フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
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こんにちは。今回は、九州壇氏さんの君と再会した日をご紹介します。

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★favo
ジャンル:同窓会でしんみり系ノベルゲーム
プレイ時間:40分
分岐:なし
ツール:NScripter
リリース:2011/12


本作は15年前に卒業した小学校の思い出と同窓会での出来事を描いたノベルゲームです。立ち絵はなく、背景は基本モノクロ写真と大変シンプル。本作の画面を見た方の多くは、地味だなと感じるでしょう。しかしこの作品には、地味だからこその良さが詰まっています。丁寧に、素朴に描かれた主人公のモノローグがすんなりとプレイヤーに受け止められるのは、シナリオだけでない作品全体の雰囲気が落ち着いているからでしょう。


主人公日野村健太は人づきあいが苦手な子供だった。クラスの輪にはなかなかなじめずにいたが、クラス替えで同じクラスになった宮田さんも自分と同じように人づきあいが得意でない雰囲気を感じ取り、うれしくなって彼女とも少しずつ親しくなっていった。しかし小学校を卒業してからは何度か手紙のやり取りをしたものの次第に疎遠になり、今となっては連絡先も分からない。宮田さんに会えるかもしれない同窓会という機会に期待しながらもどこか感傷的になる主人公。このあたりの描写がすごくいいです。本作では星空を見上げるシーンが思い出深く重要な役割を担っていますが、この一人で空を見上げるという行為と過去を振り返ってモノローグを語らせるのって相性がいいですよね。人は考え事をするときに無意識に上を向いてしまうなどとも言いますし、現在の時間と回想シーンの思い出をうまくつなぐ架け橋みたいな感じがします。
また、変に飾られていない分、自分に置き換えて読んだりすることが容易です。最初はぎこちないやり取りだったけど、ちょっとしたきっかけで会話のタネができればどんどん距離が縮んでいったとか、同窓会で出会ったクラスメートが大きく変わっていて、うれしいような切ないような気持ちになるとか、自分のことと思いやすいですよね。別に作品になるようなロマンチックだったりドラマチックな子供時代を送っていなくても、大人ならほとんどの人が同窓会に行った経験はあるはずです。私は大体どんな物語でも主人公になり切って読むタイプなので、本作ではそれがしやすく私の胸の中にスーッと入ってきました。
文章は丁寧というだけでなく、ちょっと気の利いた表現なんかもあって、ゲームというより小説に近い文体かもしれません。「顔を上げると、そこにはオリオン座。昔と少しも変わることのないその姿が、今は憎らしく思えた。」とか、変わってしまった宮田さんとの対比が好きですし、「それはまるで、湖に沈殿していた泥がゆっくりと巻き上げられるような感覚。」なんかも、日野村の受けたショックと暗い気持ちがすごく伝わってくる感じがします。この文はラストシーンにもまた似た表現が出てきて、気付くとにやりとできます。

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さて、本作の魅力は心情描写だけではありません。あまり細かく書くとネタバレになってしまいますが、本作には前半からちょっとした伏線が張られています。その張り方が特殊で面白いんです。普通物語の伏線と言ったら、さりげない記述が実は後から判明する事実によって別の意味を持ってくるとか、そういった形が多いと思うのですが、本作の伏線はさりげないという感じはしません。もちろんあからさまというわけではなく、出てきた当時は別の意味でしっかり必要性のある描写になっており、構造が二重になっているのです。それが明らかになったときは結構びっくりしました。計算されたシナリオ構成だったのだなあと感じました。ただ、井上さんとの会話で真実が明らかになるシーンにはなんというか、やきもきしました。そんなに宮田さんのこと好きだったならもっと早く気づけよ! と。実際には、日野村は全然気付かないで思いにふけっているので、プレイヤーが事実に気付いた後にも主人公がわからないなあと頭をひねっているじれったいような時間が続いてしまっています。
本作にもう一つ注文を付けるとしたらサウンド面でしょう。BGMの選曲は割と私の好みなんですが、音周りの細かい部分に手が届いていない感じがするのです。具体的には、冒頭で本作は音楽ないのかなと思ったくらいのところで曲が突然始まるなど、無音の時間が目立つ感じがします。音楽のあるなしによる対比で印象的なシーンを演出するという作戦はあると思いますが、本作ではあまり力を発揮していない気がします。音楽のあるシーンとないシーンを作るにしても、その境目には多少のフェードを入れるなどすればシーンのぶつ切り感みたいなものは生まれなかったのではないかと思います。また、駅や電車内のシーンなどでは効果音もあるといいかなという気がします。そんなサウンド周りの細かい点が改善されれば、本作はさらに素晴らしい作品になったんじゃないでしょうか。

