フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
初めての方は、ぜひごあいさつをご覧ください。評価の基準については、レビューについてに記してあります。
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4時間前後

こんにちは。今回はアザラシの寝言さんの「その後の世界」のレビューをお送りします。

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ジャンル:ファンタジーRPG
プレイ時間:4~5時間程度
分岐:なし
ツール:RPGツクール
リリース:2020/6
(9/16追記:本作のスマートフォンアプリ版が公開されました。Android版/iOS版)

本作「その後の世界」は、記憶をなくして地面に倒れていた主人公(名前任意)とどうやら同じ境遇らしい少女リトが、自分たちが何者なのか、この世界は何なのかを求めて冒険していくファンタジーRPGとなっています。


まずはシステムについて説明していきましょう。
主人公とリトは一緒に冒険し、敵モンスターと戦闘していくことになるのですが、プレイヤーが操作できるのは主人公だけになります。リトはランダムで敵に攻撃行動をしてくれます。そして敵からの攻撃も受けることもないため、パーティーメンバーというより支援キャラという方が近いかもしれません。
ただしリトについても装備は自由につけ外しすることができます。物理攻撃特化もよし、魔法攻撃特化もよしです。攻撃を受けないため防御系は無意味なことに気を付けましょう。私のお勧めはMPを気にする必要がないためリトを魔法攻撃担当に、主人公を物理攻撃担当にすることです。


マップ上では常に右上に縮小マップが表示されていて、探索の手助けになります。見たことのある範囲は明るく、まだ見たことのない範囲は暗く表示されるうえ、回復ポイントやマップ移動ポイント、話しかけられる対象なども示されるのでかなり探索がしやすくなります。マップは総じて広い(特にアダチ平原などは非常に広大)なため、Shiftダッシュと並んでこの機能には大変お世話になります。


もう一つ本作の特徴的なシステムとして、クエストが挙げられます。QUESTマークがついた対象に話しかけると、ちょっとした依頼を受けることができます。特定のボスの討伐だったり、アイテムの収集だったりと様々ですが、どれも達成すると強めの報酬がもらえます。依頼は同時にいくつでも受けられますし、時間制限などもないので見つけたらとりあえず話を聞いて受けちゃいましょう。
全体攻撃魔法だったり強力な装備だったりと、実質クリアに必須級の報酬も多いうえ、最大HPやMPが少しアップするという効果もあるのでどしどし解決していきましょう。
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時々このクエスト系の要素がだるい作品もありますが、本作では報酬が豪華・クエスト中に世界観への理解につながるイベントがあるなどのため、やらされている感がなく最後まで楽しめました。
経験値稼ぎにもちょうどいいです。クエストを受けるおおよその場所が開示されているのも親切ですね。


戦闘バランス的な面でいうと、本作は回復が自由にできないため細かなセーブなどが要求されてくるタイプだと思います。回復は焚き火の地点でしかできませんが、セーブはマップ上どこでも可能なのでこまめにやりましょう。ショップで回復アイテムを買いためておくのも重要です。
また、魔法は全6種類覚えられますが、強力な魔法などはなく全て属性・攻撃範囲違いのものなので、戦闘中の行動戦略よりは装備・ステータスの方が重要になってきます。武器・指輪・お札の相性をしっかり考えて装備していくとよいです。その分戦闘自体は単調かなあという印象を受けました。
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さて、本作のシナリオですが、ボスを倒していくのはもちろん、様々なところに散らばっている"記憶石の欠片"を拾うことで進んでいったりもします。この世界に生きた誰かの記憶をのぞき見することで、過去に何があったのか、魔王の正体は何だったのかなどについて知っていくことができます。
この作りが上手くて、記憶石を集めるために探索したりボスに挑んでいくモチベーションにもなりました。上述した戦闘システムになっている理由付けもシナリオの中にきっちりあって納得感もあります。
ただ記憶を1回見ると石が飛び散ってしまうため再度見ることができないのは何とかならないかなと思いました。続けてみるなら覚えているかもしれませんが、本作ではマップ探索中に断片的な情報が手に入るというシステムなので全部覚えておくのは不可能に近いんじゃないかなと思います。記憶回想モードが切実に欲しいところです。

このシナリオの内容はほのぼのとした全体の雰囲気に比してショッキングというか、暗めの内容になっています。世界が壊れてしまったいきさつなどもなかなか悲しいですが、後味悪い系の展開ではないのでそこはご安心ください。ラスボス倒した後の最後のシーンもこれまでの要素を活かした上手い作りになっていて感動的になっていると思います。



そんな本作には続編がありまして、「かえりみち~続・その後の世界」というタイトルになっています。基本システムは本作と同じですが、主人公たちがケモノ少女になっています。前作の主人公たちも登場し、舞台となる場所も重複していますが一体その後何があったのか、またしても記憶の無い主人公たちが帰るべき場所を見つけられるのかに注目です。メッセージウィンドウが追加されるなどの進化も見られますよ。
ちなみに、前作の知識がないと話が分からないと思うので、おとなしく順番にプレイしてください。プレイ時間は5時間前後、2作合わせて10時間といったところでしょう。
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というわけで「その後の世界」のご紹介でした。
自作の音楽によるBGMも魅力的で、細やかな配慮が嬉しい作品です。ぜひプレイしてみてください。

