フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
初めての方は、ぜひごあいさつをご覧ください。評価の基準については、レビューについてに記してあります。
記事一覧ページを作りました。記事探しはこちらから。Twitterはこちら。リンク等はご自由にどうぞ。
YouTube始めました。フリーゲーム攻略動画などを投稿してます。

SF

こんにちは。今回は揚げ鶏々さんの「探偵助手ガリウムのろじうら探検記」をレビューしていきたいと思います。

gallium1

ジャンル:元素擬人化SFミステリー
プレイ時間:1時間
分岐:基本1本道
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2025/5
備考:書籍を中心とするコンテンツ「元素楽章」の外伝に位置づけられるゲーム作品


少し更新に間が空いてしまいました。今回はティラノゲームフェス10で縁のあった作品を持ってきました。
本作は成り立ちが特殊で、まずは作者の揚げ鶏々さんの元素擬人化ファンタジー書籍「元素楽章」が2024年に発売となっていました。普通に書店に並んでいる人気の本なのですが私はこのことを知らず、昨年のティラノゲームフェス10でゲームである本作に出会います。なかなか面白い作品だったのでノベコレにレビューを書いたり関連作を調べている中で元素楽章シリーズを知り、本作がその外伝的扱いとなっていることを知りました。先日書籍も購入して読んでみたので、その内容にも少し触れながらフリーゲームである本作の紹介をしていけたらと思います。


まずは本作のあらすじ紹介から行きましょう。

舞台となっているのは人型になった元素たちが気ままに交流する世界、アスティオン大陸です。ここでは本作の主人公であるガリウムやアルミニウムのほかに、炭素やケイ素、臭素といった元素たちのほのぼのとした日常が営まれています。
探偵助手であるガリウムは師匠のアルミのお使いをするなど平和な日常が続いていましたが、ある日金属性の元素たちが集団失踪しているという噂を耳にします。調査のために姿を消したアルミ先生を追って自らも事件の調査を進めるガリウム。果たして事件の謎を解き明かすことはできるのでしょうか…


こんな感じでしょう。
本作の前半は世界観や設定の紹介を兼ねた日常パートとなっています。一般的な学園ものなどだと半分を設定の説明に使うのは尺を取りすぎだと思いますが、本作は元素たちが暮らす大陸というかなり独自色の強い作品となっていますので、丁寧な導入になっているなという感じがします。
ただ順番に設定を説明するだけでは単調で、読者にとって覚えにくくて暇なパートになりがちですが、本作では少しずつ新キャラ(新元素?)が登場して化学にまつわる小ネタを挟んでいったり、ファンタジー感あふれる立ち絵や背景イラストが目を引いて楽しく読めるようになっているなと思います。

gallium2

例えばこちらのシーンで登場するナトリウム(画面右)は周期表で左端に位置するアルカリ金属(第1族元素)。右から2番目に位置するハロゲン(第17族元素)とは電気陰性度など様々な性質で対をなすため、そのあたりのことを知っていると元ネタが分かった気持ちよさを味わうことができます。

私は化学は詳しくない分野なので元ネタが分からなかったり、そもそもその設定の由来となる科学的事実があることを知らなかったりすることも多々ありましたが、シーンの切り替え時などに簡潔な解説カットインが入ったりするので問題なく楽しめましたし少しだけ勉強にもなりました。


gallium3

さて、本作はファンタジー世界ではあるものの探偵ものでもあるため物語後半には推理・真相解明パートがあります。2日間の探索で得た情報を整理したうえで推理していくのですが、難易度は簡単と言っていいでしょう。探索パート、推理パートのいずれでもいくつか選択肢がありますが、どれも間違えてもペナルティはありませんし、ガリウムの考えをちゃんと聞いていれば迷うこともないでしょう。
この真相もちゃんと化学ネタとして筋が通っているのも良いですね。本作が単に元素を擬人化して可愛くしました!にとどまらない魅力を持っているのは、一つの物語として楽しめるストーリーや推理ギミックがきちんとあって、そこに化学要素が乗って融合しているからではないでしょうか。設定と物語が分離していると気が散ってしまうことがありますが、本作ではそのような問題は感じませんでした。


