フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
初めての方は、ぜひごあいさつをご覧ください。評価の基準については、レビューについてに記してあります。
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こんにちは。今回は妹れっぐぅおーまーさんの「Be alive ~What is your precious~」のレビューをしていこうと思います。
私は好きですが、本作はかなり人を選ぶ作品であることは間違いないので、注意書きなどをよく読んだうえで納得された方のみプレイしてください。

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★favo
ジャンル:王道学園ものエロゲ
プレイ時間:1ルート2~3時間。フルコンプまで5~6時間程度
分岐:攻略対象3人。計8エンド
ツール:NScripter
リリース:2006/12
備考:18禁。特定ルートで凌辱シーンあり。見たくない場合回避パッチを当てる事(後述)


さて、2年半ほど前にこのブログを開設し、週一弱のペースでレビューを書き続けてきましたが、今回で記念すべき100本目となります(コラム等があるため総記事数は128本となっています)。何か思い入れのある作品を取り上げたいなと思って考えていたのですが、私が初めてやり込んだフリーゲーム(カサハラン.COMさんの「漢字迷路三国志」です)はFlash製で既にプレイできなくなっていますし、ノベルゲームとの出会いのきっかけとなったむきりょくかん。さんの「ほしのの。」については過去に取り上げました。他に私に大きな影響を与えた作品と言えば、私が将棋を始めるきっかけとなったペットボトルココアさんの「夏ゆめ彼方」がありますがこれも以前にレビューしています。
色々考えた結果、今回は私が初めてプレイしたアダルトゲームであって大変印象に残っている本作を取り上げることにしました。というわけで1月にTetraScopeさんの「桜哉」の記事を書いた時以来の18禁作品となります。通常のレビューに比べて私の思い出話みたいなものも長くなるかもしれません。


本作は2006年のコミケが初出とかなり古く、現在公式ページのダウンロードリンクはミラーを含めすべて無効になっているため今からの入手はちょっと大変かもしれません。一応Wayback Machineでアーカイブをたどれば今でもダウンロードできることは確認しています。公開当時はエロゲと饗はおろかBOOTH(pixiv)すらなかったので配布場所は相当限られていたはずで、しょうがない面もあるとは思いますが昔の作品がプレイできなくなってしまうのは寂しいですね。


さて、では本作のあらすじ紹介に参りましょう。
主人公の藤原伸一は高校2年生。両親が海外出張中(お約束)のため、同じ高校に通う1年生の妹、千佳と一緒に家事を切り盛りして生活しています。学校では幼馴染の坂野恵理、悪友の北沢明と一緒になんだかんだ上手くやっています。最近では委員長キャラの榊原奏とも親しくなって、5人で楽しく高校生活を送っていました。期末試験のために勉強を教えてもらったり、試験終わりにゲームセンターで遊んだり。しかし時期はもう高校2年生の冬。受験勉強や卒業後のことを考えるとみんなで遊んでいられる時間もそれほど長くはありません。彼女らとの関係を一歩進めることはできるのでしょうか…。


と、こんな感じで基本的な設定を説明すると非常にオーソドックスな内容になっていると思います。
しかしこれまで文字通り健全なゲームしかプレイしていなかった私には、これがエロゲのノリなのか! と思った個所がいくつかありました。(もちろん、エロゲは全部そうだというわけではないのは今は知っているわけですが)

まず画面がピンク色!
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タイトル画面の色味もそうですし、この学校の制服はなぜか男女問わずピンク色のようで、立ち絵やスチルが自然とその色になっていきます。別に肌の露出が多かったりするわけではないのですが、なんか独特だなと思ってました。


そしてなぜか同性の悪友キャラ(明)がキモい。コイツ、何なんだ? というか公式サイトの攻略ページの中で作者にネタにされてるし…
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また、何でもないシーンでのサービスカット(?)が多い。最初の学食でのシーンからモブの女の子が普通にパンチラしているなど、そういった要素のあるスチルが多めです。

正直に言うとプレイしていた時には、これらの要素は良く分からないな、こういうノリなのかなと思って流していました。別にえっちなゲームじゃなくていいかと感じていたのです。しかし最後までプレイしてみると、私に強烈な印象と感動を残していったすごい作品だったのでした。それに関しては後述します。



さて、複数ヒロインである本作は当然、共通ルートと個別ルートに分かれています。クリスマス前までが共通ルート、それ以降が個別ルートとなっていますが、本作の特徴として共通ルートの比重が重めということが言えるでしょう。分岐直前まで5人で集まって遊んでいたりするので、複数ヒロインものでありがちな「後半で他のヒロインの存在感がなくなる」ような流れになりません。ヒロイン同士の掛け合いも描かれるなど、ただの賑やかし要員になっておらず丁寧に作られているんだなと感じられます。
個別ルートに入ってからも、きちんと友人同士の付き合いであった今までの関係性を踏まえた展開になっており好感を持てます。各ルートで恋人エンドと友人エンドにさらに分岐するわけですが、これはどちらに行っても言えるでしょう。

逆に言うと、恋愛ものとして見たときのどきどき感みたいなものはやや物足りないと感じるかもしれません。共通ルートの間の単なる友人としての関係が長く、その間は異性としての意識などは描かれないため終盤で突然恋愛ものになってしまう印象はぬぐえません。
その面で一番良くできていたと感じたのが委員長キャラである榊原ルートでした。幼馴染である恵理や妹である千佳とは違って、榊原だけはゲーム開始時点ではほとんどしゃべったことのない相手です。その状態から、何となく相手のことが気になるとか、少しずつ態度が軟化していくとかいった変化がほかのルートよりも濃く描かれていたように思います。このルートだけヒロイン視点が描かれているのも私の好みに合致するようでした。ご両親が良い人で良かったですね。
そしてルートの最後で18禁シーンがあります。初めて読んだ私は、なるほどそんなもんか(良く分からん)なんて思っていました。

千佳ルートについてはどちらのエンディングに行っても微笑ましい内容となっており、実の兄弟での近親相姦的な展開はありません。途中何回も伸一のことをシスコン扱いしたネタがありますが、このルートを読むとむしろ千佳の方が重度のブラコンでは? なんて思ったりします。