全体的に暗い雰囲気の漂うシナリオですが、読後感はむしろすっきりして希望を感じられるような作品ですので、ぜひ宮田さんの真実を見届けてください。

それでは。

今回は、ENTRANCE SOFTさんのおみコン!をご紹介します。タイトルで検索すると、お見合い関連のサービスばっかり出てきますが、本作の"おみ”はお見合いではなくてお見舞いの意味ですね。

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★favo
ジャンル:病院コメディ系(?)ノベルゲーム
プレイ時間:3時間半
分岐:なし
ツール:吉里吉里
リリース:2011/9


本作は、簡単に言うと個性的なキャラクターたちの掛け合いが楽しめる長編コメディです。
主人公の宮下圭吾はこれからの高校生活に夢を膨らませる新入生。しかし下校中になぜか気絶してしまった圭吾は"妹のようなもの"の由菜に「変態だから入院させる」というトンデモな理由で強制的に入院させられ、実質監禁状態になってしまいます。そこで毎日診察(?)に来る医師の希沙やお見舞い(?)に来る由菜たちとの嚙み合わないやりとりや、なんとか脱出しようと画策する圭吾の様子を眺めて楽しむ典型的なコメディになっています。

本作でまず特徴的なのは、登場人物たちのキャラの濃さです。やっぱりインパクトがある人物だと、その日常も楽しくなりますね。主人公の圭吾はかわいそうなツッコミ役(この手のシナリオの作品では主人公がツッコミになるのはお約束ですね)。そして変態(と由菜に宣言される)。由菜は圭吾の"妹のようなもの"で、同居もしている。最初は意味が分かりませんでしたが、途中で挿入される回想でその経緯が明らかになります。こういう演出、いいですよね。圭吾を身体的に拘束して入院させることからも分かる通りいわゆるジコチューな性格。メイドの伊織は極度の人見知り。しかし明らかに圭吾へ好意を持っていて、ラブコメ的展開もあります。友人の凛は中二病で不登校。だが成績は良い。学校には行きたがらないが健気なところがあり、圭吾のことは「お兄ちゃん」と慕っている。医師の希沙は自身のことを「天才美人女医」と称する自信満々な人物。その割にティーバッグの使い方を知らないなど、常識に偏りがあるが自信は全く崩れない。
そして先輩にあたる千晶ですが、彼女だけちょっと浮いているというか、周りの濃さに比べてちょっとキャラが薄いかなと感じました。もちろん、漫才が好きで自分でもネタを考えるなど挑戦している(けど下手くそ)など、特徴はあるのですが、中盤まであまり登場しないせいもあってやはり影の薄さは否定できないかなと感じます。その中盤の登場シーンでも若干唐突感があったので、なんとか前半部分でも絡みが欲しかったかなと思います。後半で登場することで物語の重要なカギを握る人物でもあるので、前半に出てこない理由があると言えばあるのですが、圭吾のモノローグで時々思い出すなどがあったら良かったかなとは思います。また、比較的常識人キャラとして圭吾と若干キャラがかぶっているのもその原因でしょうか。圭吾とほかの人物との会話もコントじみたところがあるので、漫才が千晶の特徴づけとして弱いということもあるかもしれませんね。