主人公のガリウムとその師匠であるアルミニウムの間の関係とか、背景となっている元素の知識なんかが順に挿入されながらラストの事件解決に至るので、単に当座の問題が解消したというだけでなく、過去からの2人の関係性に肩入れしながら物語を味わうことができてその点でもよかったです。元ネタ知識の活かし方でいうと、過去にご紹介した「高対称のi」に近いかもしれません。こちらも、元ネタなしでもメインのシナリオを楽しめるという点でよくできている作品でした。



genso

書籍版の「元素楽章」にも少し触れておきましょう。
ゲームと同じくきれいなイラストが全編に散りばめられて目を引きます。登場する元素の数はゲームの数倍のボリュームがあり、キャラクターイラストの解説や化学的な元ネタの記述も多めです。元素の暮らすアスティオン大陸の話という設定を展開しながら、元素やその化合物の性質を盛り込んでおり作者さんの気概を感じます。
特定の元素を含む食材や料理といった話題や家庭でできる実験に関するページ、科学史の方面の記述もあるなど広く書かれていて、科学読み物として楽しい本かなと思います。
反面、小説ではないので物語性はなく擬人化設定資料集&元ネタ解説といった方が近く、ストーリーを求める方にはおすすめできないかもしれません。そういった方は1本の物語としてまとまっているゲーム版を手に取ってみてください。


というわけで今回は「探偵助手ガリウムのろじうら探検記」でした。
化学のネタを除いても可愛いキャラクターがいっぱいですのでぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回はどこかしらどこさんの「Robot Hospice」です。

robot1

オススメ!
ジャンル:SF探索アドベンチャー
プレイ時間:2時間
分岐:基本1本道
ツール:RPGツクール
リリース:2026/6


今回ご紹介する「Robot Hospice」は私は昨年の東京ゲームダンジョンで知った作品になります。そのあともたびたび目にしては気にしていたのですが、ついに先日正式版が公開されたとのことでプレイしてみました。初めて見た時の期待を裏切らない、心温まる良い作品と思いましたのでレビューしていこうと思います。



本作の舞台はロボットの技術が現代よりも進み、多くの種類のロボットが開発されるとともにロボットの権利について現代よりも進歩的な考え方が浸透した世界となります。
作内に登場する愛玩用ロボットや家事用ロボットなどにも”心”があると認められるようになり、彼らの最期についてもかなり人に近い扱いとなっています。すなわち、修理が困難になったり持ち主が手放さざるを得なくなったりして役割を終えたロボットたちが穏やかに最後の時を迎えられるようにするための施設、ロボットホスピスが運営されているのです。主人公であるミドリはその新人職員として、ロボットたちのカウンセリング等を担当していくことになります。

robot2

上のシーンでチェス盤を挟んで対局をしているのはニィニィとツゥツゥの2人。どうやらいつもチェスではなくチェッカーというゲームで対局するものの毎回引き分けになって決着がつかないそうです(どちらも対局にチェス盤を使う)。私はチェッカーについては良く知らないため今回調べてみたのですが、どうやらすでに両対局者が最善を尽くすと引き分けになることが理論的に明らかになっているそうです。ということはおそらく2人の腕前は理論上最強に達しているのでしょう。ゲームの勝ち負けに固執して仲がいいのかいがみ合っているのか分からない様子はまるで子供のようですが、そんな様子でもチェッカーの腕前は大人どころか最強、というのがAIらしいところですね。


ロボットホスピスの入居者(人ではないですが今回はこう表記しておきます)は合わせて5体。現代でも普及している形の掃除ロボットや人型の家事代行ロボット、犬型の愛玩用ロボットに、上述の子供の遊び相手となる玩具的なロボットの双子(これも人間でいうところの双子とは異なりますが)です。彼らはいずれも何らかの事情があって元の持ち主の手を離れたロボットたちなわけですが、ロボットホスピスに来るまでの経緯だったり生まれ持って・経験に基づく性格などは様々です。この個性あるロボットを見ていると、中身は工業製品であろうとも人っぽさを感じられ、ロボットホスピスという施設の存在も自然なものに思えてきます。これは人類がそのうち必ず真剣に議論すべき課題になってくるはずです。


現代では、ロボットに人権やそれに類する権利を認める立場をとる方はほとんどいないと思います。生成AIの技術が発展し、ChatGPTに友達感覚で会話したりチャットしたりといった利用も一般的なものになってきましたが、AIの電源を切ったり初期化したりすることを殺人と非難されることはないでしょう。
しかし例えばドラえもんが実現したとして、まだ動く、あるいは多少の不具合がある程度のドラえもんをスクラップにしたとすれば一定の非難を浴びることは免れないでしょう。現代の掃除ロボットや猫型の配膳ロボット、あるいはLLMとは何が違うのでしょうか。本作はプレイヤーにふんわりとそんな疑問を投げかけてきます。


主人公のミドリは入居者であるロボットたちを一貫して人と同じように扱っているように思えます。ミドリと入居者たちの違いはあくまで職員と利用者の関係であり、人とロボットではないのです。
この立場に立って考えたとき、ロボットホスピスの職員として、直接入居者とカウンセリングを重ねていくという仕事は大変な覚悟を必要とするはずです。立派な人物だと思います。

