フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
初めての方は、ぜひごあいさつをご覧ください。評価の基準については、レビューについてに記してあります。
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SF

こんにちは。今回はまんまるくまさんの「PROTOCOL」をご紹介します。

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オススメ!
ジャンル:長編本格SF脱出アドベンチャー
プレイ時間:6時間
分岐:なし
ツール:Flash
リリース:2017/5



今回ご紹介する作品は、個人製作とは思えないほど作りこまれた大作で、その良さをどこから語っていったらいいか迷ってしまうほどです。
まずはあらすじの説明をしましょう。主人公はある宇宙船の中で目を覚まします。周囲に人の気配はなく、何らかの事故に遭ったと思しき状況ですが、記憶を失っている主人公には避難方法が分かりません。なんとか小型のポッドを調べて人工知能チップを見つけた主人公は、AI"レア"と協力して生還への道を求めて探索を続けていきます。次第に明らかになっていく船内の状況と過去の事故。果たして生還は叶うのか……



上のスクリーンショットを見てもらっても分かると思いますが、本作のグラフィックはかなりハイレベルです。宇宙空間を漂う宇宙船だったり、目の前に浮かび上がるスクリーンだったり、episode 2の終わりで登場するアンドロイドだったりとあらゆる面でその技術が発揮され、作品世界に入り込みやすいのです。
他にもいくつかゲーム画面を見ていただきましょう。
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さらにはスクリーンショットでは伝わらないようなアニメーションも凝っており、登場する人工知能であるレアなどにはボイスまでついています。プロモーションムービーも魅力的なので貼り付けておきましょう。


このような美しいグラフィックで全編描かれたフリーゲームというだけで驚異的ですが、脱出のためのギミックやストーリーといった面でも高水準な作品です。
脱出ゲームの定番のギミックと言えば、なぜか散らばったキーアイテムを収集したり、暗号として残されたヒントを解読したりといった内容になると思いますが、本作では事故のあった宇宙船から避難するというストーリーになっているため状況に不自然さが感じられません。プレイヤーが主人公になり切って脱出を目指すための強いモチベーションになります。やや発想が難しいギミックもありますが、人工知能と協力するということができるので、ヒントをもらいつつ世界観に浸りやすくなっています。


ストーリーの面においても良くできていて、人間である主人公と人工知能であるレアが協力して脱出・生還を目指す展開は気持ちが良いです。人工知能であることを活かしてデバイスを移行したり、かなり人間に近いアンドロイドであることを活かして主人公との信頼関係などといった内容を描いたりもできるのが素晴らしいところで、ゲーム的なギミックとの組み合わせも生かされていて大変に魅力的な内容になっていると思います。


本作の脱出ゲームとしての難易度ですが、総合的に見るとかなり高く、ボリュームもあるのでやりごたえ満点といったところでしょう。episode 1から5までの5章構成となっていて、1では宇宙船への入船、2では食糧確保のための居住区への移動など各章で目的が決まっています。そしてそれぞれの章で難易度が結構異なります。episode 4がおそらく最難関で、事故のあった宇宙船の細くて入り組んだ通路の中をマッピングしながら探索し、適切な場所でアイテムを使ったり謎解きをしたり、SF要素を活かして時間を飛び越えたりしなくてはなりません。
しかしマップ上で意味のある地点は色付きになるなど、難しいだけでなくプレイヤーに親切であるのも確かです。


難易度を高くしているのは、本作の独特のシステムであるコマンド選択方式もあると思います。
通常の脱出ゲームの場合、対象のアイテムを観察したり文字を読んだり、持ち上げてみたりアイテムを取得してみたり使用してみたりといった行動は全てクリックで行うと思います(稀にドラッグというパターンもありますね)。しかし本作の場合は対象をクリックする前に使用するコマンドを選択しておかなくてはなりません。調べる、動かす、開ける、取るなど、事前に適切なアクションを選択しておく必要があるため、とにかく画面をクリックしてみるといった方法での進行が難しいのです。
さらにクリックポイントもややシビアなので、あきらめずにいろいろ試行錯誤してみる必要があります。

とこのように高難度である本作ですが、攻略中に詰まった場合ゲーム内の"システム"にある"思考モード"を使うとヒントがもらえます。調べればよい箇所などを教えてもらえるので詰まったらどんどん使っていきましょう。
それでも分からなければ、フリーゲーム夢現の公開サイト内で攻略関連のコメント一覧を見るといろいろな情報が見られます。どうしてもわからないところを質問してみるのもアリでしょう。



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逆にepisode 3は探索要素が少なくて一番簡単な章です。小さなチップだったAIのレアがアンドロイドの体を得て、突然ラブコメが始まったのかというくらいほのぼのとした雰囲気になります。
しかし単なる息抜きだけでなく、ストーリー上重要なポイントが詰め込まれています。前述したコマンド選択制であることを活かしたギミックもあって、感動ポイントの1つとなっています。



本作で唯一欠点に感じられるのは動作の重さでしょうか。これだけ独自のシステムや綺麗なアニメーションなどが搭載されていたら仕方ないかもしれませんが、スペックが低いPCだと辛いかもしれません。
あとは一部のギミックに前提知識が必要であるように感じましたが、作内のヒントを使えば乗り越えられるでしょう。


