フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
初めての方は、ぜひごあいさつをご覧ください。評価の基準については、レビューについてに記してあります。
記事一覧ページを作りました。記事探しはこちらから。Twitterはこちら。リンク等はご自由にどうぞ。
YouTube始めました。フリーゲーム攻略動画などを投稿してます。

4時間前後

こんにちは。今回はamorosoさんの「CHOICE」のレビューです。

CHOICE1


ジャンル:ファンタジー乙女ゲーム
プレイ時間:フルコンプまで6時間程度
分岐:大きく攻略対象2人に分岐。エンディング計11種
ツール:吉里吉里
リリース:2011/4
備考:15禁。攻略対象の増えたシェア版もあり。本記事はフリー版でのレビュー


本作はちょっと変わった経緯で発見した作品です。私が何となくYouTubeを開いてみたら、本作のPVが流れてきたんです(フリーゲーム関連のものを見るアカウントには入っていないときだったのでなんで突然トップに表示されてたかは謎です)。ふりーむ等で公開されていないのでこれまで全く知らなかったのですが、面白い作品でした。


主人公は短大を卒業して派遣社員として働く桜木花梨(名前変更可)。仕事から帰ってきたところ、突然異世界に転移してしまいます。どうやら目の前にいる明らかに王子の格好をした少年が召喚魔法で呼び出したらしいことが分かります。突然召喚されて訳も分からず、とりあえず元の世界に戻すことを要求しますが、王子は何と送還に失敗。花梨は見た目5歳ほどの子供の姿になってしまったうえ、呪文の記された魔法書は焼失してしまいます。帰る術を失った花梨は、旅に出ているという王子の魔法の師匠、セフィさんの帰還まで異世界で過ごすことになるのでした……


今でこそ異世界転生ものラノベやアニメは流行していますが(とはいっても私は全然見たことないけど…)、本作の公開は2011年。10年前にこの概念あったんだな~というのが一つ学びでした。
そしてもう一つ、本作の肝となっている設定が”幼児化”。某体は子供、頭脳は大人な名探偵はもう不自然というかバレバレだろ、みたいな言動が多いですが、本作の花梨はあれよりはうまく子供を演じてます。そのうえで子供ならではの方法で交渉したり、あるいは脅迫したりと大変強かで面白かったです。


異世界の召喚されたその日、王子は喋られると面倒くさいからと花梨に声が出ない魔法をかけたうえ、第三騎士隊の隊長クラウスと副隊長ルカを呼びつけ、セフィが帰って来るまでの間子供になってしまった花梨の世話をするよう言いつけます。ここでクラウスを選択するかルカを選択するかで本作のシナリオは大きく2つに分岐します。私はまずクラウスルートに入ることにしました。


第三騎士隊の隊長を務めるクラウスは常に多忙。そして愛想のいいタイプではない上に不器用なため、花梨は冷たい人という第一印象を抱くことになります。確かに突然異世界に召喚された(見た目)5歳の子供に向こうの寝室で一人で寝ろと要求したりするのは配慮不足かもしれませんね。しかし彼はただ不器用なだけで、実際に冷淡な人というわけではないことが次第にわかってきます。この流れと花梨の心情描写が巧みでとても楽しく読めました。

こうしたシリアスな部分もありつつ、子供になってしまったという設定からコメディ的な部分もあります。お風呂一人で入れる? とか、食堂に行ったらお子様ランチが出てきた! とか。騎士たちが我先にとデザートにイチゴをあげようとしてくる場面とか、もはや花梨よりも騎士たちがかわいい!

CHOICE2

ルカルートではちょっと雰囲気が違います。ルカはクラウスとは違って勘もいいし愛想笑いもします。しかしその正体は大のいたずら好きでした。花梨のことを”隊長の隠し子”と言って妙な噂を流させたり、セクハラまがいの行動をして騎士たちをからかったり。そんな様子に花梨は、「子供相手なら分かるけどあたしは中身大人なのに~」みたいな感じで恥ずかしがったりというシーンがクラウスルートよりも目立ちます。私はこの感じよりクラウスみたいに冷たく見えたけどちゃんと愛情を感じる、みたいな展開の方が好きでした。(というか流石にこの行動はどうなの? と思ってしまった)


さて、どちらのルートに進んでも5日目くらいには物語が大きく動きます。ルートによって事件の詳細は違いますが、どちらにせよクラウスとルカがお互いに信頼し合ったうえで解決に動いていくのが良かったです。ルートに入ったキャラ以外がフェードアウトしてしまう作品も多いですが、それ以外のキャラとの交流なども描かれると物語の中で生きた存在として読み手の印象にも残るんじゃないでしょうか。
この事件の対処には花梨自身も重要な役割を果たします。子供の姿を利用して作戦を実行したり、大人の姿に戻ってから動いたりといろいろできるのはこの設定ならではですね。