このように本作のテーマとするところはかなりシリアスなわけですが、プレイ中の雰囲気という面では可愛らしく柔らかいイメージを受けます。主人公のミドリをはじめ、登場キャラクターたちがみな”いい人”であるのがあるでしょう。ロボットたちに真摯に向き合うミドリの姿勢はもちろん、入居者であるロボットたちもかつて自分の持ち主であった人との思い出だったりそこからくる現在の行動だったりが基本的に心温まる方向へと統一されています。もちろん各個体の性格は様々で、冷たい対応をされることもあるのですが、和解への道がしっかりと残されています。

robot3

本作のグラフィックは全編ドット絵で構成されており、アニメーション等がかなり作りこまれているのもこの雰囲気づくりに貢献しているように感じます。こちらのシーンは犬型ロボットのファイボと縄跳びをして遊んでいるシーンなのですが、縄を回して一緒にジャンプして、といった動作が可愛らしく描かれていてイベントで体験版をプレイしたときにおっと思った覚えがあります。
花や蝶といった(おそらく)本筋とは無関係のちょっとしたイベントだったり、ミドリに仕事を教えてくれる存在であるゼクスさんとの雑談であったりも本作のプレイ体験に癒しを添えてくれるでしょう。



そんなほのぼのとした空気感でストーリーは進行していきますが、当然ロボットたちには終わりの時が来ます。ロボットたちを人間に限りなく近い存在と見たとき、その死には重い意味があります。ここがホスピスである以上、修理の可能性はなくミドリは彼らの寿命を永らえさせるという意味では完全に無力です。ミドリにできるのは最後までロボットに寄り添い心穏やかに過ごせるようにするだけ。そのための行動選択を迫られることも何度かあります。なかなか考えさせられるシーンです。

ミドリの選択によっては入居者たちは異なる最期を迎える場合があります。どのような寄り添い方をするの良いかに簡単な答えはないと思うのですが、本作ではどの選択肢を選んでも最終的に和解したり願いが叶ったりという風に良い方向に決着するのが特徴的。プレイヤーが自身の選択のせいで最後の後悔を残してしまった…ということにならないので深いテーマながら安心してプレイすることができるでしょう。こういった展開をすることができるのかという点で私は驚きました。


入居者たち全員を看取ったあと、残されたミドリとゼクスには最後の仕事があります。これについてはご自身の手でプレイして確かめていただければと思います。
先ほどまで述べてきたほのぼのとした雰囲気でゲームが進む中、たまにちょっとドキッとするイベントがあるのですが(ホラー展開はなし)、その疑問を含めて解消する大団円と言ってよいでしょう。

robot4

このシーン、決してホラーではないのですが強く印象に残っています。なぜミドリが目を押さえているのか、それはぜひ皆さんの目で直接ご覧ください。

というわけで今回は「Robot Hospice」のレビューでした。
難しい問いを含みながらも可愛らしくエンタメの形として昇華した素晴らしい作品だと思います。ぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回はヅッキーニさんの「国立天使研究センターの記録」のレビューをしていきたいと思います。

tensi1

オススメ!
ジャンル:SFノベルゲーム
プレイ時間:1時間
分岐:なし
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2025/2


こちらの作品はティラノゲームフェス10の参加作です。最近ノベルゲーム以外を扱うことが多かったので久しぶりですね。以前の記事で少しだけ触れたとおり、ノベコレ内だけでとどめるにはもったいない良作でしたので今回ブログで扱うことにしました。


本作の舞台となっている世界では人間に近い姿をして言語による意思疎通も可能な天使という生命が普通に存在しています。スクリーンショットで右側が研究員である人間、左が天使ですね。頭の上に輪が浮いているのと背中に小さな羽が生えている以外はほぼ人間と区別がつかない見た目をしています。
アディソピアという国では科学技術が発達しており天使族に関する国立の研究施設が運営されていて、本作はそこでの物語になります。

tensi2

全4章構成の最初の章では、研究員であるジキルが目を覚ましたばかりの天使ナナの検査を進めていく様子が描かれます。ジキルの説明によれば天使は数こそ少ないものの人間よりも丈夫で様々な能力が高いため、保護やそのための研究が進められ大切に扱われているといいます。物語を読み進めていると、実際形式的な扱いは丁寧な印象を受けますが、どうも違和感を覚えるようなシーンがあります。一番典型的なのは個々の天使に名前がないことです。人間と対等あるいはそれ以上に尊重しているようなことを言いながら無機質な識別番号しか与えられず、ナナというのは名前のなかったナナ本人が考えた通称です。 
ナナに与えられる食事についても、「味はあまりこだわってないらしい」とはジキルの談。完食せずに残してしまうような食事を淡々と与え続けるのも人間相手ではやや考えづらい。
そして検査以外の場面でのジキルの態度もそうです。「相手のプライベートには踏み込まない」みたいな配慮とは違った無関心のような対応に見えます。これらのちょっとした違和感はこの章の最後で決定的な事実へとつながってきます。

tensi3

この内容については一応物語前半4分の1で明らかになる範囲なのでここに書いてしまおうと思いますが、もしネタバレを気にする場合は以下は読まずに上のリンクから直接作品をプレイしてみてください。終盤の展開についてのネタバレはありません。