こんにちは。今回はぷらちなクリエイティブさんの「そのサークル、地雷ですよ?」をご紹介します。

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★favo
ジャンル:同人活動の光と闇をコメディタッチで描くノベルゲーム
プレイ時間:4時間
分岐:基本一本道。ゲームオーバーあり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2019/5
備考:ティラノゲームフェス2019準グランプリ作品


前回の2周年記事で触れた作品ですね。あれだけべた褒めしておきながらレビューしていなかったので記事に書くことにしました。
先週書いた通り、本作は3年前にティラノゲームフェス参加作の中から適当に作品を探していた時にたまたま見つけた作品です。めちゃくちゃ面白かったのに当時コメントが一つしかついておらず、多くの人に知られないのはもったいない作品だなあと思ったのはよく覚えています。というわけで今回は絶賛するだけの記事となります。


まずはあらすじを簡単に説明しましょう。主人公の緋色(ひいろ)は絵を描くのが大好きな高校3年生。将来はイラストレーターとして仕事をしたいと考えています。しかし母親がそれに大反対。勉強をして進学するように言ってくるので毎日のように喧嘩。そんな母親を説得するために、妹の黒亜(くろあ)と相談して考えた作戦は、1年以内に同人活動で目に見える成果を作って説得材料にしようというもの。早速同人サークル探しに励む緋色であったが、彼女が見つけるサークルは毎回地雷なのであった……。




私がブログを始めてすぐの時に、レビューについてという記事を書きました。そこで、最近のフリーゲームは商業ものと見まがうようなクオリティーの高いものが多くあるけれども、フリーゲームらしい粗削りで尖った、あるいは同人でなければ表現しえないものにも強く惹かれるという風に書きました。本作はまさに"フリーゲームらしさ"という点で満点だと思うのです。細かく見たらいろいろツッコむべきところはあるし、もし本作がコンシューマで発売されたら私もなんか違うなと思うでしょうし、バグ多すぎなどと酷評すらされるかもしれませんが、本作にはそれを補って余りあるフリーゲームらしさ、同人制作の魅力が詰まっているでしょう。この手作り感、キャラクターへの愛、そして自サークルで起こったアクシデントさえ作品に取り込んでコンテンツとして昇華させる強かさ。これが満点以外に何点を付けられるでしょう。


具体的な内容について書いていきましょう。
本作の良かったところの1つとして、魅力的な登場人物たちが挙げられるでしょう。
主人公の直井緋色はいわゆる天然。お勉強は苦手だけれども、小さいころから夢だったイラストレーターになるために色々と努力を重ねているいい子です。しかし天然ゆえ、努力が空回りしたり方向が間違っていることもしばしば。同人活動で実績を上げようとサークルを探しては加入してみるものの、揉めたり自然消滅したりといったことを繰り返し、進路を考えるぎりぎりの高校3年生になってしまいます。
そんな緋色が助けを求めたのが妹の黒亜。しっかり者のキャラクターで、同人活動では声優として一定の成功を残し、なんと芸能事務所への所属も決まっています。実力に加えて同人サークルをうまく運営するためのコツも緋色より詳しいようです。そんな彼女は毒舌キャラ。緋色のことは「アホ姉」呼ばわり。サークルの選び方から変えないと成功は見込めないときっぱり言い捨てますがツンデレ属性も持ち合わせているので結局は姉と一緒にサークル加入までしてしまう優しい子なのでした。
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メインはこの2人ですが、プロローグや章間で登場するお母さんも相当の曲者です。
イラストレーターになるの1点張りの緋色に対して、そんなの無理だからおとなしく勉強して大学に行きなさいと毎日バトルを繰り返しています。緋色が返事をしないと泣き落としもするし、脅迫まがいのこともするある意味本作中最強の人物です。緋色(と黒亜)はそんなお母さんを説得するためにどうしても1年以内に同人活動で実績を上げなくてはならないのです。



さて、本作のメイン部分は5章構成になっています。各章で緋色と黒亜は同人サークルに加入していきますが、なぜかどこに入ってもトラブル続き。問題を解決するために、というよりは一癖も二癖もあるサークルメンバーたちを説得するために奔走する分かりやすい構成になっています。

1章では歌い手サークル"怨恨のレクイエム"にイラストレーター・ナレーターとして加わることになった緋色と黒亜。メールの返信などは丁寧で問題なさそうなサークルですが、2回も通話してみるとこのサークルの抱える問題がプレイヤーにも伝わってきます。
そう、どう考えてもサークルの代表・ボーカルである"漆黒の誰彼"とミックス担当の"アイスターちゃん"が親密すぎて他のメンバーとの温度差がひどいのです。それだけならまだしも、(名前から想像できる通り)漆黒の誰彼はかなりの中二病。そしてこだわりが非常に強いタイプ。話し合いをするにしてもアイスターちゃんが絶対的な味方となってしまうため、他人の意見が耳に入らないその性質が助長されていたのです。

しかし緋色はそのヤバさに全く気付く様子がありません。この様子では確かにいろいろなサークルでトラブルに巻き込まれても気付かなそうだな~と若干気の毒になってしまいます。そこで毒舌黒亜の出番。緋色を地雷サークルの沼から引き抜くためには、そのサークルが地雷である証拠を集め、メンバーの反感をできるだけ買わないように問題点をズバリ指摘する必要があります。黒亜の毒舌は姉だけでなく他のサークルメンバーにも炸裂。ボケ担当(?)のサークルメンバーと黒亜のやり取りが大変勢いがよく本当に笑ってしまいます。そして険悪になりそうなときにはちゃんと緋色が黒亜にストップをかけてくれるので安心。
この「立証パート」がスムーズに進むかどうかはプレイヤーの選択次第。一定回数ミスするとメンバーの怒りが爆発してゲームオーバーとなってしまいます。セーブは分けておきましょう。

立証パートを初見でクリアするのはやや難しいくらいの難易度でしょう。会話中に数回ツッコミチャンスが来るので適切なタイミングで待ったをかけ、その発言が信頼できない証拠を突き付けましょう。
(やったことないので分からないんですが、逆転裁判ってこんな感じですか?)