ちなみに本作には立ち絵はありません。子供と大人の違いをビジュアル面で演出したりといったことも可能だったと思うのでそこはやや寂しく感じました。スチルはあるので余計に…。


というわけで「CHOICE」のレビューでした。異世界転生×幼児化×乙女ゲーというジャンルの可能性を感じる作品でした。全体的に男性キャラがかわいい(見た目じゃなくて行動的に)作品だと感じたので好みの方はぜひ!

それでは。

こんにちは。今回のレビューは浦田一香さんの「あなたの命の価値リメイクver2」となります。

anatar1

ジャンル:シリアス系ノベルゲーム
プレイ時間:4時間程度
分岐:なし
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2021/8
備考:リメイク前のバージョンも公開中


さて、本作についてはレビューを書くのに結構苦労しました。プレイして思うところはいろいろあるけれど、ゲームのレビューとしては関係ないような内容も多く文章をまとめるのも難しいです。決して大衆向けというわけでもない内容。執筆にも相当な期間を要しました。
それでも私はコンシューマーではなくフリーのゲームを好んでプレイしてレビューを書いておきながら、本作をスルーするわけにはいかないだろうと思ったのです。作者の伝えたいことがストレートに表現され、良い作品にしようという意気込みも感じられる。それこそがフリーゲームの魅力の1つでしょう。


本作のストーリーは終始シリアスな内容が続きます。主人公の岩佐勇気は高校2年生。虐待のあった家庭から離れ、妹の由紀とともに児童養護施設”絆の学園”で生活しています。そこには同じように家庭の問題を抱えた子供たちが数十人。彼らが抱える心の傷や経済的な問題、さらには偏見問題などが扱われ、エンターテイメント性のあるゲームというよりはドキュメンタリーを見ているような感じと言っていいでしょう。


あらすじをなぞって説明するのは簡単ですが、それはなんだか本作の趣旨から外れているように私には感じられます。というのも本作については物語として楽しむというところよりも、勇気たちの境遇と成長を見て我々プレイヤーがどう考えるのかということの方がよほど大事に思えるのです。というわけでストーリーの内容にはほぼ触れずに感想を述べる感じで書いていこうと思います。

anatar2






こうした話を読んでまず思うのは、ありきたりですが自分は恵まれた環境で生きてきたなということです。勇気は幼いころに両親から虐待を受け、施設で保護されるわけですが、私の場合は優しい両親がいて、寝食に困ることもなく、暴力におびえることもなく育ち、大学にも行かせてもらいました。高校に通いながらも将来のためにアルバイトで貯蓄し、高校の先生に進学を勧められる学力がありながら早い段階での生活の安定を求めて就職を決意した勇気に比べたらほとんど何も考えずに過ごしていたようなものです。
…と、経済的な面が最初に目につきます。しかし、本作をプレイすればそれだけでない虐待の負の影響が見えてきます。それは精神的な悪影響です。

勇気だけでなく、夏美も、佳奈も(2人とも同じ施設で生活する子たちです)、私からしたらなぜそこまでと思えるほどネガティブな言動が見られます。例えば、本作前半のあるシーンで勇気は学校の友人である沙希との関係について沙希の父親から相当に失礼なことを言われます。”虐待を受けてきたような子は親にきちんとしつけられていない。さらに自身も子供へ虐待する可能性が高い”というような内容です。自分自身はあからさまには差別しないというような口ぶりですが、あの発言内容は家庭での問題を抱えた人たちに対する差別以外の何物でもありません。自分は気にしないけど世間の人たちもそうとは限らないよというような言い回しは、自分は汚れ役になりたくないけど文句は言いたいという大人に使われやすい常套句ですよね。
確かに親からの愛情に問題があった場合、自分の子供に虐待する割合がその他の人よりも高いというデータは私も見たことがあります。しかしそれは被虐待児の責任ではありません。勇気のような子供達には思いを寄せる人と一緒に幸せになる権利はないのでしょうか。また、単に確率の話を個人に当てはめるのも不適当です。子供への虐待を100%防ぎたいなら唯一の方法は子供を作らないことでしょう。