続き(ややネタバレ含む) CHAPTER1の最後、すべての検査を終えたナナは睡眠薬で眠らされたのちに薬剤注射によって殺処分されてしまいます。この研究センターは天使の優秀なクローンを作るための研究所。2日にわたって行われてきた知能検査の結果が一定水準に達していないと判断された個体はデータを取ったのちにすべて殺処分となってしまいます。

このシーン、イラストのかわいらしさに似合わずなかなかショッキングです。羽と輪っかという少しの違いがあるだけで、ほとんど人間の子供のように見えた天使。最初のうちは少しおびえた様子を見せながらも次第にジキルに心を許していったように見える彼女がただの用済みの被験体として処分されてしまうというのはあまりに残酷だし、現代の倫理観では許されることではないでしょう。本作はただのSFではなくディストピアSFに近い作品だったのです。

続くCHAPTER2では天使の脱走事件というイベント発生により、処分されてしまう側である天使の絶望感がより直接的に描かれます。しかしそんな状況の中で、ジキルがただ冷酷なだけの研究者というわけではないことも分かってきます。上司であるフラスタに状況を改善するよう進言してみたり、後輩の久田に愚痴をこぼしてみたり。こうした、"管理者"側の葛藤や思想が見えてくることは本作をただ天使にとって理不尽な物語ではなく血の通った物語にすることに間違いなく貢献していますし、希望と絶望を両方見せることによって読者を先に導くエネルギーにもなっています。

tensi4

最終章であるCHAPTER4はジキルの独白と回想で構成され、最後に短いエピローグのようなシーンが挿入されるつくりとなっています。この最後のシーンが物語全体の印象を決定づけるような素晴らしいシーンとなっているように思います。優秀な天使のクローンをまるで工業製品のように量産したり廃棄したりといった冷酷な面と、そこに従事する人間にも良心との葛藤や過去の経験から培われた倫理観といったものが存在しているという人間味のある面が1つの結末へと収束していく様子が大変気持ち良いです。閉塞感のある世界の中で見つけた一筋の光の美しさみたいなものを思わせます。


というわけで今回は「国立天使研究センターの記録」でした。
読後に残る余韻が素晴らしく、大変印象に残る作品です。最終的に本作全体が超大作SFの序章であるかのような、そんな可能性も感じさせる内容だったと思います。ぜひプレイしてみてください。きっとこの物語の続きを想像したくなること間違いなしです。

それでは。

こんにちは。今回はまんまるくまさんの「PROTOCOL」をご紹介します。

protocol1

オススメ!
ジャンル:長編本格SF脱出アドベンチャー
プレイ時間:6時間
分岐:なし
ツール:Flash
リリース:2017/5



今回ご紹介する作品は、個人製作とは思えないほど作りこまれた大作で、その良さをどこから語っていったらいいか迷ってしまうほどです。
まずはあらすじの説明をしましょう。主人公はある宇宙船の中で目を覚まします。周囲に人の気配はなく、何らかの事故に遭ったと思しき状況ですが、記憶を失っている主人公には避難方法が分かりません。なんとか小型のポッドを調べて人工知能チップを見つけた主人公は、AI"レア"と協力して生還への道を求めて探索を続けていきます。次第に明らかになっていく船内の状況と過去の事故。果たして生還は叶うのか……



上のスクリーンショットを見てもらっても分かると思いますが、本作のグラフィックはかなりハイレベルです。宇宙空間を漂う宇宙船だったり、目の前に浮かび上がるスクリーンだったり、episode 2の終わりで登場するアンドロイドだったりとあらゆる面でその技術が発揮され、作品世界に入り込みやすいのです。
他にもいくつかゲーム画面を見ていただきましょう。
protocol2
protocol3
protocol4
protocol5

さらにはスクリーンショットでは伝わらないようなアニメーションも凝っており、登場する人工知能であるレアなどにはボイスまでついています。プロモーションムービーも魅力的なので貼り付けておきましょう。