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ここまででも「良くできた作品」であると思いますが、これだけだとおそらく私にここまで強い印象を与えなかったでしょうし、正直わざわざ18禁の作品をやらなくても良かったかなと感じたでしょう。しかし本作は幼馴染の恵理ルートで本性を現します。

ヒロインが3人いて恵理ルートだけ1周目ルート制限がかかっています。1回目では強制的に友人エンドに。2周目で初めて「ホテルに入る」という選択肢が登場します。当然そこで恵理と行為に及ぶわけですが、問題はその後です。ずっとほのぼのとしていたこの作品の雰囲気はここで一気に反転します。

念のため再度警告しますが、このルートの先ではかなりショッキングな展開が続きます。具体的な暴行が行われるシーンはパッチ適用により飛ばす選択肢を有効化できますが、このルートの主題は事件によって深い心理的なダメージを受けた人物たちがその後どのように生きていくかです。鬱ゲーは受け付けないという方のプレイもお勧めしません。
気にしないという方もシナリオの加筆が若干あるためパッチ適用をお勧めします。公式サイトからver1.01パッチをDL・解凍し、作品フォルダのnscript.datを上書きしてください。パッチ適用後も該当のシーンを飛ばさずに読むこともできます。



このルートでは、伸一と恵理を追っていた千佳が暴漢に襲われてしまいます。それに感付いて現場に向かった伸一も犯人の手にかかって意識不明の大けがをさせられることになります。
幸いにも命に別状はなかった2人ですが、同時に負ったであろう精神的ショックの深さは計り知れません。そんな中で行われる千佳と恵理のあの会話シーン。愛し合っていたからこその行動だったのに、友達を大切に感じていたからこその気遣いだったのに、どうしてこう現実は悪い方向に進んでしまうのでしょうか。あの時こうしていればよかった、自分のせいでこんなことになってしまったという後悔が絶え間なくあふれ出てきて、優しさがあるからこその悲しみを際立たせるシーンです。しかし恵理の悲鳴交じりの決死の説得も届かないほど、千佳の心はずたずたに壊されてしまっていたのです。

そんなシーンの後、無音で始まるモノローグ。そこで事件がもたらした影響の大きさを再度実感させられることになります。伸一・千佳のみならず恵理や明、榊原を巻き込んで、事件から立ち直るための必死のリハビリが始まるのです。
確かに恵理は伸一とちょっと特別な関係になることを望みました。しかしそれは5人の友情を壊してまで望むものではありません。実際恵理は事件の前にも、これからもいつも通りで、と伸一に告げています。ところがそんな希望は事件によって完全に破壊され、悲痛な運命を甘んじて受け入れるしかなくなります。
生半可な友情だったらここで終わりになってしまうかもしれません。私だったらすべてをあきらめて自分の心も壊れてしまうかもしれません。しかし5人の友情はそうではありませんでした。恵理は自分にとって何が一番大事だったかに気付いたのです。まさに本作の副題にあるWhat is your preciousとは5人で遊んで楽しく過ごした日々、皆を思う友情であったのです。ほのぼの系の作品だったら何となく受け流してしまうであろう友情描写であったとしても、どうしようもなく悲しいこの状況だからこそ、こうも心に深く刻まれるものなのか、というのを強く感じたのを覚えています。
序盤のシーンではただの同級生でしかなかった榊原も、彼女がいないことに悪態をついてばっかりだった明も、こうも献身的に恵理や伸一を支えてくれます。こんな健気な友情だからこそ、全員を全力で応援しながら物語を読み進める手は止まりません。

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その後の学校のシーンなどは、今になって冷静に考えてみれば現実的ではないでしょう。しかしそんなことがどうでもよくなるほど私はこの作品に夢中になっていました。愛を越えた先にあるものをこんな形で描くことができるのかということに。そしてこの展開は同人の18禁作品でしか許されないだろうとも感じていました。

最後にクリスマスの日の会話などが伏線となって真実に気付くあの展開も良く作られています。私が最初に読んだときはこれが後で効いてくるなどとは全く思っていなかった何気ないシーンなのですが、そこまで計算されていたことに気付いてまた深く驚くのです。これも、伸一が恵理や千佳を大切に思っていて、しっかり観察していたゆえでしょう。

ラストシーンにはver1.01で加筆されたシナリオが出てきます。やや説明的過ぎるかなという感じもしますが、ここにきてようやくひと段落したと安心できる内容になっていて、全ルートの総まとめとしての終止感をしっかりと纏ったエンディングです。このエンドロールだけ振り返り的にこれまでのスチルがついていたりもしますしね。1つ注文を付けるとしたら、最後に全員で笑っているスチルとかあったらより感動的だな、というところでしょうか。
若干ネタバレ(クリックで展開) まさかタイトル画面の時点で盛大にあの展開を示していたとはね…全然気づきませんでした。

ちなみに本作の攻略は簡単です。攻略したいヒロインの選択肢を選び続ければよいです。優柔不断な選択をしているとノーマルエンドに行きます。


というわけで今回は「Be alive ~What is your precious~」でした。
本作が私にとって初めての18禁ゲームだったからこそ、単にえっちなシーンがあるだけでなく話のテーマに大きくかかわってくるような内容を含む作品が好きになったのかもしれません。この辺のことは「桜哉」で語りましたね。
あのルートを受け入れられる人はそう多くはないかもしれませんが、私を深く感動させたのもあのルートであることに間違いありません。鬱展開に耐性がある方、ぜひプレイしてみてください。このルートに出会ったからこそ、私はエロゲにもシナリオの良さやテーマ性を求めているといっても良いでしょう。

それでは。

こんにちは。今回はTeam囲碁RPGさんの「囲碁RPG」のご紹介です。

IGORPG1

★favo
ジャンル:オーソドックスなターン制RPG+詰碁問題集
プレイ時間:ラスボス撃破までで10時間程度
分岐:なし
ツール:RPGツクール
リリース:2023/7(ふりーむへのDL版掲載日)
注意:囲碁の棋力が10級以上の方推奨