……今の私であれば、これくらいの反論はすぐに思い浮かびます。しかしこれができるのは私が幸せな家庭に育ち、親の十分な愛情を受け、自分が生きていること自体に代替の利かない貴重な価値があることを信じて疑わないからです。勇気の場合残念ながらそうではありませんでした。過去の出来事にふたをし、自身のアイデンティティを”幸せな家庭を築く”という目標の達成1点に絞っていた結果、それが(虐待の無かった人に比べて)統計的に難しいと言われただけで強い不安に駆られ、反論の気力も浮かばなかったのでしょう。だからこそ施設での智恵理先生のような人ときちんと信頼を深め、心に穴の開いた部分を埋めていく努力が必要なのでしょう(本人も、支える側もです)。福祉は、”金さえあれば何とかなる”というような問題ではないことが分かります。


本作をプレイしていてその他にもいろいろな悲しい気付きがありました。元や佳奈、夏美など、様々な事情を抱えた人物が登場するのは、こうした気付きを得て欲しいという作者さんの思いなのでしょう。その気合の入り方は、ReadMeに列挙された参考文献の数でもわかります。アカデミックな内容を含む作品などで参考文献が載っているものは他にも見たことがありますが、本作のように列挙というにふさわしい数が並んでいるのは初めて見たと思います。私の卒論の引用文献数より多いのでは?
このように作者のメッセージを受け取れたり一緒に考えたりということができるのは、フリーゲームらしさの1つと言ってよいでしょう。

anatar3

虐待問題を扱うにあたって、被虐待児自身が成長して大人になるだけでなく、幸せな家庭を築き上げ立派に子供を産み育て、虐待の連鎖を断ち切ることは作者さんが絶対に描きたかった内容と見えます。その思いを反映するように、勇気の人生の目標が”幸せな家庭を築くこと”だというのは物語冒頭で提示されますし、物語の時間軸も高校在学時から娘の優美が家を出て独り立ちするまでの30年程度とかなり長期スパンです。児童養護施設が舞台なのだから大体2年くらいだろうと思っていたプレイ開始当初の私は浅はかでした。
就職し施設を出た後も力の入ったシーンが続きます。仕事に苦労し、虐待の後遺症に苦しみながらも優美が誕生し、成長していき、結婚するまで。優美の成長がほほえましいのはもちろん、勇気と夏美の成長を確認できるシーンでもあるでしょう。施設に来たばかりの時のように周囲におびえ、自分の生きる価値を見出せず、自分の居場所も分からなかった勇気はもういません。立派に社会人となり、親となり、着実に目標達成への道を歩んでいきます。優美が両親の過去を受け入れ、感謝を述べるあたりなんかはかなり感動的です。
いやあ、こういう作品をプレイすると、下手に恋愛ものとかを読むよりよっぽど結婚したくなりますね。



さて、ゲームとしてみたときに気になった点も2点だけ触れましょう。
1つは脇役のエピソードの挟み方です。本作においてメインになるのは勇気と夏美が虐待の経験を乗り越える話です。しかし序盤のうちは夏美の抱える問題がはっきり提示されません。何となくクラスになじめていなそうだなという描写があって、何とかしたいなとは思うものの具体的な行動がないまま佳奈や沙希など別の人物の問題を解決していく章に入っていきます。なので私は前半の間は夏美が重要な人物であることに気付かなかったのです。ここがちょっともったいない気がしました。物語開始後真っ先に夏美の状況が語られて、勇気も何とか力になってあげたいと決意する(具体的な行動ができるかは別にして)描写とかがあると、物語の1本の軸が最初から分かりやすくなるんじゃないでしょうか。
夏美以外の抱える問題についてのシーン自体はとても良いと思います。おそらく様々な事情を抱えた人がいるというのは作者さんの伝えたい内容の1つでもあるでしょう。特に沙希に関しての、1回勇気との衝突があって、後に「沙希さんの夢がより具体的になっている。」と表現されるあたりがよい。物語内の出来事を受けて沙希も成長したことが伝わり、物語に厚みが出たような気がします。佳奈やリリィなどについてはいったん解決したらもうその話には触れずにそのまま、という感じだったので、後の章で過去の出来事を受けて変わっていった部分などが語られたらよりよかったんじゃないでしょうか。