さて、本作はプロローグ、1~7章、エピローグからなっています。2章までは導入に近いです。3章では凛、4章では伊織にクローズアップして、彼女らとのコントのような会話を楽しみながら、抱えている問題を解決していき距離を縮めていきます。ただ笑えるだけではなく、きちんと彼女らの抱える問題を解決するという目的があって、その過程で彼女らとの距離が縮まっていくというのがとても気持ちよく感じました。1つ1つのエピソードが良くできているんですよね。一応ネタバレにならないようにぼかしますが、特に凛がただ中二病な妄想に浸っているだけでなく、しっかりと圭吾との関係を築いているんだなと感じさせるエピソードが好きです。

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人物へのクローズアップが続いたので、5章もそうかなと思っていたら、5章以降は思いもよらなかった展開を見せます。ずっと圭吾が準備していた脱出作戦が成功するのです。ここから一転、物語はシリアスな展開を迎えます。由菜による監禁の真意、圭吾の過去などが次々と明らかになっていきます。この、笑える展開でキャラクターへの理解を深めてからのシリアス転換は私の大好物ではあるのですが、本作ではこの転換がいささか突然すぎるように思えました。前半部分で伏線を張っておくなりしたらまた印象は違ったでしょうか。シリアスな展開でありながら、会話は今まで通りのコント風だったり、由菜のわがまま全開なのも違和感の原因かもしれません。コメディの雰囲気なら多少無茶な展開でも気にせずに笑えるし、現実にこんなことはできないだろうなどと考えたりはしないのですが、やはりシリアスな話になるとそこは大切ですからね。ご都合主義だなあと一歩引いた感想が出てきてしまいました。具体的には7章で由菜がわがままを通したところが感動的に演出されるのは、ちょっと違うんじゃないかと感じました。単純に清二がとばっちりを食らっただけでかわいそうというのもありますね。

それでもコメディとして見たら十分面白いし、意外性があるという点では効果を上げているように思います。先述しましたが、圭吾とほかの人物との会話が本当に漫才やコントのように勢いがあり、ギャグも高密度で織り込まれていて、会話を眺めているだけでたくさん笑えるんですよ。アニメネタが多いので、よくアニメを見る方ならより楽しめるんじゃないでしょうか(私はアニメには明るくないので、私が気付いていないネタもあるかもしれません)。あとは、この各シーンで笑えるだけでなく、シリアスな展開まで含めて物語のつながりが良くできていれば完璧だったように思います。

細かいですがあと一つ気になったのは、立ち絵の統一感がないことです。担当された方が違ったのでしょうか。
エンドロールは大変珍しい形式で、印象に残りました。面白い試みで、とてもいいと思います。


いろいろと偉そうなことも書いてしまいましたが、favoの印をつけた通り私としてはとても楽しめた作品でした。わりと高頻度で出てくる変態ネタを楽しめる方なら、プレイして損をしない作品だと思います(とはいっても、全年齢対象だしガチの下ネタはないですよ!)。まずは作者さんサイトの作品紹介ページにあるQ&Aを読んでみてください。各キャラクターの紹介を兼ねながら小ネタもぶち込んでくる秀逸な内容だと思います。本編も大体このノリなので、ここで笑えた方なら本作にはドハマりするでしょう。

それでは。

こんにちは。
今回は、まゆげさんのまい、ルームをご紹介です。
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★favo
ジャンル:ファンタジーノベルゲーム
プレイ時間:1周目15分以内。フルコンプまで1時間半
分岐:5つ。1周目ルート制限あり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2016/12
備考:15禁、猟奇的描写あり、ティラノゲームフェス2017準グランプリ作品