本作「囲碁RPG」はタイトルから分かる通り、囲碁がテーマとなっているRPGです。単にシナリオに囲碁が使われているというだけでなく、詰碁(部分的な石の死活を問う問題。詰将棋に対応するもの)を解いて進むギミックも多数用意されているなどかなり凝っています。
このギミックのため囲碁未経験者ではクリアはほぼ不可能でしょう。公式の説明欄にもありますが、10級程度の棋力は最低限欲しいところです。私の棋力は碁会所で三段程度、ネット碁では囲碁クエスト(Android版/iOS版)で四段、野狐囲碁で二段程度です。有段者なら本作の囲碁に関するギミックで困ることはないでしょう。
囲碁に関するギミックで詰まってしまう場合、「囲碁RPG 入門編」があるのでそちらのプレイをお勧めします。



本作の世界観では、囲碁の技術である”棋術”(聞いたことがないので本作の造語でしょう)がそのまま(物理的な)戦闘の技術になっています。碁の強い者が通常のRPGの意味でも強いのです。戦闘では打撃(通常物理攻撃)のほかに棋術(魔法攻撃に相当)を使って敵を打ち倒していきます。
そんな本作は主人公の星宙かやが囲碁の養成所を卒業するシーンで始まります。卒業試験をパスしたかやは養成所からのプレゼントとして最新の棋術を教わるため、棋術習得用カプセルに入ります。ところがその棋術習得の最中に”幻庵”と名乗る人物が乱入。養成所は荒らされ、同級生の安否も分からない中かやは何とか魔法陣を起動してワープし見知らぬ村、”アキスミ村”で目を覚まします。どうやら”秘密結社INOUE”が何かを企んで悪さをしている模様。かやは同級生を助けるため、秘密結社INOUEに挑むべく旅を始めるのだった…


本作のオープニングはこんな感じなのですが、これまでですでに囲碁にまつわるネタが3つも含まれています。
まず、幻庵というのは戦国時代の武将、北条幻庵のことのようです。今回調べて知ったのですが、幻庵は囲碁にまつわる逸話のある武将ということです。そしてアキスミ村。アキスミというのは文字通り空いている、つまりまだ石が全く置かれていない(碁盤の)隅のことで、たいていの場合初手で着手される地点になります。すなわち”はじまりの村”みたいな意味合いですね。
そして秘密結社INOUEというのは囲碁の家元四家のうちの一つ、井上家のことでしょう。江戸時代、徳川将軍の前で行われた対局、御城碁で争った四家が家元四家で、本因坊家、井上家、安井家、林家の4つです。本因坊だけが実力制となって現代のタイトル戦に名を残していますね。

安井算知

このように、本作内において非常に濃い密度で囲碁に関する分かると面白いネタがちりばめられています。しかもネタの分野が広いです。
例えば主人公かやの仲間になる最初の人物は”秀策”ですが、これは本因坊秀策のことです。ヒカルの碁にも出てきたのでご存じの方も多いかもしれませんね。続いて仲間になるのは”算知”ですが、これは同じく江戸時代の棋士である安井算知のこと。天地明察に登場したことで知っている方もいるかもしれません。
4人パーティーの最後の一人は”リーラ”と名乗ります。これはフリーのコンピュータ囲碁ソフトLeelaのことでしょう。さっきまで江戸時代の話だったのに急に現代のAIの話が出てきてちょっとびっくりしましたが、これも囲碁が分かる人ならではのネタでしょう。

IGORPG2
他にも、敵のキャラクターは全て囲碁用語だったり、囲碁周辺の元ネタがあったりします。
例えばこちらの”アキサンカク”ですが、これは漢字で書けば”空き三角”。自分の石が三角形の形につながった状態のことで、働きの乏しい愚形の代表例です。

IGORPG3
こちらの”モクサン”は目算。自分と相手の陣地の数を脳内で数えることです。これが正確にできるのは高段者でしょう(私はできません)。

その他、装備品名や村人のセリフなどにも大量の囲碁用語が登場。分かる方にはとても納得できる使われ方だと思います。
鉄柱、亀の甲羅、一間高などの囲碁用語のついた装備品。玄玄碁経、官子譜、發陽論などの古典的書物。秀策、算知をはじめ赤星因徹や本因坊丈和などの江戸時代の棋士である登場人物。ノギツネ城(野狐囲碁という中国のネット対局サイト)、絶芸(野狐で対局しているAI)、AyaXbot(囲碁クエストというアプリ内で常駐しているAI)など、現代の囲碁界に関するものまで本当に幅広いです。
ラスボス戦が対AIになるの熱い展開で良いですね。

IGORPG5
(ところで「魔王のメガネ」の魔王って井山裕太さんのことですよね?)

それに加え、先に書いたように本作では詰碁を解いて進んでいくギミックが数多く含まれています。
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上のスクリーンショットのように、いごまるという小さな生き物(タイトル画面の左側にいるやつ)が道をふさいでいる場面にたびたび出合います。近くには詰碁の問題があるので、これに正解すると道を開けてもらえたり、アイテムやお金がもらえたりギミックが進行したりするのです。
ゲームの進行上必須でない隠し要素については詰碁の問題が難しかったりします(とはいえ最難関でも上級程度です。有段レベルの問題はないと思います)

さらにこれらの詰碁を解くと、アイテムの「いごまる詰碁帳」に解いた問題が登録され、何度でも復習可能になります。全部で140問以上あり、解くたびにお金が少しもらえます。たまに「星屑の欠片」という錬金素材アイテムももらえるので積極的に解いていきましょう。(星もれっきとした囲碁用語です)
少し易しめの問題を一目で解けるようになるまで習熟度を上げるというのは囲碁の上達にもかなり役立つ勉強の仕方になると思います。その意味でも詰碁帳を周回するのはおすすめです。


さて、囲碁から離れて本作のRPGとしての部分を見ていきましょう。
戦闘は非常にオーソドックスなターン制でコマンド選択式。癖がなくてなじみやすいシステムと言えるでしょう。毎回戦闘終了後にMPが一定量回復するのでMP節約にあまり気を回さなくて済むのが助かります。

戦闘のバランスとしては、状態異常が強めでしょう。パラメータ的には余裕でも状態異常を食らうだけで一気にピンチになったりするので、装備で対策したり回復アイテムを買い込んだりしておくとよいでしょう。(状態異常の名前が囲碁用語になっていて少しわかりにくいので注意です。”味悪”は毒、”長考”・”駄目詰”は麻痺、”頓死”は即死のことです。その他は囲碁を知らない人でも名前からイメージできる効果だと思います)
状態異常以外においても装備の重要性は高いので、新しいダンジョンに挑む際はぜひいい装備を入手してからにしてください。