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↑立証パート中。発言に突っ込むかスルーするかを選択します


無事に怨恨のレクイエムでのトラブルを解決した2人はまた新たなサークルを求めて掲示板を眺める日々を過ごすのですが、この章間ですら息をつかせる間もなく笑いのネタが降ってきます。
まずは何としても勉強をさせたいお母さんとのバトル。問題集を進めるか針を飲むかを選ばせるなどやりたい放題。サークルの”地雷”たちには毒舌全開の黒亜にもお母さんは手に負えないのでした。3章の後の心理学バトルが大好きです。
そして次回予告や自由通話パートも見逃せません。
「擬人化したマヨネーズ」「おち〇ちんクーデター」のパワーワードが強烈に脳裏に焼き付いています。(※下ネタが多いわけじゃないです)



2章以降もそれぞれ同人サークルに入ってみるは良いものの地雷続き。毎度サークル員の濃さに驚き、黒亜の毒舌のバラエティーに笑い、緋色のさりげないフォローとひたむきな姿勢に癒されながら物語は進んでいきます。


オタサーの姫問題であったり、自分の設定を押し通そうとする人をどうやって説得するか、そのうえで趣味としての同人活動を楽しく続けていくにはどうするのか、といった問題が、同人制作活動をしたことのない私にもわかりやすく、かつ共感しやすい形でたくさん登場します。このあたりの内容は、本作がフリーゲームとして制作され、公開されているからこそ説得力を持つ部分でしょう。後書きまで読めばわかりますが、本作を作るにあたって作者のぷらちなクリエイティブさんの中でも問題が発生していたようです。ボイス付きとなっている本作ですが、ゲーム制作中にまさかの事態に。それを作中のネタに盛り込み、人も足りない中、良い作品を作ろうと努力し完成・公開にこぎつけた作者さんの汗の結晶がはっきりと読み取れます。私がフリーゲームをプレイしていて最も嬉しいのはこのような瞬間なのです。




物語は5章で最終章を迎えます。前後編に分かれたこの最終章がまた熱くて良いんです。
最終章では、数字にしか興味がないサークルリーダー、ユーキとの対決という構図になっています。サークルのメンバーに一切の興味がなく、駒としか思っていないユーキですが、実力はありプロとのコネクションもあります。実の妹ですら作品制作のための歯車としか思っていない様子はいかにもな悪役ですが、実力と人脈を兼ね備えた彼女にゲームコンテストで勝つのは容易ではありません。ユーキの妹でサウンドクリエイターのココロと一緒に良い作品を完成させることを誓う緋色と黒亜。しかしイラスト・サウンド・ボイス担当だけいてもゲームは完成させられません。そこで、4章までに加入してきた同人サークルの知り合いに協力を仰ぎます。この流れが本当に魅力的。

これまでのサークルを散々「地雷」と酷評し毒舌をかましてきた黒亜ですが、人当たりも良くて情熱もある緋色のおかげで個人的に仲良くなれたメンバーが何人もいます。彼らを集めてプロクリエイターとの対決に挑む。まさに少年漫画のような友情・努力・情熱の展開で大変気持ちいい。
メンバー集めまでの段階ではこれまでと変わらないコメディ路線で大いに笑えるのですが、制作に取り掛かってからは本当にシリアスに、真剣に良い作品を作るために議論を戦わせ、コンテストで受賞するために作る、その先にあるプロへの道を目指すという内容が描かれるのです。



物語の前半ではいやいや姉に付き合わされて活動していた黒亜も、ここまで来たら本当に良い作品を作って実績を出す・ユーキを見返すということに熱意を感じる活躍ぶり。
「ヒーローはお姉ちゃんにしかできないんだ。だから私は、ダークヒーローになってやる。」
この覚悟を感じる台詞がとても好きです。

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最終的に8人にまで膨らんだサークルメンバー。それぞれの章でしっかりとキャラクターの性格や同人活動への姿勢、抱えていた問題点などを描いていたおかげで、最終章で全員集合しても誰一人キャラとして死んでいません。ただの天然に見える緋色も実は人を観察する能力に長けており、このサークルメンバーでどう役割分担をし、制作進行を行えばスムーズな完成が望めるかを的確に指摘。個性の強いメンバーを扱いやすいように王道に持っていくのではなく、彼らの作りたいもの、内に秘めた野望を解放させたうえで上手いこと全体のバランスをとっていきます。こんなフリーゲームができたら最高でしょう。緋色たちが完成させるノベルゲーム"サクナロク"を本当にプレイしたくなりました。

彼らが語る創作論やゲームを完成させる上での注意点なんかは、本当に作者さんが経験したり日々考えたりしていることなのだろうなというのを強く感じさせてくれます。ここも私が本作を大好きな理由の一つです。