これまでは比較的おとなしめの作品の紹介でしたが、今回のはちょっと刺激的です。一見そうは見えないんですけどね……。
まずは、公式からあらすじを引用してみましょう。
マイとメルは仲の良い双子。
最近体調が悪く、部屋に篭りきりのマイのために今日もメルは部屋を訪れる。
これだけです。とりあえず双子が出てきて片方がもう片方のお見舞いに行くのかな、というのは分かります。これだけ頭に入れてゲームを起動してみましょう。

シナリオはマイの視点で、夜にメルがお見舞いに来てくれて嬉しいという場面から始まります。ここでの2人のやり取りは非常に微笑ましく、お互いのことを想い合っている良い双子だなと感じられます。他愛もない日常会話を退屈させずに読ませるというのは力量がいることだと思うのですが、本作はその点ばっちりです。信頼関係があるからこそのちょっとした意地悪や、メルヘンチックな想像シーンなどで読者を引っ張ってくれます。病気になってしまい思うように活動できない中で、子供の頃の思い出を振り返り、無邪気な想像をするシーンもなかなか胸にくるものがあります。
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さて、本作には途中何度か選択肢があります。勘が鋭い人や、素直じゃない人ならこの小さな幸せの物語に違和感を抱くはずです(私は気づかないタイプの人間でした)。どちらの方も2周目を始めてみてください。
どんなに鈍い方でもこれは単純な物語ではないことに気付くはずです。冒頭のアレは何なんだ、とか、そもそもそこでそんな選択肢不自然じゃないか?、とか。
ここで、先ほど選ばなかった選択肢を選び、END1,2,3をすべて見ておいてください。私と同じタイプの方は初見ではEND1に行くと思うのですが、END2,3は衝撃的でしょう。しかしこれだけでは単に理不尽なだけ。ここからが本番です。

再びタイトル画面からスタートすると、メルの視点での話が読めるようになります。ここにきてようやくプレイヤーにこの物語の舞台設定と双子の置かれた状況が明かされるのです。この手の、読者に重要な情報を隠して驚かせるという手法は、やり方によっては下品に感じられることがあるのですが、本作ではそんなことはありませんでした。きちんと前兆を与えて読者に心構えと期待をさせる。一度に情報を明かし過ぎずに順を追って物語の核心に迫る。そして何より、だれか一人の悪人によってもたらされた悲劇ではなく、登場人物皆が少しずつ歪んでいたがために生じる人間関係の問題があったという点。
ファンタジーが前提でありながら人間ドラマとして非常に興味深いです。まさに本作の、"身勝手な人達の物語"というコピーが本質であったことに、この時初めて気付くのです。本編では悪役に近いあの人も、マイやメルと大差ないことはside storyまで読めば分かります。そうしてすべてを理解したうえで冒頭の場面に戻ってきたとき、あらゆる感情で私の体は震えていました。もう2人の言葉の重みが桁違いです。
ただし、さすがに(ネタバレの為反転)マイが病死する展開は急すぎるのではないでしょうか。なにかもうワンクッション欲しかった。

グラフィックや音楽も私の好みでした。立ち絵はファンタジーな雰囲気に合っていると思いますし、音楽ではフルコンプ後タイトル画面BGMの「おそろい」は私に強烈な印象を残し、3年後にプレイした別の作品で再び聴いたとき、即座に本作を連想したほどです。

ツールはティラノスクリプトですが、必要な機能はしっかりそろっており、EDリストから回想可、2度目以降エンドロールスキップ可など随所にプレイしやすい工夫が施されています。起動が重いことが玉に瑕でしょうか。
エンディングを迎えるごとにタイトル画面が変わっていく仕掛けも良いですね。

べた褒めしてきた本作ですが、人を選ぶ作品であることは間違いありません。ショッキングなシーンはありますし、人間の汚い部分まで怖いほどに描き出されたシナリオです。視覚的にもインパクトのあるスチルはありますが、そこまでグロテスクな絵はありません(ただし流血描写は多数)。

15歳以上でレビューを読んで興味を持った方はぜひプレイしてください。強烈な印象を残すことを保証します。

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