このような美しいグラフィックで全編描かれたフリーゲームというだけで驚異的ですが、脱出のためのギミックやストーリーといった面でも高水準な作品です。
脱出ゲームの定番のギミックと言えば、なぜか散らばったキーアイテムを収集したり、暗号として残されたヒントを解読したりといった内容になると思いますが、本作では事故のあった宇宙船から避難するというストーリーになっているため状況に不自然さが感じられません。プレイヤーが主人公になり切って脱出を目指すための強いモチベーションになります。やや発想が難しいギミックもありますが、人工知能と協力するということができるので、ヒントをもらいつつ世界観に浸りやすくなっています。


ストーリーの面においても良くできていて、人間である主人公と人工知能であるレアが協力して脱出・生還を目指す展開は気持ちが良いです。人工知能であることを活かしてデバイスを移行したり、かなり人間に近いアンドロイドであることを活かして主人公との信頼関係などといった内容を描いたりもできるのが素晴らしいところで、ゲーム的なギミックとの組み合わせも生かされていて大変に魅力的な内容になっていると思います。


本作の脱出ゲームとしての難易度ですが、総合的に見るとかなり高く、ボリュームもあるのでやりごたえ満点といったところでしょう。episode 1から5までの5章構成となっていて、1では宇宙船への入船、2では食糧確保のための居住区への移動など各章で目的が決まっています。そしてそれぞれの章で難易度が結構異なります。episode 4がおそらく最難関で、事故のあった宇宙船の細くて入り組んだ通路の中をマッピングしながら探索し、適切な場所でアイテムを使ったり謎解きをしたり、SF要素を活かして時間を飛び越えたりしなくてはなりません。
しかしマップ上で意味のある地点は色付きになるなど、難しいだけでなくプレイヤーに親切であるのも確かです。


難易度を高くしているのは、本作の独特のシステムであるコマンド選択方式もあると思います。
通常の脱出ゲームの場合、対象のアイテムを観察したり文字を読んだり、持ち上げてみたりアイテムを取得してみたり使用してみたりといった行動は全てクリックで行うと思います(稀にドラッグというパターンもありますね)。しかし本作の場合は対象をクリックする前に使用するコマンドを選択しておかなくてはなりません。調べる、動かす、開ける、取るなど、事前に適切なアクションを選択しておく必要があるため、とにかく画面をクリックしてみるといった方法での進行が難しいのです。
さらにクリックポイントもややシビアなので、あきらめずにいろいろ試行錯誤してみる必要があります。

とこのように高難度である本作ですが、攻略中に詰まった場合ゲーム内の"システム"にある"思考モード"を使うとヒントがもらえます。調べればよい箇所などを教えてもらえるので詰まったらどんどん使っていきましょう。
それでも分からなければ、フリーゲーム夢現の公開サイト内で攻略関連のコメント一覧を見るといろいろな情報が見られます。どうしてもわからないところを質問してみるのもアリでしょう。



protocol6
逆にepisode 3は探索要素が少なくて一番簡単な章です。小さなチップだったAIのレアがアンドロイドの体を得て、突然ラブコメが始まったのかというくらいほのぼのとした雰囲気になります。
しかし単なる息抜きだけでなく、ストーリー上重要なポイントが詰め込まれています。前述したコマンド選択制であることを活かしたギミックもあって、感動ポイントの1つとなっています。



本作で唯一欠点に感じられるのは動作の重さでしょうか。これだけ独自のシステムや綺麗なアニメーションなどが搭載されていたら仕方ないかもしれませんが、スペックが低いPCだと辛いかもしれません。
あとは一部のギミックに前提知識が必要であるように感じましたが、作内のヒントを使えば乗り越えられるでしょう。


エンディングを迎えた後で作内の世界観などの解説が聞けるモードがあるなど、SFの世界観を見事に表現している本作、大変お勧めですのでぜひプレイしてみてください。
ちなみに本作の制作にはFlashが使われていますが、ブラウザを介さずに起動できるので現在でもプレイに支障はありません。

それでは。

こんにちは。今回は初めてシェア版を前提にした作品紹介をしたいと思います。
TetraScopeさんの「桜哉」です。

sakuya1

オススメ!
ジャンル:SF乙女ゲーム
プレイ時間:フルコンプまで5~6時間
分岐:計6エンド
ツール:NScripter
リリース:2013/1
備考:18禁。有償作品(フリー版もあり、15禁)



TetraScopeさんと言えば全年齢対象のフリーゲーム「私のリアルは充実しすぎている」を以前このブログでも扱いました。シナリオもイラストも、音楽についてもハイクオリティで素晴らしい作品でした。その時に、ああこのサークルさんは18禁シェアゲーも出してるんだなと思っていたのですが、今回ついに購入してプレイしてみました。期待度は高かったのですが、実際にプレイしたところそれを優に上回る衝撃を受けたので今回初めて有償作品の紹介をしようと思い立ちました。