エンディングを迎えた後で作内の世界観などの解説が聞けるモードがあるなど、SFの世界観を見事に表現している本作、大変お勧めですのでぜひプレイしてみてください。
ちなみに本作の制作にはFlashが使われていますが、ブラウザを介さずに起動できるので現在でもプレイに支障はありません。

それでは。

こんにちは。今回は初めてシェア版を前提にした作品紹介をしたいと思います。
TetraScopeさんの「桜哉」です。

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オススメ!
ジャンル:SF乙女ゲーム
プレイ時間:フルコンプまで5~6時間
分岐:計6エンド
ツール:NScripter
リリース:2013/1
備考:18禁。有償作品(フリー版もあり、15禁)



TetraScopeさんと言えば全年齢対象のフリーゲーム「私のリアルは充実しすぎている」を以前このブログでも扱いました。シナリオもイラストも、音楽についてもハイクオリティで素晴らしい作品でした。その時に、ああこのサークルさんは18禁シェアゲーも出してるんだなと思っていたのですが、今回ついに購入してプレイしてみました。期待度は高かったのですが、実際にプレイしたところそれを優に上回る衝撃を受けたので今回初めて有償作品の紹介をしようと思い立ちました。

特に物語の余韻の強さ、そしてテーマ性という部分で私がこれまでプレイしてきた作品たちの中で5本の指には入ると感じました。気になる方は下の私の文章なんて読まなくていいのですぐに上のリンクから作品ページに飛んでダウンロードしてください。


物語の舞台は現代から数百年後、人型のロボット(アンドロイド)の開発が進み、接客業の多くを代替するなど広く普及しています。主人公の九条茜(名前変更可)は亡き父が開発したアンドロイド、桜哉と2人で生活しています。しかし桜哉は定型的なやり取りしかできず感情も持たない一般的なアンドロイドとは一線を画す存在で、外見や触った感触、会話内容でもアンドロイドとは分からないほどよくできており、人間らしい感情も持ち合わせています。
高校卒業以来数年ぶりに会った幼馴染の上村榛(うえむら・しん)には、ぜひ桜哉の研究がしたいから会社で買い取らせてくれと請われるが、もはや家族同然の存在と感じられる桜哉を物のように売り払ってしまうような話は当然拒否。榛にも、もはや桜哉はアンドロイドを超えた家族、友人として見てくれないかと交渉するが榛の態度も強硬。榛には「桜哉が好きなのか?」と問いかけられる。
幼いころから余りにも当たり前に隣にいた桜哉。彼のことを自分自身でどう思っているのか深く考えるのは避けてきたが、この問題に決着をつけなければならない時が近づいています。桜哉は人間なのか、アンドロイドに過ぎないのか。そして人とアンドロイドは愛し合うことができるのか?。


本作のおよその内容は上の通りです。それでは本作のどこが素晴らしかったのか説明していきましょう。

まずは上にも貼ったタイトル画面の段階でSFの世界観がすごい。CONFIGやEXTRA内のフローチャートなどもスタイリッシュですね。BGMも透明感があって、広大なサイバー空間に解き放たれたような気がします。UIや背景、音楽などの要素で未来感のあふれる世界観を作り出せるのはさすがです。


作品の中身、シナリオに移りましょう。
先述した通り、本作は”人とアンドロイドが愛し合うこと”がテーマとなっています。この重厚なテーマがありながら乙女ゲームとしてのエンターテインメント性はしっかり確保されています。
まずは攻略対象となる桜哉。イケメンかつ可愛らしい。そして茜のことが好きなのが見ていてすごく伝わってきます。本作は物語開始時点で主人公の茜と攻略対象の桜哉は同居しているので、積み上げられた信頼感のようなものが既に存在しているのです。

しかし物語前半におけるこの感情は恋人同士という感じではありません。長く同居しているからそういう雰囲気というよりは家族に近いというのもありますが、この時点では茜も桜哉も「人とアンドロイドが恋愛するものではない」という意識をふんわりと抱えています。はっきりとそう意識しているわけではないというのがミソで、物語中の出来事に影響されて意識させられるようになる、そしてお互いへの認識が変化していくというのが上手いんです。


SFなどの世界観が現代でない物語で登場人物たちが抱く感情は、当然その世界での常識や世情が反映されたものになります。本作においてはこの部分もきちんとプレイヤーに伝わるようになっています。例えば3章、カラーズランドへ桜哉・榛と3人で遊びに行くときです。入場時にアンドロイドへいちゃもんをつける人間の存在、あるいは人間対アンドロイドでの事故発生時の扱い。こういった状況が自然に挟み込まれることで作品世界への理解が深まり、プレイヤーの意識はより主人公に近い形へと向かっていきます。

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アンドロイドに対する愛好派と反対派の抗争が存在するという現実は、茜に嫌でも桜哉がアンドロイドであることを意識させ、物語終盤に至るまで何度も考えていくことになります。人工的に作り出されたことに間違いはない桜哉。しかし一般的なアンドロイドとは一線を画すほど人間らしく、事実茜と榛以外の人にその正体がバレたことはありません。そんな桜哉ともう何年も一緒に暮らしている茜にとっては、ただのアンドロイドとは到底思えないのです。