本作には錬金システムがあり、詰碁を解くと時々もらえる「星屑の欠片」を使って固有武器を強化したり、その他の装備品を作ったりすることができます。固有武器をMAXまで強化するのはかなり手間がかかりますが、強力なことは間違いありません。私はリーラの銃を真っ先に強化して攻撃力の上がる装飾を持たせ、リーラをアタッカーとして運用しました。2回攻撃はやはり強い。

いったことがある街へのワープができるシステムがないので移動がやや面倒ですが、ダンジョンは一度クリアすれば出口まで即移動できるのでそこまで大変ではないでしょう。

なかなか珍しいと思ったシステムは、「IG→経験値変換」です。IG(イゴールド)というのは本作の通貨単位です。つまり余ったお金を経験値に変換できるのです。
通常のザコ敵で経験値を稼いでレベルアップしていくのも良いのですが、本作はザコ戦で得られるIGが少ないのでこの方法ではお金不足になりやすいです。そこで「いごまる詰碁帳」を解くことで大量のIGと星屑の欠片を稼ぎ、余ったIGを経験値に変換するという方法の方が効率がよさそうです。


というわけで今回は「囲碁RPG」でした。
10級の方だとクリアに結構苦労しそうですが、5級~1級くらいの上級者の方は特に詰碁の復習もできて楽しい作品なんじゃないでしょうか。囲碁の歴史についてもちょっとだけ学べます。
囲碁やったことないよという方は入門編のほうをぜひ。

それでは。

こんにちは。今回はポロンテスタさんの「道徳ビデオ」のレビューをしていきたいと思います。

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★favo
ジャンル:いじめを描いた群像劇鬱ノベル
プレイ時間:45分
分岐:1か所
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2023/7
備考:製品版あり


ポロンテスタさんと言えば、私は「ポルノ地獄・完全版」(18禁)をプレイしたことがあり、ブラックな世界観の中にも良心をのぞかせるような独特な作風が印象に残っていました。そして最近になって本作「道徳ビデオ」が公開されました。色々な所で好意的な評価を見ますし私も気になってプレイしてみたところ、非常に印象的な作品でしたのでご紹介したいと思います。刺激的な内容を含みますが全年齢対象の作品となります。


作品ページの紹介などでも明らかにされていますが、本作は「いじめ更生委員会」が制作するいじめ防止のための教材「道徳ビデオ」に関する内容で、既にお分かりかと思いますがかなりブラックな要素を含みます。しかし単に風刺的だったり皮肉的だったりするだけでなく、読み終えてすっきりするような、いじめのはびこる社会はろくでもないけど、それでも希望だってあるんだという気持ちにさせてくれる作品ですので、ぜひ抵抗感を持たずにプレイしてみてください。


本作は主要な登場人物3人の視点が交互に入れ替わるようにして進行していきます。
まず最初に登場するのが「いじめ更生委員会」から教材用のビデオ、「道徳ビデオ」を作成するために星の砂小学校に派遣された潮見ヒヨリです。6年2組の児童に出演してもらってビデオの撮影を行います。クラスでの説明の時には表向きの理由を明るく説明し、子供たちにも受け入れられているようですが、彼女にはビデオを作る真の理由があることが序盤早々に明かされます。一体その目的とは何なのでしょうか。


続いて舞台は唐突に8年後の現在へ。ビデオにはいじめっ子役で出演した黒瀧ナギトがヒヨリに連絡してくる場面から始まります。彼が言うには、いじめられっ子役の成海ミナミを殺してしまったというのです。いったい道徳ビデオの撮影現場で何があったのか。親友であったはずの彼ら二人がその後8年間かけても修復できないほどに関係が歪んでしまったのはなぜか。ヒヨリはそれを聞いてどうするのか。
彼らに幸せな未来はあるのでしょうか……

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さて、本来は教材撮影のための演技であったはずのいじめですが、実際のところ演技の範囲を超えてエスカレートし、いじめられっ子役であったミナミに深い傷を残したということは容易に想像できると思います。ナギトがミナミに対してわざと聞こえるように悪口を言う。台本にあるものだとしても気持ちよいことではないでしょうし、次第にナギトはアドリブと称して台本にない悪口をぶつけていくようになります。

日本語には言霊(ことだま)という言葉があります。手元で明鏡国語辞典を引くと、「古代日本で、ことばに宿ると信じられていた神秘的な霊力。」とあります。本当に魔法のような力があるわけではありませんが、本気ではないはずの言葉がいつの間にか本当にそう思うようになっていた、というような力が言葉には込められていると思うのです。おそらく無意識のうちに影響を受けているのでしょう。自分で発さなくても、繰り返し告知を見せたり聞かせたりといった宣伝に効果があるのはまさにその効果の応用でしょうし、逆にある対象に対してネガティブな発言を聞いているだけでいつの間にか自分も嫌いになっていたりします。怖いものです。

道徳ビデオの撮影においては、最初は演技であったはずの台詞が無意識下においても作用し、ミナミをいじめる方向に傾いてしまったのでしょう。台本にない悪口を、カメラが回っていないところでも、……こうしてエスカレートしていくわけです。

こうしていじめは苛烈を極めただろうことは容易に読み取れるのですが、本作の中では具体的ないじめ行為は悪口を言う以上の内容は一切描かれません。これは本作をゲームとしての娯楽作品として成立させるために計算して設定した限界だったのではないでしょうか。
ニュースで報道されるようないじめ事件で起こっていたこととか、暴力事件とか、具体的な行為を描こうとしたらもっとずっと細かく、鮮明に、ショッキングな内容を込められたはずです。しかしそうするともはや本作自体が”教材”、あるいはドキュメンタリーになってしまうんですよ。
誰もが目をそむけたくなるようないじめを描いて、いじめは良くないことであると伝える。そういう(ゲーム以外を含めた)作品は多くありますし、フリーゲームでもいくつか知っています。しかし本作がそうした作品と一線を画していると感じるのは、あえて具体的で過激な行為の描写を排したことで娯楽作品としての魅力を保ったことだと思うのです。過激な内容はあえてプレイヤーに想像させるにとどめ(本当にありありと想像されるんですよ、作内で描かれるよりもずっとひどい行為があったと)、説教臭いと感じさせることなくこの重いテーマを描き切り、幸せになれる選択肢を提示してくれたこの作品の価値は大きなものであると感じています。