特に物語の余韻の強さ、そしてテーマ性という部分で私がこれまでプレイしてきた作品たちの中で5本の指には入ると感じました。気になる方は下の私の文章なんて読まなくていいのですぐに上のリンクから作品ページに飛んでダウンロードしてください。


物語の舞台は現代から数百年後、人型のロボット(アンドロイド)の開発が進み、接客業の多くを代替するなど広く普及しています。主人公の九条茜(名前変更可)は亡き父が開発したアンドロイド、桜哉と2人で生活しています。しかし桜哉は定型的なやり取りしかできず感情も持たない一般的なアンドロイドとは一線を画す存在で、外見や触った感触、会話内容でもアンドロイドとは分からないほどよくできており、人間らしい感情も持ち合わせています。
高校卒業以来数年ぶりに会った幼馴染の上村榛(うえむら・しん)には、ぜひ桜哉の研究がしたいから会社で買い取らせてくれと請われるが、もはや家族同然の存在と感じられる桜哉を物のように売り払ってしまうような話は当然拒否。榛にも、もはや桜哉はアンドロイドを超えた家族、友人として見てくれないかと交渉するが榛の態度も強硬。榛には「桜哉が好きなのか?」と問いかけられる。
幼いころから余りにも当たり前に隣にいた桜哉。彼のことを自分自身でどう思っているのか深く考えるのは避けてきたが、この問題に決着をつけなければならない時が近づいています。桜哉は人間なのか、アンドロイドに過ぎないのか。そして人とアンドロイドは愛し合うことができるのか?。


本作のおよその内容は上の通りです。それでは本作のどこが素晴らしかったのか説明していきましょう。

まずは上にも貼ったタイトル画面の段階でSFの世界観がすごい。CONFIGやEXTRA内のフローチャートなどもスタイリッシュですね。BGMも透明感があって、広大なサイバー空間に解き放たれたような気がします。UIや背景、音楽などの要素で未来感のあふれる世界観を作り出せるのはさすがです。


作品の中身、シナリオに移りましょう。
先述した通り、本作は”人とアンドロイドが愛し合うこと”がテーマとなっています。この重厚なテーマがありながら乙女ゲームとしてのエンターテインメント性はしっかり確保されています。
まずは攻略対象となる桜哉。イケメンかつ可愛らしい。そして茜のことが好きなのが見ていてすごく伝わってきます。本作は物語開始時点で主人公の茜と攻略対象の桜哉は同居しているので、積み上げられた信頼感のようなものが既に存在しているのです。

しかし物語前半におけるこの感情は恋人同士という感じではありません。長く同居しているからそういう雰囲気というよりは家族に近いというのもありますが、この時点では茜も桜哉も「人とアンドロイドが恋愛するものではない」という意識をふんわりと抱えています。はっきりとそう意識しているわけではないというのがミソで、物語中の出来事に影響されて意識させられるようになる、そしてお互いへの認識が変化していくというのが上手いんです。


SFなどの世界観が現代でない物語で登場人物たちが抱く感情は、当然その世界での常識や世情が反映されたものになります。本作においてはこの部分もきちんとプレイヤーに伝わるようになっています。例えば3章、カラーズランドへ桜哉・榛と3人で遊びに行くときです。入場時にアンドロイドへいちゃもんをつける人間の存在、あるいは人間対アンドロイドでの事故発生時の扱い。こういった状況が自然に挟み込まれることで作品世界への理解が深まり、プレイヤーの意識はより主人公に近い形へと向かっていきます。

sakuya2

アンドロイドに対する愛好派と反対派の抗争が存在するという現実は、茜に嫌でも桜哉がアンドロイドであることを意識させ、物語終盤に至るまで何度も考えていくことになります。人工的に作り出されたことに間違いはない桜哉。しかし一般的なアンドロイドとは一線を画すほど人間らしく、事実茜と榛以外の人にその正体がバレたことはありません。そんな桜哉ともう何年も一緒に暮らしている茜にとっては、ただのアンドロイドとは到底思えないのです。

そしてこの問題をさらに複雑にしているのは春樹という人物の存在でした。茜と榛の幼馴染としてかつて親しくしていた春樹でしたが、幼くして亡くなってしまいます。彼の母親の強い希望で、医学と工学に通じていた茜の父が生み出した存在が桜哉なのでした。
幼いながらも春樹に恋心を抱いていたかつての茜。オリジナルの肉体は死んでしまったけれども意識を引き継いだ存在として現に生きている桜哉。その複雑な状況の前で榛は茜に「桜哉の中に春樹を見ているのか」という問いを投げかけます。茜は今生きている桜哉が好きなんだと即答することができないのでした。