そしてこの問題をさらに複雑にしているのは春樹という人物の存在でした。茜と榛の幼馴染としてかつて親しくしていた春樹でしたが、幼くして亡くなってしまいます。彼の母親の強い希望で、医学と工学に通じていた茜の父が生み出した存在が桜哉なのでした。
幼いながらも春樹に恋心を抱いていたかつての茜。オリジナルの肉体は死んでしまったけれども意識を引き継いだ存在として現に生きている桜哉。その複雑な状況の前で榛は茜に「桜哉の中に春樹を見ているのか」という問いを投げかけます。茜は今生きている桜哉が好きなんだと即答することができないのでした。


物語が進むと桜哉はアルバイトを始め、徐々に茜・榛以外との関係を築いていくようになります。
事情を知らない人から見れば人間にしか見えない桜哉はそのルックスの良さからたちまち人気を集めていきます。そんな桜哉をみて茜は焦り、そして気付いていくわけです。「あれ、私嫉妬しているのかな。桜哉のことを異性として好きなんだろうか?」と。


そんな嫉妬やすれ違いを乗り越えて迎えた7章。本作の18禁たる所以のシーンがあります。
この描写が本当にえっちなのに上品で上品で…。桜哉が茜をいたわってくれているのが本当に良く分かります。
なんせ前回プレイした18禁が「スレガル」ですからね(方向性が違いすぎて比較できない)。
こんなに愛にあふれて見ているこっちまで幸せになるようなえっちシーンあるんだ~、思っていたのより3倍エロかったなぁ~


などと思いながらメインルートを完走。過去回想も大変気持ちよく感動的な仕掛けになっています。エンディングムービーで桜哉と博士(桜哉を生み出した張本人)の対話が見られる演出も非常に効果的。
「君は人を愛することを知ってしまったから
愛されることを、望みたくもなるだろう」
作中で常に問いかけられていた、人とアンドロイドが愛し合えるかという問題に、こんなに幸せな回答を示してくれました。
たっぷりと幸福な気分に浸りながらおまけシナリオなどを読んでいきます。

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ちなみに最後の選択肢によって結末はEND1とEND2に分岐します。桜哉をより深く理解していた方がよい結末を迎えられる、とても納得感のある分岐です。ぜひ両方読んで、桜哉が何を思っていたのか、自分についてどう考えていたのかを感じ取ってください。


一応本作をプレイして気になる点を書いておくと、アンドロイドが普及している点以外で舞台の未来っぽさが感じにくかったことでしょうか。アンドロイドの普及とそれに伴う社会の変化や世論についてはしっかりと触れられますが、現代から数世紀後の話という割に榛は車を手動で運転していますし、本屋の様子も現代と変わらないように思えます。



…といろいろ書いてきましたが、この時の私は本作の本当の顔に全く気付いていなかったのです!



フローチャートを見れば、本作には6章以降、another routeが存在していることが分かります。それも結構な分量です。メインルートを読んで、榛だけ報われてないな~と思っていた私は、彼が何らかの形で望みを叶える展開はないだろうかという希望を持ちながらこのアナザールートに突入していくことになります。結果的に私の期待は良い方向に裏切られました。



アナザールートに入った私はEND3~5をまず回収。どれも過度にドラマチックでない自然な展開で、プレイしていてスッと受け入れることができました。自分だったらEND4あたりで平穏な結末を迎えている気がするなあと思ったりもしました。この、「言葉には出さないけど確かに存在している信頼感、むしろ明言すると儚く消えてしまいそうなこの関係性」が素晴らしい。私のツボです。


さて、最も入るのが難しかったのはEND6のルートです。このルートでは、榛が思い切ってプロポーズしてきたのを受けることになります。メインルートとは違い榛と繰り広げられる18禁シーン。このころの私はまだ、(ああ、販売サイトにあったサンプルスチルまだ見てないもんな、こっちのルートにあったんだなあ)、などと考える余裕がありました。しかしその後私は衝撃のあまり満足に声も出せなくなってしまいます。

榛との行為中に家に帰ってきてしまった桜哉。3人の間に気まずい空気が流れます。とりあえず榛には帰ってもらいますが、表情を失った桜哉が怖い。衣服もはだけたままの茜。私はこの状態でも辛いなと思っていたんですが、何と桜哉はそのまま茜との行為に及んでしまいます。私は意味をなさない声を上げて驚きます。(なんで?そんな展開あり??桜哉どうしちゃったの???)