本作をプレイしていてどうしても直してほしいと思うのは1点だけ。ノベコレのコメントにも書きましたが動作の安定性が低いところです。特に幕間で操作が効かなくなって再起動を余儀なくされることが何度か。特に2章の立証パート後のタイミングで何度やっても止まってしまい、一時はプレイ続行をあきらめようかと思いました。しかしとても良い作品だという予感がすでにあったためどうにかして続きをできないかと試行錯誤するうちに、マウスホイールクリックによるメニュー呼び出しは効くことに気付き、そこからメッセージスキップ選択で進むことができました。同様の現象に見舞われた方は参考にしてください。




目を見張るほどの美しいイラストがあったりとか、緻密に構成された伏線があったりするタイプの作品ではなく、ぱっと見で多くの人を呼び込める作品ではないのかもしれませんが、私の心にめちゃくちゃ深く突き刺さった作品です。今まで何かを作った経験はないけれど、同人制作楽しそうだな、いいなあと思える大変温かい内容と感動的なエンディング、そしてたっぷりの笑いを楽しめます。埋もれてしまうのはもったいない傑作だと思っているので、ぜひプレイしてみてください。
裏タイトル画面から読める後書きも大好きなので、プレイ後はそちらもお忘れなく!

それでは。

こんにちは。今回はCALMFLAPさんの「私とあなたといた世界」のレビューをしたいと思います。

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ジャンル:学園恋愛ノベルゲーム(ややファンタジー)
プレイ時間:3時間
分岐:なし
ツール:NScripter
リリース:2012/8
備考:製品版あり



私が本作を最初にプレイしたのは今から大体5年位前だったように記憶しています。今回たまたまDLsiteを見ていたら本作のフルボイス版を発見したので購入して久々にプレイしてみました。せっかくなのでレビューとしてご紹介しようと思います(メインシナリオはフリー版ですべてプレイできます)。


まずはあらすじを簡単にご紹介。

主人公の中原美世子は高校1年生。以前は生きることに希望を持てずにただ生きているだけの状態だったが、天文部の西園和人先輩に出会ってからは人を好きになることを知り、世界が色づき、生きていく価値を感じられるようになった。そんなある日、向日葵畑で不思議な少女と出会う。記憶も身元も定かでないけれど神々しいほどの美しさを持つ彼女に夏美という名前を付け、交流を深めていく。
夏美の成長に勇気づけられ、美世子は和人先輩に告白することを決意するのだった…

こんな感じでしょうか。


本作が恋愛ゲームであることは間違いないと思うのですが、それに加えて夏美という不思議な存在が本作の核心に関わってくるのが面白い作品になっていると思います。

高校生ぐらいの見た目でありながら記憶も常識もなく空気も読めなかった夏美に対し、美世子はいろいろなことを教えてあげます。学校は勉強をするところ、部活の仲間たちがいること、……、そして何かを好きになるということ。最初のうちは美世子が和人先輩のことを好きと言っても全くぴんと来ている様子の無かった夏美ですが、美世子と一緒に学校に通い、和人先輩やその妹のエリちゃん、大野先輩ら天文部のメンバーと喋っていくうちに、楽しいとか嬉しいとか、寂しいとか、そして人を好きになることとはどんなことかを学んでいきます。
相変わらず空気は読めないままですが、様々なことを吸収して人間らしい感情を手に入れて成長していく夏美を見て、美世子も一歩前に進む勇気を手に入れていきます。このようにお互いに影響を与えて前に進んでいくのが気持ちいいんです。

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美世子は夏美を成長させていくことについてとても意欲的です。はっきりした感情の感じられなかった夏美が生きていくことの楽しみを知る過程をこうも献身的にサポートすることができたのは、美世子が和人先輩を好きになったきっかけに関係があるようでした。
母親によるネグレクトがあり、自分が生きていることに価値を見出せず、あらゆる物事を無視することで生き延びてきた美世子が初めて他人に受け入れられたという経験をさせてくれたのが和人先輩だったのです。ここで美世子は、何かを好きになるだけで世界がこんなにきれいに見えるんだということを学びます。本来は親が真っ先に与えてあげるべき経験ができなかった美世子ですが、和人先輩に出会えたことは運がよかった。
感情を持たずに生きていく絶望と、人を好きになることを知った後の希望を知っている美世子は夏美のことが他人事に感じられなかったのかもしれません。ここがかみ合って、登場人物がみんなで成長していける点は本作の魅力の1つとなっているでしょう。
ただ母親との関係が冷え切っていることについては分かりますが、現在一緒に暮らしている祖父母との関係がどうなのかが全く見えてこないのはやや残念に思いました。本来なら彼らがまず先に心のケアに回るべきだと思うんですがね…



そして終盤には美世子の告白シーンがあるわけですが、これが非常に印象的なシーンとなっています。
正直5年前にプレイしただけだったので細かい部分はかなり忘れていて、夏美の処遇や病院での出来事などは記憶になかったのですが、この告白シーンに関しては細部までほとんど覚えていました。

恋愛ゲームはこの世に数多ありますが、告白シーンにこれより時間を割いている作品が果たしてどれくらいあったでしょうか。さらっとかっこよく告白して晴れて恋が成就する作品が多い中、本作では美世子がどうやって決意し、勇気を振り絞って言葉を発しているかが克明に描かれています。生きる希望を与えてくれたような相手であるからこそ、軽々しく伝えられるような気持ちではなかったのです。私も心の中で夏美と一緒になって応援してしまいました。