物語が進むと桜哉はアルバイトを始め、徐々に茜・榛以外との関係を築いていくようになります。
事情を知らない人から見れば人間にしか見えない桜哉はそのルックスの良さからたちまち人気を集めていきます。そんな桜哉をみて茜は焦り、そして気付いていくわけです。「あれ、私嫉妬しているのかな。桜哉のことを異性として好きなんだろうか?」と。


そんな嫉妬やすれ違いを乗り越えて迎えた7章。本作の18禁たる所以のシーンがあります。
この描写が本当にえっちなのに上品で上品で…。桜哉が茜をいたわってくれているのが本当に良く分かります。
なんせ前回プレイした18禁が「スレガル」ですからね(方向性が違いすぎて比較できない)。
こんなに愛にあふれて見ているこっちまで幸せになるようなえっちシーンあるんだ~、思っていたのより3倍エロかったなぁ~


などと思いながらメインルートを完走。過去回想も大変気持ちよく感動的な仕掛けになっています。エンディングムービーで桜哉と博士(桜哉を生み出した張本人)の対話が見られる演出も非常に効果的。
「君は人を愛することを知ってしまったから
愛されることを、望みたくもなるだろう」
作中で常に問いかけられていた、人とアンドロイドが愛し合えるかという問題に、こんなに幸せな回答を示してくれました。
たっぷりと幸福な気分に浸りながらおまけシナリオなどを読んでいきます。

sakuya3

ちなみに最後の選択肢によって結末はEND1とEND2に分岐します。桜哉をより深く理解していた方がよい結末を迎えられる、とても納得感のある分岐です。ぜひ両方読んで、桜哉が何を思っていたのか、自分についてどう考えていたのかを感じ取ってください。


一応本作をプレイして気になる点を書いておくと、アンドロイドが普及している点以外で舞台の未来っぽさが感じにくかったことでしょうか。アンドロイドの普及とそれに伴う社会の変化や世論についてはしっかりと触れられますが、現代から数世紀後の話という割に榛は車を手動で運転していますし、本屋の様子も現代と変わらないように思えます。



…といろいろ書いてきましたが、この時の私は本作の本当の顔に全く気付いていなかったのです!



フローチャートを見れば、本作には6章以降、another routeが存在していることが分かります。それも結構な分量です。メインルートを読んで、榛だけ報われてないな~と思っていた私は、彼が何らかの形で望みを叶える展開はないだろうかという希望を持ちながらこのアナザールートに突入していくことになります。結果的に私の期待は良い方向に裏切られました。



アナザールートに入った私はEND3~5をまず回収。どれも過度にドラマチックでない自然な展開で、プレイしていてスッと受け入れることができました。自分だったらEND4あたりで平穏な結末を迎えている気がするなあと思ったりもしました。この、「言葉には出さないけど確かに存在している信頼感、むしろ明言すると儚く消えてしまいそうなこの関係性」が素晴らしい。私のツボです。


さて、最も入るのが難しかったのはEND6のルートです。このルートでは、榛が思い切ってプロポーズしてきたのを受けることになります。メインルートとは違い榛と繰り広げられる18禁シーン。このころの私はまだ、(ああ、販売サイトにあったサンプルスチルまだ見てないもんな、こっちのルートにあったんだなあ)、などと考える余裕がありました。しかしその後私は衝撃のあまり満足に声も出せなくなってしまいます。

榛との行為中に家に帰ってきてしまった桜哉。3人の間に気まずい空気が流れます。とりあえず榛には帰ってもらいますが、表情を失った桜哉が怖い。衣服もはだけたままの茜。私はこの状態でも辛いなと思っていたんですが、何と桜哉はそのまま茜との行為に及んでしまいます。私は意味をなさない声を上げて驚きます。(なんで?そんな展開あり??桜哉どうしちゃったの???)

しかもこのシーンが長いこと長いこと。体感でメインルートの倍くらいあった気がします。
私はこの衝撃を受け止めきれないまま物語は最終章へ。そこで桜哉から投げかけられるある願い。茜は冗談と笑って返したあの台詞。その意味するところを理解した私は絶句し、涙し、震えることになりました。
正直、私は本作が18禁であることの意味を甘く見ていました。しかし本作で描かれる桜哉の胸中、アンドロイドであるが故の葛藤はそんな生ぬるいものではありませんでした。18禁シーンを通すことでしか表現できないこの切ない結末を私は全く予想していなかったのです。