しかもこのシーンが長いこと長いこと。体感でメインルートの倍くらいあった気がします。
私はこの衝撃を受け止めきれないまま物語は最終章へ。そこで桜哉から投げかけられるある願い。茜は冗談と笑って返したあの台詞。その意味するところを理解した私は絶句し、涙し、震えることになりました。
正直、私は本作が18禁であることの意味を甘く見ていました。しかし本作で描かれる桜哉の胸中、アンドロイドであるが故の葛藤はそんな生ぬるいものではありませんでした。18禁シーンを通すことでしか表現できないこの切ない結末を私は全く予想していなかったのです。

以後、核心に関わるネタバレがあります。OKな方のみクリックして閲覧してください。

クリックで展開(ネタバレあり) 桜哉はあの瞬間、この世界に絶望してしまったのです。
茜が自分以外の男性と行為をしていたからではありません。茜と榛、人間と人間が行為をすることによって生まれる快感であったり、新たな命であったり。桜哉は茜と行為をしてみて、自分にはその快感を得ることは不可能であり、茜を生物の本能の部分から満足させる能力が存在しないことに気付いて絶望したのです。

私は”人間とアンドロイドが愛し合えるか”が本作のテーマになっていると述べました。他のENDでも十分に表現されていると感じましたが、ここまで深い意味で、ショッキングな結末をもって描かれるものだとは想像もしていませんでした。本当にこのテーマが作品全体で一貫していて大変印象的です。
まさに、18禁だからこそ描けるテーマ性。私がフリーゲームの森というタイトルを掲げながらブログで有償である本作を扱った理由はそこにあります。桜哉との時と榛との時で茜の様子の差異も丁寧に描かれている。先ほど思っていたより3倍エロかったなぁ~とかいう何も考えていない感想を書きましたが、そのシーンは単にえっちなだけでなく、このテーマを語るのに必要不可欠だったわけです。ここが本当に感動するポイントで、私はこういう作品が大好きです。
単純にエロシーンがあるだけの作品もそれはそれでありですが、そのシーンが今後の展開や作品のテーマに必然性を持って絡んでくると作品の奥深さが段違い。名作と評するのに十分な理由です。



1つだけ惜しいと思ったのは「第一原則」などの用語です。作品を通して幾度となく出てくるこの言葉は、ロボット工学三原則の第一条を意味していると思います。「Campus Notes vol.2」などでも登場しましたね。榛に自分を壊してほしいと依頼した桜哉は、自分ではできなかったと語ります。生への執着と作中では説明されますが、散々ロボット工学三原則を引用してきたなら、ここは第三原則に違反するからとしておいたほうがきれいだったのではないでしょうか。


しかしそんなのは些細な問題です。桜哉の悲痛な叫びが聞ける車内でのあのシーンへの入り方が完璧。味わうようにゆっくりプレイしていると、直前で始まったエンディングテーマの歌詞が入るタイミングで桜哉の独白が始まります。

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この「よかったね」にどんな感情が込められていたのかがこれ以上ないくらい雄弁に語られるこのスチルと表情。
「やっぱり、羨ましかったのかもしれない」
「茜のことを、人間の女性の本能の部分まで満たしてあげられる、能力が」

「アンドロイドとしての俺を、愛してもらいたいんだ」

何という重い言葉でしょうか。
初見でプレイしていた時は全くそんな余裕もなく流していたエンディングテーマの歌詞ですが、聞き込んでみると桜哉の心情をそのまま表現していて心を打ちます。
それでもまだ 近づきたい
強まっていく気持ちは
君のものと同じはずなのに
別の、違う色に見え

そして戻ってきたタイトル画面でまた泣かされます。美しすぎる。こんな幸せな未来が…あったのだろうか。

この結末が分かったうえで再度END6のルートをたどってみると、確かにお互いの理解がすれ違っていくような選択を重ねていった結果であることが納得できるんです。後から選択肢と分岐の正当性がこんなに感じられる作品も珍しいと思いました。


ちなみに本作のサウンドトラックは公式サイトから購入者限定で無料でダウンロードできます。
しかもボーカル曲についてはカラオケ版とイラスト付き歌詞カードもついてくるという豪華さ。見逃さないでくださいね。

また、同じところから、本作の5年前を舞台にした「Sweet Present for Shin」もダウンロードできます。
榛に予想外の人気が集まったことから作られたおまけ過去話であるということです。本作を気に入った方はこちらもぜひ!

私はプレイしながら、「バレンタインテロリズム」の及川颯太を笑えないレベルで榛のフラグを折りまくっている茜に笑ってしまいました。榛も恥ずかしくなって赤くなったりしちゃうんだなあ。


以前レビューした同サークルの「私のリアルは充実しすぎている」についてはフリーゲームですので、何と無料でボーカル曲のダウンロードができます。こちらもカラオケ版と歌詞カードつき。
firstcomplex」も購入者限定でサウンドトラックがダウンロードできます。


本当に素晴らしい作品でしたので、ぜひ多くの方にプレイしていただきたいなと思います。まずはフリー版だけでも物語として十分まとまっていますので気軽に手に取ってみてください。
そして気に入った方は、フリー版では決して描けない、18禁だからこその感情の動きとテーマ性を製品版で味わってください。私がなぜここまで熱烈に語ったのか、その理由を分かっていただけると思います。

こんにちは。今回のレビューはハルノサクラさんの「空の果てからこんにちは」となります。

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ジャンル:ファンタジー風ギャルゲー
プレイ時間:1時間半
分岐:3つ+真ルート(後述)
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2020/8