もう1点は、作品内のメリハリについてです。本作では勇気たちが生活していく様々なシーンが登場します。学校に行ったり、アルバイトしたり、買い物をしたり、施設に戻って話し合ったり。しかしそれぞれのシーンにテンションの差がなく、どこが大事なところなのかわかりにくかったように思いました。移動の間のシーンなどもかなり短いものも別で切り分けられているので、思い切って短い部分は削ったり前後のシーンにくっつけたりすると場面転換が少なくなってすっきりする気がします。また、逆にためるところはもっともったいぶっていいと思います。例えば、物語終盤、「僕は時間が止まったかのような錯覚に陥った。」とまで言われるシーンがありますが、ここは文字通りもっと引き延ばして印象に残るようにしていいんじゃないでしょうか。そのままさらっと流れて夜になってしまうのはちょっともったいない気がします。スチルがあるシーンなども同様に、ここが重要なシーンなんだ! という主張を尺的にも入れていいと思います。
これは登場人物の扱いについても同じです。上で夏美との話がメインなのが分かりにくかったと書きましたが、これも理由の一つだと思います。会話シーンだったり心情描写のだったりの際に全員が同じくらいの頻度で出てきて中心となる人物がいないのです。それにしては登場人物が多いため、常に頭の中に多くのキャラクターを思い浮かべていなければならず読んでいて少し疲れます。会話シーンで頻出させるのは夏美の性格上違うとしても、勇気の心情描写ではもっと夏美のことを気にかけていることを物語序盤から主張してよかったんじゃないでしょうか。中盤以降は物語の軸が勇気と夏美であることがはっきりし、大変読みやすくなったように思います。



と細々書いてきましたが、多くの人に本作をプレイしてもらいたいのは変わりませんので、ぜひダウンロードして、いろいろと感じ取ってください。

こんにちは。今回は禁飼育さんの「スレガル」のご紹介です。

sure1


ジャンル:ファンタジー乙女ゲーム
プレイ時間:4時間
分岐:フリー版はなし(後述)
ツール:NScripter
リリース:2016/7(フリー版)
注意:18禁、(性)暴力、流血、非倫理的描写あり



はい、半年以上ぶりの18禁作品です。1月にご紹介した「そしてパンになる」(18禁)以来ですね。「そしてパンになる」では、終盤衝撃の展開があるとはいえ普通の学園生活を送る普通のギャルゲーで、ヒロインと十分親密になってからエッチなシーンがあります。純愛ものですね。
しかし本作「スレガル」では全く違う展開を覚悟しなくてはなりません。以前紹介した「私の名前を呼びなさい!」(15推)に近い方向性の覚悟です。つまり本作においても主人公は大変に酷い、理不尽な、凄惨と言える展開に見舞われます。本作ではそれに加え、性的暴行があります。セクハラなんてもんじゃありません。そういった展開に拒否感を覚える方は絶対にプレイしないでください。
そして本作の怖いところは、それ以外の所にも。むしろほかの所の方がきついとさえ感じられました。この辺のことは後で詳しく述べます。




それでは本作の内容を紹介していきましょう。
主人公コノリ・モチヅキは魔法使いになることを夢見て魔法学園の回復魔法専攻科に通う女子生徒。日本風の名前ですが、本作の舞台はヨーロッパ風(おそらくドイツ)です。かつて交通事故に遭って亡くなってしまった両親のような人を一人でも助けるべく回復魔法の習得に努めていますが、学園での成績は最下位レベル。回復科教員のジドノ先生には卒業すら危ういと言われてしまう始末。そこでジドノ先生に1か月間特訓をしてもらうことになります。落ちこぼれのコノリにも優しく適切に教えてくれるジドノ先生。勉強の甲斐もあり試験での成績も向上。次第にジドノ先生へ好意を持つようになるコノリであったが……

といったところでしょう。この、コノリがジドノ先生のことを好きになっていく過程。この描写は文句なく純愛乙女ゲーなんですよね。まあ生徒とそこそこ歳いってると思われる教師の関係というところから普通ではないんですが、お互いを思いやる気持ちとか喜んでもらいたいという気持ちとか、そういうのはしっかり感じられます。
主人公はだいぶアホの子なのでギャグ路線多めですが、落ちこぼれの自分に優しく教えてくれ、成功体験をくれた、クラスメートに妙なからかい方をされたときにちゃんとかばってくれた、意外にも甘いものが好きで、ドーナツの話で盛り上がれる……となると、ジドノ先生に惹かれていく描写に説得力があります。

sure2

そんな中でクリスマスの休暇中に普段過ごしている寮から実家に帰省することになったコノリ。しかし駅で電車を待っているところ突然の体調不良によって倒れて意識を失ってしまいます。彼女を学校まで運び様子を見ていてくれたのは学園の校長先生。彼もまた常に仮面を着用していたりと変わった人物ですが優しそう。
友人のキドと妖精たちが帰省ができなくなったコノリを気遣って、数日遅れでクリスマスパーティーを開いてくれたりと彼女の周りにはやさしさがあふれており、体調の方も問題なく回復します。しかしこのあたりから物語は不穏な雰囲気を増していくのです。