さて、道徳ビデオの撮影中、ナギトが不必要に辛らつな言葉を吐くたび、最初のうちは担任のリン先生はきちんとたしなめていましたし、ヒヨリはミナミへの精神的フォローをしっかりと行っていました。良識ある大人が目を光らせ、厳格に演技の内容を監督した場合はあそこまでの事態にはならなかったでしょう。途中からミナミへのフォローがおろそかになってしまった理由は、本作の最終章で語られます。

ヒヨリが「道徳ビデオ」を作ろうとしたきっかけは、かつて自分をいじめたものに対する見せしめ・復讐のためでした。彼らに合法的にダメージを与えるために。あるいは裏でこっそりと手を回すための布石として。そんな打算的な目的で道徳ビデオ事業に乗り出したヒヨリでしたが、打算的であるがゆえに理性的でもありました。撮影の最中に出演児童へのカウンセリングを怠り、精神的ダメージを与えたりして最悪撮影が完遂できなかったら元も子もありません。
しかしヒヨリから復讐の執念を解消してくれた人物がいました。リン先生です。リン先生の行為は非難されるようなことではないし、むしろ良き先生でしょう。ところがそれゆえにヒヨリが道徳ビデオへ注力するのを妨げてしまったのです。復讐にしか生きがいを見出せなかったヒヨリに、別の生産的な生きる理由を与えてくれたリン先生。「今が幸せだから過去を許せる」という意味の台詞が出てきますが、これは本当にそうだと思います。余裕がある人なら別に復讐に執着しなくても良いはずです。いじめに限らず、例えば犯罪被害者(の遺族など)だったり、あるいは社会に対して一方的に逆恨みしている人でさえ、人並みの幸せを得られれば怒りの矛を収められるという人は多いと思います。福祉の役割とはこういうところにもあるのだなあと思わされます。

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道徳ビデオ撮影時の事件をきっかけに、それまで親友であったはずのナギトとミナミの間には決定的な溝が生じ、8年後に至っても解消されない歪みが起きています。いじめっ子役であったナギトは当時の申し訳なさから、もう何年もほとんどミナミの言いなりになっています。ここで大事なことは、「事件の後罪悪感から何年も相手の要求を断れずに言いなりになる程度には良心のある人物でさえ、演技のはずのいじめがエスカレートしていった」という事実です。報道されるようないじめ事件を耳にすると、なんと酷いやつだ、あいつらには人の心ってものがないんだ、と感じます。しかしそれが事実かどうかは分からないんですよね。
撮影開始前にはナギトはいじめなんて当然いけないし自分がすることもあり得ないと思っていました。実際、ちょっと言葉遣いは悪いですがミナミとは確かな信頼関係が築かれています(あの遊びはちょっと歪んでるとは思うけど…)。しかし、平常心を持っていればいじめなど行わなかったであろう人物も、”演技”という大義名分を得てストッパーが外れた結果事件を起こします。環境さえ整えば善良な市民でも凶悪な行動に至ることがあるのだから、いじめや犯罪は潜在的な犯罪者に機会を与えないことによって未然に防ぐことが大切。この考え方は犯罪機会論と呼ばれるらしいです。

本作において、単純になにを考えているのか分からない悪人が問題を引き起こすのではなく、各人物が自分の行動原理に基づいて行動した結果、悲劇的な結果を引き起こしてしまいます。物語を進めるための壁や障害、悪人が単なる舞台装置としてでなく、生きたキャラクターであるために同情的な感情も想起させ、より物語へ引き込む力となっているのですよね。ずっと前に「まい、ルーム」のレビューでも指摘したことですが、この点は私が物語を読むにあたって重点を置くポイントのようです。


本作のエンディングは2つ。選択肢は1か所です。どちらが幸せな未来へと繋がっているかは一目瞭然でしょう。正解の選択肢を選べば、どん底であったナギトへ一筋の光が差し込みます。8年後の未来にどうなっているか。エンディングタイトルを含めて素晴らしい内容だと思います。
1つだけ気になるのは、独特な絵柄から人物の年齢が読み取りにくいことでしょうか。本作の時間軸は頻繁に8年前と現在を切り替えており、登場人物の年齢層も小学生と先生ということで離れています。しかし大きく表示される立ち絵から時間の経過や人物の世代差が読み取りにくいんですよね。”ヒヨリお姉さん”のお姉さんらしさをアピールする一つの手段になると思うのでちょっともったいない気がしました。
しかし1人のキャラクターとみれば可愛らしいですし、タイトル画面のグラフィックなどもダークな世界観を表現しているようでいいと思います。


と、このように1時間未満で様々なところまで思いをはせることのできる作品でした。
この重いテーマをしっかりと最後まで描き切り、かつ希望を感じさせるエンディングが気持ちいい類まれなる作品だと思います。この手の作品にありがちなご都合主義も私は感じませんでした。ぜひプレイしてみてください。


それでは。

(2024/8/25追記:コミックマーケット103にて本作の製品版(15禁)が発表されました。パッケージ版はBOOTH、ダウンロード版はDLsiteなどで購入可能になっています(私はコミックマーケット104で購入しました)。本編はフリー版と同じですが各登場人物の掘り下げエピソードが計5話収録されておりそれだけで本編に近いボリュームがあります。
追加エピソードの内容ですが……かなりエグいです。私の印象に残っているのはナナミ編。いじめる側って本当に軽く考えているし自分の行いもすぐ忘れる、それに対してやられた側の負う傷は深く恨みは長い、この非対称性を感じさせる胸糞エピソードですね。他のエピソードも本編よりさらに人の醜い側面を強調した性格となっており、本編の雰囲気を気に入った人向けの内容と言えるでしょう。
追加エピソードの中で最後のミナミ編は唯一本編のTRUE ENDへつながるお話です。あんなにねちっこく復讐して口も悪かったミナミが、ナギトと距離を置いて生活をするようになってどう変化していったのかが如実に表れています。本編で最後に名前だけ登場した女の子のチカちゃんが及ぼした影響も大きかったようです。本編と同じくとんでもなく陰湿だった物語をこう希望の光に包んでエンディングへ向かうのか、と感じさせられるエピソードでした。……と思っていたら最後の最後!!なんとも油断ならない作者さんです。より濃さを求める方はぜひ購入を検討してみてください)