現在はティラノゲームフェス2022の真っ最中ですが、本作は2020年のフェス参加作ですね。ではいつものようにあらすじ紹介から行きましょう。

主人公のアオモリヒロサキはリンゴ農家の一人息子。特にこれといった目標もなく、将来はこのリンゴ畑をなんとなく継ぐのかな~と思っています。田舎にいるため近所で歳が近いのはキノコ採りを家業にしている家の娘リコのみ。そんな中突然この町に現れた女の子メイラはなんと重力が反対向きにはたらく逆さ人間だった!
天井に立つメイラに困惑しながらも徐々に距離を縮めていくヒロサキ。それに対してリコはちょっぴり複雑な思いを抱くのだった…。

とまあこんな感じでしょう。男主人公に対してヒロイン2人の典型的ラブコメとなっています。



本作に関しては事前情報ほぼなしでプレイしたのですが、メイラの初登場シーンはなかなか衝撃的でした。
それまでの感じから、「ああ、ヒロインが主人公にベタベタな感じで主人公は小馬鹿にしたような態度をとるよくあるラブコメかなあ」と思っていたら、突如逆さま人間が登場するわけですから驚きます。というか最初は???状態でした。なんかこの背景おかしくない?と。しかしメイラが逆向きに立っているビジュアルが明らかになって、なるほどなとなりました。しかもこのシーンの背景はセーブ画面の背景に使われてますね。最初に見たときわけが分からなかったのですが、ようやく合点しました。

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その後はしばらくほのぼの系ラブコメが続きます。「あなたのお嫁さんだよ☆」などと妄言(?)を吐くリコと冷たい系のヒロサキ、それに泣き虫天然系のメイラとラブコメのキャラクターとして王道かつバランスの良い設定でしょう。
そしてふだんあんなことを恥ずかしげもなく言っているリコが、ヒロサキがちょっと乗ってきただけで恥ずかしくて赤くなっちゃうのが良いですね。いつもみたいにかわされると思ったのにそういう雰囲気になったら途端に恥ずかしくなっちゃうんですよね。


…ところでヒロサキ君、君は登場する作品を間違えたんじゃないかい?
絶対にエロゲに出たかったのに間違えて全年齢の本作に出ちゃったでしょ!!
ヒロインの告白(?)を華麗にかわしておいてあんなセクハラ言動が許されるのはエロゲだけですよ!!
もっと健全な作品の主人公らしく過ごしなさいよ!


と、ヒロサキへのお説教が済んだところで物語を読み進めていきましょう。中盤くらいまで読んだところで、ラブコメなのはいいとして私の頭にはこの作品の世界観について疑問がわいてきました。
主人公の名前(漢字で書けば、青森・弘前ですよね)からすると物語の舞台は現代日本だろうな~と思っていました。しかしそれにしては背景画像が微妙だし、会話や町の様子も現代っぽさがないなあという違和感を抱えていたところ、メイラを連れて外出したシーンで事件が起こります。なるほど本作はファンタジーだったんですね。

このあたりの、作品の舞台になっている世界の説明はもう少し早い段階でしてくれた方が良いんじゃないかと思いました。人さらいの登場とか、端岬とかのあたりはどうも唐突すぎる印象を受けました。


さて、本作はプレイヤーの選択によりリコルートとメイラルートに分岐します。分岐の仕方は分かりやすいので初見で狙った方に行けるでしょう。私はリコルートから読みました(というかあのシーンでメイラ選択したらヒロサキに人間の心なくない?)。
こちらはサブルートであることがリコ本人の口から語られていますので(!)さらっと読み進めましょう。先ほどの事件はリコルートでのものですが、それが解決した後は物語は何事もなく平和なまま終わりを迎えてしまいます…と思いきや最後に衝撃の事実が。え??? これはメイラルートも読めば意味が分かるやつですか? というわけで張り切ってメイラルートに向かいましょう。

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こちらのルートにはさらに2つの分岐があります。片方は平和なまま、もう片方は別れを伴う形でこれも終了。え? どういうこと、ヒロサキの選択の理由も説得力あるわけじゃないし終わり方も中途半端だし良く分からんな~
実際、本作がこれで終わりだったら私はレビューで取り上げなかったでしょう。
これらのルートをすべて読み終えると、タイトル画面に変化が現れます。この世界をメイラの目から見たように逆さま。これはコンプリート後の演出なのか? としばし迷いましたが、いやこのままだと微妙すぎる、新しい分岐が出現してたりするかも、という期待の元再度STARTボタンをクリックする私。
あれ、冒頭部分こんな感じだったっけ? と思いながら読み進めると、期待通りこれまでと違うルートに入ったようでした。


この真ルートについては詳細は述べませんが、メイラ視点の話が読めて面白かったです。やっぱりヒロイン視点って見たいじゃないですか。本編であんな別れ方をしちゃったメイラがどう思っているのか。逆さまの世界では何が起こっているのかについてもちょっと理屈っぽいですが解説してくれます。ファンタジーというかSFでした。
そしてそれを受けてのラストシーンの収まりがよい。まあ教師の”仮説”については若干力業というか、アナロジー成立してないのではと思わないこともないですが、基本ラブコメ寄りの本作では気にせず流してしまえる範囲でしょう。