そしてこの告白シーンになって初めて美世子の(正面の)イラストが登場します。この終盤の重要シーンで初めて主人公のビジュアルを明かす手法は作者さんの得意技なのでしょう。「彼女の嘘の止まった世界」や「箱庭のうた」でも同様の演出がありました。これもまた告白シーンのインパクトを高めているでしょう。
ちなみに「箱庭のうた」では若干世界観がつながっているようで、本作でも登場した大野先輩が大暴れします。いつもあんなにふざけているのに大切なところで適切なアドバイスをくれる、サポートに回ってくれるのが好きですね。本作でキャラクター的に最も印象深いのは彼でした。
そういえば「箱庭のうた」でこなみが着ているTシャツに夏美のと似ているものがありますね。関係あるんでしょうか? またセリフだけですがエリちゃん(西園妹)も登場してますね。



さて、最後に製品版の紹介をしておきましょう。
これまでのレビューの内容は全てフリー版に収録されておりフリーゲームとして完成していますが、本作にはボイスとおまけシナリオを追加した製品版が存在しています。ボイスの音質にやや難ありかなと感じましたが可愛らしい声ですし、おまけシナリオでは和人先輩についてのエピソードが読めます。夏美と”暗い世界”に関する補足もあるので、フリー版を気に入った方ならぜひプレイしてほしい内容となっています。


それでは。

こんにちは。今回は初めてシェア版を前提にした作品紹介をしたいと思います。
TetraScopeさんの「桜哉」です。

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オススメ!
ジャンル:SF乙女ゲーム
プレイ時間:フルコンプまで5~6時間
分岐:計6エンド
ツール:NScripter
リリース:2013/1
備考:18禁。有償作品(フリー版もあり、15禁)



TetraScopeさんと言えば全年齢対象のフリーゲーム「私のリアルは充実しすぎている」を以前このブログでも扱いました。シナリオもイラストも、音楽についてもハイクオリティで素晴らしい作品でした。その時に、ああこのサークルさんは18禁シェアゲーも出してるんだなと思っていたのですが、今回ついに購入してプレイしてみました。期待度は高かったのですが、実際にプレイしたところそれを優に上回る衝撃を受けたので今回初めて有償作品の紹介をしようと思い立ちました。

特に物語の余韻の強さ、そしてテーマ性という部分で私がこれまでプレイしてきた作品たちの中で5本の指には入ると感じました。気になる方は下の私の文章なんて読まなくていいのですぐに上のリンクから作品ページに飛んでダウンロードしてください。


物語の舞台は現代から数百年後、人型のロボット(アンドロイド)の開発が進み、接客業の多くを代替するなど広く普及しています。主人公の九条茜(名前変更可)は亡き父が開発したアンドロイド、桜哉と2人で生活しています。しかし桜哉は定型的なやり取りしかできず感情も持たない一般的なアンドロイドとは一線を画す存在で、外見や触った感触、会話内容でもアンドロイドとは分からないほどよくできており、人間らしい感情も持ち合わせています。
高校卒業以来数年ぶりに会った幼馴染の上村榛(うえむら・しん)には、ぜひ桜哉の研究がしたいから会社で買い取らせてくれと請われるが、もはや家族同然の存在と感じられる桜哉を物のように売り払ってしまうような話は当然拒否。榛にも、もはや桜哉はアンドロイドを超えた家族、友人として見てくれないかと交渉するが榛の態度も強硬。榛には「桜哉が好きなのか?」と問いかけられる。
幼いころから余りにも当たり前に隣にいた桜哉。彼のことを自分自身でどう思っているのか深く考えるのは避けてきたが、この問題に決着をつけなければならない時が近づいています。桜哉は人間なのか、アンドロイドに過ぎないのか。そして人とアンドロイドは愛し合うことができるのか?。


本作のおよその内容は上の通りです。それでは本作のどこが素晴らしかったのか説明していきましょう。

まずは上にも貼ったタイトル画面の段階でSFの世界観がすごい。CONFIGやEXTRA内のフローチャートなどもスタイリッシュですね。BGMも透明感があって、広大なサイバー空間に解き放たれたような気がします。UIや背景、音楽などの要素で未来感のあふれる世界観を作り出せるのはさすがです。


作品の中身、シナリオに移りましょう。
先述した通り、本作は”人とアンドロイドが愛し合うこと”がテーマとなっています。この重厚なテーマがありながら乙女ゲームとしてのエンターテインメント性はしっかり確保されています。
まずは攻略対象となる桜哉。イケメンかつ可愛らしい。そして茜のことが好きなのが見ていてすごく伝わってきます。本作は物語開始時点で主人公の茜と攻略対象の桜哉は同居しているので、積み上げられた信頼感のようなものが既に存在しているのです。

しかし物語前半におけるこの感情は恋人同士という感じではありません。長く同居しているからそういう雰囲気というよりは家族に近いというのもありますが、この時点では茜も桜哉も「人とアンドロイドが恋愛するものではない」という意識をふんわりと抱えています。はっきりとそう意識しているわけではないというのがミソで、物語中の出来事に影響されて意識させられるようになる、そしてお互いへの認識が変化していくというのが上手いんです。