こんにちは。今回はぷらちなクリエイティブさんの「そのサークル、地雷ですよ?」をご紹介します。

sonokuru1


★favo
ジャンル:同人活動の光と闇をコメディタッチで描くノベルゲーム
プレイ時間:4時間
分岐:基本一本道。ゲームオーバーあり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2019/5
備考:ティラノゲームフェス2019準グランプリ作品


前回の2周年記事で触れた作品ですね。あれだけべた褒めしておきながらレビューしていなかったので記事に書くことにしました。
先週書いた通り、本作は3年前にティラノゲームフェス参加作の中から適当に作品を探していた時にたまたま見つけた作品です。めちゃくちゃ面白かったのに当時コメントが一つしかついておらず、多くの人に知られないのはもったいない作品だなあと思ったのはよく覚えています。というわけで今回は絶賛するだけの記事となります。


まずはあらすじを簡単に説明しましょう。主人公の緋色(ひいろ)は絵を描くのが大好きな高校3年生。将来はイラストレーターとして仕事をしたいと考えています。しかし母親がそれに大反対。勉強をして進学するように言ってくるので毎日のように喧嘩。そんな母親を説得するために、妹の黒亜(くろあ)と相談して考えた作戦は、1年以内に同人活動で目に見える成果を作って説得材料にしようというもの。早速同人サークル探しに励む緋色であったが、彼女が見つけるサークルは毎回地雷なのであった……。




私がブログを始めてすぐの時に、レビューについてという記事を書きました。そこで、最近のフリーゲームは商業ものと見まがうようなクオリティーの高いものが多くあるけれども、フリーゲームらしい粗削りで尖った、あるいは同人でなければ表現しえないものにも強く惹かれるという風に書きました。本作はまさに"フリーゲームらしさ"という点で満点だと思うのです。細かく見たらいろいろツッコむべきところはあるし、もし本作がコンシューマで発売されたら私もなんか違うなと思うでしょうし、バグ多すぎなどと酷評すらされるかもしれませんが、本作にはそれを補って余りあるフリーゲームらしさ、同人制作の魅力が詰まっているでしょう。この手作り感、キャラクターへの愛、そして自サークルで起こったアクシデントさえ作品に取り込んでコンテンツとして昇華させる強かさ。これが満点以外に何点を付けられるでしょう。


具体的な内容について書いていきましょう。
本作の良かったところの1つとして、魅力的な登場人物たちが挙げられるでしょう。
主人公の直井緋色はいわゆる天然。お勉強は苦手だけれども、小さいころから夢だったイラストレーターになるために色々と努力を重ねているいい子です。しかし天然ゆえ、努力が空回りしたり方向が間違っていることもしばしば。同人活動で実績を上げようとサークルを探しては加入してみるものの、揉めたり自然消滅したりといったことを繰り返し、進路を考えるぎりぎりの高校3年生になってしまいます。
そんな緋色が助けを求めたのが妹の黒亜。しっかり者のキャラクターで、同人活動では声優として一定の成功を残し、なんと芸能事務所への所属も決まっています。実力に加えて同人サークルをうまく運営するためのコツも緋色より詳しいようです。そんな彼女は毒舌キャラ。緋色のことは「アホ姉」呼ばわり。サークルの選び方から変えないと成功は見込めないときっぱり言い捨てますがツンデレ属性も持ち合わせているので結局は姉と一緒にサークル加入までしてしまう優しい子なのでした。
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メインはこの2人ですが、プロローグや章間で登場するお母さんも相当の曲者です。
イラストレーターになるの1点張りの緋色に対して、そんなの無理だからおとなしく勉強して大学に行きなさいと毎日バトルを繰り返しています。緋色が返事をしないと泣き落としもするし、脅迫まがいのこともするある意味本作中最強の人物です。緋色(と黒亜)はそんなお母さんを説得するためにどうしても1年以内に同人活動で実績を上げなくてはならないのです。



さて、本作のメイン部分は5章構成になっています。各章で緋色と黒亜は同人サークルに加入していきますが、なぜかどこに入ってもトラブル続き。問題を解決するために、というよりは一癖も二癖もあるサークルメンバーたちを説得するために奔走する分かりやすい構成になっています。

1章では歌い手サークル"怨恨のレクイエム"にイラストレーター・ナレーターとして加わることになった緋色と黒亜。メールの返信などは丁寧で問題なさそうなサークルですが、2回も通話してみるとこのサークルの抱える問題がプレイヤーにも伝わってきます。
そう、どう考えてもサークルの代表・ボーカルである"漆黒の誰彼"とミックス担当の"アイスターちゃん"が親密すぎて他のメンバーとの温度差がひどいのです。それだけならまだしも、(名前から想像できる通り)漆黒の誰彼はかなりの中二病。そしてこだわりが非常に強いタイプ。話し合いをするにしてもアイスターちゃんが絶対的な味方となってしまうため、他人の意見が耳に入らないその性質が助長されていたのです。

しかし緋色はそのヤバさに全く気付く様子がありません。この様子では確かにいろいろなサークルでトラブルに巻き込まれても気付かなそうだな~と若干気の毒になってしまいます。そこで毒舌黒亜の出番。緋色を地雷サークルの沼から引き抜くためには、そのサークルが地雷である証拠を集め、メンバーの反感をできるだけ買わないように問題点をズバリ指摘する必要があります。黒亜の毒舌は姉だけでなく他のサークルメンバーにも炸裂。ボケ担当(?)のサークルメンバーと黒亜のやり取りが大変勢いがよく本当に笑ってしまいます。そして険悪になりそうなときにはちゃんと緋色が黒亜にストップをかけてくれるので安心。
この「立証パート」がスムーズに進むかどうかはプレイヤーの選択次第。一定回数ミスするとメンバーの怒りが爆発してゲームオーバーとなってしまいます。セーブは分けておきましょう。

立証パートを初見でクリアするのはやや難しいくらいの難易度でしょう。会話中に数回ツッコミチャンスが来るので適切なタイミングで待ったをかけ、その発言が信頼できない証拠を突き付けましょう。
(やったことないので分からないんですが、逆転裁判ってこんな感じですか?)