その他気になった点としては、投げっぱなしな伏線が目立つことが挙げられます。この世界の秘密について父がヒロサキに隠していた理由、リコルートで明らかになる彼女の秘密(特にこのままではメイラ登場シーンの反応も不自然では?)などが結局解決していないように見えます。2時間以内の尺としてはちょっと設定を盛りすぎかなという印象はぬぐえません。

あとは、無音の時間が長めでやや寂しかったかなという気はします。演出としての無音と理解できる部分以外でしばらく待ってもBGMもないと、なんかバグったかなと不安になってしまいました。映像面(ビジュアル面)についてはよく考えられているなと感じたのでやや惜しい。


ちなみに割とどうでもいいことですが、本作はreadme.txtでだいぶふざけていて面白かったです。
こんな自由な感じのreadme読んだのはいつ以来だったかな~
プレイしたけど見てないって方はぜひ見てください。


今回のレビューはここまでとなります。若干難点の指摘が長くなりましたが、ラストシーンの気持ちよさが魅力的ですのでぜひメイラちゃんを迎えに行ってあげてください。

それでは。

こんにちは。今回はChloroさんの「西暦2236年の秘書」のレビューをお届けします。

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ジャンル:可愛いAIとの交流を描くややコメディ風SF
プレイ時間:45分
分岐:なし
ツール:Unity
リリース:2017/4


本作の舞台となるのはタイトルから分かる通り、23世紀。つまりSFです。
この世界ではスマートツールスと呼ばれる、形を自由に変形して用途ごとにカスタマイズできる携帯情報端末が広く普及しています。そして人工知能搭載の個人向け秘書システム"PASS"も5年前に開発され、現在ではほとんどの人が持つようになっています。本作はそんな未来感のあふれる世界における主人公ヨツバとそのPASSマスコの交流を描いた作品となっています。


私がまずそんな未来感の演出について注目したのは本作のグラフィックやUI部分です。
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マスコのシンボルカラーである緑を基調として統一感のある配色。画面右端で表示/非表示を選択できるセーブ/ロード等の操作パネル。スタイリッシュでSF感にあふれてますよね。私はどちらかというと文字を排してシンプルなアイコンのみに絞ったUIよりも、比較的文字が多めで文字を読めば機能が分かるデザインの方が好みなのですが、本作に関してはシナリオのストーリーと繋がっていて良いなんじゃないかなと思いました。この辺までこだわっている作品って、やっぱり力作が多いですね。Ren'Pyの作品に似た操作感になっている気がしましたが、使用ツールはUnityのようです。


本作の物語の始まりは2236年の元日。マスコがもらってきた3000コイン分のカードを見たら、なんと実は3億コイン分だった! という衝撃のシーンです。訳が分からず、とりあえずちょっとだけ使ってみようとうまい棒(電子版)を買ってみるヨツバとマスコ。(電子版うまい棒って何?) しかしきちんと使えているようで表示だけバグっているわけではなさそう。

そこからはしばらくコメディ調で進んでいきます。夢か~と現実逃避してお正月遊びをして寝たり、マスコにバニーガールの衣装を着せて遊んだり。お着換えシーンのアレは個人的にはツボでした。SFだからこその表現ですね。


そんなこんなで楽しい正月が描かれた後、物語はヨツバとマスコが出会った頃にさかのぼります。
2人が出会ったのはおよそ5年前。PASSが開発された時期までさかのぼります。マスコは世界で最初に一般用として販売されたPASS8台のうちの1つだったのです。抽選でマスコの使用権を得たヨツバは緊張しながらデータをダウンロードし、マスコを起動させます。この起動時のデザインと音声が(笑)アレンジうまいな~。
2231年の話なら多分前世の記憶どころか前前前世くらいまで行かないと分からなそう。

マスコにはテレパシーが通じないことに気付き、見た目は人間だけど中身はプログラムに過ぎないんだなと実感するヨツバ。この辺はAIものSFでは避けて通れない話題ですね。これに関しては本作の終盤でも大きな意味を持ってくることになります。
ところでテレパシーについて説明していませんでした。23世紀では人々は音声として表現することなく、HT理論という媒体に乗せて意思疎通ができるようになっています。このあたりの説明はメッセージウィンドウとは別で補足説明が入るのが親切です。

とはいえ見た目が可愛い女の子であるマスコに対しては緊張もありなかなか打ち解けられないヨツバ。マスコを立体化させたり夢を見たりしながら次第に繋がりを感じていくさまがコメディ調で描かれ、微笑ましく感じられます。

さて、ヨツバがマスコの"秘密"を知って打ち解けてきたあたりで、人工知能にいい感情を持たない人物、ヒメ先輩が登場します。先ほど述べたAIものSFのテーマともいえる点に関わってくるので、ここはあまり深く語らない方がいいでしょう。そこで出会った彼女のPASS、ヨシナガさんも重要な役割を果たします。ぜひご自身でプレイして確かめてみてください。コメディな雰囲気を維持したままテーマに迫っていくあたりが上手いと思います。