SFなどの世界観が現代でない物語で登場人物たちが抱く感情は、当然その世界での常識や世情が反映されたものになります。本作においてはこの部分もきちんとプレイヤーに伝わるようになっています。例えば3章、カラーズランドへ桜哉・榛と3人で遊びに行くときです。入場時にアンドロイドへいちゃもんをつける人間の存在、あるいは人間対アンドロイドでの事故発生時の扱い。こういった状況が自然に挟み込まれることで作品世界への理解が深まり、プレイヤーの意識はより主人公に近い形へと向かっていきます。

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アンドロイドに対する愛好派と反対派の抗争が存在するという現実は、茜に嫌でも桜哉がアンドロイドであることを意識させ、物語終盤に至るまで何度も考えていくことになります。人工的に作り出されたことに間違いはない桜哉。しかし一般的なアンドロイドとは一線を画すほど人間らしく、事実茜と榛以外の人にその正体がバレたことはありません。そんな桜哉ともう何年も一緒に暮らしている茜にとっては、ただのアンドロイドとは到底思えないのです。

そしてこの問題をさらに複雑にしているのは春樹という人物の存在でした。茜と榛の幼馴染としてかつて親しくしていた春樹でしたが、幼くして亡くなってしまいます。彼の母親の強い希望で、医学と工学に通じていた茜の父が生み出した存在が桜哉なのでした。
幼いながらも春樹に恋心を抱いていたかつての茜。オリジナルの肉体は死んでしまったけれども意識を引き継いだ存在として現に生きている桜哉。その複雑な状況の前で榛は茜に「桜哉の中に春樹を見ているのか」という問いを投げかけます。茜は今生きている桜哉が好きなんだと即答することができないのでした。


物語が進むと桜哉はアルバイトを始め、徐々に茜・榛以外との関係を築いていくようになります。
事情を知らない人から見れば人間にしか見えない桜哉はそのルックスの良さからたちまち人気を集めていきます。そんな桜哉をみて茜は焦り、そして気付いていくわけです。「あれ、私嫉妬しているのかな。桜哉のことを異性として好きなんだろうか?」と。


そんな嫉妬やすれ違いを乗り越えて迎えた7章。本作の18禁たる所以のシーンがあります。
この描写が本当にえっちなのに上品で上品で…。桜哉が茜をいたわってくれているのが本当に良く分かります。
なんせ前回プレイした18禁が「スレガル」ですからね(方向性が違いすぎて比較できない)。
こんなに愛にあふれて見ているこっちまで幸せになるようなえっちシーンあるんだ~、思っていたのより3倍エロかったなぁ~


などと思いながらメインルートを完走。過去回想も大変気持ちよく感動的な仕掛けになっています。エンディングムービーで桜哉と博士(桜哉を生み出した張本人)の対話が見られる演出も非常に効果的。
「君は人を愛することを知ってしまったから
愛されることを、望みたくもなるだろう」
作中で常に問いかけられていた、人とアンドロイドが愛し合えるかという問題に、こんなに幸せな回答を示してくれました。
たっぷりと幸福な気分に浸りながらおまけシナリオなどを読んでいきます。

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ちなみに最後の選択肢によって結末はEND1とEND2に分岐します。桜哉をより深く理解していた方がよい結末を迎えられる、とても納得感のある分岐です。ぜひ両方読んで、桜哉が何を思っていたのか、自分についてどう考えていたのかを感じ取ってください。


一応本作をプレイして気になる点を書いておくと、アンドロイドが普及している点以外で舞台の未来っぽさが感じにくかったことでしょうか。アンドロイドの普及とそれに伴う社会の変化や世論についてはしっかりと触れられますが、現代から数世紀後の話という割に榛は車を手動で運転していますし、本屋の様子も現代と変わらないように思えます。



…といろいろ書いてきましたが、この時の私は本作の本当の顔に全く気付いていなかったのです!



フローチャートを見れば、本作には6章以降、another routeが存在していることが分かります。それも結構な分量です。メインルートを読んで、榛だけ報われてないな~と思っていた私は、彼が何らかの形で望みを叶える展開はないだろうかという希望を持ちながらこのアナザールートに突入していくことになります。結果的に私の期待は良い方向に裏切られました。



アナザールートに入った私はEND3~5をまず回収。どれも過度にドラマチックでない自然な展開で、プレイしていてスッと受け入れることができました。自分だったらEND4あたりで平穏な結末を迎えている気がするなあと思ったりもしました。この、「言葉には出さないけど確かに存在している信頼感、むしろ明言すると儚く消えてしまいそうなこの関係性」が素晴らしい。私のツボです。


さて、最も入るのが難しかったのはEND6のルートです。このルートでは、榛が思い切ってプロポーズしてきたのを受けることになります。メインルートとは違い榛と繰り広げられる18禁シーン。このころの私はまだ、(ああ、販売サイトにあったサンプルスチルまだ見てないもんな、こっちのルートにあったんだなあ)、などと考える余裕がありました。しかしその後私は衝撃のあまり満足に声も出せなくなってしまいます。

榛との行為中に家に帰ってきてしまった桜哉。3人の間に気まずい空気が流れます。とりあえず榛には帰ってもらいますが、表情を失った桜哉が怖い。衣服もはだけたままの茜。私はこの状態でも辛いなと思っていたんですが、何と桜哉はそのまま茜との行為に及んでしまいます。私は意味をなさない声を上げて驚きます。(なんで?そんな展開あり??桜哉どうしちゃったの???)