たびたび突発的な体の痛みを感じるようになるコノリ。そして校長先生は、「ジドノはやめておけ」と言ってくる。悪い人には見えないけれど……。
そして事件は起こります。体調が悪くジドノ先生の部屋で休んでいたコノリ。しかしトイレに行くために部屋を出たとき、何かをたたきつけるような謎の音が聞こえてきます。妖精さんにそそのかされて様子を見に行くと、蛇のような謎の生物に襲われてしまいます。

ジドノ先生はそんな場面に駆け付け、コノリと妖精を助けてくれます。部屋から出るなという言いつけを守らなかったうえに先生に助けてもらったという負い目から、今後は先生のいうことに従おうと誓うコノリ。しかしその後、ジドノ先生は蛇にかまれた部分の診察と治療を行うと言います。気付けば接触呪術による痣がコノリの全身に広がっています。恥ずかしいのを我慢して先生に診断と治療を任せることにするのですが、、、、、

私はこのあたりで察します。ああ、ついに禁飼育作品特有のきつい18禁シーンが来るなと。このサークルさんの年齢制限のある作品は「おじさん(15禁版)」「処女失格」(18禁)の2作しか読んでいない私ですが、どちらも非常にショッキングな展開を含むし、男は実は言いようもない悪人であるというパターンは完全に学習済みです。
果たしてその後の治療シーンは私の想像通りでした。治療、解呪と言いながら描写はいやらしく、コノリは恥ずかしさに何とか耐えながらジドノ先生の思うままに身を任せています。
「なんだろう、先生は私を助けてくれている筈なのに、どこか違う、何かちがうのだ。」
とコノリ自身感じつつ、先生のことを心から信用しているからこそ、真面目な除去魔法でえっちな気分になっている自分に嫌悪を覚えます。

おかしいと思いつつも受け入れてしまう。あまつさえ悪いのは自分だと暗示をかけてしまう。これは恋は盲目ってやつでしょうか。それとも、ジドノがあまりに狡猾で、邪悪で、対するコノリが純粋すぎるからでしょうか。



……しかし本作を読了した今から思えば、この時はまだ”幸せな物語”だったのです。ジドノ先生がコノリに借りていたハンカチと、黒猫のぬいぐるみを返したとき、物語は急展開を迎えます。
sure4

以降、さらに輪をかけて胸糞悪く、そして凄惨な展開と、核心に関わるネタバレがあります。一度折りたたみますので、かまわないよという方はクリックして読んでください。
クリックで展開 ここまで読み進めると、現在の物語は暗い影を残した状態で終了となりタイトル画面に戻されます。再度Startボタンをクリックすると、章選択が可能となっています。いかにもな赤字で示されたタイトル"バウルサク"を選択すると、時間をさかのぼってコノリがまだ幼かったころ、魔法にも出会う前の両親と暮らしていたころの物語が始まります。

そこでは、かつて平和に暮らしていた思い出、そして家族で遊園地に遊びに行った帰りに両親が交通事故で亡くなってしまったことなどが語られます。
身寄りをなくしたコノリ。親がいなければ訴える者もいないという自分勝手な考えを持った奴隷商人に誘拐されてしまいます。他の誘拐被害者とともに商品として見世物にされ続ける毎日。そんなコノリに目を付けたのがジドノだったのです。年端もいかないコノリに対して容赦ない性的暴力を振るうだけでなく、助けなんてこないんだ、周りの人間なんて誰も自分のことを気にとめたりしてくれないんだというトラウマを同時に植え付けます。

明日にはコノリを奴隷として買い取ることを契約したジドノ。コノリたち子供はその夜のうちに監禁されていた檻からの脱走を敢行します。
ここまで読んでようやく私は気付きました。タイトルの"スレガル"はslave girl、奴隷の少女を意味しているのだと。
sure2
生意気な様子のコノリを気に入ったジドノは脱走されたからと言ってあきらめたりはしません。魔法を使って脱走した子供たちの居場所を突き止めてしまいます。そしてあっさりと脱走を先導した少年とコノリの目の前にたどり着き、そして少年の脱走行為の効果を完全に否定し、彼を発狂させてしまいます。
そう、物理的な暴力、性的な暴力のみならず言葉の暴力も半端ではありません。この凶悪さ、救われなさが禁飼育作品の真骨頂と言っていいんじゃないでしょうか。