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そして物語は2236年に帰ってきます。忘れそうでしたが本作は謎の3億コインを手に入れた(?)ところから始まったのでした。ここにきてようやくその事件の真相が明らかになるわけですが、なるほどねえ。しっかりSFの設定を活かし、ヒメ先輩とヨシナガさんも関連付けながら解決していく気持ちよさがあります。
"AIと人間の違い"についてもここにきて語られます。絶妙に気味の悪さを感じるようなBGMも非常に印象的で効果的だったと思います。ただ、似た気味の悪さを思わせる曲が全体を通して多用されていたところがちょっともったいなく感じました。あの曲はテーマのシーンに絞って聞かせた方が強く印象に残ると思うんですよね。あとは単純にプレイ中に長く聞いているには向かないので…。
創作の世界だけでなく、現実の世界においてもAIが果たす役割がどんどん大きくなってきている今、本作でヨツバが感じた問題を真剣に議論しなくてはならない時期も近づいているでしょう。あるいはすでに研究されているのかな。



本編をすべて読み終えると、エクストラが解放されます。本作は「西暦2236年」から派生して作られた作品のようで、こちらの作品のPVと体験版のような内容になっています。
本作を作ったChloroさんと言えば、私は「私は女優になりたいの」をプレイしたことがある程度なのですが、あちらが実写ムービーを多用した非常に個性的な雰囲気の作品だったのを思い出しました。本作でも登場した"テレパシー"に関する興味を引く導入と、あの非常に独特なムービーのセンスを見て非常にプレイ欲が掻き立てられる内容でした。こちらは有料の作品となっていますが、時間を見つけてプレイしたいなと思っています。

それでは。

こんにちは。最近コロナがちょっと収まってきて、遠出の予定ができるなどして更新がしばらく空いてしまいました。そんな感じで久々となりましたが今回のレビュー記事は4th clusterさんの「Campus Notes vol.2」です。今回の記事は長めになっています。


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ジャンル:大学生のSF青春恋愛ノベルゲーム
プレイ時間:10時間
分岐:3ルート(後述)
ツール:吉里吉里
リリース:2015/4


本ブログでこれまで取り上げた中では最長のプレイ時間となる長編ノベルゲームですね。あらすじを簡単に紹介しましょう。

主人公桐葉悠太は高専を卒業し筑波大に3年次編入した新入生。入学式で同じ経歴の風馬と友人になり、何かしらの打ち込めるサークルに入ろうとポスターを見ていると、成り行きで個性的な軽音サークルに入ることに。そこで出会った3人の女の子と次第に仲を深めていく悠太。しかし彼女らはそれぞれなかなかの秘密を抱えているようだった……。


プレイする前から分かる本作の特徴として、具体的な舞台が明言されているというのがあります。ズバリ茨城県の筑波大学です。モデルになった学校などがあるんだろうなと感じられる作品は他にもありますが、本作ではがっつり大学の名前が出るし、周辺の地名などもいろいろ出てきます。そして本作を作った4th clusterさんは筑波大の卒業生によって構成されたサークルのようです。背景写真などもおそらく作者さん自身で撮影したキャンパスの写真なのでしょう。その分登場人物たちにもリアルさを感じさせる生き生きとした描写が多く、いい青春だなあと感じさせてくれます。

そして実際にプレイしようとexeファイルを起動すると、いきなり豪華なPVが始まって驚かされます。もうこの時点で本作のクオリティーがとても高いことを感じられました。音楽も自身で作成しているようですし、UIの作りこみもあって大変プレイしやすくなっており、かなり長いシナリオなのですがその長さを感じさせないような気持ちよさがあります。


話の中身に移りましょう。悠太たちが入ることになった軽音サークルでは5人のメンバーでバンドを組むことになりました。ギターのうまい先輩のアイカさんが中心となりますが、他のメンバーは悠太含め楽器経験すらなかったりなんとカラオケで歌ったこともなかったりとそう簡単にはいきません。読み始めた序盤のうちは、どうやってここから音楽を作り上げていくのかなあと思っていましたが、本作の中心はバンド活動ではありませんでした。

上の書き方ではなんかネガティブに感じるかもしれませんが、バンド活動は本作の幹の部分という感じがしたんです。しっかりとそこに話の軸や土台があって、そこから各攻略対象の3人のルートにあたる枝が元気に伸びて葉を茂らせているイメージです。スタート地点はバンド活動であっても、ルートに入ると悠太と女の子の問題とか秘密みたいなところに焦点が行くんですね。なのでプレイ前に思っていたよりは本作はギャルゲー要素が濃いなあと感じました。もちろん話が進んでもバンド活動は続けていますし、そこから繋がっている秘密だったりするので、軸が忘れ去られてしまうわけではありません。しっかり幹からの流れを汲んだ枝が伸びています。この辺のバランスがうまいなと思うところです。


個別ルートのことをちょっと書きましょう。選択肢はそこそこありますが、本作の分岐は簡単です。まず四駆の告白を断るか否か。断ったら、誰が好きと告げるか。初見でも簡単に狙ったルートに入れるでしょう(ちなみにルートに入った後は選択によりゲームオーバーもあります)。それぞれのルートはこんな感じ。