以後、核心に関わるネタバレがあります。OKな方のみクリックして閲覧してください。

クリックで展開(ネタバレあり) 桜哉はあの瞬間、この世界に絶望してしまったのです。
茜が自分以外の男性と行為をしていたからではありません。茜と榛、人間と人間が行為をすることによって生まれる快感であったり、新たな命であったり。桜哉は茜と行為をしてみて、自分にはその快感を得ることは不可能であり、茜を生物の本能の部分から満足させる能力が存在しないことに気付いて絶望したのです。

私は”人間とアンドロイドが愛し合えるか”が本作のテーマになっていると述べました。他のENDでも十分に表現されていると感じましたが、ここまで深い意味で、ショッキングな結末をもって描かれるものだとは想像もしていませんでした。本当にこのテーマが作品全体で一貫していて大変印象的です。
まさに、18禁だからこそ描けるテーマ性。私がフリーゲームの森というタイトルを掲げながらブログで有償である本作を扱った理由はそこにあります。桜哉との時と榛との時で茜の様子の差異も丁寧に描かれている。先ほど思っていたより3倍エロかったなぁ~とかいう何も考えていない感想を書きましたが、そのシーンは単にえっちなだけでなく、このテーマを語るのに必要不可欠だったわけです。ここが本当に感動するポイントで、私はこういう作品が大好きです。
単純にエロシーンがあるだけの作品もそれはそれでありですが、そのシーンが今後の展開や作品のテーマに必然性を持って絡んでくると作品の奥深さが段違い。名作と評するのに十分な理由です。



1つだけ惜しいと思ったのは「第一原則」などの用語です。作品を通して幾度となく出てくるこの言葉は、ロボット工学三原則の第一条を意味していると思います。「Campus Notes vol.2」などでも登場しましたね。榛に自分を壊してほしいと依頼した桜哉は、自分ではできなかったと語ります。生への執着と作中では説明されますが、散々ロボット工学三原則を引用してきたなら、ここは第三原則に違反するからとしておいたほうがきれいだったのではないでしょうか。


しかしそんなのは些細な問題です。桜哉の悲痛な叫びが聞ける車内でのあのシーンへの入り方が完璧。味わうようにゆっくりプレイしていると、直前で始まったエンディングテーマの歌詞が入るタイミングで桜哉の独白が始まります。

sakuya4
この「よかったね」にどんな感情が込められていたのかがこれ以上ないくらい雄弁に語られるこのスチルと表情。
「やっぱり、羨ましかったのかもしれない」
「茜のことを、人間の女性の本能の部分まで満たしてあげられる、能力が」

「アンドロイドとしての俺を、愛してもらいたいんだ」

何という重い言葉でしょうか。
初見でプレイしていた時は全くそんな余裕もなく流していたエンディングテーマの歌詞ですが、聞き込んでみると桜哉の心情をそのまま表現していて心を打ちます。
それでもまだ 近づきたい
強まっていく気持ちは
君のものと同じはずなのに
別の、違う色に見え

そして戻ってきたタイトル画面でまた泣かされます。美しすぎる。こんな幸せな未来が…あったのだろうか。

この結末が分かったうえで再度END6のルートをたどってみると、確かにお互いの理解がすれ違っていくような選択を重ねていった結果であることが納得できるんです。後から選択肢と分岐の正当性がこんなに感じられる作品も珍しいと思いました。


ちなみに本作のサウンドトラックは公式サイトから購入者限定で無料でダウンロードできます。
しかもボーカル曲についてはカラオケ版とイラスト付き歌詞カードもついてくるという豪華さ。見逃さないでくださいね。

また、同じところから、本作の5年前を舞台にした「Sweet Present for Shin」もダウンロードできます。
榛に予想外の人気が集まったことから作られたおまけ過去話であるということです。本作を気に入った方はこちらもぜひ!

私はプレイしながら、「バレンタインテロリズム」の及川颯太を笑えないレベルで榛のフラグを折りまくっている茜に笑ってしまいました。榛も恥ずかしくなって赤くなったりしちゃうんだなあ。


以前レビューした同サークルの「私のリアルは充実しすぎている」についてはフリーゲームですので、何と無料でボーカル曲のダウンロードができます。こちらもカラオケ版と歌詞カードつき。
「firstcomplex」も購入者限定でサウンドトラックがダウンロードできます。


本当に素晴らしい作品でしたので、ぜひ多くの方にプレイしていただきたいなと思います。まずはフリー版だけでも物語として十分まとまっていますので気軽に手に取ってみてください。
そして気に入った方は、フリー版では決して描けない、18禁だからこその感情の動きとテーマ性を製品版で味わってください。私がなぜここまで熱烈に語ったのか、その理由を分かっていただけると思います。

↑このページのトップヘ