そして時は現在に戻り、コノリはぬいぐるみのマートをトリガーにしてすべての記憶を取り戻します。かつて奴隷市場で自分を買い、犯し、自らのよりどころでもあったマートを無情にも奪い取って絶望させたジドノに、あろうことか恋してしまった。もう私にはコノリの気持ちを想像できません。こんなに不条理で、理不尽で、自身の何もかもを否定されるような壮絶な体験が他にあるでしょうか。


そんな言葉で言い表せないほど惨い人物ジドノですが、より高度な魔法使いである校長先生にはかなわないらしい。ついに年貢の納め時がやってきます。
ところが彼はいつ何時でも冷酷で執念深く、そして狡猾なのでした。物語は全く救われない方向で結末を迎えてしまいます。



私は本作を読了し、もう怒りに震えることしかできませんでした。ここまで負の感情のエネルギーを活用した作品にはなかなか巡り合えるものじゃありません。強烈でした…。


…と、ここまでは”フリー版”のお話。フリー版をプレイし終えた私は”おにロリver”にハッピーエンドがあると聞いて救いを求めるように購入しました。DLsiteにて販売中です。フリー版の内容も含んだうえで、コノリが脱走する前にジドノと暮らすことになったifバージョンへの分岐が追加されています。プレイ時間はフリー版含めて7時間くらいでしょうか。

フリーゲームではないのでここでは軽く感想を述べる程度にとどめます。
確かに完全にダークなエンディングだったフリー版に比べると相当マイルドかつ感動的展開となっています。しかしジドノが成敗されるエンディングはないのでそれを求めている方は残念ながらすっきりはしません。それをのぞけばおにロリverではほとんどの人がフリー版よりも幸せな結末を得ることができます。コノリとジドノが長い間を一緒に過ごす描写があるので、信頼関係を持つようになる理由もしっかりあります。
フリー版をプレイして興味が出たらぜひ購入してみてください。


今回は広く勧めるには全く向かない作品ですが、その分独特の魅力というか中毒性があります。禁飼育作品っていつもこうなんだよなあ。1作読んだらしばらくはお腹いっぱいになるんですが、そのうちまたプレイしたくなってきます。
18歳以上で注意書きの内容に同意できるという方はプレイしてみてください。あなたの脳裏に強烈に焼き付くことは間違いありません。

それでは。

こんにちは。今回のレビューはゆきはなさんの「虚ろ町ののばら」です。

uturo1

ジャンル:異界探索ホラーゲーム(ReadMeより引用)
プレイ時間:1周3時間/フルコンプまで6時間程度
分岐:ED4種、その他ゲームオーバーあり
ツール:RPGツクール
リリース:2018/10
備考:12推


本作は和と洋の雰囲気の混ざった不思議な異世界からの帰還を描いた作品です。
主人公の境のばらはおばあちゃん大好きな少女。今日もおばあちゃんに会いに行くためにバス停でバスを待っていたのですが……気付いたらバスは壊れているし異常に汚いし、人の形をした亡霊のようなものが出口をふさいでいる始末。この不気味な世界”虚ろ町”で出会った少年、守崎十夜(もりさき・とおや)とともに元の世界への帰還を目指します。


この作品の魅力の1つはそう、圧倒的なビジュアルです。スクリーンショットを見ていただければお分かりでしょう。スチル・立ち絵のみにとどまらず、背景、マップやUI部品に至るまでかわいいというよりは美しいと言える作りこみ。もう何枚かスクリーンショットを貼るのでその美しさを味わってください。
uturo2

uturo3

uturo4

uturo5

やっぱり見た目がきれいだと、ゲームを進める原動力にもなりますし、こうして魅力もお伝えしやすいですね。ホラーゲームである以上美しい景色だけでなく、抜け落ちた床や積みあがったゴミ、さびた電車なども登場しますが、それらも単に気持ち悪いだけでなく、どこか綺麗に描かれているのがすごいところです。


さて、それではシナリオの話に入りましょう。
のばらたちが虚ろ町で出会った影のような生物たちはみな、何かに執着している様子。彼らの様子を観察したり、話の通じる者たちにたずねたりしているうちに、どうやらこの”虚ろ町”は現世に心残りのある死者たちのさまよう、彼岸と此岸の境目にある町らしいことが分かってきます。この町を治める”虚ろ様”の所に行って、何とか現世に帰れないかと助けを請うのばらと十夜。
子守唄をねだる子供たちの霊を鎮めるなどの役目をこなして現世への帰り道を教えてもらった2人だったが、虚ろ様によればのばらが無事に帰れるかどうかは微妙なところだという。その原因は現世でののばらの境遇と本人の性格にあった…。