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まずはポスターを見ていたらいきなり悠太に抱き着いてきた不思議ちゃんの雪丸四駆(ゆきまるよんく。すごい名前ですね)。彼女には重大な秘密があることが、序盤のうちから明らかになります。彼女はなんと筑波大の研究のために作られたロボットだったのです。記事冒頭のジャンルのところにSFと加えておいたのはそういうことです。ロボットである彼女は知能は十分ですが、まだまだ人間社会の常識とか感情が十分に備わっているとは言えません。そんな彼女が悠太と恋仲になって人間として成長し、音楽表現の幅を広げるというのはなるほどです。おそらく本作のメインルートでしょう。クライマックスのアクションシーンも見どころです。

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次に、悪に憧れタバコの代わりにココアシガレットをいつもくわえてるギターのアイカさん。そう、悪に憧れているけど悪になり切れないんです。だってタバコは体に悪いし……。そんな感じなので、最年長なのに周りにいじられたりしているキャラですが、私は結構好きでした。「いい人ですね」と言われるのを嫌う彼女がなんでそうなったのか。正義より悪を目指すのが単に、カッコいいから、ではなくきちんとした理由があったのがよかった。そんな一筋縄ではいかない先輩の心を悠太がどのようにつかむのか、見届けてください。

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最後に運動神経抜群で熱血キャラの天辻陽。大変な負けず嫌いで、悠太のことは出会った当初ライバル視どころか「嫌いです」と宣言するくらい。剣道部にも所属し、高校時代に相当な成績を残したという話ですが、どうやら最近はうまくいっていない様子。体力では全く及ばない悠太ですが、陽のメンタル的な部分でサポートしていきます。また、陽は風馬とは幼馴染で兄妹のような関係。いつも彼女欲しいぜ~みたいなことばかり言ってる風馬が、兄としてかっこよいところを見せるのもこのルートなので、期待してください。


攻略対象3人を紹介しましたが、本作にはほかに脇役が2人います。悠太の姉で完璧超人の理奈と、とにかく主人公らに敵意むき出しの謎の人物、三全音三弦(さんぜのんみつる。これは読めない)。この脇役たちも結構魅力的なんです。特に三弦の方は話の根幹にかかわってきます。なぜそこまでの悪意を秘めているのか。その理由は四駆ルートで明らかになるので、これを最後に読むのが読了後のおさまりがよいのではないでしょうか。最初のシーンが帰ってくる物語の構成となっており、私がこれを大好きなのもあります。
(私は事前情報なしプレイだったので四駆ルートは最初に読みました。だってあんな目で見られたら断れないじゃんっ)



さて、本作全体の特徴として、コメディシーンの中であっても結構インテリというかうんちくが挟まれることが多いのも挙げられると思います。アイカさんの正義の話であったり、ロボットと人間の区別であったり。言い回しもややインテリぶったところがあると感じられるかもしれません。レビュー執筆のために冒頭を読み返して気付いたのですが、アイカさんの四駆への「お前第一条はどこへやった!」は、ロボット三原則のことですね(第二条の方が場面に合っている気もしますが)。こうした話を楽しめる読者なら、本作はさらに面白いものになると思います。
それとは別にことわざをもじったネタも多かったりします。たまに風馬の軽い下ネタも。世間知らずの四駆が、ピロートークは修学旅行でするものと勘違いするあたりとか結構笑いました。


全体的に非常にクオリティーの高い作品だと思うのですが(オススメにしようか迷いました)、気になることも少しだけ。まずは誤字の類がだいぶ多いことです。間隔→感覚や接地→設置などの単純な変換ミスは分かるのですが、「奥面もなく」などは自然に誤変換しないと思いますしどうなっているんでしょう。うんちく系のネタも多い本作ではかなり気になった点です。英語の絡むネタでteachの過去形がtoughtになっていたのも目についてしまいます(正しくはtaught)。
もう一つは投げっぱなしの謎が多かったところです。陽のルートでの三弦の行動の動機とかはフォローしてほしかった感じがします。エンディングのまとまりが微妙なんですよね。私が四駆ルートを最初に読んじゃったせいでしょうか。


最後に、本作の最初の選択肢についての話をしましょう。入学式後に風馬とどうしようかという話になったところで、サークル選びの3択選択肢が出ます。しかし本作では2番目の軽音サークルしか選べないのです。最初にプレイしたときは、これはエンディングを見るごとに選択肢が解放されていくタイプかなと思ったんですがそうではなく、どうあがいても軽音しか選べません。後から調べて知ったのですが、本作は3部作の2作目だったんですね(タイトルにvol.2とあるのも納得)。1作目と3作目がそれぞれ残りの選択肢に対応するようです。3作目についてはSteamで1222円で販売中です。本作に体験版が同梱されているので気になる方はそれを読んでからでもいいでしょう。ちなみに11/2までハロウィンセール中で733円で買えます。私もそれで買いました。無料でサウンドトラックがついてくるのもうれしい。
作者さんがすでに解散しているため、1作目についてはおそらくもう入手手段がないようです。残念。3作は独立したつくりになっているため単独で楽しめ、本作や3作目プレイの妨げにはなりません。


というわけで、今回はCampus Notes vol.2のご紹介でした。生き生きとした大学生の青春を感じられる良作です。ぜひプレイしてください。シリーズの3作目、Campus Notes : forget me not.の購入を検討される方は割引期間がもう少しで終わるのでお急ぎください。

それでは。

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