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↑立証パート中。発言に突っ込むかスルーするかを選択します


無事に怨恨のレクイエムでのトラブルを解決した2人はまた新たなサークルを求めて掲示板を眺める日々を過ごすのですが、この章間ですら息をつかせる間もなく笑いのネタが降ってきます。
まずは何としても勉強をさせたいお母さんとのバトル。問題集を進めるか針を飲むかを選ばせるなどやりたい放題。サークルの”地雷”たちには毒舌全開の黒亜にもお母さんは手に負えないのでした。3章の後の心理学バトルが大好きです。
そして次回予告や自由通話パートも見逃せません。
「擬人化したマヨネーズ」「おち〇ちんクーデター」のパワーワードが強烈に脳裏に焼き付いています。(※下ネタが多いわけじゃないです)



2章以降もそれぞれ同人サークルに入ってみるは良いものの地雷続き。毎度サークル員の濃さに驚き、黒亜の毒舌のバラエティーに笑い、緋色のさりげないフォローとひたむきな姿勢に癒されながら物語は進んでいきます。


オタサーの姫問題であったり、自分の設定を押し通そうとする人をどうやって説得するか、そのうえで趣味としての同人活動を楽しく続けていくにはどうするのか、といった問題が、同人制作活動をしたことのない私にもわかりやすく、かつ共感しやすい形でたくさん登場します。このあたりの内容は、本作がフリーゲームとして制作され、公開されているからこそ説得力を持つ部分でしょう。後書きまで読めばわかりますが、本作を作るにあたって作者のぷらちなクリエイティブさんの中でも問題が発生していたようです。ボイス付きとなっている本作ですが、ゲーム制作中にまさかの事態に。それを作中のネタに盛り込み、人も足りない中、良い作品を作ろうと努力し完成・公開にこぎつけた作者さんの汗の結晶がはっきりと読み取れます。私がフリーゲームをプレイしていて最も嬉しいのはこのような瞬間なのです。




物語は5章で最終章を迎えます。前後編に分かれたこの最終章がまた熱くて良いんです。
最終章では、数字にしか興味がないサークルリーダー、ユーキとの対決という構図になっています。サークルのメンバーに一切の興味がなく、駒としか思っていないユーキですが、実力はありプロとのコネクションもあります。実の妹ですら作品制作のための歯車としか思っていない様子はいかにもな悪役ですが、実力と人脈を兼ね備えた彼女にゲームコンテストで勝つのは容易ではありません。ユーキの妹でサウンドクリエイターのココロと一緒に良い作品を完成させることを誓う緋色と黒亜。しかしイラスト・サウンド・ボイス担当だけいてもゲームは完成させられません。そこで、4章までに加入してきた同人サークルの知り合いに協力を仰ぎます。この流れが本当に魅力的。

これまでのサークルを散々「地雷」と酷評し毒舌をかましてきた黒亜ですが、人当たりも良くて情熱もある緋色のおかげで個人的に仲良くなれたメンバーが何人もいます。彼らを集めてプロクリエイターとの対決に挑む。まさに少年漫画のような友情・努力・情熱の展開で大変気持ちいい。
メンバー集めまでの段階ではこれまでと変わらないコメディ路線で大いに笑えるのですが、制作に取り掛かってからは本当にシリアスに、真剣に良い作品を作るために議論を戦わせ、コンテストで受賞するために作る、その先にあるプロへの道を目指すという内容が描かれるのです。



物語の前半ではいやいや姉に付き合わされて活動していた黒亜も、ここまで来たら本当に良い作品を作って実績を出す・ユーキを見返すということに熱意を感じる活躍ぶり。
「ヒーローはお姉ちゃんにしかできないんだ。だから私は、ダークヒーローになってやる。」
この覚悟を感じる台詞がとても好きです。

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最終的に8人にまで膨らんだサークルメンバー。それぞれの章でしっかりとキャラクターの性格や同人活動への姿勢、抱えていた問題点などを描いていたおかげで、最終章で全員集合しても誰一人キャラとして死んでいません。ただの天然に見える緋色も実は人を観察する能力に長けており、このサークルメンバーでどう役割分担をし、制作進行を行えばスムーズな完成が望めるかを的確に指摘。個性の強いメンバーを扱いやすいように王道に持っていくのではなく、彼らの作りたいもの、内に秘めた野望を解放させたうえで上手いこと全体のバランスをとっていきます。こんなフリーゲームができたら最高でしょう。緋色たちが完成させるノベルゲーム"サクナロク"を本当にプレイしたくなりました。

彼らが語る創作論やゲームを完成させる上での注意点なんかは、本当に作者さんが経験したり日々考えたりしていることなのだろうなというのを強く感じさせてくれます。ここも私が本作を大好きな理由の一つです。


本作をプレイしていてどうしても直してほしいと思うのは1点だけ。ノベコレのコメントにも書きましたが動作の安定性が低いところです。特に幕間で操作が効かなくなって再起動を余儀なくされることが何度か。特に2章の立証パート後のタイミングで何度やっても止まってしまい、一時はプレイ続行をあきらめようかと思いました。しかしとても良い作品だという予感がすでにあったためどうにかして続きをできないかと試行錯誤するうちに、マウスホイールクリックによるメニュー呼び出しは効くことに気付き、そこからメッセージスキップ選択で進むことができました。同様の現象に見舞われた方は参考にしてください。




目を見張るほどの美しいイラストがあったりとか、緻密に構成された伏線があったりするタイプの作品ではなく、ぱっと見で多くの人を呼び込める作品ではないのかもしれませんが、私の心にめちゃくちゃ深く突き刺さった作品です。今まで何かを作った経験はないけれど、同人制作楽しそうだな、いいなあと思える大変温かい内容と感動的なエンディング、そしてたっぷりの笑いを楽しめます。埋もれてしまうのはもったいない傑作だと思っているので、ぜひプレイしてみてください。
裏タイトル画面から読める後書きも大好きなので、プレイ後はそちらもお忘れなく!