プレイ時間の短くない本作ですが、綺麗なマップを探索していると自然とストーリーが進んで頭に入っていき、長さを感じさせません。そして虚ろ町の探索をする合間に、のばらが現世へと帰れるかの鍵となる過去回想がはいるのが上手いところです。そしてこの過去回想がねぇ、切ないんですよ。「しっかりなんて……できないよ!!」本当にその通りです。本人の性格もあるとはいえ小学生にはつらい境遇でしょう。
その分、ED4での十夜との再会と帰還、そして現世で一歩踏み出したラストシーンは感慨深いものになっているでしょう。


物語冒頭で説明される通り、本作にはいくつかのエンディングがあり、青と赤のエフェクトの数が重要になってきます。虚ろ町の住人に寄り添ってその心残りを解消してあげれば物語はいい方向へ。最低限の探索でストーリーを進めたり、住人を傷つければ悪い方向へ進みます。しかしED3やED4を見るためにはそれに加えて特定のイベントをこなしてフラグを立てねばならず、難易度は高いです。というか初見で(特にED4)到達は無理でしょう。これは、まずはバッドエンドを見て欲しいという作者さんの意向なんじゃないかと勘ぐってしまいます。実際、私も先にED1や2を見ていたからこそのばらちゃんの成長に感動できたところがある気がします。
バッドエンドを見たときには悔しい、歯がゆい思いをすると思いますが、その分気持ちの良いハッピーエンドもありますので、ぜひ安心してプレイしてください。

そうそう、攻略情報についてはおまけルーム内や同梱テキストファイルに細かく記載されているので、詰まってしまう心配もありません。親切ですね。


では一応気になった点も書いておきましょう。
1つはコメディ要素が微妙かなという点です。不気味な街の探索だったり、現世の出来事を受け止めたりと基本的にはシリアスなシーンが続く本作ですが、たまに軽い感じのギャグっぽい展開があったりします。のばらと十夜の交流や距離感を描くという意味では良いのかなという気はしつつ、突然そのBGMでギャグ始まったらホラーの雰囲気ぶっ飛んじゃわない? と思う回数の方が私は多かったです。ホラー色の薄い街でのイベント(楽譜が挟まった本のタイトルとか)ならあまり気にならないんですけどね。

もう一つ、本作の操作はマウスを前提にしているとのことですが、ツクールMVのマウスでのマップ移動って使いにくいと思うんですよね……。特に終盤の影をかわしながら進む場面などでは、マウス操作では移動経路が指定できないのが致命的。結局私はセーブ・ロード以外はほぼすべてキーボード操作でプレイしました。


さて、本作のキャラクターには一部ボイスがついています。フルボイスではなく、キャラクターへの呼びかけとか、感嘆詞とか、一部の台詞をしゃべるだけですがキャラクターのイメージに合っていてちょうどいいんじゃないかなと思います。全部に声がついていると聞くのに時間がかかってテンポが悪くなるという面もありますからね。
ちなみにおまけ部屋から何でも許せる方用と称したギャグ一直線のおまけシナリオを見ることができます。私はこのおまけシナリオ冒頭の
「良い子のみんな~~!  本編、はじまるよ~~~~!」
の声を聞いて、脳内には瞬時に「その恋、保留につき、」シリーズの姪浜さんが浮かんでしまいました。のばらと同じ声優さんだったのね…。本編中で思い浮かぶこと全然なかったのに…。そのくらい本編と違った温度感になっていますので、バッドエンドで気が滅入ったぜ、という方はぜひやってみてください。POPOさんがコメディ極振りで作品作ったらこんな感じになりそう。

それでは。

こんにちは。今回はアコックソフトさんの「だびぽん」をレビューしていきます。

dabipon1

ジャンル:デジタルオカルトホラーADV
プレイ時間:1周2時間、フルコンプまで6時間程度
分岐:大きく2つ、1周目ルート制限あり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2016/10
備考:15推


前回レビューの「絶望の螺旋」に引き続きオカルト系の作品となります。穏やか目ではありますが一応ホラー表現があるので苦手な方は注意。


さて、いつも通り大まかにあらすじを説明しましょう。
主人公継見(つぐみ)ヒロキは大学生。友人の茅野凛太郎(かやの・りんたろう)はオカルトマニアかつコンピュータの技術もあり、大学のある禎尾(さだび)町にある心霊スポットをテーマにしたオンラインゲーム「SADABI怪談オンライン」をほぼ一人で開発している。ヒロキはテストプレイヤーとして開発チームに参加しているところだったが、なんと最終マップのモチーフとなる「禎尾森放送局」へと取材に行った茅野が消息不明に。放送局まで彼を探しに行ったヒロキは頭から血を流して地面に横たわる茅野を発見。幸い息はあるようだったが、少し目を離した隙に茅野の姿を見失ってしまった。自力で遠くに逃げるなど到底不可能そうに見えた茅野はなぜ消えたのか。直後に姿を現し、何か知っていそうな発言をした女子高生の正体は? 禎尾森放送局のマスコットキャラクター、だびぽんに関するオカルトめいた噂との関係は? 誰が味方なのかもわからない中、同じく開発メンバーの橘三鷹(たちばな・みたか)とともに茅野の捜索を続けるヒロキの努力は報われるのか……