しかもこのシーンが長いこと長いこと。体感でメインルートの倍くらいあった気がします。
私はこの衝撃を受け止めきれないまま物語は最終章へ。そこで桜哉から投げかけられるある願い。茜は冗談と笑って返したあの台詞。その意味するところを理解した私は絶句し、涙し、震えることになりました。
正直、私は本作が18禁であることの意味を甘く見ていました。しかし本作で描かれる桜哉の胸中、アンドロイドであるが故の葛藤はそんな生ぬるいものではありませんでした。18禁シーンを通すことでしか表現できないこの切ない結末を私は全く予想していなかったのです。

以後、核心に関わるネタバレがあります。OKな方のみクリックして閲覧してください。

クリックで展開(ネタバレあり) 桜哉はあの瞬間、この世界に絶望してしまったのです。
茜が自分以外の男性と行為をしていたからではありません。茜と榛、人間と人間が行為をすることによって生まれる快感であったり、新たな命であったり。桜哉は茜と行為をしてみて、自分にはその快感を得ることは不可能であり、茜を生物の本能の部分から満足させる能力が存在しないことに気付いて絶望したのです。

私は”人間とアンドロイドが愛し合えるか”が本作のテーマになっていると述べました。他のENDでも十分に表現されていると感じましたが、ここまで深い意味で、ショッキングな結末をもって描かれるものだとは想像もしていませんでした。本当にこのテーマが作品全体で一貫していて大変印象的です。
まさに、18禁だからこそ描けるテーマ性。私がフリーゲームの森というタイトルを掲げながらブログで有償である本作を扱った理由はそこにあります。桜哉との時と榛との時で茜の様子の差異も丁寧に描かれている。先ほど思っていたより3倍エロかったなぁ~とかいう何も考えていない感想を書きましたが、そのシーンは単にえっちなだけでなく、このテーマを語るのに必要不可欠だったわけです。ここが本当に感動するポイントで、私はこういう作品が大好きです。
単純にエロシーンがあるだけの作品もそれはそれでありですが、そのシーンが今後の展開や作品のテーマに必然性を持って絡んでくると作品の奥深さが段違い。名作と評するのに十分な理由です。



1つだけ惜しいと思ったのは「第一原則」などの用語です。作品を通して幾度となく出てくるこの言葉は、ロボット工学三原則の第一条を意味していると思います。「Campus Notes vol.2」などでも登場しましたね。榛に自分を壊してほしいと依頼した桜哉は、自分ではできなかったと語ります。生への執着と作中では説明されますが、散々ロボット工学三原則を引用してきたなら、ここは第三原則に違反するからとしておいたほうがきれいだったのではないでしょうか。


しかしそんなのは些細な問題です。桜哉の悲痛な叫びが聞ける車内でのあのシーンへの入り方が完璧。味わうようにゆっくりプレイしていると、直前で始まったエンディングテーマの歌詞が入るタイミングで桜哉の独白が始まります。

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この「よかったね」にどんな感情が込められていたのかがこれ以上ないくらい雄弁に語られるこのスチルと表情。
「やっぱり、羨ましかったのかもしれない」
「茜のことを、人間の女性の本能の部分まで満たしてあげられる、能力が」

「アンドロイドとしての俺を、愛してもらいたいんだ」

何という重い言葉でしょうか。
初見でプレイしていた時は全くそんな余裕もなく流していたエンディングテーマの歌詞ですが、聞き込んでみると桜哉の心情をそのまま表現していて心を打ちます。
それでもまだ 近づきたい
強まっていく気持ちは
君のものと同じはずなのに
別の、違う色に見え

そして戻ってきたタイトル画面でまた泣かされます。美しすぎる。こんな幸せな未来が…あったのだろうか。

この結末が分かったうえで再度END6のルートをたどってみると、確かにお互いの理解がすれ違っていくような選択を重ねていった結果であることが納得できるんです。後から選択肢と分岐の正当性がこんなに感じられる作品も珍しいと思いました。


ちなみに本作のサウンドトラックは公式サイトから購入者限定で無料でダウンロードできます。
しかもボーカル曲についてはカラオケ版とイラスト付き歌詞カードもついてくるという豪華さ。見逃さないでくださいね。

また、同じところから、本作の5年前を舞台にした「Sweet Present for Shin」もダウンロードできます。
榛に予想外の人気が集まったことから作られたおまけ過去話であるということです。本作を気に入った方はこちらもぜひ!

私はプレイしながら、「バレンタインテロリズム」の及川颯太を笑えないレベルで榛のフラグを折りまくっている茜に笑ってしまいました。榛も恥ずかしくなって赤くなったりしちゃうんだなあ。


以前レビューした同サークルの「私のリアルは充実しすぎている」についてはフリーゲームですので、何と無料でボーカル曲のダウンロードができます。こちらもカラオケ版と歌詞カードつき。
firstcomplex」も購入者限定でサウンドトラックがダウンロードできます。


本当に素晴らしい作品でしたので、ぜひ多くの方にプレイしていただきたいなと思います。まずはフリー版だけでも物語として十分まとまっていますので気軽に手に取ってみてください。
そして気に入った方は、フリー版では決して描けない、18禁だからこその感情の動きとテーマ性を製品版で味わってください。私がなぜここまで熱烈に語ったのか、その理由を分かっていただけると思います。