それでは。

こんにちは。今回は先日公開のねこのさんの新作、「ありすすとーりー」です。
(1/21追記:難易度Extremeの攻略記事を書きました。こちらです)

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★favo
ジャンル:アクティブタイムバトルが楽しめる、かわいいアドベンチャーRPG(ReadMeより)
プレイ時間:難易度Normalで5時間~(難易度によって大きく変動します)
分岐:なし
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2023/1


本作に関しては制作過程をTwitterで拝見していました。
ありすシリーズの前作である「ありすえすけーぷ」をめちゃくちゃやり込んだ私は本作の公開も楽しみにしていました。つい昨日ようやく実績コンプリート出来たのでレビューを書いていきたいと思います。



まず前提として本作はノベルゲームコレクションで公開されているフリーゲームです(ふりーむでも公開されています)。ということはティラノスクリプトで制作されているのですが、プレイしてみたら思っていた以上にRPGでびっくりしました。メインシナリオの途中でイベントが挟み込まれ、そこで戦闘があるのかなくらいのイメージだったんですが(「せつなゆ魂」の戦闘イベントが増えたものみたいなイメージ)、本作に関してはツクールやウディタ製のRPGと変わらない感じでした。


ではゲームを開始していきましょう。New Gameをクリック。難易度はまずはNormalかHardが選べます。Hardは結構難しいので自信のある方のみ選ぶとよいでしょう。

導入の部分がシリアス目な感じだったのでやや意外に思いつつも、すぐに「ありすえすけーぷ」「ありすすいーぱー」のようなノリに戻ってきます。今回はまさかの異世界転移を果たした主人公のありす、今作で初めて苗字が明らかになります(有栖まゆがペンネームであり本名ではないというのは確か作者さんTwitter情報で知っていました)。そしてすぐさまスライムに襲われてラッキースケベ(?)イベント発生。そうそう、こんな感じだったよな~という謎の安心感が私の中に広がりました。

異世界で出会った妖精のリリィとともに妖精王を訪ね、元の世界に戻してもらえるよう依頼することにします。冒険の始まりです!

本作の戦闘システムはジャンルにも記載した通り、アクティブタイムバトル方式となっています。私がこれまでレビューした作品の中では、「キミだけのパーリナイト」が最も近いでしょうか。リアルタイムでアクティブゲージが増えていき、満タンになるとコマンドを打つことができます。新しいスキルを習得していると例外も出てきますが、基本はゲージが満たされるたび攻撃コマンドを打ってダメージを与えることの繰り返しです。
このシステムに関して、よくこれをティラノスクリプトで実装したなと思うほどよくできています。私がプレイした中ではバグみたいなものにも当たりませんでしたし、全12種のスキルの組み合わせ方で思っていた以上に戦略性のある戦闘が可能になっています。特に高難易度のボス戦に挑んでいると嫌というほど対策用の戦略を練ることになるのですが、それに関してはまた今度語りましょう。
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探索シーンに関しては前作っぽく探索ポイント選択式となっています。ここでプレイヤーへのやさしさであふれているのは、探索ポイントで起こるイベントの確率がすべて開示されて、さらに見たことのある結果については内容も記録されている点です。5%ならまあ出るまで粘らなくてもいいだろうとかいう判断がしやすいですし、あの敵とエンカウントする可能性が高いのはどこかとかも探しやすくなります。


中ボスを倒して冒険を進めていくと章も進行し、それに合わせて現実世界の物語も進んでいきます。導入部分のシリアスな展開が続き、語り手がありすであることも分かります。しかしこの時点では最終的にどう異世界での物語と結びつくのかが見えず????という感じでした。この繋がりの部分に関してラスボス戦後にきちんと決着するのが気持ち良かったですね。私は初見Hardで挑んだんですが、なかなか難しかったのでようやくラスボスを倒し切った安堵もあってなんだか感動しちゃいました。Extremeではラスボスのギミックなんかもストーリーを意識した名前や効果になっていてニクいですね! (戦闘中はそんなこと味わっている余裕は一切ないんですが)難易度Extremeを攻略した者の特権です。
ちなみにこのエピローグシーンでかかるBGMに私は聞き覚えがあって、なんだっけとしばらく考えていたんですが、音楽の卵さんの「無限大の小部屋(オルゴール)」でした。私が知っていたのは原曲版だったんですが、そちらも主旋律がオルゴールだったので混同して思い出すのに時間がかかったみたいです。そのあと作内でも原曲版も流れてきてやっぱり複数パターンあったんだと納得。今の私は本作のクライマックス効果で無限大の小部屋とシャイニングスター(EDテーマ)聴いたら泣きそうです。


さて、本作にはほとんどのシーンで台詞にボイスが付いています。主人公ありすについては前作同様ですが、今回は他にも3人(3体?)のキャラがいて、それぞれにきちんと声が付いています。公式サイトからサンプルボイスが聞けるので私は少し楽しみにしていました。リリィちゃんの「えいっ! ってやってみてください」がなんか可愛いな~と思っていたんですが、あれ本当に魔法の使い方を指示するときの台詞だったんですね…ありすの言う通り教えるの下手すぎる。
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そんな新キャラリリィちゃんも登場する隠しイベントは必見ですよ。(公式攻略ページを参照するのは前提として)2周目をプレイすれば簡単に見ることができます。
1つ浮かんだツッコミは、「湿ってるタイプの人って梵天使うの?」

それ以外にもちょっぴりえっちなイベントは前作にもまして盛りだくさんなのでそちら方面も期待していてください。謎の触手に絡めとられたり、きのこから出る白い液体を飲んだりとやりたい放題。パンチラとかいうレベルじゃないいつものアレももちろんあります。


そして私が見た範囲では指摘している人がいなかったので誰も気づいていないのかもしれませんが、上級クリスタル生成(いわゆるガチャ)のエフェクトが、Aランクが当たった場合のみ豪華になってますね。しかも特殊エフェクトが3種類ほどありそう。シリーズ他作品のレビューでも指摘しましたが、普通にプレイしてたらそこまで見ないだろというところまで細かい差分が用意されているの、凝っていて良いですね。


最後に戦闘部分に関する汎用的なアドバイスをしておきましょう。
  • 作内ヒントやヘルプはきちんと読むべし!
  • スキルは組み合わせ次第で効果が大きく変わるので実戦で学ぶべし!
  • よほどいいPCをお使いの方以外は戦闘エフェクトを中画質以下にすべし!
    (終盤のボス戦は高画質ではかなり重くなります)

Extreme攻略の具体的戦略はまた次回ということで。
それでは。

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