といったところでしょう。

dabipon3


本作におけるオカルトの特徴として、"デジタル"が挙げられるでしょう。だびぽんの持つ力は、携帯電話やパソコンなどを通して現実世界に発現します。オンラインゲームの製作などを行っていた茅野らはまさにいい餌食です。
しかし電子機器に触れたものが全員呪われるわけではありません。いったい何がトリガーとなっているのか、だれがどんな目的で力を行使しているのか、といったあたりの情報は隠されていて、終盤にならないと明らかになりません。この辺の情報の隠し方、提示の仕方が上手い作品だなと感じました。

だびぽんの謎については、かなり複雑な真相になっていると言えます。1周では真実にたどり着くことはできないでしょう。というかシステム上できません。本作のルートはメニュー内のフローチャートに示される通り大きく分けてA,Bの2つ。それぞれにさらに2~3のエンディングと多数の一発ゲームオーバーがありますが、初回ではBルートへの選択肢は出現しません。AのNormalエンドを見ることによって解放されます。若干メタ的な内容も含むので、変則ループものともいえるかもしれません。

dabipon2

茅野の捜索、そして呪いの解消のためにはノベル形式の選択肢だけでなく、探索や謎解きを成功させなくてはなりません。上の画像のように、部屋内の調査をしてパスワードの手がかりを探してみたり、あるいはほかの開発メンバーとSADABI怪談オンライン上でイベントを進行させたりといった内容があるのですが、難易度的には高くありません。クリックできる範囲でくまなく調査すればヒントはすべて手に入りますし、そこからパスワードを導き出すのも簡単でしょう。壁を調べると出てくる落書きの中にもヒントが隠されていて親切です。
むしろ本作において難しいのはノベルパートで適切な選択肢を選ぶことです。すぐにそれとわかる一発ゲームオーバー選択肢以外にも、どっちが正解か分かりにくいものや、そもそも今後の分岐に影響するようには見えないけれども正解は一つしかない選択肢などもあり、一発で正規のエンディングに行くのすらだいぶ難しいでしょう。また、本作は序章~第9章までの章ごとの構成となっているのですが、分岐は章内だけでなく、過去の章での選択の影響もうけます。第6章あたりでゲームオーバーになっちゃうな~と思ったら、直前ではなくもっと前のセーブデータからやり直してみるとよいでしょう。

TRUEエンドへの道はさらに厳しいものとなります。ゲームオーバー選択肢は当然すべて回避したうえで、全員生存させるための各キャラクターの行動を考えなくてはなりません。正直エンディング回収後も何が必要なフラグだったのかつかめていない状態だったので、もう少しやさしくするなり攻略情報をどこかに書いておくなりしてくれたら親切だったなと思いました。
しかしこれだけ苦労した甲斐あって、気持ちの良いエンディングが見られます。まあ、そんな簡単に許せるん? と思わなくはないですが、このくらいなら十分ありでしょう。


本作をプレイしていて少し気になったのは、時々挿入されるミニゲームです。主人公たちがオンラインゲームの開発とプレイをしていて、それが本筋の謎にかかわってくるからゲームという世界観を表現しておきたいというような意図は分かるのですが、突然謎のすごろくが始まったり終盤の重要なイベントが結局運ゲーだったりすると、これはなんのゲームだったっけ? となってしまった感は否めません。だびぽんが勝手にオンラインゲーム上でのイベントを開いて、ヒロキたちで対処という仕掛けはいいと思うので、そこだけちょっと惜しいかなと思います。
あとは、分岐多数で難易度が高いので、既読スキップは欲しかったというところでしょう(スキップはあるが既読も未読も全部飛ばされてしまう)。



というわけで今回はだびぽんのご紹介でした。
誰が味方かもわからない中、目まぐるしく入れ替わる状況とホラーならではの緊張感。そうしたものが好きな方ならきっと本作を十分楽しめるでしょう。ボイスもついてますよ。
それでは。

↑このページのトップヘ