こんにちは。今回は時雨屋さんの「黄昏が落ちてくる街に」のレビューとなります。

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ジャンル:ループ系短編RPG
プレイ時間:エンディングまで4時間/1周10分~
分岐:なし
ツール:RPGツクール
リリース:2022/10



以前紹介した「1000文字勇者」と同じ作者さんの作品ですが、ほぼコメディだったあの作品とは違ってシリアス系のシナリオとなっています。


本作の開始時点では設定はほとんど明かされず、プレイヤーは何もわからないまま主人公の”天使サマ”を操作していくことになります。
片腕と片方の羽を失っていることは冒頭で分かりますが、それ以上のことは街を調べながら察していくしかありません。どうやら自分が目覚めることはもうないと思われていたらしい、この世界の文字の読み方を忘れてしまったらしい……など。

街を探索しているうちに、本作には時刻という概念があることに気付くでしょう。物語開始時点で朝の7時。時間は常に経過し続け、1時間ごとに時刻を示す時計のイラストが表示されます。リアルタイムで時間が過ぎるのはRPGには珍しい仕掛けかなと思います。

単純に数字が動いていくだけでなく、時間の経過に応じて天気が変わったり、夕方になったら西日が差してきたり、このような部分まできれいに演出されていてとてもいいなと感じました。マップがきれいなんですよね。時間になったらパッと切り替わるのではなく、フェードがかかるように自然に変化していくこの作り込みは本作の魅力の1つと言ってよいでしょう。

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ちなみに町での最初のBGMがRamineさんの「southern cross」で個人的に好きな曲だったのでその点でも良かったです。タイトル画面は同じくRamineさんの「45度だけ開けた世界」ですね。


さて、黄昏が落ちてきた午後7時、町の様子は一変します。町はどこもかしこも大炎上。さらには大量の悪魔が押し寄せ、天使サマは無惨にも死んでしまいます。そこで本作のループが発動します。2周目も同じように朝7時から開始しますが、この周回からは街の人を連れて町の外に出ることができるようになります。目的地は4つの聖堂。戦闘も含まれ、RPGらしくなってきます。

本作の戦闘部分はノンフィールドRPGの要領で各聖堂ごとにザコ敵と6戦、その後にボス戦があります。ボスを倒したら一緒に討伐を行った人物からスキルを教わることができます。このスキルが非常に重要です。中にはエンディング到達に事実上必須なものもあるくらいです。
仲間とともにボスを倒すことでスキルを習得できるというのは、本作の戦闘部分を面白くしているポイントだと思うのでぜひいろいろな仲間を連れて冒険してみてください。

主人公と一緒に戦ってくれるメンバーは街の中から毎回一人選べますが、この世界はループしているため彼らのレベルは次の周回時には戻ってしまいます。しかし主人公のレベルと覚えたスキルは引き継がれます。初期状態ではラスボスはおろか最初の中ボスに立ち向かうのも困難なので、どんどんループを繰り返してスキルを覚えていきましょう。
単純にクリアするだけでは物足りない場合、ループ回数を最小化する縛りプレイなんていう遊び方も可能かなと思いました。

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さて、町を探索したり中ボスを倒したりしていくと”記憶のカケラ”という特殊なアイテムが手に入ることがあります。これを使用すると、主人公の隠された記憶を思い出していき、ストーリーを進めることができます。さらに最大MPが上昇するので、手に入れたら即使いましょう。ストーリーはのちに自宅から鑑賞しなおすこともできます。
天使が人間を守ってきた歴史やそれに対する天使の認識、そして悪魔との闘いといった内容ですが、この内容がRPGの戦闘部分、特にラスボス戦に生きていてすごく良かったです。


最後に攻略ヒント的なものを少々。

  • 初期状態では文字は全く読めないので張り紙や図書館を調べるのは全くの無駄足。学校で3回授業に出ると読めるようになる。その状態で図書館の魔法書を調べるとスキルを習得できる(時間はかかる)
  • 街にいる人はそれぞれ強さが全く違う。セントクレア、ムラサキあたりはだいぶ強い。
  • 装備品は購入できない。強い装備を持つ人をいったん仲間にして装備を外し、その後本命の仲間を誘って装備しなおすことができる。お勧めはムラサキ(着物)、ホウセンカ(クナイ)など
  • 習得をお勧めするスキルを教えてくれる人
    • 実質必須級なスキル
      • ミッドナイト(聖堂内)…各ボス戦の位置まで瞬間移動できる
      • クラリッサ(病院内)…毒を無効化する
      • テンプル(宿屋内)…1ターンのみ全ての攻撃を無効化できる
      • ネレス(図書館内)…自動回復の強化
      • モリアン(聖堂のそば)…戦闘不能回復
    • ボス戦に有利なスキル
      • セントクレア(門番)…ボス戦時などに攻撃力が上昇する
      • クリス(墓場内)…強力なデバフスキル
      • リッツ(床屋内)…強力なバフスキル
      • シャルル(噴水の隣)…状態異常耐性
    • ザコ戦で有利なスキル
      • マルタ(墓場の北)…戦闘開始前に1撃できる
      • アオギリ(薬屋内)…全体攻撃スキル
シナリオとシステムに一貫性があって効果を上げている作品だと思いますので、気になった方はぜひプレイしてみてください。 それでは。

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