見事に表現している本作、大変お勧めですのでぜひプレイしてみてください。
ちなみに本作の制作にはFlashが使われていますが、ブラウザを介さずに起動できるので現在でもプレイに支障はありません。

それでは。

こんにちは。今回はどこかの箱庭さんの「螢火の庭」のレビューをお送りします。

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ジャンル:和風ホラーアドベンチャー
プレイ時間:初回3時間程度/フルコンプまで5時間程度
分岐:ED4種
ツール:Wolf RPGエディター
リリース:2017/8
備考:第13回ふりーむゲームコンテスト​探索アドベンチャー部門銀賞受賞作



本作は、主人公の秋月ほたるが盗まれた祖父の遺品を取り返すために彼岸を探索して回る和風のホラーアドベンチャーゲームとなっています。

いきなりですが、ホラーゲームの主人公ってだいたいかわいそうな運命を背負っていたりします。作内で物語を進めているうちにそうした境遇が分かってくるタイプのものが多いように感じるのですが、本作では作品の導入段階でほたるの不遇さが明らかになります。

両親は家族の反対を押し切って結婚し、娘のほたるも誕生し幸せに暮らしていたのですが、交通事故に遭い2人とも亡くなってしまいます。結局結婚に反対していた家族たちに引き取られて生活するようになるのですが、祖父以外の叔父や叔母には疎ましく思われています。
しかし唯一の見方であった祖父の晴臣もその後他界。それまで家族で揃って行っていたお祭りの螢火流しも留守番しているようにと言われてしまいます。そんな留守番中、お祭りに乗じて彼岸からやってきた妖怪たちに大切な祖父の遺品を盗まれ、ほたる自身もさらわれてしまいます。妖怪の手から逃れ、おじいちゃんの遺品を回収して此岸に帰ってくることはできるのでしょうか…。


このような導入になっているので、私は本作をプレイし始めてから早い段階でほたるを応援しながらゲームを進めることができました。別に主人公には酷い目に遭っていて欲しいというわけではないのですが、ほたるがおじいちゃんの思い出の品と約束を守って健気に進んでいくさまを見るとやはり私も前向きな気持ちになることができます。
立ち絵やマップ上のドットも可愛らしいですしね。
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他の登場人物たちも和服を着てますし、マップ上の雰囲気も含めて和風ホラーの演出が上手いなと感じます。

そんな他の人物たちも少し紹介しましょう。
まずはほたるが此岸に帰れるように全体を通して協力してくれる朽名(くちな)さん。なぜか常にお面をかぶっています。人間の子をしっかりと此岸まで送り届けるのが仕事だと言ってほたるを送ってくれるだけでなく、祖父の遺品”螢火のおくりもの”探しも手伝ってくれます。彼の素顔は一体どんなものでしょうか。
異国の薔薇貴族もなかなかインパクトがあります。紳士的だが女好きがひどすぎて周りから距離を置かれるようになり、いまでは屋敷で引きこもっているそうです。彼もまた胸の内に隠した思いがあるようですが一体何なのか、それは物語の後半で明らかになります。
その他にも姉妹の温泉宿の女将さんとか、なぜか動いて喋る人形とかお面とか、いろいろな人物(?)が登場しますが、みな可愛らしくて良いですね。


本作のエンディングはゲームオーバーを除いて4つあります。終焉4については序盤のうちに分岐します。せっかく此岸に帰ってくることができてもこれではあまりにも浮かばれないだろうという結果。ぜひ大切な品は回収してから帰りましょう。
その他のエンディングについては中盤以降に分岐します。初見だとそこで分岐するとは分からない箇所もあると思いますので、セーブはいくつかに分けておくといいでしょう。回収できなければ同梱のヒントが役に立ちます。
終焉2と4についてはほとんど同じ展開になりますが、最後の最後で結末が変わってきます。分岐したシーンは時間にして30秒とかそれくらいだと思いますが、このシーンの有無で後味が全然違いました。やはり物語の締めって大事だなあと思わされます。ぜひベストな結末を目指して探索してください。



ホラーや探索アドベンチャーとして見たときの謎解きやアクション要素の難易度は高くはないといったところでしょう。全体を探索していればきちんとヒントとなるものが出てきますし、理不尽な初見殺し要素などもありません。ただし謎解きに関しては公式でヒントが用意されていないので詰まると大変かも。エンディング分岐についてはすぐ上で書いたようにホームページや同梱のテキストに詳しく記載されているので、迷ったら読んでみるとよいでしょう。
ホラー具合についてもゆるめで、ホラーがやや苦手な私でも問題なく最後までプレイできる程度でした。突然怖い画像が表示されるとか大きい音が出るとか、何かに追いかけられるとかはないです。暗いマップを探索したり、予告があっての追いかけられ要素だったり、物が落ちる・窓が割れる程度の表現などはあります。


というわけで今回は「螢火の庭」でした。ホラー要素というよりは雰囲気重視系の作品なので、よっぽど苦手な方じゃなければプレイしやすいと思います。ぜひほたるの物探しを手伝ってあげてください。泣ける!というタイプのシナリオではないですが、じんと心が温かくなるような結末があなたを待っています。

それでは。

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